蓮沼執太 「一番大切な行為は“聴く”ということ」――自身のオーケストラと新たに編成した弦楽オーケストラによる、総勢41名の「Wフィル」で臨むサントリーホール公演への想い
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蓮沼執太 撮影=細倉真弓
2006年にアメリカのインディーズレーベルWestern Vinylから1stアルバム『Shuta Hasunuma』をリリースし、今年で20年目を迎えた蓮沼執太が、活動20周年を記念したコンサート『蓮沼執太Wフィル | Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra』を赤坂のサントリーホールで8月6日(木)に開催する。自身のオーケストラ・蓮沼執太フィルと、新たに編成した弦楽オーケストラによる、総勢41名の「Wフィル」による公演は、蓮沼にとって新たなチャレンジであると同時に、2026年の社会のあり方を鮮やかに映し出すに違いない。「Wフィル」としての新曲も制作したという蓮沼に、コンサートへの想いを聞いた。
――蓮沼執太フィルに加え、新たに編成した弦楽オーケストラとの「蓮沼執太Wフィル」としてコンサートを行うアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
前に金子さんにインタビューをしてもらったときに、「15周年ですね」っていう質問をされたことがあって、でも僕は自分が何年やってるかを全然意識してなくて。10周年のときは『蓮沼 X 執太』をやったんですけど、あれは渋谷のWWWのブッキング担当の方に、「新しくWWWXを作るから、こけら落とし的に何かやってくれませんか?」と言われたのがたまたま10周年だったんです。なので、これまで自分で「周年だから」と言って何かをやったことはなかったんですけど、今回は初めて能動的に何かをやろうと思って(笑)。コロナ禍とかを経験して、前向きに何か時間をかけて作りたいなっていうのがあったし、どうせやるならまだやってない、新しいチャレンジをしたい。そう考えたときに、“ストリングスのオーケストラとフィルのアンサンブルを一緒に走らせる”というアイデアはやったことがなかったので、チャレンジすることにしました。
――周年とはいえ、これまでの集大成ではなく、新しいことをやってみようと。
そうですね。去年出した蓮沼執太チームのアルバム(『TEAM』)やツアーはレトロスペクティブ感が強かったですけど、今回のサントリーホールはまた全然違いますね。実は新曲も作っていて、ちょうど今日の朝マスタリングが上がってきたんですけど、それを演奏するのも新しいチャレンジだし。ある種完成されてしまったものを完璧に何回も提示するのは苦手というか、“やってみないとわからない”みたいな状態の方がやる気が出るし、ずっとそうやってやってきたしなって。
“サントリーホールで演奏したかった”というのが大きい。自分の音楽があそこならではの響きで響いて、オーディエンスに届く。目には見えないですけど、それが伝わりやすい会場だと思います。
――弦楽オーケストラは以前からやってみたいことの一つだったのでしょうか?
“サントリーホールで演奏したかった”っていうのが大きいですね。僕は会場の響きが大事というか、サウンド・インスタレーションとかを作るときも、空間と向き合うことが大前提になってくる。そういった中で、サントリーホールの響きは自分にとってすごく特別なものなんです。で、せっかくならフィルのみんなを呼んで、アンサンブルで演奏したいと思ったんですけど、フィルの音作りはアンプリファイドされた音像、デジタルとアナログをハイブリッドさせてるアンサンブルなので、いわゆるスーパーアコースティックの編成ではなくて。でもサントリーホールでやるならスーパーアコースティックな感じでやりたいと思ったときに、弦が必要だった。なので、“弦楽オーケストラを組みたい”というよりは、“サントリーホールで演奏したい”がまずあって、フィルがあって、あの場所で生演奏するためには弦が必要だっていう感じ。スティールパンがちゃんと聴こえるか、ボーカルをどう届けるかとか、音響的にもうちょっと詰めなきゃいけない課題はあるんですけど……そういうことを考えるのが好きなんでしょうね(笑)。
――なぜサントリーホールは蓮沼さんにとって特別なのでしょうか?
ああいう“ブドウ園のようなヴィンヤード型”と呼ばれる形式の、筒のホールは日本では数多く見ないですし、やっぱり音響設計が素晴らしいなって。東京オペラシティのタケミツメモリアルみたいな、ウッディーな感じのコンサートホールも好きなんですけど、サントリーホールはまたちょっと違う雰囲気があって、計算され尽くした、独特の音の響きがある。それを無視してやることも可能なんですよ。“爆音出しちゃえば変わんないし”みたいな。でもそうじゃなくて、やっぱりあの空間があって、自分の音楽があそこならではの響きで響いて、オーディエンスに届く。音楽なので目には見えないですけど、それが伝わりやすい会場だと思います。
――過去にサントリーホールで見た公演で、特に印象に残っている公演はありますか?
藤倉大さんの「ミラーズ」っていう、12台のチェロのための作品があって、その公演は現代音楽と言われる世界ですけど、実験的なのに響きもいいし、すごいと思ったのを覚えてます。あと印象に残ってるのが、(ヤニス・)クセナキスのパーカッションの作品があって、サントリーホールの客席を舞台にして楽器を演奏していたんですよ。それはすごかったですね。
――弦楽オーケストラは徳澤青弦さんがディレクターを務めると発表されています。青弦さんはこれまでもコンスタントに蓮沼さんの作品に参加されていますが、もともといつからのお知り合いなのでしょうか?
いつからなんだろう……前に「Music For a Dying Star」というALMA MUSIC BOXのプロジェクトがあって、ミトさん、梅林太郎さん、伊藤ゴローさん、スティーヴ・ジャンセンさん、湯川潮音さん、高木正勝さん、クリスチャン・フェネスさんとかと一緒に参加させてもらったんですけど、それに青弦さんのユニット(Throwing a Spoon)も参加していて。で、その作品を京都交響楽団のオーケストラが演奏するコンサートがあって、そのときに青弦さんが全部譜面化していて、それはすごく印象に残ってますね。まあ、ゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)とか(坂本)美雨さんとも音楽を一緒にやられているし、だいぶ前から知り合いではありました。今回一緒に新曲を作ったときも、「OPNのライブ行く?」と急に聞かれたり、音楽の趣味も幅広いし、一緒にやれてよかったなと思います。
――フィルと弦楽オーケストラを合わせて41名という大編成ですが、こういった大きな編成で作曲・編曲をするのは初めて?
映画のサントラをオーケストラでやったりはしましたけど……ただ今回は出来上がってる曲ではあるので、そこに音を乗せるイメージですね。
――あくまでフィルがあって、そこに弦を乗せると。
そうですね。ただ今僕“乗せる”って言いましたけど、どちらかというとイメージ的には“走らせる”って感じなんですよ。フィルも走ってて、ストリングスも走ってる。だから“Wフィル”と言ってるんですけど、本当は“ダブル”というより“デュアル”で、並走して進んでる感じなんです。それを今回青弦さんと一緒に作らせてもらって、やっぱり自分たちの手で、手触りを感じながらコツコツ作っていくのがいいなと思ったし、僕はやっぱりみんなで作っていくプロセスに醍醐味があると思っていて。自分で作ることは簡単っちゃ簡単で、自分で全部作って、それを演奏してもらえばいいんですけど、でもそうじゃなくて、みんなで考えながら作ることが面白い。もちろんイメージとかコンセプトは僕が提示しますけど、青弦さんたちに入ってもらうことで、“こういう視点もあるんだ”みたいなことを発見した方が楽しいし、そういう手触りみたいなものを大切にしたいので、今回はそれができてるなと思いますね。
当て書きで作った曲たちに、ストリングスがどう反応していくか、どう重なっていくか。フィルの曲のフレーズにはみんなの演奏方法の癖をあえて入れたりしているので。
――実際にどんなコンサートになりそうか、現時点ではどの程度見えていますか?
まだ確定じゃないんですけど、動きがあるといいなとは思っていて。一人でもできるし、チームでもできるし、フィルだけでもできるし、もちろんWフィルもできる。新曲の作り方はこれまでとちょっと違うんですけど、基本的にフィルの曲は当て書きなんです。例えば、“ヴィオラのために書いてる”というよりも、“手島絵里子が弾くヴィオラのために書いてる”という感じで、つまりそれは“手島絵里子のために書いてる”。そうやって当て書きで作った曲たちに、ストリングスがどう反応していくか、どう重なっていくか。フィルの曲のフレーズにはみんなの演奏方法の癖をあえて入れたりしているので、そういったものに弦が反応したら面白くなりそうだなっていう曲を一緒にやります。フィル単体でもやりますけど、アレンジはかなり変えると思いますね。やっぱりその会場の響きから着想を得たようなアレンジになると思います。
――今朝マスタリングが上がってきたという新曲は、Wフィル編成で録ってるんですか?
フィル+カルテットなので、本番に参加してくださる全員が参加してるわけではないんですけど、でもWフィル名義でリリース出来たらいいなと考えてます。今回の2曲は『メロディーズ』(2017年1月発売)と全く同じ作り方をしてるんです。旋律を声から作っていく方法を使って、それをもとにフィルが演奏するとしたらこういう風にするだろうっていうことで作ったので、つまりは『メロディーズ』をフィルでやってる形式なんですよ。で、みんなにはそれは伝えていません(笑)。なので、実は今回は当て書きはしてないです。録音はいつもと同じようにみんなでせーの、と一緒に録って、そこに弦を重ねてるんですけど、歌が中心に来るようにアレンジしてあります。サントリーホールでやるときはまたちょっとアレンジが変わると思います。
はっきり言わないと伝わらない。想いがあるのは大切なんですけど、もうちょっと実行していかないと意味がないなって。
――『メロディーズ』的な手法で作ってみようと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
きっかけは特にはないですけど……ただサントラだったり、灰野さんとのコラボレーション、蓮沼執太チーム、その前に『unpeople』(2023年10月発売)だから、ここ最近はアンビエントとかエレクトロニカとか、そういう電子音響的なアプローチが多かったんですよね。それで今回改めて自分の作品として何をやろうかなと思ったときに、もう一度声とか、あと言葉かな。言葉に対する感覚はアップデートされてるから。僕はやっぱりシンガーソングライターではないんですよね。歌は旋律と言葉が一緒になってるものですけど、僕は作曲家だから、旋律と言葉が分かれちゃってるんです。それ自体は別に否定も肯定もしてないですけど、改めて響きについて考えたときに、言葉の響きとか、そういった要素を改めて空間的に物事を考えてみることに興味が向いたんですよね。
――フィルの活動は音楽的な形式だけで規定されるのではなく、そのときの社会の状況や集団の在り方を反映させることが特徴ですよね。『symphil』(2023年8月発売)のときはコロナ禍を経て、“回復と共在”がテーマになっていたと思うんですけど、この2~3年で世の中はさらに混沌としていて、中東では戦争が起きて、日本でも分断が進み、最近はデモが盛んに行われたりしていて。そういった状況の中で、フィルとして何を表現して、何を歌うのかは非常に気になるところです。
“はっきり言わないと伝わらない”っていうのは結構思っていて。今はみんな動画も10秒しか見ないとか、文字を読まないとか、写真も一瞬だけ見て認知して、すぐスワイプしちゃうとか、もうそういうことを言われるような時代だし、20世紀にあったような情報の概念とは全然違う。そういった中で何ができるかというと、直接的に言わないといけない。何かのメタファーとしてやらない、ストレートに伝えることは結構大切なんじゃないかなと、今は思ってますね。『symphil』や『アントロポセン』(2018年7月発売)を出した頃は、エコロジー思想とかが盛り上がってて、気候危機についてみんなが考えていたけど、“冷房が効いた部屋で環境をテーマにした2時間の映像作品を見る”みたいな、なんかおかしくないか?っていう状況があって、思想のゲームみたいなものだと何も救えないというかね。想いがあるのは大切なんですけど、もうちょっと実行していかないと意味がないなっていうのもあって。で、この間の3月25日の平和憲法のデモとかはすごく直接行動的なもので、これも完全に時代だと思うんですけど、そういうことの意味がはっきりと浮き上がってきてる。日本人は基本的に意見を伝えることが不得意と言われていますけど、ああやって伝えていくことに僕も勇気をもらって。
――そういったことが直接的に曲のモチーフになっている?
そうですね。デモを肯定したいし、声を上げるのは恥ずかしくないよ、悪くないよっていう曲ですね。この間のデモが特に自分に響いたんです。美雨さんのスピーチも力強くて、僕は京都にいたので、四条烏丸のデモに参加しました。その前後の週もいろんなところでデモをやってて、フィルのメンバーも行ってたりして、これまでとちょっと空気が違うデモだったんですよね。ガザのときのデモともまた違うし、安保のときのデモの感じともまたちょっと違う。世代やオーガナイズをしているチームもアップデートされているように感じました。声を上げることは当たり前のことなんだっていう、その姿勢をいよいよデフォルトにする機会になったと思ったんです。
――やはり社会の変化とともに、フィルのモードも変化しているわけですね。
普通にやってたらフィルはもう解散してると思うんです(笑)。良くも悪くも自分がやりたいと思ってることを具現化してやってるだけで、何かのビジネスに則って音楽を作ってるってことは一切ないので。でもそれが続いている理由は、やっぱり人が集まって音楽をやると、時代の変化を鏡のように反映させることができるからで。例えば、 10年前からやってる曲を今やっても、そのときの環境によって、それこそ空間も含めてなんですけど、音の届け方は変わっていく。やっぱりそういうことを大切にしていきたいなと思います。もちろんね、過去の音楽的な文法をリスペクトしながらやっていきますけど、フィルみたいな集合体は、音楽史的なところに乗るというよりは、去年、TODA BUILDINGで『都市と合奏』という、パフォーマンスをやりましたけど、そうやってどんどん音楽も直接的に出ていって、混ざり合って行った方が活動として面白くなると思うんです。
サントリーホールは生楽器の音を贅沢に聴ける空間なので。みなさんに直に生音を届けていくので、丁寧に、一人一人に届けたい。
――今回はサントリーホールという空間だからこそ、弦楽オーケストラと混ざり合う。
一番大切な行為は“聴く”ということなんですよね。人数が多くなればなるほど大切になってくるのが“聴く”ということで、ちゃんと聴いてないとちゃんと演奏できない。で、一人がちゃんと聴けてなくて、その一人の音が大きくなっちゃうと、みんなの音が大きくなっちゃう。それが40人もいたら、もう抑えられないですよね。だから一番大切なのは演奏が上手いかじゃなくて、他人の声や音をちゃんと聴けるかであって、そこにチューニングを合わせるべきで。TODA BUILIDINGで演奏したときは、都市の音を聴いて、自分たちの音楽がそこに混ざっていく。そうありたいなとは思いますよね。
――キービジュアルはどのようなイメージで作られているのでしょうか?
デザイナーの前田(晃伸)さんとはこの1年ぐらい時間をかけてやりとりをしていて。僕はやっぱりグラフィックデザインがすごく好きで、毎回デザイナーさんとの仕事はクリエイティヴで楽しいんですね。灰野さんとのコラボレーションでは小池アイ子さんにお願いしたんですけど、刺激的なアイデアをもらうと嬉しくなるんですよね。いわゆるファインアートから影響を受けるというのと、またちょっと違った新鮮さがあって、そこに音楽がイメージ付けられていく。今回は前田さんにコンセプトを話して出てきたのがあれだったんです。ブランクーシの彫刻のようにみえるものはAIで生成されていますが、二体のように見えながら、実は裏はくっついていて一体なんですね。
――それこそダブルというか、デュアルな感じですよね。
そういう直接的じゃないんだけど、ビジュアル面でもキャッチボールが行われてるのがすごく好きで。20年やってきてるので、僕が活動してきたコンテクストっていうのはやっぱりあって、前田さんはそれも汲み取ってくれて、おそらく僕が作り上げてしまっているイメージも理解していただきながら、新しいことをやってくれてるので、すごく面白いなと思ってます。青弦さんとのやり取りもそうなんですけど、僕は自分自身が描く世界が絶対だと思っていません。多くのアーティストにとっては自分の世界が一番で、それを表現したくて何かを作ったりする。僕にもそういう部分はもちろんありますけど、それを誰かと一緒にやって、イメージの一部になることが嫌じゃない。そこは大きいと思います。
――途中で話していただいた“聴くことが大事”というのも、誰かと一緒に音を鳴らす上で大事なことですもんね。
フィールド・レコーディングって、みんな録れた音のことを気にするんですよ。それは当たり前なんだけど、でもやっぱり本当に大事なのは、録れた音そのものじゃなくて、そのときに何を聴いてるかとか、何を聴けてるかだと思うんです。つまり、どこに自分の意識があるかが大切。Wフィルはそれをアクチュアルなものとして、みんなが分かりやすい状態で提示していくものになると思います。やっぱりサントリーホールは生楽器の音を贅沢に聴ける空間なんですよね。ステージに立っていて、みんなの演奏を近くで聴けることはすごく贅沢な体験なんですけど、今回はみなさんに直に生音を届けていくので、丁寧に、一人一人に届けたい。でも例えば、弦が大きい音で鳴ってても、ギターの音がすごく気になったら、ギターの音しか聴こえてこなかったりする。そうやって同じ音楽でも一人ひとり違う音を聴いてると思うし、そういった状態が好きで、それもすごく贅沢なことだと思うので、そういう空間が作れたらいいなと思いますね。
取材・文=金子厚武 撮影=細倉真弓
ライブ情報
2026年5月22日(金)18:00〜5月28日(木)23:59 ※抽選
イープラス
(国内) https://eplus.jp/shutahasunuma/