新たな“家族”ボンドが加わる新章へ――ミュージカル『SPY×FAMILY 2 爆弾犬篇&豪華客船篇』プレビュー公演ゲネプロレポート
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
『SPY×FAMILY 2 爆弾犬篇&豪華客船篇』プレビュー公演 2026.9.9(WED)~9.11(FRI) @埼玉・ウェスタ川越 ヤオコー大ホール
遠藤達哉による大ヒット漫画を原作にしたミュージカル『SPY×FAMILY』が、続編『SPY×FAMILY 2 爆弾犬篇&豪華客船篇』として帰ってきた。2023年の初演、2025年の再演を経て動き出したフォージャー家の新たな物語。今回は、9月22日(火)に東京建物Brillia HALLで開幕した同公演に先駆け、埼玉・ウェスタ川越で実施されたプレビュー公演の公開ゲネプロの模様をレポートする。
スパイ、殺し屋、超能力者——誰もが人には見せない顔を隠して食卓を囲む“仮初めの家族”の物語が、再び幕を開ける。
原作でも人気の高い2エピソードを一挙上演する構成だ。1幕「爆弾犬篇」では、フォージャー家が西国〈ウェスタリス〉の外務大臣暗殺を狙うテロリスト集団の陰謀に巻き込まれていく。そこへ、未来を予知する大型犬・ボンドが新たな家族として加わり、物語はいっそう賑やかに、そしてスリリングに転がっていく。2幕「豪華客船篇」では、マフィアの生き残りである母子の護衛を任されたヨルの死闘が描かれる。
“任務”のはずが、こぼれる情──森崎ウィンと唯月ふうかの新境地
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
この日のゲネプロは、ロイド・フォージャー役を森崎ウィン、ヨル・フォージャー役を唯月ふうかが務める布陣。2023年の初演から続投する2人とあって、その安定感はまさに盤石だ。前作では、慣れない《仮初めの家族》に戸惑いながらも、本業で鍛えた機敏な身のこなし夫婦のぎこちなさをカバーし、「いい家族になろう」と奮闘する姿が印象的だった。今作では、フォージャー家として重ねた時間のぶんだけ、暮らしの居心地の良さを体に馴染ませたような、さりげない“家族らしさ”が、ちょっとした所作に見て取れる。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
そのうえで今作のロイドが見せる新たな魅力が、任務のなかに滲む“不器用さ”だ。コードネーム〈黄昏(たそがれ)〉として西国の情報局対東課〈WISE(ワイズ)〉に属し、完璧な任務遂行を志すスパイ。それなのに、2幕では上司から「休暇という名の任務」を与えられ、よき父親とは何かを考えあぐねた末に、どこかコミカルになってしまう。アーニャから「萎える」と言われるほどダサくなるのに、スパイ由来のスマートさは消しきれない。森崎のその匙加減が絶妙だ。「これも任務だ」という建前の下から情がこぼれ出る瞬間を、森崎はさりげなく、けれど確かに立ち上げる。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
2幕で真価を発揮するのが、暗殺組織〈ガーデン〉の凄腕の殺し屋〈いばら姫〉の顔を持つヨルだ。護衛任務で次々と襲い来る刺客との死闘を繰り広げる連続アクションは、敵を一撃で沈めるヨルのフィジカルを存分に活かした、唯月の大きな見どころ。だが今作のヨルは、ただ強いだけではない。死を覚悟するほどの強敵を前に、殺し屋であり続ける生き方への迷いを覗かせる。それはきっと、家族を得たからこそ生まれた揺らぎだろう。それでも武器を握る覚悟を決めるまでの感情のうねりを、唯月は太い筆致で描き切った。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
そんな夫婦の間で、物語の中心を全力で駆け抜けるのがアーニャだ。同役はオーディションで選ばれた3人の子役によるトリプルキャストで、この日は前作に続き2度目のアーニャとなる泉谷星奈が出演。今作のアーニャは、とにかく走る。“ちち”ロイドと“はは”ヨルのため、超能力犬・ボンドと街を駆け、ひとりで客船を探検する。その姿の愛らしさは言うまでもないが、目を奪われるのはむしろ表情だ。目の前の現実と、読み取ってしまう周囲の心の声。その二つのあいだで、万華鏡のように秒単位で変わる表情が、たまらなくおもしろい。台風の目として“ちち”と“はは”を巻き込みながら、劇場じゅうを“わくわく”で満たしていた。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
本作から新たに“家族”となる犬のボンドも見逃せない。実物大のもふもふとしたパペットで登場するボンドとアーニャが並ぶ光景は、平和の象徴そのもの。WISEが任務の果てに守りたいと願うものを、観る者に体感させてくれる。へっへっと弾む息遣い、ふさふさと揺れる尻尾まで、その完成度をぜひ劇場で確かめてほしい。
フォージャー家を彩る面々と、“裏の顔”を立ち上げる演出
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
キャラクターたちも粒ぞろいだ。新キャストの真瀬はるかが演じるのは、ロイドの上司シルヴィア・シャーウッド。現れた瞬間から、〈鋼鉄の淑女(フルメタル・レディ)〉の二つ名にふさわしい凛とした佇まいで場を制する。厳しくも愛を持って信念を生きる姿を、真瀬は持ち前の芯の強さとともに立ち上げる。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
1幕のテロリストのリーダー、キース・ケプラーを演じる磯野亨は、2023年に舞台デビューしたばかりとは思えぬ歌唱力と存在感を放つ。2幕では有沙瞳が、苦境に立たされながらも子どものために立ち続けるオルカ・グレッチャーを体現。護衛するヨルと護られるオルカ、立場は違えど子を思う母の強さで重なり合う二人が、2幕に情の芯を通していた。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
梅棒の楢木和也が演じるゼブも印象的だ。楢木は天野一輝とともに本作の振付も手掛けており、その振付は状況やキャラクターの心情を言葉なく雄弁に語る。歌う体そのものが物語を運ぶようで、見ていて飽きない。2幕ではヨルの上司マシュー・マクマホンも活躍。仕事のできるミドルな佇まいを吉野圭吾が演じ、説得力は抜群だ。
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
製作:東宝 (C)遠藤達哉/ミックスグリーン・東宝
そして本作を語るうえで欠かせないのが、舞台を立体的に動かす演出だ。前作同様、大盆をメインに構築されたセットは、盆が回ることで空間がくるくると切り替わる。“誰しも見えているそのままではない”という本作のテーマに、これ以上ないほどマッチした仕掛けだ。お出かけ中だった父親が、盆の回転とともに次の瞬間にはWISEでスパイの顔になる。場面転換をスムーズにするだけでなく、“裏の顔”そのものの表現として効いている。
軽やかでありながら、その根っこは深い愛に包まれている本作。まさに“ファミリー”ドラマだ。脚本・作詞・演出をG2、音楽をかみむら周平が手掛けた本作は、原作の魅力を舞台ならではの表現に落とし込みつつ、スパイものらしいスピード感を存分に効かせた一作に仕上がっていた。
ロイド、ヨル、シルヴィアはWキャスト、アーニャはトリプルキャスト。この日は森崎・唯月・泉谷・真瀬の布陣だったが、木内健人のロイド、真彩希帆のヨル、古座野叶・真野麗花のアーニャ、朝夏まなとのシルヴィアと、組み合わせによって異なる表情を見せてくれるのも本作の醍醐味だろう。9月から12月末まで全国各地を巡るこのフォージャー家の冒険に、ぜひ足を運んでみてほしい。
取材・文=双海しお
公演情報
ロイド・フォージャー(凄腕スパイ:コードネーム〈黄昏(たそがれ)〉)
森崎ウィン/木内健人 ※Wキャスト
ヨル・フォージャー(殺し屋:コードネーム〈いばら姫〉)
唯月ふうか/真彩希帆 ※Wキャスト
アーニャ
泉谷星奈/古座野叶/真野麗花 ※トリプルキャスト
キース・ケプラー(学生テロリストグループのリーダー)
磯野亨
オルカ・グレッチャー(東国〈オスタニア〉のマフィアのボスの娘)
有沙瞳
ゼブ(グレッチャー組の組員)
楢⽊和也(梅棒)
マシュー・マクマホン(ヨルの部長であり、裏の組織〈ガーデン〉の一員)
吉野圭吾
シルヴィア・シャーウッド(〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官)
朝夏まなと/真瀬はるか ※W キャスト
新井海人 荒川湧太 石田彩夏 岩下零時 依里
大津裕哉 大場陽介 小倉優佳 鎌田誠樹 桑原柊
島田彩 Taichi 丹宗立峰 堤梨菜 西村実莉
長谷川暢 般若愛実 本間健太 増山航平 武者真由
望月寛斗 山口将太朗 山野靖博 吉﨑裕哉 玲実くれあ
(50音順)
swing
加藤葉子 萩原麻乃 小宮山稜介
CREATIVES
原作:遠藤達哉(集英社「少年ジャンプ+」連載)
脚本・作詞・演出:G2
作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平
製作:東宝株式会社
【スケジュール】
日程・会場:
2026年9月9日(水)~11日(金)プレビュー公演 ウェスタ川越 ヤオコー大ホール
2026年9月22日(火)~10月29日(木)東京公演 東京建物 Brillia HALL
2026年11月7日(土)~22日(日)福岡公演 博多座
2026年12月1日(火)~6日(日)兵庫公演 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
2026年12月13日(日)~19日(土)愛知公演 御園座
2026年12月27日(日)~29日(火)山形公演 やまぎん県民ホール
ミュージカル『SPY×FAMILY 2 爆弾犬篇&豪華客船篇』公式サイト
https://www.tohostage.com/spy-family2/
ミュージカル『SPY×FAMILY』公式X
@spyfamily_stage
『SPY×FAMILY』集英社公式サイト
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/spyfamily.html
アニメ『SPY×FAMILY』公式サイト
https://spy-family.net/
(C)遠藤達哉/集英社