<期間限定配信が決定!>菊池亮太、5年ぶりのサントリーホール・リサイタル “Over the Fantasia” 「祭り」「自然」「踊り」「旅」をテーマに繰り広げられた熱演【レポート】
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『ピアノリサイタル2026 “Over the Fantasia”』
ピアニスト、作・編曲家として唯一無二の活動を展開し、躍進し続ける菊池亮太が、2026年8月17日(月)、5年ぶりにサントリーホールの舞台にたった。タイトルを “Over the Fantasia”と銘打ったリサイタルは、菊池自身が作曲し、2025年11月に東京交響楽団との共演で世界初演を果たした、ピアノと管弦楽のための交響詩《トラベラーズ・ファンタジア》のピアノソロ版を含むプログラム。最初から最後まで舞台に一人、「祭り」「自然」「踊り」「旅」をテーマに、約3時間に及ぶ熱演を繰り広げた。
ゆっくりゆっくり舞台に現れた菊池が、椅子に座った後も時間をたっぷりとってから弾き始めたのは、音数を絞ったジャズ風ショパンの「ノクターンop.9-2」。今にも消えそうな最弱音が、不思議なほど近くで聴こえる。降ってくるのを待って書き留めるような速度で、まるで自分のために弾いているようでいて、しっかり会場中の琴線に触れてくるあたり、やはりこの人の人心掌握術は天性のものなのか。少しずつ音楽が膨らみ、ジプシー風の繋ぎからラフマニノフの「神曲メドレー」に入ると、赤い照明の中、どんどん会場を巻き込んでエンジン全開、「ピアノ協奏曲 第2番」終楽章のクライマックスで華やかに曲を終えると、大歓声がおこった。オープニングからこの盛り上がりようで、この先は一体どうなるのか。
その後、客席からリクエストされた「ハッピーバースデイ」、「スペイン」、「メガロバニア」「ひまわり」、そして「暴れん坊将軍」、「献呈」を、時に原曲のイメージを180度覆すようなアレンジで繋いでいく。ピアノの音色で、ゆったりと素朴に、寂しげに歌った「メガロバニア」の旋律の美しさや、「暴れん坊将軍」と「スペイン」が意外にも似た疾走感を持っていることに驚き、可愛らしく始まった「ハッピーバースデイ」の、とんでもない超絶技巧曲への変貌には思わず笑いそうになる。普段聴き慣れたアレンジでは気づきにくい、メロディの新たな可能性がわかるのも即興演奏の面白いところ。そして何より、奏者と聴衆との密なコミュニケーションから生まれる音楽は、本当にエキサイティングだ。
伊福部昭「ピアノ組曲」より「盆踊り」は半被を着て演奏。「ドン、ドン、ドン、カラカッカ」の太鼓のリズムがお腹の底に響き、お囃子が聞こえて、サントリーホールが夏祭り会場に。楽譜云々ではなく、身体から湧き出たような音楽は何とも言えないカッコよさで、日本人としてのアイデンティティに目覚めるような感覚を味わった。
間をあけずに、今年生誕150年を迎えたM.ファリャのバレエ音楽「恋は魔術師」より「火祭りの踊り」へ。強烈なトリルがメラメラと燃えるが、不思議と先の「盆踊り」と通ずるエネルギーも感じる。途中、演奏しながら半被を脱ぎ、本格的にスペインモードに突入すると、取り憑かれたように最後まで駆け抜けた。
続いてはE.サティ/菊池亮太の「ジムノペディ第1番」。即興を交えたスペシャルアレンジは淡い色を帯びており、ジャズ風の和声と煌めくようなトリルが印象的。原曲が気だるい午後なら、菊池編曲版は夜といったイメージか。静かな世界は、音色の美しさが際立つ。
曲が変わったことに気づかれないのではと思うほど自然な流れで、イギリスの作曲家J.アイアランドのピアノ曲集「デコレーションズ」の第1曲「島の呪文」へ。透明感のある1音1音が、会場にゆっくりと滴り落ちるよう。曲が進むにつれて、こんこんと湧き上がるような音楽は、ラヴェル「水の戯れ」やドビュッシー「水の反映」を思わせる。シャープで透明な音が集まって、靄がかかったような幻想的な世界を作り出しているのが興味深かった。
撮影=You Ishii
F.ショパンの前奏曲op.28第15番「雨だれ」は、まろやかな音色で始まり、穏やかで平和な雰囲気から、押し潰されそうな不安まで、激しく揺れる心情を表現した。曲調に寄り添うような照明も見事。
「旅立ってから干支が1周した」という菊池の同級生、松田怜氏編曲によるC.サン=サーンス「動物の謝肉祭」より「白鳥」。メロディ、アルペジオ、ベースラインで3段の譜面が書かれているという。「あたかも3本目の手が生えている感覚になる」と菊池本人も話していたが、摩擦レスで優雅に進んでいく音楽こそ超絶技巧が必要だ。うっとりと余韻に浸る聴衆に向かって、菊池は「編曲者に拍手を」。
前半のトリは、菊池作曲「ラ・カンパネラ」による大幻想曲の世界初演。ロマン派から近現代、ファンクやラテンのあらゆるテクニックを詰め込み、「自分にも弾けるかわからない」という。「既存のカンパネラをイメージして、なんじゃこりゃ!と思ったら、盛大な拍手をお願いします」と言って弾き始めた大作は、豪華絢爛ながら、ふっと力が抜けるような瞬間あり、中間部では妖艶なワルツあり、爽やかで壮大な映画音楽のような雰囲気あり、しまいには「ねこふんじゃった」のフレーズまでちらりと出てきて、想像の斜め上を行きっぱなしだ。クライマックスに向けて音数もどんどん増え、まるで自動演奏ピアノのような超人的テクニックのオンパレード。聴衆の「なんじゃこりゃ!!」が割れるような拍手となって菊池に贈られ、前半の幕が降りた。
黒のハットと衣装に着替えた菊池が再び舞台に現れ、後半が始まる。いよいよピアノと管弦楽のための交響詩《トラベラーズ・ファンタジア》のピアノソロ版の世界初演だ。
「旅立ちの夜明け」、原曲の冒頭は静かなティンパニだったが、こちらは衝撃的な太い低音が闇を突き破る。直線的な音色で5度ずつ上がる音は地平線からのびる光のよう。
ゲーム音楽風味だという「出発」は、華やかなマーチ。ただ勇ましいだけでなく、雄大で美しい音楽は、胸がいっぱいになる
琴のような同音連打から始まる「カデンツァ」を経て、「桜舞う日本」へ。甲高い竹の音が響くような、凛とした世界。日本の美しさを改めて想うような時間だ。
「霧の森」は、マイナスイオンを浴びているような、清々しく優しいメロディが広々と発展して、思いっきり深呼吸したくなる。
続いて、情熱的なフラメンコのリズムで灼熱の太陽を思わせる「初夏の情熱大国」。オーケストラのトゥッティを1台のピアノに落とし込むのは編曲者の見せ所だが、さすが本人の曲だけあって、曲の屋台骨となる楽器を効果的に抜き取り、それぞれの音色を思わせるタッチで立体的に奏でた。
撮影=You Ishii
「カデンツァ」で、フラメンコギターの激しく濃密な響きから、次第にすっきりとした音楽になっていき、「間奏曲」へ。原曲の世界初演では鍵盤ハーモニカで演奏していたカンツォーネ風のメロディを悠々と奏でながら、同時に賑やかなオーケストラも一人で表現する離れ業。
「バゲージタランテラ」は、躍動する6/8拍子のリズムに煽られながらも、熱狂的で豪華サウンドで、自然に元気が湧いてくる。
少し落ち着き、「秋のシャンソン」では、ワルツの3拍子のシンプルな伴奏が、哀愁漂うメロディを引き立てる。初演で使った鍵盤ハーモニカのような抑揚は難しいが、代わりに現代ピアノのペダルの豊かな響きが生かされ、ピアニスティックな美しい曲に生まれ変わっていた。
再び自由自在な「カデンツァ」をはさんだ後は、「迷えるノエル」。厚みのある響きの高揚感と、我に帰ったようにシンプルなメロディの、硬質で切ない音色が対象的だ。
「雪解け」の、オーボエの音色が耳に残る旋律は、ピアノでもじんわりと温かく歌われ、モリコーネの映画音楽のよう。
「ニューイヤーinニューヨーク」では、多様な楽器でゴージャスに奏でていた多様な音楽を、圧巻のテクニックでピアノに取り込み、ハチャメチャでカオス、でも最高にワクワクする世界を作り出した。
そして「フィナーレ ―ただいまー」。しっちゃかめっちゃかに散らばっていた音が、ベクトルの向きを揃え、ひとつの大きなうねりとなっていくような、壮大なフィナーレ。
終曲は、長い旅を静かに思い返すような「3月の子守唄と終幕」。心地よい疲れが眠気を誘うような子守唄から、ドラのようなトレモロで大団円を迎えると、まるで曲の続きのような長い拍手が贈られた。
プログラムノートを読みつつ、答え合わせをするように聴いたオーケストラ版の世界初演も感動的だったが、12曲の流れを知った上で改めて聴いたピアノソロ版は、尚も新鮮な感動に満ちていた。終演後、本人が「ショボくならないように苦労した」と話していた通り、随所に散りばめられたさまざまな工夫と、それを具現化する驚異的なテクニックに脱帽だ。そして原曲、ピアノソロ版ともに、演奏されることで作品が育っていくのだとしたら、今後も演奏し続けてほしいし、作曲者である菊池以外のピアニストが演奏するのも聴いてみたい気がする。もしかしたら菊池本人も気づいていないような、曲のポテンシャルが見えてくることがあるかもしれない。
プログラムがすべて終わっても、まだまだ帰れないと言わんばかりの聴衆を前に、アンコール曲が続く。まずは5年前のサントリーホール公演でも演奏した菊池作曲の「パガニーニ変奏曲」から。こちらもクレイジーなほどの難曲だ。「ラ・カンパネラ」といい、パガニーニの旋律には作曲家の創作意欲を刺激する何かがあるのだろうか。弾き終えた菊池は「サントリーホール、改めて最高に気持ちいい!」
5年前の公演翌日に天国に旅立ったという愛猫のために、「Over the rainbow」をしっとりと奏でた後は、撮影・SNS投稿OKのリクエストコーナー。著作権の切れた「クラシックか童謡」限定で、ホルスト「ジュピター」、入籍したばかりだという方から「結婚行進曲」、ショパン「小犬のワルツ」のリクエストが上がった。「小犬のワルツ」の冒頭のパッセージと、「おお牧場はみどり」のフレーズをところどころに挟みながら、豪華な「結婚行進曲」と「ジュピター」を行き来して、盛大にフィニッシュ!
いよいよ最後の最後、左手でピアノを弾きながら右手でマイクを持って観客への感謝を述べていたが、サングラスを外してスパートをかけるランナーよろしく、マイクをおいて本気モードのガーシュウィン「コンチェルトin F」を大熱演。大歓声とスタンディングオベーションでリサイタルの幕が下りた。
世界を旅し、インプットしたものを、必ず音楽に還元して届けてくれる菊池亮太。次はどんな景色を見せてくれるのか、本当に楽しみだ。
撮影=You Ishii
取材・文=正鬼奈保
【イープラス「Streaming+」での期間限定配信が決定!】
本公演の模様が、2026年10月17日(土)20:30~31日(日)23:59まで期間限定で配信されることが決定しました!配信はイープラス「Streaming+」にて、視聴
配信情報
【配信期間】2026/10/17(土)20:30~2026/10/31(日)23:59
■視聴
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■配信受付URL:https://eplus.jp/suntorykikuchi-st/
※視聴
https://eplus.jp/sf/guide/streamingplus-userguide
今後の公演予定
2026年10月24日(土) 13:30開場 / 14:00開演 軽井沢大賀ホール(長野県)
https://eplus.jp/sf/detail/4551990001-P0030001P021001?P1=1221
2026年10月31日(土) 開演14:00(開場13:15) あきた芸術劇場ミルハス 大ホール(秋田県)
https://www.akt.co.jp/events/ishidagumi
2026年11月28日(土)12:15開場 / 13:00開演 第一生命ホール(東京都)
https://eplus.jp/sf/detail/4568600001-P0030001P021001?P1=0175
2026年12月23日(水)18:15開場 / 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール(東京都)
2026年12月24日(木)18:00開場 / 19:00開演 ザ・シンフォニーホール(大阪府)
https://eplus.jp/sf/word/0000173977