石井琢磨プロデュース『PIANO CLOVER』堂々デビュー! 8人のピアニストたちによる“血沸き肉躍る”熱狂の2日間をレポート

2026.4.23
レポート
クラシック

18日公演の出演者

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ピアノ4台、8人のピアニストによる様々な形態のピアノアンサンブルーーと銘打たれた『石井琢磨プロデュース PIANO CLOVER(ピアノクローバー)』のデビューリサイタルがついに東京のステージで実現した。石井本人がウィーン留学時代からあたためてきた企画がいよいよ名実ともに最良の姿でバージョンアップしたかたちだ。初日(2026年4月18日(土))の昼公演と最終公演(21日(火))の模様を交えながら熱狂の2時間の模様をレポートする。


21日公演の出演者

4月18日に浜離宮朝日ホールで開催された『石井琢磨プロデュース PIANO CLOVER(通称:ピアクロ)』。18日の昼夜2回公演に加え、早々に21日夜の追加公演も決定するなど、前々からその人気ぶりが話題になっていた(実際、全公演、は即完売だったそうだ!)。

というのも、企画提案者本人であるピアニストの石井琢磨が、ウィーン在住時から仲間を募って2台ピアノ、それ以上の複数台のピアノで、バレエ音楽や耳慣れた交響曲作品などを演奏する試みを数年前からYouTubeで配信して以来、かなりの視聴者を巻き込んでの大人気企画になっていたのだ。

ちなみに“ピアノクローバー”という名称は、4台ピアノを配置した際に、そのフォルムが四葉のクローバーの形に似ていたこと、そして何よりも「足を運んで下さったゲストが演奏に触れることで幸福感に満たされて欲しい」という願いを込めて石井自身が発案したネーミングだそうだ。

『PIANO CLOVER』キービジュアル

開演前、満席の客席からは熱気が漲っていた。意外にもステージ開幕前のステージ上には1台のフルコンのみ。冒頭、企画発起人のピアニスト石井琢磨が1人で登場し、モーツァルト「アヴェ・ベルム・コルプス」をソロ編曲版で演奏。会場空間は清らかな空気感に包まれた。

演奏後、石井本人も感動ゆえか、少し涙目の様子で企画のコンセプトを説明。「あえて、1台でのソロ演奏から始まって、次第に演奏者が少しずつ増え、ピアノの台数が増えてゆくに連れてボルテージを上げていきたいと思っていますので、“響きの幅”がどのように変化してゆくかをじっくり感じて欲しいです」と語った。

石井琢磨


二作品目は、1台ピアノのまま、石井の唯一無二の親友でもある髙木竜馬が登場し、2人仲良く連弾を披露。ドビュッシー「小組曲」から第1・4番を演奏。ふたりの手にかかるとドビュッシー作品の魅力が全開だ。特に第1番では、ドビュッシー特有のそこはかとない和声感の美しさを2人は一本の絹の糸のごとく一糸乱れぬ息づかいで繊細に、巧みに表現。粛々とした透明感あふれるみずみずしい演奏の中にも手堅い職人芸を披露し、特にフワッと手を緩める瞬間の息の合い方に、無二の親友同士の絆の強さが感じられた。

石井琢磨(手前)、髙木竜馬(奥)

続いての作品 ピアソラ「アディオス・ノニーノ」では、1台ピアノが増えて、2台4手による演奏。ここでピアニスト菊池亮太が登場。かねてから共演を重ねてきた石井&菊池の最強コンビによる力強いステージングがこの場でも実現した。

タンゴ特有の郷愁と切なさが入り交じった中間部の鎮魂的な主題を濃密に骨太に歌い上げる石井に対して、菊池は心の奥深くから湧き上がる慟哭のようなすさまじい心の機微を低音ながら細やかな音のかたちを駆使し、主題に深みを加えた。転じて菊池が主旋律を奏でる際には、石井とは対照的な陰翳のある個性的な音の彫の深さを描きだし、2人が放つ音色や感じる“歌”の異なるかたちが感じられたのも興味深かった。

エンディングでは、菊池が奏でるむせび泣くような低音の響きに応えて、思いを込めて旋律を納めた石井も感無量だったことだろう。髙木とのデュオ同様、男の友情や両者の深い絆を感じ、音楽が鳴りやんだ後も大いに余韻を残してくれた。

石井琢磨(左)、菊池亮太(右)

前半プログラムの最後を飾るのはリスト「ハンガリー狂詩曲第二番」。この作品も2台ピアノで、しかし2人演奏者が増えて2台4人8手で演奏された。ここで石井に加え、田所光之マルセル、米津真浩、小瀧俊治の3人の若手ピアニストたちが新たに登場。

冒頭部のあの印象的なラプソディックな箇所を4人があふれんばかりの熱量で力強く聴かせると、すぐさま息を合わせて主題をロマンティックに歌い上げる。緊張感と優雅さのコントラストを、音圧と音量、そして音色の違いを際立たせ巧みに描写し、情熱とエレガンスが交互に現れるリストらしさの醍醐味を品格高く、音楽的に聴かせた。

石井琢磨(手前)、田所光之マルセル(奥)

小瀧俊治(手前)、米津真浩(奥)

チャールダッシュ(ハンガリーの民俗舞踊)的なテンポを4人が一糸乱れずに息を合わせて変化させてゆくのは容易ではないはずだが、流麗な流れの中でごく自然に息をするかのように表現していたのは見事だった。さらに序破急的な流れで堰を切ったように突入したフィナーレはまさに圧巻。4人が大きく見得を切るように弾き終えた姿を客席から見るのは小気味よい気分だった。概して、見ても良し、聴いても良し、音楽的にもピアニズム的にも(編曲も含め)完成度の高さに目を見張った演奏だった。

ちなみに追加公演の21日夜の公演では、田所に代わって追川礼章が登場。ステージ初出の挨拶では「初日公演を客席で聴いていて本当に自分もこの輪の中に入れるのかな…‥、とついつい不安になるくらい8人のチームワークの完璧な良さを感じています」と述べていたのが印象的だった。

追川礼章(左)

後半プログラムの一曲目は ラヴェル「ボレロ」。休憩中にステージの上にはピアノがさらに2台増え、計4台が配置されていた。4台のフルコンがステージ上に並ぶとまさに壮観。クローバーとはよく言ったものだと感心してしまうほど、ピアノたちの美しいフォルムがひと際、眩しい。

これら4台の名器を操る魔術師たちは、石井を筆頭に田所(21日は追川)、髙木、新井瑛久の4人。新井はここでステージ初登場だ。ムードメーカー(石井談)らしく、石井の容赦ない突っ込みに見事に身体あたりのボケで交わす新井の絶妙なリアクションは客席からも大いに笑いを誘っていた。

新井瑛久(左)

ボレロ冒頭部——打楽器が粛々とミニマリスティックにリズムを刻んでゆくあの有名なくだりでは、楽節が進みゆくごとに、1人1台が次第に輪に加わってゆく様子を目で見て追えるのは興味深かった。また、ある点からダイナミクスが手に取るように大きく振れ幅を上げだすと、それが合図のように、まるでピアノという楽器が別の顔を持ち合わせたかのように打楽器本来の野性的なダイナミズムを帯び始める。もちろん‶粗野"という意味での野性味とは全く違うものだが、奏法も含め本来、ピアノがここまであらゆる可能性を秘めた楽器なのだということを改めて考えさせられ、興味深かった。特にフィナーレに向かって左手のグリッサンドを効果的に活かし、4人全員がそれぞれに一歩間違えると破綻しかねない程の限界値すれすれのところでスリリングで魅惑的な最強音を轟かせ、一糸乱れぬ4人の姿もあいまって客席も熱狂の渦に巻き込まれていた。

続いては再びピアソラ「リベル・タンゴ」。これも4台8手による演奏だ。ここで大井健がステージに初登場。石井にマイクを向けられると「いや、こんな幸せな舞台があるんですね~」と一言コメント。その言葉に石井が高らかに笑っていたのが興味深い。演奏者は石井、米津、菊池、大井の4人。

冒頭のイントロからロマンティックな世界へと誘われる。そして瞬く間にあの激しい律動を伴ったテーマへ。むせかえるような濃密な空気感に満ちたブエノスアイレスで繰り広げられるグラマラスな男女の舞の情景が手に取るように映しだされてゆく。4人ひとりひとりが驚くほどに奔放に解き放つ情熱のほとばしりは留まるところを知らない。哀愁を帯びた気だるい空気感の中で、4人の放つ音はうねるように変幻自在に色彩を変えてゆく――。初日の演奏では、ひとりひとりの奏者がそれぞれに織り成すオブリガード的な装飾音型の巧みさと機微も極上のセンスに満ち、いつまでも聴いていたいと思わせるほどにロマンティックで夢見心地な境地へと誘ってくれた。

打って変わって21日最終日の演奏では、フィナーレに向け4人の奏者のボルテージが最高潮に達し、各々が調和しながらもそれぞれのベクトルでどこまでも広がりを見せ、一瞬どこで終止符が打てるのかドキドキしたが、そこはさすがのプロチーム。最後のグリッサンドのキメのカッコよさはダンディズムに満ちていた。「これぞアルゼンチンタンゴの醍醐味!」と思わせるスリリングな演奏は最終日ならではのものだろう。

石井琢磨(奥)、米津真浩(手前)

大井健(奥)、菊池亮太(手前)

そして、これからが後半のハイライト。次なる作品はYouTubeでもお馴染みのベートーヴェン 交響曲第5番「運命」より第一楽章。この作品も4台16手による演奏だ。演奏者は田所(21日は追川)、新井、大井、石井、髙木、小瀧、菊池、米津とオールスターメンバーによる。

冒頭、石井の指揮によってあの“運命の動機”が導き出されると、8人の息が見事に同調し、壮麗なファンファーレを聴かせる。展開部では、まるで4台のスピーカーそれぞれから豊満な音が聞こえ、それが天井に向かって一つに収斂(統合)されてゆくかの様な独特な音のダイナミズムがあり、ベートーヴェンの重厚かつ壮麗な管弦楽曲の質感にも勝るとも劣らない密度の濃さを音響空間に放っていた(編曲も含め見事)だ。

聴いていても十分にカタルシスが感じられるのだから、それだけに打楽器の振動による音圧や音の波動による影響というものがいかに聴き手にとって大きいのだと改めて体感した感じだ。

全プログラム最後を飾る作品はワーグナー 歌劇『ワルキューレ』から「ワルキューレの騎行」。「ホヨットホー(女死神とされるワルキューレたちが騎行する際の掛け声で、オペラの中でも一つの見せ場であり聴かせどころでもある)」では、地底から湧き上がってくるかのような強烈な音の波とエネルギーを感じさせ、瞬く間に9人のワルキューレたちが一つになって天上を駆け巡る様が思い浮かんでくるようだった。

轟くようなバス(重低音)の響きの連続と、後半部で幾度も繰り返される降下音型の悪魔的なスケールの応酬が会場空間をソニック的な勢いで席巻し、聴き手の我々も身体ごと音の波にのまれていくような感覚に囚われていた感じだ。フィナーレは、8人の男子ピアニストがひとりひとり思う存分にエネルギーを込めて演奏すると、こういうサウンドが生まれるのだ……ということをじっくりと味わせてもらった感じだ。

全プログラムを演奏し終えると、満場の客席からは熱狂的なステンディングオベーションで迎えられる8人。それも無理はないだろう。本当に壮大な音の波を受けて皆が間違いなく高揚しているのだ。

そんな中で石井は見事にアンコールまで冷静に誘導。「こんな日が来るとは思っていなかったので本当にありがとうございました。まだまだ道のりは長いですが、ぜひ“Road to 武道館”を目指してこれからも頑張っていきたいと思います」と感謝の気持ちを込めての一言。続けて、「皆で相談して、聴いて頂いた皆様を最後に笑顔でニッコリさせられたらいいな、と思って選びました」とだけ宣言。すると8人全員が一体化してミュージカル『サウンドオブミュージック』から一連のメドレーをアンコールとして演奏。

「Climb Every Mountain」のスケールの大きな演奏といい、「ドレミの歌」のキレとセンスの良い都会的なリズム感と持ってき方の巧さ、そして得も言われぬゴージャス感は、まさにこのピアニストたちの真骨頂。清涼感のある演奏で熱気に満ちた客席を和やかにクールダウンして有終の美を飾った。

それにしても最後まで、8人のピアニストひとりひとりがそれぞれに芸達者ぶり聞かせ、見せつけてくれた“血沸き肉躍る”2時間だった。

18日公演の出演者

21日公演の出演者

最後にもうひとつ朗報でレポートを締めくくりたいと思う。8月1日(土)、横浜みなとみらいホール 大ホールにて開催される『イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜-STAND UP! CLASSIC-supported by SAISON』の記念すべきオープニングを飾る最初のプログラムとして『PIANO CLOVER』の開催がアナウンスされた。また、8月29日(土)には、太田市新田文化会館 エアリスホール(群馬)での開催も決定。

今回見逃してしまったピアノファンも、ぜひ暑い夏の休日をこの若きエネルギッシュなメンバーたちとともに完全燃焼してみてはいかがだろうか。

取材・文=朝岡久美子 撮影=池上夢貢

公演情報

イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜
—STAND UP! CLASSIC— supported by SAISON

石井琢磨 Produce PIANO CLOVER
【日時】2026年8月1日(土) 開場12:00 / 開演12:40(終演予定13:40)
【会場】横浜みなとみらいホール 大ホール

【出演】石井琢磨、新井瑛久、追川礼章、大井健、菊池亮太、小瀧俊治、髙木竜馬、米津真浩(ピアノ)

【演奏予定曲目】
ベートーヴェン:運命より
ワーグナー:ワルキューレの騎行 ほか

料金】
全席指定 S席6,500円、後方席5,000円、プレミアムシート10,000円(特典付き:スタクラオリジナル・ランチトート、めじるしキーホルダー)

 
※ 未就学児のご入場はご遠慮願います

【券売スケジュール】
一般発売 :2026年5月2日 (土)  10:00~
 
■『PIANO CLOVER』公式サイト:https://www.takumaishii.com/produce/843/

公演情報

『石井琢磨 Produce PIANO CLOVER』
日程:2026年8月29日(土)開演 15:00~(開場 14:30~)
会場:太田市新田文化会館 エアリスホール(群馬県)

一般発売(先着)2026年5月1日(金)9:00~8月28日(金)18:00
 
出演:石井琢磨、新井瑛久、追川礼章、大井健、小瀧俊治、高木竜馬、藤川有樹、米津真浩     
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