小瀧望「世界初演の作品の魅力を存分に伝えたい」と意欲を語る PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』が開幕
-
ポスト -
シェア - 送る
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』開幕前会見より
2022年3月に人気番組『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系列)を通して発見された戯曲『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』。井上ひさしが「井上ひさし」を名乗る前、1959年、24歳の時に執筆した作品であり、東北の民話「馬喰八十八」(ばくろうやそはち)をベースとして構築されている。
演出を務めるのは23年度読売演劇大賞で最優秀演出家賞、大賞に輝いた藤田俊太郎。周囲を魅了する極悪人・太郎は、人気グループWEST.での活動だけでなく、俳優としても高い評価を得ている小瀧望が演じる。太郎に翻弄される村人たちには、音月桂、加藤梨里香、大鶴佐助、小松利昌、小林きな子、小柳心、尾倉ケント、森加織、安井順平、梅沢昌代といった個性豊かな実力派が集結した。
<開幕前会見レポート>
ーーまずは意気込みをお願いします。
藤田:ここまで一日一日稽古を積み重ねてきました。様々な趣向と想像力を駆使して創作した作品です。皆様に自信を持ってお届けできることを幸せに思っています。ぜひ劇場に来ていただき、大いに泣いて笑っていただけたら嬉しいです。
小瀧:初日を前にワクワクドキドキしています。本当に内容が濃い作品なので、井上先生の言葉も余すことなくお届けできたらと思っています。
音月:物語はすごく爽快で、あっという間に過ぎてしまいます。私も客席で見たいと思いました。お客様にも楽しさをお届けできたらと思っています。
安井:井上先生が若い頃に描いた作品を初めて舞台でやるということで、今回の公演が『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』という作品の雛形になる。正直緊張しています。今後いろいろなところで上演されていくだろう作品の第一弾ということで気合がかなり入っています。座組の雰囲気は概ね良好なので(笑)、このまま最後までよろしくお願いします。
梅沢:井上先生が24歳の時に書かれたエネルギッシュな作品です。みんなで力を合わせて最後まで作り上げてきました。皆様にパワーのある作品をお届けできると思います。
ーー井上ひさしさんの未上演戯曲を託されたことに対する思いを教えてください。
藤田:安井さんからカンパニーの雰囲気は良好と言っていただけて安心しました。一人ひとりが愛おしいカンパニーで未上演作品を上演できるのが幸せです。僕自身、秋田出身で小さい頃から親しんでいて、敬愛する井上さんの作品に挑戦できるのはこの上ない喜びです。言葉と物語を大切に挑みましたが、気負うことなく、24歳の新たな作家が描いたエネルギーに満ちた作品に、新しい気持ちで取り組みました。井上さんが見てくださったら、喜んでいただけるんじゃないかと思います。
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』開幕前会見より
ーー小瀧さんは初の井上作品、藤田さんの演出も初めてですね。
小瀧:井上先生の作品を舞台で観たことがありますが、今作は若い頃の荒々しさみたいなものが残っている気がします。作中の時代を言葉にしているところもあればすごく現代っぽいところもあるので、役者たちは非常に悩みました。でも、井上先生が何を描きたかったのかなどをみんなで話し合い、なんとか食らいつきました。皆さんと一緒に息を吹き込むことで、この作品はこんなにコメディだったのかと感じる部分もあって。凄惨なシーンもありますが、軽快な会話の楽しさも見せられたらと思っています。藤田さんは、役者に自由にやらせた上で、役に近い部分を引き出してくれるような方。おかげで色々な挑戦ができて楽しかったです。
ーー極悪人の役も初めてかと思います。
小瀧:そうですね。最初から最後まで徹底的に悪くて、本当に自分のことしか考えていないような役は初めてなので、とても刺激的で日々楽しみながらやっています。でもたまに心が痛む時はあります。初めてのことに挑戦するのは怖さもありますが、プロフェッショナルなスタッフの皆さん、魅力あふれるキャストのみなさんに支えられて挑戦できています。
ーー悪役を演じる楽しさ、難しさはいかがですか?
小瀧:太郎という人物の選択が僕の中にないものばかりなので、なぜそれを選択するのか考えるのは楽しかったです。でも、出口の見えない模索なので、ずっと考えながらお芝居をしました。ある日「こういうことか」とわかった時に、すっきりしたとともに自分が太郎に近付いているようで恐ろしくもありました。
ーー共演するみなさんの印象を教えてください。
小瀧:様々なジャンルの皆さんが集まった印象です。梅沢さんがいらっしゃるのが大きな支えになっていますね。井上さんのことを知っている方がいるのは精神的支柱になっていますし、稽古場での席もお隣だったのでいろいろお話しさせていただきました。
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』開幕前会見より
ーー皆さんから見た小瀧さんはいかがでしたか?
梅沢:素晴らしいですよ。ダイナミックで繊細で、信頼できる役者さんです。
音月:のんちゃん(小瀧)はアイドル活動もされていますし、他の作品を拝見すると良い人や硬派な役が多いと感じていました。だけど本読みをした時すごく荒々しくて、いい意味で印象が変わりました。ピカレスク俳優というか、こういう役をやらせたら右に出るものはいないんじゃないかと思うくらいです。
安井:稽古場で藤田さんから質問があった時に「僕はこのシーンがこうなのでこうしています」と答えていました。初期の段階でそういうディスカッションをしているのを見て、非常に本を読める俳優さんだと思いました。きちんと読んでいるから答えることができるので素晴らしいと思いましたね。
藤田:のんちゃんは本当に豊富なアイデアを持っている方。身体的にも思考的にもそうで、安井さんがおっしゃったように、本を読んでアイデアを提示してくれます。そこに音月さんがまた違うアイデアを出してくれ、梅沢さんが全体を見て受け止めて包み込み、安井さんがまた違う角度で切り込んでくる。どんどん作品が上昇していきました。みなさんのことを尊敬しますし、演劇人・小瀧望を尊敬しています。
ーー小瀧さんは物語の舞台になっている山形にも足を運んだとうかがっています。
小瀧:本当に広大な土地でした。太郎が生きていた時代は当然色々なものが限られているわけで、峠を越えるのは命懸けだったと思います。遠くの方に高い山々が連なっていて、閉鎖感や疎外感を実感したのは発見でした。客席を見渡すシーンでは、山形の自然を思い浮かべながら演じています。
ーー今回の演出に関する趣向について教えてください。
藤田:ご覧になっていただき、自由に楽しんでいただけたらと思っています。作劇については、喜劇に見せかけた悲劇、悲劇に見せかせた喜劇がたくさんあり、「村」という共同体を太郎という悪なるものが変えていく。その仕掛けがどこに潜んでいるか、お客様に楽しんで発見していただけるように作りました。原石のような作品なので、見ながらたくさん磨いていただけたらと思っています。
ーー最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。
小瀧:いよいよ井上ひさしさんの幻の作品が世界初演となります。『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』という作品の魅力を存分に伝えたいですし、みんなで一丸となって一生懸命挑んできた作品をお届けできるのが楽しみです。どんなメッセージが込められているかなど、難しいことは考えず、ただ単にこの物語や登場人物たちの滑稽な会話、言葉を失うような恐ろしい出来事を体感していただけたら嬉しいです。
<ゲネプロレポート>
東北の民話「馬喰八十八」は、貧しい馬喰(牛や馬を扱う商人)が悪知恵を働かせて長者をだまし、のしあがっていくストーリー。
本作では、マレビト・太郎を主人公に、自らの弁舌と才覚だけを信じ、信仰も否定する男が閉鎖的なムラ社会と常識を破壊していく様を描いている。
ダークな物語をベースに井上ひさしらしい台詞回しが加わり、非道な主人公の生き様が爽快な作品に仕上がっている。24歳の頃に描いた戯曲ということもあって荒削りに感じる部分もあるが、のちに生まれる作品たちの原型のようなものも見えて興味深い。
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
主人公・太郎は、馬地主をはじめとする村の男たちを騙して金をとことん巻き上げて、出会う女は全て虜にして捨てていく。太郎を演じる小瀧は、表情の些細な変化や声音で心情を表現し、計算高さや機転をしっかりと見せている。突き抜けた悪でありつつ、魅力的でユーモラスな主人公をイキイキと演じていた。
そんな太郎を叱り、心配する病気の母(梅沢昌代)とのシーンは、太郎の本音が垣間見えてグッとくる場面でもある。ともに苦労しながら生きてきた親子の人生観の違い、太郎の野望、母の愛情など、親子のドラマも見どころだ。太郎も母に対しては人並みに情がある……かと思いきや、母すら都合よく利用する徹底した利己主義が清々しくさえある。
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
太郎は嘘つきで身勝手な男なのだが、村の人々も曲者揃いだ。
馬地主の松左エ門(安井順平)は、太郎を目の敵にしていながら、儲け話を期待して太郎の嘘についつい耳を傾けてしまう人間臭さが面白い。茶屋のおかみであるお京(音月桂)が、自分らしい生き方をするために強かに立ち回る姿も見応えがある。その他の人々も、太郎の嘘に振り回されつつ、時折太郎を振り回すパワフルさを見せている。
当時の東北の村で安全に生きるための打算や保身を否定はできないが、圧倒的な悪人である太郎vs利己的な村人たちという構図に見えてくるため、善悪の境目が曖昧になっていく。
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』舞台写真
また、太郎の暮らしぶりや雪深い村の様子、観音様の荘厳さを見せる舞台美術や演出も印象深い。全体的に照明を落としているが、それによって生まれる影の美しさ、色の鮮やかさが引き立っていると感じた。
悪役を主人公に、悲劇と喜劇が入り混じる本作。井上ひさしが若い頃に描いた戯曲の初演を、ぜひ劇場で見届けてほしい。本作は7月8日(水)~28日(火)まで東京・PARCO劇場、8月6日(木)~12日(水)まで大阪・SkyシアターMBSにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈