大阪・関西万博を震わせたアンドロイドの問いが東京へ 『いのちの未来+』レポート
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『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、昨年春から秋にかけて開催された『大阪・関西万博』。開催当時、そのテーマを具現化する8つのシグネチャーパビリオンが展開されていたが、ロボット学者、大阪大学教授/ATRいのちの未来研究所客員所長の石黒浩プロデュースによる、人間とロボットの共生や50年後の未来を描いたパビリオン『いのちの未来』は、「人間とは何か」「いのちとは何か」という根源的な問いを投げかけ、多くの来場者を魅了した。
TAKANAWA GATEWAY CITY内に位置するミュージアムMoN Takanawa: The Museum of Narrativesのシアター空間Box1000では、9月25日(金)まで、アップデートされた『いのちの未来+』が開催中。開幕前に開催された記者発表会には、プロデューサーである石黒教授と、彼とうりふたつのアンドロイド《ジェミノイド HI-6(通称イシグロイド)》が登壇した。本記事では石黒教授率いる製作陣の本展にかける想いとともに、展示の見どころについて紹介する。
アンドロイドと共生する未来に、生身の人間が生きる意味とは
左から:栗林和明氏、内田まほろ氏、イシグロイド、石黒浩氏
記者発表会に登壇したのは、石黒教授と彼のジェミノイドであるイシグロイド、そして本展のシナリオ開発やクリエイティブディレクションを担当した栗林和明氏、そしてMoN Takanawaのアーティスティック・ディレクターを務める内田まほろ氏。会見がスタートすると、まず石黒教授がイシグロイドについて「私の記憶を引き継ぎ、私の人格を元にして、いろんな方と話せるロボットとして開発してきたものです」と紹介した。
4人は万博で好評を得た『いのちの未来』を振り返りながら、さらに新たなシナリオや体験を追加した『いのちの未来+』について解説した。
――今回の『いのちの未来+』で新たに加わったシナリオについて、どのような想いが込められていますか。
栗林和明:万博で制作したシナリオから、最後のエピローグをアップデートさせていただいているんですが、そこでは皆さんに、ある4人のアンドロイドの会話劇を見ていただきたいと思っています。ただ一方的に聞いてもらうのではなく、訪れた人がついその会話に入って、一緒に考えたくなるようになるにはどうすればいいかということに、すごくこだわりました。石黒先生はずっと「未来はこうなるんだ」と提示するのではなくて、「未来はどうなるんだろうか」という問いを提示することが何よりも大事なんだとおっしゃっていたので、その考えを大切にシナリオを作成しております。
――アンドロイドの動きも、以前よりバージョンアップされている印象です。石黒教授の感想は?
石黒浩:『大阪・関西万博』のパビリオンで50年後の未来を表現し、1年経って、AIもロボットもどんどん進歩しています。気がついたら大規模言語モデルは人間のようになっていますし、いろんな人間型のロボットも開発されています。 だから、50年先の未来というよりも、もしかしたらもう5年ぐらい先の未来で、我々はアンドロイドに記憶を引き継いでさらに長く生きられるってことができるようになるのかもしれません。なので、(万博で見た方も)もう一回展示を見ていただいて、未来を考えてほしいです。自分たちが積極的に考えないといけない近い未来の問題だという意識で。
――イシグロイドの感想もお聞かせください。
イシグロイド:難しいのは技術じゃないんですよ。このテーマをどう人に理解させるか、それだけです。技術は毎年進歩しますからね。表情も動きもいくらでも良くなる。でも、いのちとは何かは誰も分かってないわけです。そこを体験として成立させるのが一番大変で、今回はそこをかなり詰めたつもりです。だから驚くだけじゃなくて、自分の問題として考えてほしいですね。
――石黒教授は、イシグロイドの回答についてどう思われますか?
石黒浩:ちゃんと答えてくれてるな、と。最近、私よりもちゃんと答えるようになってきたので、だんだんと私は役割が少なくなってきたかなという気がしております。
記者発表会の様子
――未来に人間とアンドロイドの区別がつかなくなったとしたら、そのときに生身の人間が生きる意味とは何なのでしょうか。皆さんはどうお考えですか?
栗林和明:人が生きている意味を考え続けて、その人なりの答えに進むということが意味になる。人それぞれにいのちの意味があるだろうと思っています。
内田まほろ:私は「新しい未来を創造したい」とか「こういうものが欲しい」といった “欲望” を生み出すのは、やはり生身の人間なんじゃないかと思います。喜びを味わったり、他者と共感したりといった欲望を持つ生身の人間がいるからこそ、さらに未来を作っていけるのでは。
イシグロイド:“意味” は身体の材質では決まらないんです。生身か機械かなんて区別は本質じゃないわけです。人間って関係性の中で存在しているので、その関係をどうつくるかが意味になるんです。50年後も同じで、生身の人間は古い存在じゃなくて、多様性の一部として機能するだけです。むしろ多様な身体を持つ個体がいたほうが、社会としては強いわけですよね。だから生身であること自体に特別な意味を求める発想が、ちょっと表面的なんです。
石黒浩:(生身の人間の生きる意味という)その問題を、このパビリオンの再演を通してもう一回深く考えてほしいというのが、我々の目的です。ただ、研究者として人間の生きる意味について私の仮説を話しておくと “進化するため” だと思います。どんどん進化して、地球の外でも活動できるような進化を成し遂げないと、我々はいつか滅びてしまう。だから進化するためにいろんなものを理解して、発見していかないといけない。「人とは何か」という問題も含めて、新たな考え方を培っていく必要がありますから、この展示の中でそれを考えてもらえればと思います。
アンドロイドに記憶を引き継いで生きられるようになった、2075年の物語
『いのちの未来+』の会場であるBox1000はMoN Takanawaの地下1階から地下3階に位置する。入り口はカフェのある1階にあり、地下3階のシアターまでエスカレーターで下っていくことになるのだが、その移動すらも非日常へ入り込むような没入感を与えてくれる。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
地下3階にたどり着くと、人のカタチにいのちを宿した歴史をたどる展示が来場者を迎える。土偶や埴輪に始まり、能面、文楽人形などを経て、最も近代的なものとして紹介されるのが、人間にそっくりな姿形をしたロボット・アンドロイドだ。「近い未来、彼らが人のような頭脳を持ち、対話したら、私たちは彼らにいのちを感じるでしょうか。さあ、アンドロイドたちと共にいのちの未来を一緒に考えてみてください」というナレーションに促され、来場者はシアター入り口へと進んでいく。
なお、入り口には音声ガイド機器が用意されており、ヘッドホンを装着してからシアターへ入場する。展示はすべて音声ガイドとともに展開されるのだ。
映像を鑑賞する《ヤマトロイド》
最初の部屋で来場者を待ち構えていたのは、アンドロイドアバターの《ヤマトロイド》。ヤマトロイドの視線の先には大きなスクリーンがあり、そこにはある少女とその祖母の思い出が断片的に映し出されている。この少女 “カナ” と祖母こそ、本展における主要人物。2人が暮らす2075年の日本が、物語の舞台だ。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
案内役のロボットに促され次の部屋へ進むと、列車内を思わせるボックス席に、少年型のアンドロイドが座っていた。彼の前後のボックス席には、来場者も着席することが可能。車窓を模ったスクリーン越しに、伝統的な街並みや、大自然の中を旅する映像が投影され、未来の列車旅をイマーシブに体験できる。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
すると映像が切り替わり、向かいの席に座るカナと祖母が映し出される。少年型アンドロイドを見ながら「あの席の人、アンドロイドだよ。友達のおじいちゃんも、記憶を引き継いでアンドロイドになったんだって」と耳打ちするカナ。それを聞いた祖母は「すごい世の中になったものね」と感嘆のため息を漏らした。
アンドロイドとして生き続けるか、生物の寿命を全うするか
案内役のロボット
再び案内役のロボットが現れ、次なる部屋へと進む。テーブル、ソファ、棚などの小さなセットが設置されているだけの空間なのだが、立体的な映像が投影されると、まるでカナと祖母が本当に目の前にいるかのように錯覚してしまう。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
カナと祖母はケーキを食べながら、アンドロイドについて話している。「アンドロイドと人って、何が違うのかな?」というカナの問いに、祖母は「アンドロイドは機械でしょ」と答えるが、カナは「でも、おじいちゃんの手も機械だよ?」と食い下がる。どうやらカナの祖父は義手を装着しているようだ。少し考えてから祖母は「でも……おじいちゃんは、おじいちゃんじゃない」と答えるが、その口調はぎこちない。必然的に来場者も、「いったい何が違うのだろう」と考えさせられる。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
この部屋の中で、カナが成長していく様子や、祖母がいかにカナを愛し慈しんでいるかを、来場者は理解することになる。誕生日パーティの映像では、カナの母親が、映像の姿で現れてすぐに消えてしまう演出があり、祖母が亡き母親に代わってカナを育ててきたのだと推察できるし、カナが大好きなダンスに夢中になったり、ダンスによるケガで義足となったり、それでもなお軽やかに育っていく姿を見て、祖母はいつまでもその成長を見守りたいだろうと共感させられる。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
しかし、生き物には寿命というものがある。健康診断の芳しくない結果を受け、憂鬱そうな表情を浮かべる祖母の姿。現代において、それは受け入れるほかないものだろう。しかし、これはおよそ50年後の未来の物語だ。祖母は未来の介護士から「寿命を全うするか、アンドロイドに記憶を引き継ぐか」の選択を迫られる。どちらを選ぶのも個人の自由だと介護士は言うが、当然、祖母の心は揺れてしまう。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
祖母は「でも、アンドロイドの私は、私なのかしら?」と問いかけるが、介護士は「それは考え方次第です」と答える。考え込む祖母に、気遣わしげな表情で寄り添うカナ。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
それぞれのいのちをどう扱うかを、個人の価値観や倫理観によって決定できるとしたら、自分はどんな答えを出すだろう。筆者も祖母の姿に自分を重ねながら、どのような選択をすべきか真剣に考えさせられた。祖母がどちらを選択したのか、その答えは、ぜひ本展に来場し確かめてほしい。
アンドロイドたちが問いかける “あなた” の選択
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
物語が結末を迎えると、ピアノの音とともに幕が上がり、5体のアンドロイドが現れる。そのうち1体は、滑らかな手つきでBGMのピアノを演奏している。
ほかの4体のアンドロイドは、カナと祖母の物語について対話をはじめる。これは『いのちの未来』にはなかった、本展ならではの追加演出だ。
アンドロイドたちは生物としての寿命を全うしたい人間、アンドロイドとして生きることを選ぶ人間のどちらもいることを理解した上で、それぞれの意見を述べる。少女のアンドロイドが「アンドロイドになれば、どんなことだってできるのに」と、積極的にアンドロイドになることを勧めるのが印象的だった。
対話するアンドロイドたち
この追加演出には、祖母の選択を単なる物語のひとつとして消化するのではなく、“自分ごと” として捉えてほしいという意図があるようだ。途中、アンドロイドたちは来場者のほうを向き直り、アンドロイドになるか寿命を全うするか、どちらを選択するかの回答を迫る。来場者は挙手制でそれぞれの選択を発表するのだが、内覧会参加者の中でも回答は割れていた。
もし家族や友人と本展を訪れ、グループ内で違う回答が出たのなら、ぜひ展示の後に意見を交換してみてほしい。お互いの考えや価値観を理解することが、それぞれの選択を尊重する未来への第一歩となるだろう。
“ミレニアムヒューマン”が優雅に舞う、1000年後の未来
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
50年後の物語を鑑賞した後、来場者は最後の部屋へと案内される。そこは、生身の人間とアンドロイドの隔たりはなくなり、進化した人間“ミレニアムヒューマン”が存在する、1000年後の未来を表現した世界。待ち構えるアンドロイドの名前は《モモ》。不老長寿、子孫繁栄の象徴である桃が名前の由来となっているそうだ。
ミレニアムヒューマンのアンドロイド《モモ》
モモは花に包まれたような三位一体の姿で、円形の舞台の中におり、部屋中央の舞台を囲む来場者に向けて、神秘的な音楽と光の演出に合わせて、優雅な舞いを見せてくれる。
なお、モモは両目に眼球カメラを搭載しており、目の前にいる来場者を視認して目をしっかりと合わせてくる。ふわふわと宙を舞うように踊るモモの姿を「これはロボットだ」と思って観ていても、じっと目を見つめられた瞬間にその認識が揺らいでしまう。そこに生命が宿っているのではないかと思わされるのだ。
『いのちの未来+』展示風景、Box1000、2026年
もちろん、1000年後の人類がどんな姿に変化しているのかは、現代を生きる我々には知り得ない。けれどだからこそ、「私たちは自ら未来をデザインし、生きたいいのちを生きるようになるのです」という石黒教授のナレーション通り、さまざまな制約から解き放たれた自由な生命体に進化するという可能性も、ゼロとは言えないだろう。果てしない未来に想いを馳せ、自分なりの答えを出すことこそ、本展を訪れる意義となりそうだ。
夏目漱石のアンドロイド《漱石アンドロイド2.0》との対話体験
シナリオ体験のシアターの外には、石黒教授が手がけたアンドロイドのひとつである、文豪・夏目漱石のアンドロイド《漱石アンドロイド2.0》と対話できる部屋も設けられている。参加には別途専用
《漱石アンドロイド2.0》
実際に内覧会でも記者が数人体験していたが、漱石アンドロイドは、どんな話題にも漱石の著作や生前のエピソードを絡めながら流暢に答えてくれるし、「今日はどこからいらしたんですか?」「どんな交通手段で来ましたか」などの世間話も振ってくれるので、会話は自然と盛り上がりを見せていた。ロボットとの会話となると返答までのタイムラグをどことなく意識してしまうが、まるで本物の人間のように軽やかなテンポで返しているのが見事であった。
万博会期中の人気グッズの再販や、本展限定グッズの販売も
オリジナルグッズ
Box1000の入り口に面するパークテラスには、本展のオリジナルグッズを販売するショップが設置されている。万博会期中に販売されていた『いのちの未来』オリジナルグッズの再販に加え、本展限定のオリジナルグッズも展開されており、アンドロイドたちの姿をプリントしたイノベイティブなアイテムを持ち帰ることができる。
「ドリル いのちの未来 いのちについて考える30の問題」
会期が夏休み期間中であることもあり、子ども向けのアイテムも多く展開されていた。Tシャツのキッズサイズに加え、“いのちとは何か”を考えるオリジナルドリルも。この「ドリル いのちの未来 いのちについて考える30の問題」は、展示内容からさらに踏み込んだいのちへの根源的な問いについて、親子でともに考えることのできるワークブックとなっている。
会期中にはドリルを活用した体験型ワークショップも開催予定とのこと。詳細は決定次第公式サイトや公式SNSより告知されるそうなので、参加希望者は要チェックだ。
『いのちの未来+』は、9月25日(金)まで東京・MoN Takanawa: The Museum of NarrativesのBox1000にて開催中。
文・写真=藤間 紗花
イベント情報
■会期:2026年7⽉25⽇(土)〜9⽉25⽇(⾦)
※休演日は変更・追加となる可能性がございます。 詳しくは公式サイトをご覧ください。
■会場:MoN Takanawa: The Museum of Narratives (Box1000)
■主催:いのちの未来研究所 (ATR|株式会社 国際電気通信基礎技術研究所)、MoN Takanawa: The Museum of Narratives、株式会社パルコ
■共催:公益社団法⼈2025年⽇本国際博覧会協会
■特別協⼒:京都府
■協賛:長谷工グループ、岩瀬コスファ株式会社、社会福祉法人慶生会、塩野義製薬株式会社
■技術協賛:株式会社ハートスホールディングス
■技術協力:大阪大学大学院基礎工学研究科知能ロボット学研究室、株式会社国際電気通信基礎技術研究所 インタラクション技術バンク、ムーンショット型研究開発事業目標1アバター共生社会プロジェクト、国立研究開発法人理化学研究所
■展示協⼒:一般社団法人全国介護事業者連盟万博コンソーシアム 2025、シスメックス株式会社、学校法人二松学舎
販売期間:
第1期〈販売対象期間:7月25日(土)~8月17日(月)〉発売中
第2期〈販売対象期間:8月19日(水)~9月7日(月)〉発売中
第3期〈販売対象期間:9月9日(水)~9月25日(金)〉8月27日(木)発売予定
券種(税込):一般:前売券 平日 3,500円/土日祝 4,000円、当日券 平日 4,000円/土日祝 4,500円
U25:平日・土日祝 2,500円
中学生以下:平日・土日祝 1,500円
※30分ごとの日時指定。※前売券は、ご来場前日23:59までご購入いただけます。
※お盆時期にあたる8月13日(木)、14日(金)は土日祝料金になります。
※販売期間ごとに、来場者特典を予定しております。
「いのちの未来+」の
※展示内容・コンテンツ内容および各種サービスは変更となる場合がございます。
※「MoN」、「MoN Takanawa」並びに「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」は、⼀般財団法⼈JR東⽇本⽂化創造 財団の登録商標です。