「それぞれの山を登る時、今日の頂きを思い出して」スーパー登山部、バンドの現在地と新たな旅の始まりを鮮やかに示した、1stアルバム Release Traverse大阪公演レポート
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写真=亀岡義生
2026年6月20日(土)、5人組ネイチャーポップバンド・スーパー登山部が、大阪・心斎橋Music Club JANUSにて『1st Album『スーパー登山部』 Release Traverse』を開催した。セルフタイトルを冠した1stアルバム『スーパー登山部』を引っ提げて回る本トラバース。初日の大阪、名古屋、東京公演、そして東京追加公演と、
『1st Album『スーパー登山部』 Release Traverse』2026.6.20(SAT)@大阪・心斎橋Music Club JANUS
しとしとと雨がそぼ降る梅雨の大阪。心斎橋・Music Club JANUSは人で埋め尽くされていた。これまでスーパー登山部は、大阪において心斎橋・CONPASSや梅田・Banana Hallでのワンマンライブをはじめ、数々のステージに立ってきた。しかしこの日のJANUSは、これまでとは明らかに雰囲気が違っていた。ソールドアウト公演ならではの熱気、ツアー初日の緊張感、そして初見の観客も巻き込んでいるであろう、独特の高揚感。開演前のフロアには、今が彼らの飛躍の時だという確信が満ちていた。
2023年に現メンバーが集い、音楽と登山を軸に活動を行ってきたスーパー登山部。地元の山岳会に所属するほど山が大好きなコンポーザーの小田智之(Key.Vo)、小田の大学の後輩であるHina(Vo)、ソロ活動も行ういしはまゆう(Gt)、名古屋のバンドシーンで知らない人はいない梶祥太郎(Ba)、中村佳穂やBialystocksのサポートもつとめる深谷雄一(Dr)と実力者揃いで、ポップスを鳴らしながらもジャンルを横断した緻密なサウンドメイクで聴く者を魅了する。昨年、テレビ朝日『EIGHT-JAM』で楽曲が取り上げられたことをキッカケに大きく知名度を上げ、今年はFM802の邦楽ヘビーローテーションに選定、『FUJI ROCK FESTIVAL’26』への出演も決まるなど、ますます活躍が期待される。
そんな彼らの軌跡を詰め込んだ待望の1stアルバム。記念すべきリリースライブは、開演前から記憶に残る仕掛けがなされていた。ロビーに足を踏み入れると、そこはかとなくウッディな香りが漂ってくる。会場内のBGMは水の流れるフィールド音。ステージには山の稜線をかたどったネオンが光る。そう、ここは「JANUS山」だ。スーパー登山部はツアーをトラバース(=縦走)と呼んでおり、山から山へ横断するように全国の街を巡る。入山と同時に五感を刺激される演出で、オーディエンス(つまり、登山者ということになろうか)は山の中へと誘われていった。
定刻になると、ステージに小田、いしはま、梶、深谷が登場。ほぼ暗転した状態で「Departure」をゆったりと奏でていく。やがてHinaが現れ、目を閉じて静かに「Breathe」を歌い始めた。FM802 2026年6月度の邦楽ヘビーローテーションにも選ばれ、既に多くの関西リスナーの耳に馴染んでいるであろうこの楽曲。Hinaは自らギターを持ってバッキングを弾きながら、透き通った歌声を響かせる。彼女のハイトーンボイスに宿る柔らかでしなやかな質感が、会場全体を瑞々しく潤していく。<ほどいて 鳥と輪になって そよ風に揺れよう 雨雲は飛ばそう>という歌詞の通り、大きく息を吸って軽やかにスキップしたくなるようなオープニングに、思わず胸が踊る。
曲の途中で小田が「1stアルバム『スーパー登山部』Release Traverse 大阪公演、ついに始まります。旅の準備はできてますか?」と言うと観客は大盛り上がり。「皆さんと旅をしていきたいと思います!」との言葉を合図に、5人が放つ煌びやかなアンサンブルが会場を包み、フロアにクラップの花が咲いた。
「ドン、ドン……」と鼓動のようにライトが点滅し、開放的な小田の鍵盤から、いしはまのアルペジオがゆらめいた「燕」。『EIGHT-JAM』の「プロが選ぶ2025年のマイベスト10曲」において、蔦谷好位置が同曲を2位に選出したことで一気に彼らの存在が世に知れ渡った。縦横無尽に青空を飛び回る燕のように、自在に空気を動かすHinaのスキャットがたまらなく気持ち良い。
1stアルバムと同じフレッシュな幕開け。セットリストはアルバムの収録順に組まれているようだ。「皆さん、登山してますかー?」という小田の恒例の挨拶に応えたフロアからは「イエーイ!」と拳が上がり、熱がまたひとつ上昇。「入山いただきありがとうございます。皆エスカレーター大変でしたよね?(JANUSはビルの5階にある)ここはもう10合目です(小田)」と披露されたのは、代表曲のひとつ「頂き」。山頂から望む広大なパノラマを想起させる、豊かなサウンドスケープが会場を満たす。小田の創る楽曲からは山の景色や空気、匂いが解像度高く伝わってくる。 フロアでは老若男女が嬉しそうに身体を揺らし、2番はばっちりシンガロング! 終盤における深谷の複雑なビートアレンジも、痺れるほどのカッコ良さで楽曲を引き締めていた。
「いつかはね」では、ドラムとベースのリズム隊のハイセンスぶりが際立つ。幻想的なライトの中でダイナミックに動くベースラインと鍵盤、空間を揺さぶるビートにわななくギター、それらを全て包み込むHinaの歌声。ライブだからこその立体的なアレンジと奥深さには、個々の演奏力の高さが滲み出る。
続く「hatoba」も、静から動へと畳みかける展開がドラマチックなナンバー。以前インタビューで「お客さんが目を瞑ったら景色が見えるような場所に連れていきたい」と語っていたHinaだが、その理想は既に実現している。それだけでなく、ボーカリストとしての存在感がますます増しているように感じられた。囁くような表現から切なくも力強い表現、ブレイク前後の静寂とブレス、そこからの楽器と一体化したダイナミズムは圧巻だった。
「初日の緊張感があるね」と言いつつも、MCは和やかな雰囲気。Hinaは「初日を大阪でやれたことが嬉しい」と感謝を述べる。観客にスーパー登山部と出会ったキッカケを問いかけると、ラジオ、出演イベント、SNS、『EIGHT-JAM』、そして山界隈など、実に幅広い回答が返ってきた。「ちょっとずつ色んなところで知ってくれた人が集まってる印象」といしはまが言った通り、山と音楽の両面の活動はもちろん、彼らが地道に蒔いた種がしっかりと実を結んでいることが証明された形だ。
小田とHinaのツインボーカルが美しい「意志拾い」では、ライブでお馴染みの7拍子コールアンドレスポンスこと「意志拾いチャレンジ」を実施。この日はHinaがコールをしながら変則的なカスタネットを鳴らし、小田がカウベルでトリッキーなリズムを繰り出すという、難易度高めのバージョン。オーディエンスは負けじと食らいついて懸命にレスポンスを返していた。こうした音楽的なギミックを交えつつ、観客を自然と巻き込んでいくアプローチも彼らのライブの魅力のひとつ。メンバーもフロアも無邪気に音で遊ぶ感覚を楽しんでいた。
ステージの照明が最小限に落とされる中、Hinaといしはまがしっとりと紡いだのは、ピアノバラード「ITAI」。いしはまの丸みを帯びた歌声に、Hinaの<会いたい>という優しくも切ない高音が溶けて混ざり合う。小田とHinaとのハーモニーとはまた異なる声質の重なりが、神秘的な雰囲気を作り出した。
全グッズのデザインとアートワークを担当するいしはまによるグッズ紹介を経て、ライブも後半戦へ。コーセー『メイクキープ ミスト EX +』WEBムービーソングに起用された「ハイライト」は、シャイニーなサウンドに楽器隊のテクニカルなフレーズやリズムの妙が光るポップチューンだ。背筋が伸びるようなハイトーンボイス、疾走感あふれるメロディーとアンサンブル。そこに時折挟み込まれる、スペイシーかつギャラクシーな音の洪水。この鮮烈なアプローチのギャップに彼らの音楽的センスを感じて思わず脱帽した。
TENDREをフィーチャリングした「樹海」は、光の届かない深い森の中を歩いているような感覚になる。コントラストの強い照明演出と重厚さを増していく音の塊で、より世界観に没入させられる。彼らの楽曲が掬い取る多面的な山の表情は、時に私たちの人生とも重なり、聴く者を深い思考の海へと誘い込むようだ。
Hinaのアカペラから始まったのは、ライブで長く演奏されながらもストリーミング未解禁のままで、今回待望の初収録となった「火花」。秀逸なメロディーラインと凛とした歌声が、いつまでも心にあたたかく灯り続ける余韻を残す。続く「木枯らし」は、Hinaが初めて作詞に関わった、思い入れが強いであろう楽曲。昨年のライブで「始めたばかり」と話していたギターを滑らかに演奏しながら、切なさを宿して丁寧に歌い上げる。大切な人との別れが時間をかけて癒えていくように、この1年という時の流れが、彼女自身と楽曲を確かに進化させていた。
MCで小田はアルバムをリリースできた喜びを伝え、「最初に心斎橋CONPASSでライブさせていただいて、徐々にステップアップして今回JANUSでソールドアウトしまして、本当に嬉しいです」と感謝を口にする。Hinaは「去年のツアーはソールドできなかったから、「今年はソールドできるように頑張ろうね!」という想いでJANUSを押さえたらソールドアウトしました。今年はいろんなことがあって、たくさんの人が知ってくれて嬉しいです。どんどん上り詰めていきたいと思うんですけど、近くにいる人たちを大事にしたい」と、フロアやスタッフを見つめて微笑んだ。
そして小田は「今日このJANUS山に登頂しました。今、皆さんとこの頂きで音楽を共有できることを嬉しく思いますし、ここから皆さんもそれぞれの山に向かってもらえたらと思いますし、一緒に登っていけたらとも思います。各々の山を登る時、今日の頂きの日を思い出して、この時間が皆さんにとっての何かになればいいなと思っております」と笑顔で想いを述べた。
首からホイッスルをかけていた小田に対して、Hinaが「その笛、そろそろ使いますか?」とパスを出し、ラスト2曲へ。冒頭からフロア全員で<タラッタラッタッタ〜>とチルにシンガロングした「スーパー銭湯もある」は、いしはまのギターソロから変幻自在のアレンジへと舵を切る。場内が銭湯さながらのダブエコーに包まれたかと思えば、キーボードソロを挟み、リズムは一転して軽快なサンバ調へ。そこに小田がサンバホイッスルで参加! 鍵盤の周りを一周しながら笛を吹き鳴らす様に、観客は歓喜して大盛り上がりだった。
ラストは「風を辿る」。<どこまでも好きをやめない!><どこまでもキリはないよ!>という小田の初期衝動が詰め込まれたこの曲は、アルバムの終着点でありながら、次への出発点のようだ。上質なアンサンブルとクラップで見事な一体感を生み出し、バンドのこれからを爽やかに予感させてライブを終了した。アンコールなしでアルバムの全14曲を収録順にやり切り、自分たちの世界観を堂々と提示した5人の表情には、清々しさと充実感が滲んでいた。Hinaは「また絶対帰ってくるし、皆の生活の中にスーパー登山部が少しでもいてくれたら嬉しいです。これからもスーパー登山部は待っておりますので、会いに来てください!」と挨拶した。
その後は、梶が異様にじゃんけんが強いというエピソードからフロアを巻き込んだじゃんけん大会に発展し、機材車の運転手を決めるじゃんけんをステージ上で実施(梶は一発で勝ち抜け、深谷が負けるという結果に)。和気藹々とした空気と最高にあたたかな余韻を残してステージを去った。
これからスーパー登山部は、より多くの頂きに登りつつ、多彩な景色を描いていくだろう。9月には本トラバースのファイナルとして、長野県・白馬岳(標高2,932m)に位置する白馬山荘でのライブが控えている。登山を終えた者だけが味わえる景色と音楽は、他では代えがたい珠玉の体験になるはずだ。ぜひ、彼らのホームとも言える山頂でのライブを目撃してほしい。
取材・文=久保田瑛理 写真=亀岡義生
セットリスト
2026.6.20(SAT)@大阪・心斎橋Music Club JANUS
【セットリスト】
1.Departure
2.Breathe
3.燕
4.頂き
5.いつかはね
6.hatoba
7.意志拾い
8.ITAI
9.ハイライト
10.樹海
11.火花
12.木枯らし
13.スーパー銭湯もある
14.風を辿る
https://superclimbingclub.com/
ライブ情報
会場:白馬山荘(長野)標高2,832m!
・場 所:白馬山荘 スカイプラザ
・日 程:2026年9月1日(火)~3日(木)
・時 間:17:00 開場 / 17:45 開演 ※3日間共通
・料 金:各日【前方席】3,800円(税込)/【自由席/立ち見】2,800円(税込)
<ライブ開演時刻が「17:45」に変更となりました>
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