田中祐子(指揮)×新井鷗子(構成作家)、新たな境地を拓く!? フルオケ2公演は、レアプログラム&編曲にも注目「オーケストラの醍醐味を存分に味わって頂けると思います」~『スタクラ 2026 in 横浜』インタビュー

2026.7.6
インタビュー
クラシック

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2026年8月1日(土)・2日(日)の2日間、横浜みなとみらいホールにて開催される『イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜 ーSTAND UP! CLASSICー』(通称スタクラ)。2018年に日本最大級の野外型クラシック音楽祭として横浜の地でスタートして以来、場所や形態を変えて受け継がれてきたスタクラが、今年も横浜みなとみらいホールに帰ってくる。

「多世代に贈る新感覚クラシック音楽祭」を掲げる通り、2日間にわたり、歌あり、コンチェルトあり、クイズ大会あり(!?)のバリエーション豊かなプログラム。そのなかで、上野耕平や髙木竜馬といった若手人気ソリストとフルオーケストラの共演×オールジブリでおくる『シンフォニック・メモリーズ』(8月1日)、2日間のフィナーレを飾る『石田泰尚コンチェルト』(8月2日)で指揮を振るのが、田中祐子だ。田中マエストロはスタクラ初登場。横浜みなとみらいホール館長であり、構成作家としてスタクラの企画にも携わる新井鷗子氏たっての希望で実現したキャスティングだ。

「蝶のように舞い、蜂のように刺す」田中祐子の魅力

——新井さんはスタクラには企画段階から関わっていらっしゃるということですが、『石田泰尚コンチェルト with 田中祐子&神奈川フィル』と『シンフォニック・メモリーズ』という二つの演奏会に田中祐子さんを指揮者としてキャスティングされた理由をお聞かせください。 

新井:もちろん愛です!(笑) 全身全霊で指揮する姿も素晴らしいですし、やはり女性が憧れる女性という点でもぜひ田中マエストロにお任せしたいなと思いました。 

もう一つは、オーケストラとソリストとのアンサンブルでの采配の上手さというのでしょうか、共演者全員を“あうん”の呼吸で導くことに本当に優れていらっしゃるので、今回のプログラムを考えた時、ぜひ田中さんでなければ!と思いました。ヴァイオリニストの石田泰尚さんや神奈川フィルハーモニー管弦楽団さんとの相性もバッチリですし、最もふさわしいキャスティングだと思っています。

——女性から見て指揮者 田中祐子さんの魅力とは?

新井:何よりもカッコいいですよね。指揮姿も「蝶のように舞い、蜂のように刺す」っていう感じで(笑)。私はカッコいい指揮をする人はカッコいい音楽が出ると思ってるんですね。

田中:「蜂のように刺す」は初めて言われましたね~。 「蝶のように~」は時々言われますが(笑)。  

新井:いや、時々こう、目を合わせてギュって睨まれて、でも上手くいくとニコって笑って……。その感じが、皆さんが言う“刺された”という感じなんですよね。 

田中:なるほど。「カッコいい指揮からカッコいい音楽が生まれる」というのはとても嬉しいお言葉で、実際、「蝶のような~」と言われるスタイルは本来の音楽を引き出すためにやっていることなんです。バロック音楽と同時代の舞踏との関係性からも証明されているように、舞踏と音楽は相互作用なんですよね。 

演奏機会の少ない対照的な二曲をどう聴くか?

——今回、田中さんが指揮をされる演奏会の一つ『石田 泰尚コンチェルト』では、メンデルスゾーンとカプースチンそれぞれの作曲家による「ヴァイオリンとピアノと弦楽のためのコンチェルト」という、かなり珍しい二曲が演奏される予定ですが、これはどのような流れで浮上したのでしょうか?

新井:石田さんたってのご希望です。本来、お祭り的なイベントでもありますので、いわゆるチャイコンやメンコンなど有名どころをお願いしまして、かなり真剣に説得したのですが、石田さんご自身から、「このレパートリーならやってもいいよ」と提案があったのがこの二作品だったんです。コンチェルトを一つの公演で二作品、しかもヴァイオリンとピアノの二重協奏曲を続けて二題という珍しい構成は興味深いですし、最終的にこのようなかたちで収まりました。共演するピアニストの菊池洋子さん(メンデルスゾーン)も、實川風さん(カプースチン)も石田さんからの推薦です。

田中さんは石田さんとすでにカプースチンのこの作品で共演していらっしゃるんですよね。

田中:2023年3月にご一緒しています。(2023年は)カプースチンのこの作品の日本初演の年だったと聞いています。私たち以前に他団体で初演済みだったので、私たちが初演というわけではないのですが。

私が思うに石田さんは、今回このカプースチンという作品で、石田組がやってらっしゃることと、クラシック音楽のステージでやってらっしゃることを、一つの作品の中で結合し想いを込めたい、というお気持ちがあったようにも想像できます。それから、両作品ともに弦楽5部とピアノソロ+ヴァイオリンソロという完全に同じ編成で、あまり演奏機会のない、そして対照的な作品の存在を多くの方々に知って頂きたいという思いがあったのでは、とあくまでも私自身の中でのイメージですが、このように感じたりもしています。

——石田さんが演奏するカプースチンは具体的にどのようなところがポイントになりそうですか?

田中:カプースチンという作曲家自体の方向性を考えても、やはりジャズとクラシックの融合というところにあると思います。そのような意味では、クラシック音楽の語法だけでは補いきれない“ブルーノート(ジャズ)”ならではの和声感だったり、リズム感であったり、あるいは“バウンス”というように、例えば同音価の八分音符をいかに洒脱に聴かせるかというような点が問われてくると思いますし、石田さんがどのように表現されるかは、3年前の演奏に加えて、また新たな気持ちで期待しています。

——そこにピアニストの實川さんの個性も合わさるわけですね。

田中:實川さんとは今回初めてご一緒させて頂くのですが、独自にバッハを研究されていたり、作曲もなさっているとお伺いしています。ですから、いざカプースチンの譜面を前にした時に、卓越したテクニックに加えて、どのようにオリジナルな解釈や世界観を想起させてくれるのか、という点でもとても楽しみにしています。

——もう1曲はメンデルスゾーン作品です。こちらは、石田さんとともにピアニストの菊池洋子さんが共演されますね。

田中:個人的には初めて演奏する作品ですが、メンデルスゾーンの大変初期の作品の一つです。譜面を開いて、ピアノを弾きながら熟読していますが、とてもバッハの香りがするんですね。メンデルスゾーンという作曲家の原点を知るという意味では、これ以上の作品はないのでは、と思うくらい徹底した原点回帰的な古典の作風が感じられます。

菊池さんとは 2017年に大阪交響楽団とモーツァルトのピアノ・コンチェルト第20番でご一緒しています。出会いはリハーサルだったのですが、作品に対する信念や誠実な佇まいが大変印象的でした。作品とご自身の間に不純物がまったく存在しない、鮮烈な音色が第一印象でした。モーツァルトや「ゴルドベルク変奏曲」などの古典のレパートリーも多く録音されていますし、彼女の演奏で皆様にこの作品を聴いていただけるということに私自身もとても期待しています。 

——両作品に初めて触れる方々がほとんどだと思われますが、聴きどころとしてどのような点がポイントでしょうか?

田中:この二作品に関して、作曲家の出自、いわゆる生まれた年代や出身国というような枠組みの中で聴くのではなく、先入観なしに五感で楽しんで頂いて、それぞれの作曲家の人間的な魅力や個性に目を向けて頂きたいと思っています。例えばですが、事前にCDのライナーノーツやプログラムにある解説を読まずに作品に触れてみて頂きたいんですね。その中で、「この作曲家は一体いつ生まれて、どの国のどんな人生を送った人なんだろう?」って思考をめぐらせて頂けると、絶対に面白いと感じて頂けると思います。  

石田泰尚は「音楽家としても人間的にも尊敬すべき人」

——ここで改めて石田泰尚さんという方の人間的な魅力について改めてお二人にお聴きしたいと思います。

田中:石田さんと初めてご一緒したのは、2016年の神奈川フィルさんとの海老名公演で、今年でお付き合いしてちょうど10年経ちました。オール・モーツァルトプログラムで、その時はコンサートマスターで入ってくださっていたのですが、ゲネプロが終わったにも関わらず、「マエストロ!」っておっしゃって、「この音まだ納得されていませんよね?」と。「これでいいですか? どっちがいいですか? こうですか? 」ゲネプロが終わっても音楽的にさらなる高みを目指したいとおっしゃって、ずっと対話を続けてくださるのです。当時30代の私に対してもそのように真剣に問いかけてくださった姿が、私の指揮者の人生の中でも本当に忘れられない光景ですし、今も脳裏に焼きついています。 

新井:すごく自分に厳しい方ですよね。ストイックに自分の音楽を突き詰めてらっしゃる姿勢を日頃、拝見していて、音楽家としてだけではなく、人間的にも尊敬すべき方だなというふうに感じています。先ほども少しお話しましたが、今回も「チャイコフスキーかメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も石田さんの演奏でしたらとても特別感があると思うので、たまにはどうですか?」と粘り強く押したのですが、どうしても首を縦に振ってくれなくて……。「今はまだやりたくない」とおっしゃるんです。なので、80歳ぐらいになって演奏されるかもしれないですけれど(笑)、「それは上手い人がたくさんいるし、自分がやる意味があるものをやりたい」と言うその姿もとても印象的でしたね。

田中:わかります。例えば神奈川フィルの演奏会でも、ご自身がコンマスとして乗れない時には、「今回すいません。僕は乗れませんが、神奈川フィルをよろしくお願いします」というメッセージをいつも下さって、とても誠実な方なんですよね。ご自身に厳しいのも勿論ですが、音楽家としての仁義も重んじていらっしゃるようにお見受けします。

オール・ジブリの肝は編曲。熟練のクラシックファンも唸る聴き応えある演奏になるはず

——もう一つ、田中さんが指揮される演奏会は、ジブリ作品の錚々たる音楽のみがラインナップされた『シンフォニック・メモリーズ』という壮大な企画です。オーケストラ演奏のみならず、サックスの上野耕平さんをはじめ、ピアニスト髙木竜馬さん、ニュウニュウさん、そしてソプラノの高野百合絵さんなど、個性あふれるソリストたちとも共演されます。 

田中:オール・ジブリ作品の演奏会は初めての経験です。ジブリ作品というと、なんとなくファミリー向け、お子さんに楽しんで頂く企画と思われるかもしれないのですが、私自身は大人向け、子供向けと思ったことはまったくないんです。  

小学生の頃、初めてラピュタやトトロなどの作品に触れた時も、子ども心に何となく、「もっと奥深いメッセージがあるんじゃないか……」という思いに駆られて、ピュアに楽しめなかったんですね。それで、私にはまだ早いな…‥と思って、少しジブリ作品から遠ざかっていたんです。 

その後、社会人になってヨーロッパに住んだ時に周りが「ジブリ最高!」と口々に言っているのに遭遇しまして、語学の勉強も兼ねて現地の言葉の吹き替え版で見に行って、日本語版と比べてみることもしてみたんです。そうしましたらとても哲学的だし、いわゆる自然との共生であったり、平和への願いだったり、究極なところで「自分とは何か?」というような問いが感じられたりと、モヤモヤしていたものの正体がわかったんです。そこでようやく、「ああ、これぞ大人のための童話みたいなジャンルなんじゃないかな」という所にたどり着いたんです。

今回のラインナップでも、ソリストの皆さんと共演するレパートリーも、コンチェルトを超えた内容のコンチェルトになっています。そういう意味では、決してハードルが低い演奏会ではないということを申し上げなくてはならないんですが、これこそが、この演奏会の最大の魅力だと思っています。

ちなみに、ソリストとの共演バージョンはオリジナル作品にはないので、特別な編曲バージョンでお届けするのですが、オーケストラの重厚感も失われないような素晴らしい編曲版で皆様にお届けできるというのもとても楽しみです。 

——多くの楽曲が、今回の演奏会のためだけに特別に編曲されたものなのでしょうか?

新井:前半のソリストとの共演レパートリーはすべて特別な編曲版です。サクソフォニストの上野耕平さんたっての推薦で作曲家の柳川瑞季さんに編曲をお願いしています。

田中:柳川さんは、声楽の教則本をピアノ、コントラバス、ボーカルとサクソフォンの編成でアレンジするというユニークな作品も発表されていらっしゃるんですよね。今回はどのような音が繰り出されるのかワクワクしています。ソリストは現在、第一線で活躍する方々ばかりですので、大いに期待して頂きたいと思います。

最後に演奏される「オーケストラストーリーズ『となりのトトロ』」だけは、久石譲さんによるオリジナル版による演奏ですが、譜面の序文に「ブリテン『青少年のための管弦楽入門』やプロコフィエフ『ピーターと狼』のようにオーケストラの楽器を紹介していくようなつもりで書きました」というようなメッセージが書かれています。今回、ナレーションもつくのでしたよね?

新井:ナレーションもオリジナル版通りで、今回はソプラノ歌手の高野百合絵さんが務めます。

田中:この久石作品も、ブリテン、プロコフィエフの両作品のスタイルを見事に踏襲していて、音楽的にも技術的にも大変ハードルが高いものになっています。変拍子も多く出てきますし、大変凝りに凝ったオーケストレーションで、非常に練られて入り組んだところもあれば、親しみやすさもあるという何とも魅力的な作品です。 テーマ的に“トトロ”というほのぼのしたキャラクターにちなんでオブラートに包まれていますが(笑)、普段、相当オーケストラを聴き込んでいるファンの皆さん方にもかなり聴き応えのある作品だと思いますし、オーケストラの醍醐味を心底味わって頂ける作品になっています。

この作品に限らず、全プログラム最初から最後まで密度の濃いラインナップになっていますので、年齢問わず、熟練のクラシックファンの皆様にもぜひお越し頂いて、新たな境地を拓いて頂けたらと、日々、譜面を見ながら思っています。

——最後にスタクラや、この二つの演奏会を聴いてみたい!と思っているすべての方々にメッセージをお願いします。

新井:せっかくのフェスティバルの場でもありますので、初心者からコアなファンまで、さまざまなプログラムをお好きなようにセレクトしながら、長い目でともに歩んでいけるような、学びの場としても楽しんで頂けたらと願っています。そういう想いで、今年はマスタークラスも予定しています。お祭りですから、どのプログラムを回遊してもいいと思いますし、新たな出会いや発見の場としてこの機会を活用して頂けたらと思っています。

田中:一線で活躍されているスター・ソリストの皆さんとご一緒できる喜びもとても大きいですし、みなとみらいホールは大好きなホールの一つで、そこで毎年のようにご縁を頂いている神奈川フィルさんと、多彩なキャラクターの作品でご一緒できるのが楽しみでなりません。他のステージの出演メンバーとの交流機会などもあるそうですので、もちろん、今、ご紹介した二つの演奏会にもお越し頂いて、他公演でも存分に楽しんで頂けたら嬉しいですね!

取材・文=朝岡久美子 撮影=敷地沙織

公演情報

『 イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜 -STAND UP! CLASSIC-』
 
【開催期間】2026年8月1日(土)~ 8月2日(日)
【会場】横浜みなとみらいホール(横浜市西区みなとみらい2-3-6) 

主催・企画制作:イープラス
協力:横浜みなとみらいホール(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
お問い合わせ:スタクラ事務局(イープラス) stacla-info@eplus.co.jp
公式サイト:https://standupclassicfes.jp/
公式Instagram:@stacla_fes
公式X:@STANDUP_CLASSIC

【田中祐子出演プログラム】
『シンフォニック・メモリーズ』
日程:8月1日(土)18:00開演
会場:横浜みなとみらいホール 大ホール
 【出演】
田中祐子(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(オーケストラ)
上野耕平(サクソフォン)、高木竜馬(ピアノ)、高野百合絵(ソプラノ)、ニュウニュウ(ピアノ)、紀平凱成(ピアノソロ)
(高木竜馬の「高」ははしごだかが正式表記です)
【演奏予定曲目】
久石譲:君をのせて、天空の城ラピュタ『天空の城ラピュタ』より(サクソフォン:上野耕平)
アシタカせっ記、アシタカとサン 『もののけ姫』より(ピアノ:高木竜馬)
星を飲んだ少年、人生のメリーゴーランド 『ハウルの動く城』より(ピアノ:ニュウニュウ)
いのちの名前、いつも何度でも※木村弓作曲『千と千尋の神隠し』より(ソプラノ:高野百合絵)
オーケストラストーリーズ『となりのトトロ』 ほか
【料金】
全席指定 S席 6,500円、後方席 5,000円
プレミアムシート 10,000円(特典付き:スタクラオリジナル・ランチトート、めじるしキーホルダー)
※未就学児のご入場はご遠慮願います
 
『石田泰尚コンチェルト with 田中祐子&神奈川フィル』
日程:8月2日(日) 17:30開演
会場:横浜みなとみらいホール 大ホール
 【出演】
田中祐子(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(オーケストラ)
石田泰尚(ヴァイオリン)、菊池洋子(ピアノ)、實川風(ピアノ)
【演奏予定曲目】
メンデルスゾーン:ヴァイオリンとピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調 MWV04(ピアノ:菊池洋子)
カプースチン:ヴァイオリンとピアノと弦楽のための協奏曲 Op.105(ピアノ:實川風)
【料金】
全席指定 S席 6,500円、後方席 5,000円
プレミアムシート 10,000円(特典付き:スタクラオリジナル・ランチトート、めじるしキーホルダー)
※未就学児のご入場はご遠慮願います
  • イープラス
  • 田中祐子
  • 田中祐子(指揮)×新井鷗子(構成作家)、新たな境地を拓く!? フルオケ2公演は、レアプログラム&編曲にも注目「オーケストラの醍醐味を存分に味わって頂けると思います」~『スタクラ 2026 in 横浜』インタビュー