関西初上演『人形ぎらい』人形遣い・吉田一輔が語る文楽の魅力ーー「三谷文楽をきっかけに文楽に興味を持ってほしい」

2026.8.18
レポート
舞台

三谷くん人形を手にする吉田一輔 撮影=福家信哉

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2025年に東京・PARCO劇場で初演され、好評を博した三谷文楽『人形ぎらい』が、8月21日(金)から26日(水)まで京都劇場で上演される。三谷幸喜が作・演出を手がけ、2012年の『其礼成心中(それなりしんじゅう)』以来、13年ぶりの新作となる。人形遣いの吉田一輔が監修、三味線の鶴澤清介が作曲を担う。モリエールの『人間嫌い』を​モチーフに、近松門左衛門作『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』を劇中劇に取り入れ、普段は脇役として登場する人形の陀羅助(だらすけ)が主人公の同作。現代を舞台に、文楽人形が大阪のシンボル・通天閣に登り、スケートボードで大阪の街を疾走するなど、従来の文楽では目にすることのない動きも話題を呼んだ。昨年の東京公演を経て、京都ではどのような進化を見せるのか、吉田一輔に聞いた。

三谷文楽、13年ぶりの新作

吉田一輔

――13年ぶりの新作が実現した経緯を教えてください。

『其礼成心中』も各地で何度も再演をやらせていただいたのですが、早い段階で三谷さんが「次の作品も書きたいな」というふうにおっしゃって、「ぜひ書いてください」とお願いしていました。そして2020年にPARCO劇場が新しくなって、オープニングで『其礼成心中』をやらせていただいたときに、「もう待ちきれん」ということで、「人形は年取れへんけど、我々みんな年取っていくので、早く書いてください。これが最後の訴えです」とお願いしたら、「じゃあ書きましょう」となり、話が進み、この作品になりました。

――モリエールの『人間嫌い』をモチーフにし、劇中劇に『鑓の権三重帷子』を取り入れたのは、どのような経緯だったのでしょうか。

三谷さんが文楽に三角関係のお芝居はないかと聞いてこられたので、『鑓の権三重帷子』がありますと提案しました。モリエールの『人間嫌い』と通じるところがある作品で、劇中劇として登場する形にしてもらいました。

――三谷文楽ならではの魅力を、改めて教えてください。

私たちは古典芸能をやっておりますので、ずっとやってきたものの積み重ねを一番大事にしているのですが、三谷文楽では、三谷さんも我々も、いかに分かりやすくお客様に伝えるかを目指しています。通常の浄瑠璃ですと、一言に数分かけるなど非常に伸ばして語ることもあるので、浄瑠璃の基礎で分かりやすく語るということに苦労していますけれども、浄瑠璃らしさを崩さず、初めて見る人にも言葉が通じやすいような作り方をしています。これが普段とは一番違うところだと思います。

――喜劇の場面が少ないという文楽ですが、太夫、三味線、人形遣いの三業(さんぎょう)で笑いを作る難しさや醍醐味はいかがですか。

文楽は三業が一つになって作り出す芸能なので、三業が揃わないと話になりません。それだけに三谷文楽は、みんなが同じ方向を見て、面白いものを作りたいと思っているからこそ成立している公演だと思います。我々は稽古をしないんですよ。これを言うとびっくりされるのですけども、普段は、初日の前日に1回、稽古します。新作の場合でも、稽古時間は少ししかしないのですが、三谷文楽はどれだけ笑えるのか、泣いてもらえるのかを緻密に追求しながら稽古するので、私たちが普段やっていることと全然違います。『其礼成心中』の初演では、1日8時間ぐらいの稽古を1週間ほどしましたが、文楽ではありえません。特に人形は重たいので、それを持ち続けての8時間の稽古は相当体力が要るので、若いうちしかできないのかなと思ったりします。でも、せっかくやっているのだから、年を重ねてもやり続けたいなと思っています。

――人形と人形遣いの関係性も描かれているそうですね。

はい。人形遣いとしては通常考えられないような場面もありますが、私たちにとって人形はものすごく大事な、相棒のような存在です。だから、「道具」とは呼びません。本当に、大事に大事に、丁寧に丁寧に扱っています。三谷さんは、普段から僕らの行動を見てくださって、そういう場面を描いていただいたんやと思います。

スケボーは堀米雄斗選手の動きを参考に

吉田一輔

――2025年のPARCO劇場での初演を経て、京都公演でさらに進化させたい点はありますか。

やはり見せ場でもあるスケボーのスピード感を、もっと上げてもいいかなと思います。人形遣いは3人ですが、今回はスケボーを動かす人もいますので、4人なんですよね。4人でどれだけのスピード感を出せるか。前回は、いつ誰が転んでもおかしくないというような、かなり危険な状態でやっていたのですが、スピードアップした方が面白いという思いもあるので、どれだけ‟ゴン攻め”できるかですよね。

――スケボーは実際の動きを研究されたのでしょうか。

人形遣いは誰一人、スケボーに乗れないので、最初は「どないしようか」と思っていたのですが、打ち合わせをしなくても、なんとなく主遣いのやりたいことを左遣い、足遣いが感じ取ってくれて、動いてくれて。それは今までやってきた土台があるからだと思います。ただ、飛んだ時はどっちの手でボードを持つのか、そのとき目線はどこを向いているのかなど、細かいことは(東京五輪・パリ五輪の2大会連続金メダリストの)堀米雄斗選手の映像を見ながら研究しました。劇中に技名も出てきますし、「ゴン攻め」なんて言葉も浄瑠璃で語ります。浄瑠璃でカタカナが出てくるとお客さんが喜んでくれますね。普段は絶対言わないですから。

新作が新しい観客への入口に

吉田一輔

――近年は新作の文楽も上演されています。新作を作ることには、文楽界においてどんな意義があると考えていますか。

文楽は古典芸能ということもあり、年齢層が少し高めで​、しかもコロナ禍以降は客足も減っているように感じます。また皆様が劇場に戻ってきてくれるのが一番なんですけれども、待っているばっかりではダメなので、新しい観客層を増やすという意味では、古典を大事にしながら、こういった新作もどんどんやっていかないといけないなと思います。

――『人形ぎらい』で初めて文楽に触れる方には、どのように楽しんでもらいたいですか。

三谷文楽をきっかけにして、古典の文楽を見てもらいたいですね。多分、1回見ただけではわからへんと思うので、2回、3回、4回、5回と続けて見てもらって、その良さをわかってもらえたら一番嬉しいです。

吉田一輔

取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

公演情報

三谷文楽『人形ぎらい』
日時:8月21日(金)~26日(水)
場所:京都劇場
料金:11,000円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可。ひざ上での鑑賞不可。
主催:関西テレビ放送/サンライズプロモーション大阪
企画・製作:パルコ

作・演出 三谷幸喜
監修・出演 吉田一輔
作曲・出演 鶴澤清介
出演 竹本千歳太夫
豊竹呂勢太夫 豊竹睦太夫 豊竹靖太夫 鶴澤清志郎
鶴澤清公 鶴澤清方 吉田玉佳 吉田玉勢 桐竹紋秀
吉田玉翔 吉田玉誉 吉田簑太郎 吉田玉彦 吉田玉路
吉田玉延 吉田簑悠 吉田玉征 豊松清之助 吉田一大
囃子:望月太明蔵社中
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