• トップ
  • 舞台
  • こまつ座『頭痛肩こり樋口一葉』4年ぶり再演。貫地谷しほりが母となり見つめ直す、混沌とした世を生き抜く女性の強さ

こまつ座『頭痛肩こり樋口一葉』4年ぶり再演。貫地谷しほりが母となり見つめ直す、混沌とした世を生き抜く女性の強さ

2026.7.8
インタビュー
舞台

貫地谷しほり 撮影:五十川満

画像を全て表示(12件)

『頭痛肩こり樋口一葉』は、座付作者の井上ひさしの作品を上演する制作集団「こまつ座」の旗揚げ公演として1984年に初演された。2010年に井上が逝去してからも上演を続け、公演回数700回以上となる人気作となった。今作は『たけくらべ』『にごりえ』などで知られる作家・樋口一葉と、彼女を取り巻く女性たちの悲喜こもごもを描いた評伝劇である。

父や兄に先立たれ若くして樋口家の戸主となった夏子(一葉・貫地谷しほり)は、母の多喜(増子倭文江)と妹の邦子(瀬戸さおり)を養うべく孤軍奮闘の日々を送っている。毎年7月16日のお盆の樋口家には、かつて多喜が乳母として仕えた旗本の娘・稲葉鑛(こう・香寿たつき)や、夏子の旧友の中野八重(岡本玲)らが集い、身の上ばなしに興じていた。やがて筆一本で身を立てようと決心する夏子だったが、そんな彼女にだけ花螢(若村麻由美)という幽霊が見えるようになり――

2022年の上演より一葉を続演する貫地谷しほりと、こまつ座代表で井上ひさしの三女・井上麻矢に話を訊いた。

悲しいことを面白おかしく描く井上ひさし作品の魔法。先輩の助言から始まったこまつ座への系譜

――貫地谷さんは2011年に『泣き虫なまいき石川啄木』(シス・カンパニー)で初めて井上ひさし作品に出演され、石川啄木を一途に愛するも家庭生活に翻弄される妻・節子を演じました。その後『もとの黙阿弥』(松竹、2015年)では結婚相手を見極めるため身分を偽るお嬢様・お琴をコミカルに演じています。井上作品のどんなところに魅力を感じますか。

貫地谷しほり:台詞の耳心地がよくてリズムがありますね。あったかくって面白おかしいけど悲しい。そして悲しいことを面白おかしく描いていると思います。人が一生懸命生きている様子は、傍から見るとクスッと笑えるような部分があるのでしょう。こんなにしっかり生きている一葉を演じていると、自分もしっかりしなきゃいけないと思います。 役者を始めた時から先輩方に、一度はこまつ座さんに出た方がいいと教わりました。シス・カンパニーさんの『泣き虫なまいき石川啄木』に出た時は、共演の方々が井上ひさしさんの作品について熱心に語っていました。日本を代表する劇作家である井上さんの戯曲を改めて深掘りできることが、すごく楽しみです。

井上麻矢

――井上麻矢さんは、貫地谷さんが演じる井上作品のどんなところが魅力とお考えでしょう。

井上麻矢:しほりさんは、ほわっとした雰囲気の中に普遍的な女性の強さを持っていらっしゃいます。演出の栗山民也さんは、物を書く女性の底力や物を見る目を持っている俳優さんでないと、夏子という役は演じられないとよくおっしゃっています。樋口一葉のルーツは山梨ですが、東京の下町にたっぷり浸かって庶民の声を聞き、ピンからキリまでの女性をずっと見てきました。その眼力がしほりさんにぴったりだと思います。また一葉の周りを取り囲む女性陣は、ほとんど一葉の物語の登場人物なんです。ですから一葉の頭のなかに起きていることを舞台化するような面白みもあります。

――一葉の人物像をどのように捉えていますか。

貫地谷:一葉は若くして一家を背負い貧乏にあえいでいました。生きている間に自分で戒名をつけ自分の心を死の世界に置き「ただ、墨をすり筆を動かすために身体をこの世界においてあるだけ」と花螢に打ち明けています。やりたいことがたくさんあったのに、女性が何かを始めることが難しい時代にいろいろな葛藤を抱え、若くして死んでしまいます。私なんかよりもよっぽど大人っぽい人物、今の感覚でいうと60歳くらいのイメージですね。

出産を経て変化した世界の見つめ方。「明日をどう生きるか」地に足のついたアプローチで挑む4年ぶりの再演

――4年ぶりの再演をどのように受けとめていますか。

貫地谷:同じ役で出演できるのはすごく嬉しいです。前回は作家になるんだという一つの希望に向かいながらもどんどん打ち砕かれていく、という解釈で演じていました。今回改めて台本を読み返し、私がこれで成功しなければ、明日みんな死んでしまう、どうにか生きていかなきゃいけない、という切実な思いを感じたんです。ですから以前よりももっと地に足のついた一葉が演じられるのではないかと思っております。 一方で一葉にはマイペースなところがあります。そこがいいところでもあり、母の多喜から見たら「タラタラしてるんじゃないわよ」って見えたかもしれない。この4年のあいだに私は母親になったので、そういう部分も出せるかもしれないですね。稽古前に前回公演の動画を見たときは「こんな芝居をしていたのか」と腰を抜かすくらい驚きました。自分の芝居を客観視できていなかったんですね。今回はよりいいものを作りたいと思っています。

――一昨年にご出産されてから初の舞台出演です。

貫地谷:日々目を覆いたくなるようなニュースがたくさん起きますが、昔はどこか他人事に思っていました。しかし母親になったこともあり、いろいろなことがあるけれどこの世界で生きていかないといけないという思いが強まりました。一葉も、明日何を食べればいいかという暮らしをしているなか、必死で自分ができることを探し、それを書いて後世に遺しました。この混沌とした世界のなかでも生きていかないといけないという強さは、一葉と共通すると思います。 ただ畳芝居は体がおかしくなっていくんですよ(笑)。腰や肩などいろいろなところが悲鳴をあげていくんです。最近は子育てがあるのでなかなか行けてないんですけど、パーソナルトレーニングを再開して痛くならない体を作りたいと思っています。頭痛も肩こりも運動しないとなりますよね(笑)。それに産後は一時的に視力が悪くなるんですよ。戻ると言われているんですけどまだ目が悪いままです。一葉は近眼の役なので前回よりも気持ちがわかりますから(笑)、そのおかしみを出せたらいいなと思っています。

一葉が生きた時代にワープして、人が生きることの豊かさや、私たち一人一人が何を次の世代に遺していくのかに思いを馳せる

――前回に引き続き今回も栗山民也さんの演出です。

貫地谷:栗山民也さんは日本を代表する演出家の一人です。ちょっとした一言でハッとすることをおっしゃるので、前回の台本に栗山さんの言葉をたくさん書き込みました。また『頭痛肩こり樋口一葉』の初演で、栗山さんは演出助手を務められていました。そのとき原稿を貰いにいった先で井上さんは「幸せの代償として必死に生きることを書いているんだよ」とおっしゃっていたそうです。この一言だけでも、一葉が生きた時代がいかに大変だったかがわかります。今回は再演ということで稽古時間が少ないのですが(笑)、そんななかでも栗山さんは私たちに魔法をかけてくれると思っています。

井上:栗山さんからは、『頭痛肩こり樋口一葉』の稽古のときはご自分の体と心を明治の時代に置いて生活するとお聞きしました。稽古場では誰よりもイキイキとされているんですよね。今を生きる俳優さんにとっては無理難題ですが、作品に描かれた時代に生きた人たちを劇場に蘇らせる作り方を大事にされていらっしゃるので、演技というよりもその時代に生きる人になってほしいとおっしゃっているんです。今回も私たち全員で一葉が生きた時代にワープして、人が生きることの豊かさや、私たち一人一人が何を次の世代に遺していくのかに思いを馳せたいです。
生と死は実は一本の線でつながっている…と思えると勇気がわいてきます。

――2022年のときは共演者の方々や栗山さんとどのようなお話をされましたか。

貫地谷:「最高だったよ、今日」と常にみんなで褒め合っている現場ではあったのですが(笑)、栗山さんから具体的にご指摘いただいたときはすごく嬉しかった記憶があります。それに女優が6人集まれば楽屋では美容の話題など多くあがって(笑)、みんなでアップデートした情報を交換し合うのもいまからすごく楽しみなんです。

――このお芝居で好きな場面はありますか。

貫地谷:八重にご馳走になったお鑛様と多喜が、酔っ払いながら帰ってきてどんどん崩れていくところを一葉が相手にする場面ですね。今回もどんな感じでやるのか楽しみです。また芝居の核の部分が込められている台詞を、みんながどういう風に言うのか楽しみにしています。井上さんは男性なのに6人の全然違う女性を書き分けて、戯曲として浮かび上がらせているのはすごいなと思います。

AI時代だからこそ代われない役者の価値。辛い現実も後で笑えるコメディに変える、演劇が伝えられるもの

――この4年で仕事への思いに変化はありましたか。

貫地谷:今はAIに何でも相談できますが、役者という仕事は代われないものだと思っています。優れたCGが出てきても、その空間でしか味わえないエンターテインメントをお届けできるこの仕事は、これからの時代さらに重要な役割を担ってくるのではないかと。明治という時代がどのような時代だったか皆さんにお伝えする意味でも、この作品を通してさまざまなことをお届けできたらいいなと思っています。

――女子に学問はいらないと言われていた時代の物語を、2026年の観客にどう届けたいですか。

貫地谷:今では女性が職業を持つことは当たり前になりましたが、こうなったのも一葉のような女性の活躍があったからだと思います。日々生きていて辛いと思う瞬間は誰にでもあると思うのですが、この作品に出てくる人たちも「お金がない」「夫が帰ってこない」「死んでしまいたい」などと悩んでいるんですよ。だけど一生懸命演じていると素敵なコメディになっているんです。私は今こんなに辛いけど、後で笑えるかもしれないってどこかで思ってもらえるような、そんなきっかけになったら嬉しいです。

井上:この作品は私たちの財産であり、大切に上演を重ねてきた作品です。井上ひさしは毎年お盆の時期にこの作品を上演してほしいと言っていました。それぐらい私たちにとっては思い入れの深い大切な作品です。女性が職業を持ち自立することが珍しかった明治の一葉は、大変稀有な存在でした。また、だいぶ若い時期から戸主として家を支えなければならなかったという意味では、現代でいうところのヤングケアラーと言えるでしょう。そのような社会背景とは別に、亡くなった方たちから何を受け継いで、これからの時代に何を託せばいいのか、そういう普遍的なテーマが織り込まれている作品ですから、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思っております。

取材・文=深沢祐一 撮影:五十川満

≪作品紹介≫
こまつ座旗揚げ公演で初演されて以来、700回以上上演を続け、今もなお人気を集める『頭痛肩こり樋口一葉』を、2026年、再び上演いたします。女性6人の人生模様の切実さが観客の共感を呼ぶ作品。 「にごりえ」「たけくらべ」など樋口一葉の作品が全編に散りばめられる中で描かれるのは、樋口夏子(一葉)と幽霊・花螢のユーモラスな交友、空間、そしてたくましく生きる明治の女性たちの姿です。それらはまさに井上ひさし版・樋口一葉像といえるでしょう。 近代化を推し進めたしわ寄せがのしかかり、女性が「個」として生きるのが難しい時代に、 「われは女に生るけるものを」と日記に記し、貧困の中、一家を支えた一葉の信念が、現代のヤングケアラーという言葉とも重なり、女性として生きる意味を今の時代に訴えかけます。筆の力をもって社会に挑んだ一葉から、すべての人へお届けします。

 

≪あらすじ≫
夭折の天才女流作家、樋口一葉の十九歳(明治二十三年)から一葉の死の二年後の明治三十一年までを、一場をのぞいて、それぞれの年の盆の七月十六日の夕刻に展開する、樋口一葉の評伝劇。 父や兄に先立たれ、若くして樋口家の戸主となった夏子(樋口一葉)の肩には、母・多喜と妹・邦子との貧しい生活が重くのしかかっていました。母の期待や妹の優しさに応えようと孤軍奮闘の日々を送ります。 恋をする自由も将来を夢みる余地もない夏子は閉塞感に押しつぶされそうになり、ついには、ただ墨を擦り、筆を動かすためだけに身体をこの世に置いてある、そう心を決めます。 そして、明治二十四年の盆の夕刻。 「ぼんぼん盆の十六日に 地獄の亡者が出てござる……」 少女たちの歌う盆歌に導かれて、一人の幽霊が夏子のもとを訪れてきます。「花螢」と名乗り、歌い踊る幽霊。 夏子と幽霊は、互いに心を通わせ合いますが……。

 

≪演出家・出演者よりコメントも到着!≫

演出・栗山民也

 もう何度上演してきたことか、古くからの懐かしい恋人にまた会えるような、ちょっとドキドキした気分。芝居は「いきもの」だから、再演を重ねるたびにその顔つきは微妙に変わるけれど、奥に流れるこの5人の女たちの熱く必死な思いと生き方には、決まって激しく心揺さぶられるのです。
 早く稽古がしたい。あの言葉、あの動き、あの歌に早く触れたい。そんな気持ちでいっぱいになる芝居です。またあの楽しくも哀しい劇の宇宙の中へ、一葉の最後まで求めた「祈り」を見つけに出かけます。

貫地谷しほり

二十四歳で燃え尽きた、天才作家・樋口一葉。そんな彼女には過酷な現実がありました。「女に学問はいらない」と言われた時代。筆一本で家族を養おうと、極貧、借金、病、そして世間と闘いました。お盆になると樋口家に集まる女たちは、ぼやいて、笑って、ときには泣いて、たくましく生きていきます。 この夏、再び井上ひさしさんの戯曲の世界へ飛び込みます。可笑しくて、愛おしくて、不器用に、必死に、生きた彼女たちに、ぜひ会いにきてください。

増子倭文江

皆さん こんにちは。 またあの愛おしい女達が帰ってきます。
この芝居は「こまつ座」の旗揚げ作品 何度も再演されてきた名作です。
あの物語をまた生きられると思うとワクワクします。
そしていつも手を取り合って支え合った大事な大事な仲間たち。
早くあなた達に会いたい。

香寿たつき

大好きなこの作品に、また出演させて頂ける事を大変嬉しく思っております。 こまつ座 旗揚げの作品と言う事で、たぶん、きっと、井上先生の思いが沢山詰まっていると改めて感じています。
久しぶりに、台本を読ませて頂きましたが、最初に演じた際とは、違った思いが湧いて来て、自分自身、更にスキルアップしたいと思っています。 また、新しく岡本玲さんとお芝居させて頂ける事もとても楽しみです。
栗山さんに導かれ 2026 年版「頭痛肩こり樋口一葉」キャスト全員で気持ちを一つにして臨みます。お楽しみに!

瀬戸さおり

お盆の時期に…帰ってきました!! また皆さんとこの作品でご一緒できるなんて! 私が演じる邦ちゃんは、姉・一葉を支える存在でありながら、自身も時代の荒波の中をたくましく生き抜いていく女性です。その強さや優しさ、人間らしさを大切に、誠実に演じたいと思っています。 たくさんの方に愛され続けてきた『頭痛肩こり樋口一葉』の世界を、劇場で皆さまと共有できる日を楽しみにしています。

岡本 玲

新しく仲間入りさせていただくことになりました、岡本玲と申します。いつか立ちたいと願っていたこまつ座の舞台、そして井上ひさしさんの戯曲。その夢が『頭痛肩こり樋口一葉』で叶うことになり、とても嬉しく思っています。緊張もありますが、そのドキドキも味方につけて、先輩方が大切に繋いでこられた作品への想いを胸に、精一杯努めます。劇場で皆さまにお会いできる日を楽しみにしております。

若村麻由美

井上ひさし作品の金字塔を栗山民也さんの演出で、13年・16年・22年・26年と再演を重ねてこられた幸せを噛み締めています。私の演じるお人よしな幽霊・花螢は生死の境を知る一葉にしか見えません。他のキャストの“見えない演技”が幽霊を見えない存在にするアンサンブルが見所です。花螢は怨みの元を辿った末、諦め赦しの境地に至ります。神出鬼没な幽霊を生身で演じるのは体力の限界への挑戦!私の花螢の集大成となるよう務めます。

公演情報

こまつ座第160回公演『頭痛肩こり樋口一葉』
 
作:井上ひさし     演出:栗山民也
出演:
貫地谷しほり 増子倭文江 香寿たつき 瀬戸さおり 岡本 玲 若村麻由美
 
■東京公演
日程:2026年7月29日(水)~8月30日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
■入場料(全席指定・税込): 11,000円 / U-30(観劇時30歳以下)7,000円
高校生以下 4,500円 (こまつ座のみ取扱い)
■当日券:開演1時間前より劇場入口にて発売

 
主催 こまつ座 共催 明治座/BS 日テレ

■公演に関するお問い合わせ
こまつ座:03-3862-5941
明治座センター:03-3666-6666(10:00~17:00)

に関するお問い合わせ
Mitt:03-6265-3201(平日 12:00~17:00)

≪全国公演≫

●群馬公演 9 月5日(土)13:00/18:00 9月6日(日)13:00
劇場:高崎芸術劇場 スタジオシアター

●岡山公演 9 月10日(木)18:30 9月11日(金)12:00/17:00
劇場:岡山県芸術創造劇場ハレノワ(中劇場)

●岐阜公演 9 月14日(月)14:00
劇場:可児市文化創造センターala(主劇場)

●山形公演 9 月18日(金)14:00
劇場:川西町フレンドリープラザ

●石川公演 9 月22日(火)12:00/17:00 9月23日(水)12:00
劇場:能登演劇堂

●大阪公演 9 月26日(土)18:00、 9月27日(日)13:00 、9月28日(月)13:00
劇場:梅田芸術劇場シアタードラマシティ 

こちらもCHECK!!

こまつ座第159回公演
『マンザナ、わが町』
 
作:井上ひさし 演出:鵜山 仁
出演:
sara 増岡裕子 栗田桃子 福井由峰 真飛聖

■東京公演
日程:7月10日(金) - 23日(木)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
 
★スペシャルトークショー★
7月12日(日)13:00公演終了後 sara 栗田桃子 福井由峰
7月15日(水)13:00公演終了後 真飛聖 増岡裕子
7月21日(火)13:00公演終了後 鵜山仁(演出)

※スペシャルトークショーは、開催日以外の『マンザナ、わが町』のをお持ちの方でもご入場いただけます。
※満席の場合、ご入場できないこともございますのでご了承ください。