角野隼斗(Cateen)が挑んだ初ミュージカル『民王』舞台裏――『民王のテーマ』誕生秘話、Penthouseへの思い、そして“猫になりたい”素顔まで
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角野隼斗
ピアニスト/作曲家の角野隼斗が、初めてミュージカルの音楽・歌詞を手がけた日本発のオリジナルミュージカル『民王』が東京・シアタークリエで幕を開けた。約2時間40分の舞台では、ジャズ、ダンスミュージックなど様々な音楽が作品を盛り上げる。クラシックはもちろん、YouTubeの登録者数が158万人を超える“かてぃん”としても活動する角野だからこそ編み上げることができたジャンルレスな音楽について、さらに舞台を観た感想などについて聞いた。
■自分からは遠いものと感じていた
――ミュージカル作品への書き下ろしは初めてですね。最初に依頼を受けた時の思いから振り返っていただけますか。また、参考にした作品はありますか?
最初は結構不安でした。ミュージカル作品に参加するのは初めてでしたし、政治的なテーマを扱うことも、コメディーというジャンルについても、自分からは遠いものと感じていたんです。ミュージカルは好きですし、ニューヨークに住んでいるので、ブロードウェイで色々な作品を見る機会もあるので、やってみようと。ミュージカルの音楽について考えていく中で、『シカゴ』と『ハミルトン』を参考にしました。
――舞台は池井戸潤さんの同名小説が原作です。政治家の父・武藤泰山(別所哲也)と、その息子・翔(有澤樟太郎)が入れ替わってしまうという内容でした。ミュージカル『民王』をご覧になった感想をお聞かせいただけますか。
素晴らしい劇場で、キャストの皆さんから力強いエネルギーを感じることができました。作品には父親と息子が入れ替わるという特殊な設定があるのですが、「本当に入れ替わっているんじゃないか?」と思うことが何度もありました。翔と泰山がメインキャストではあるんだけれども、出演する1人1人がすごく魅力的で、それぞれに輝くシーンがありました。それぞれのキャラクターに合わせて、1曲1曲作った甲斐があったなぁと感じました。
■「制約」こそが創作の鍵
――楽曲は、角野さんもメンバーとして名を連ねているシティソウルバンド「Penthouse」の浪岡真太郎さんと共同制作されました。どのように進められたのでしょうか。
3カ月ほどかけて制作しました。「このジャンルで」という指定はなく、自由に作らせていただけたのはありがたかったです。それぞれのキャラクターをどの役者さんが演じるかも事前にうかがっていたので、その姿をイメージしながら作ることができました。
いくつかの曲は浪岡さんに作ってもらったのですが、そのことで音楽のジャンルにも幅が出たと思います。また、『歯医者のテーマ』では僕が作った曲を彼に展開してもらい、逆に『綾のテーマ』では彼が作ったモチーフを引用して僕が曲を作るなど、お互いのアイデアを生かしながら制作しました。作っていくうちに、どんどんのめり込んで、楽しくなっていきました。
――「役をイメージして制作された」と伺って、だから1人1人の個性が立っていたんだなと感じました。原作小説や脚本などを読み、想像しながらの制作だったのでしょうか。
脚本については全て確定した上で制作を始めたのではなく、同時進行で進んでいました。僕が作った曲を聴いた制作陣が、それに合わせて脚本を変えることも多分あって、アップデートを重ねながら進行していました。
――流動的に進行していく中で、軸になった曲はありますか。
脚本をいただく前に、まず何曲か作りました。いくつかはボツになりましたが、一番最初にできたのが『歯医者のテーマ』です。軸になったのは、初期から取り組んでいたメインテーマである『民王のテーマ』です。泰山という人物を象徴すると同時に、このミュージカル全体を象徴する曲でもあるので、クラシカルな雰囲気を感じさせるものにしたいと考えていました。完成までにはそれなりに時間がかかりましたが、この曲ができてからは、一気に視界が開けていくような感覚がありました。
――今回はミュージカルのための音楽でしたので、楽曲には歌詞が付けられました。このことは、どのように受け止められましたか。
ミュージカルでは、作品のテーマや登場人物のセリフがある程度決まっているので、それを出発点にできるんです。例えば『パーティー』という曲なら、「パーティー」という言葉は必ず使う。そうした制約は、作曲のインスピレーションにもなります。
何かを出発点にして曲を作るという意味では、これまでと大きくは変わらないんですよね。自然や風景から着想を得ることもあれば、音楽的な枠組みや形式から考え始めることもある。今回はそれが、ミュージカルの中で与えられた言葉やキーワードだったということです。そう捉えると、これまでの作曲の考え方を応用できた部分はありました。
――歌詞は「Penthouse」として一緒に活動する大原拓真さんも参加されています。
大原さんはPenthouseでも主に作詞を担当していて、メロディーに日本語をどう乗せるか、どう韻を踏むかということに長けているので、彼がいてくれてありがたかったです。まず僕がいただいたキーワードをもとに、その言葉に合うメロディーと仮の歌詞を作り、それを大原さんにブラッシュアップしてもらう。そうしたやり取りをしながら作るのは、とても楽しかったです。
――音楽チームが試行錯誤しながら制作した楽曲を、俳優の方々がそれぞれの体を通して表現されていたことについて、改めてどのようにお感じになりましたか。
そうですね。実際に演出や踊りなど、プロダクションとして観た時の感動はものすごくありました。『新田の歌』(公安の刑事・新田理役を務める上川一哉さんが歌唱)は、曲の中でタップダンスをすると聞いていたのでストライド・ピアノっぽい、アメリカ音楽を感じるものにしたんです。音楽が活きていてとても良かった。
――曲ができてから、歌詞が付けられたのでしょうか。
『新田の歌』は曲が先で、その後に歌詞が付けられました。逆に『民王のテーマ』は同時制作でした。
――8月に開かれた稽古場での会見で、「初めて演者の方が歌う姿を見た」とおっしゃっていました。その際に「感動あり、笑いあり、驚きあり。(本番は)泣きながら笑っているかも」とお話しされていましたが、実際にご覧になって「笑った場面」、「泣いてしまった場面」はありましたか?
たくさんあります。笑った場面は竹中(直人)さんですね。竹中さんはいるだけで面白いです。あの空気感と、テンポ感っていうのは、本当に竹中さんしか出せないものがあるなと思うし、エネルギーを感じました。あと、笑いどころでいうとやっぱり新田が出てくるところは全部面白かったです。
――逆にうるっとしてしまった場面はありますか。
第二幕で一路真輝さん演じる(泰山の妻)綾が『綾のテーマ』を歌う場面です。翔と入れ替わった泰山がパッションを取り戻して政治に打ち込む姿を見て、昔を懐かしむシーンですが、脚本を見た時から難しいシーンだなと思っていました。ここで歌われる感情っていうのは、(長い夫婦生活の中で、夫に幻滅して)マイナスだったものが、ただプラスになるというわけではなくて、もっときっと複雑じゃないですか。それで過去が精算されたわけでもないし。でも過去のひとときを、ふと思い出す瞬間で、エモーショナルすぎるわけでもないし、そのバランスを作りながら考えていたんですけど、一路さんは、絶妙なニュアンスをすごく美しく表現してくださっていて、素晴らしいなと思いました。
■「かてぃんがいてこそ、と思ってもらいたい」Penthouseという場所
――確かに、第一幕で、愛想を尽かした夫に1億円の口止め料を払うように迫る綾とは大違いでしたね。今回タッグを組んだ浪岡さん、大原さんと共に活動する「Penthouse」というユニットは、角野さんにとってどのようなものなのでしょうか。ホッとできる実家のような場所なのでしょうか。
メンバーの中では僕は最年少なんですけど、もうみんな30歳とかになってきましたので、甘えるとかはないですね。学生時代から一緒にいる仲間たちなので、先輩方ですけどそういう意味では気が落ち着ける場所っていうのは、すごくあります。リラックスできる場所っていう風に昔は言ってたんですけど、最近は、僕が出演できないライブも多いので、リラックスとはちょっと違う感じにはなってきました。
――リラックスとは違う?
はい。今年の8月にライジングサンに出演したのですが、僕がPenthouseのライブに参加するのは3月の武道館以来でした。その間も、お互いそれぞれの場所でたくさんライブをやっている。だからこそ、久しぶりに音を合わせた時に「あ、やっぱり、かてぃんがいてこそだよな」と思ってもらいたいんです。自分が他の場所で得た経験も、そこで生かしたいですし。ほかのメンバーにも、同じような気持ちがあるのかもしれません。
■もし誰かに入れ替わるとしたら…
――分かりました。『民王』は父と息子が入れ替わるお話しでした。もし、誰かに入れ替わるとしたら、誰と入れ替わってみたいですか?
猫です。
――猫?
何の猫でもいいです。あ、でも近いDNAじゃないといけないんですよね。
――「もしも…」なので、物語のような条件はなしで大丈夫です。
なら、猫です。
――猫になったら、何をしましょうか。
何にもしないです。
――猫はパトロールしますよね。
あ、それはしたいですね。高台から世界を眺めたいです。
――最後に今後の活動についてなど、してみたいことを教えてください。
色々あるんですけど、今回の楽曲制作と同時期に作曲していたピアノとオーケストラの作品があるので、それを拡張してピアノ協奏曲という形にして、リリースしたいなと思っています。それがきっと来年ぐらいですね。
――リリースされたら、演奏会もありますよね?
そうありたいですね。ぜひ演奏したいです。
取材・文=翡翠 写真=池上夢貢
Hair & Make-up:MAIMI
Styling:金野春奈
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公演情報
スケジュール:
2026年9月6日(日)~10月6日(火) 東京・シアタークリエ
2026年10月11日(日)~13日(火) 大阪・梅田芸術劇場 シアタードラマシティ
2026年10月17日(土)~19日(月) 福岡・博多座
出演:
武藤 翔 有澤樟太郎
武藤泰山 別所哲也
村野エリカ 豊原江理佳
南 真衣 林瑠奈(乃木坂46)
貝原茂平 山崎大輝
新田 理 上川一哉
蔵本志郎 福田転球
武藤 綾 一路真輝
城山和彦 竹中直人
原作:池井戸潤「民王」(文春文庫/角川文庫)
脚本:ツバキミチオ
音楽:角野隼斗
演出:永井誠
歌詞:大原拓真(Penthouse) 角野隼斗
共同脚本:笠浦静花
製作:東宝
公式ホームページ
http://tohostage.com/tamiou/