TALTOの新星・She Side Shipが遠い距離を歌う意味――「私の衝動性は、寂しさや孤独感から来ている」

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2026.10.2
She Side Ship

She Side Ship

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2024年10月に誕生した京都発の4人組・She Side Ship。きのこ帝国やカネコアヤノを共通のルーツに持ちつつも、パンクから王道のギターロックまでを吸収してきたメンバーたちが大学の軽音サークルで結成したこのバンドは、「楽器隊がどれだけデカい音を出しても負けない」歌声を宿した吉坂友里(Gt.Vo)のボーカリゼーションをコアに据え、ほのかに薄暗く、しかし愛おしい音の連なりを編み上げてきた。そんな彼女たちが、マカロニえんぴつやSAKANAMONらを擁するロックレーベル・TALTOから放つシングルが「ライク・ア・ラブ」だ。これまで4枚のシングルを通じ、吉坂が抱くどうしようもない孤独感を音楽化してきた4人は、今作を機に他者からの共感を希求するようになったという。She Side Shipは、いかにして自身の葛藤と衝動を普遍的な表現へ広げんとしているのか。彼女たちのディスコグラフィーに通底する距離のモチーフが指示するものとは?吉坂と楠本凪彩(Dr)の2人と語り合った。

She Side Shipの衝動的でアンサンブルに埋もれない歌

ーーShe Side Shipは非常に歌の初速が早いバンドだと受け止めていて。がなりからキュッと弾けるような語尾処理までを使いこなす吉坂さんの歌声を聴けば、一瞬でどのような感情を綴った楽曲なのかが直感的に理解できますし、アンサンブルの音像もその歌声へ寄り添っている。まずは、吉坂さんがShe Side Shipをどのようなバンドだと考えているか、を訊かせてください。

吉坂友里(Gt.Vo):そもそも私が作り上げる楽曲は、自分の衝動性や葛藤を歌にしたものばかりで。悩みや葛藤を人に共感してもらったり、分かってもらえるようなバンドになりたいと思っています。その上で音楽的な話をすると、私は銀杏BOYZや尾崎豊みたいなパンクや歌謡曲、凪彩ちゃん(楠本凪彩/Dr)はBUMP OF CHICKENみたいに、バラバラのルーツを持ったメンバーが集まっている点がShe Side Shipの面白さだと考えていて。確かにきのこ帝国やカネコアヤノが共通のルーツではあるものの、私が「この曲はこうしよう」と想定していたことに対して、メンバーから自分じゃ思い付かなかった予想外のフレーズが飛んでくる。それがShe Side Shipらしさに繋がっているんじゃないかなと。

ーー吉坂さんは、楽曲を書き始めた当初から衝動や葛藤をソングライティングの源泉にしていたんですか。

吉坂:いや、むしろ曲を作り始めた時は「バンドやライブは自己表現の場だ!」と思っていました。自分で自分を爆発させたい、みたいな気持ちが強かったんですよね。でも、聴いてくださる方が増えてきたり、TALTOに所属したりする中で、自分がバンドをやっている理由を改めて考え直したんですよ。その時、独りよがりの音楽で爆発したいわけじゃなく、フラストレーションを人に分かってほしいんだ、と気づいて。であれば、好き放題やるのではなく、きちんと人に伝えられる音楽にしなきゃいけないと思ったんです。なので、ようやく意識が変わってきましたね。さっきは格好付けて「共感してもらえるように」と言ったんですけど(笑)。

ーー感情の吐き出し先だった歌や音楽を、他者へ手渡したいと思うようになったと。楠本さんは、She Side Shipをどのような音楽を鳴らしているバンドだと捉えているのでしょう。

楠本凪彩(Dr):友里さん(吉坂)は言わないだろうなと思っていたんですが、友里さんの歌声が私たちにとって大事なピースだと思っています。どうしたら友里さんの歌がスウィートに伝えられるのかを常に考えていますし、メンバーの動き方を決める上での判断軸になっている。演奏で友里さんの歌声を包み込んで届けようとする姿勢が、She Side Shipらしさを生み出している気がします。

ーーおっしゃっていただいた通り、She Side Shipの中核には吉坂さんの歌唱が配置されていると思うのですが、吉坂さんの歌唱の魅力は何だと考えていますか。

楠本:楽器に負けない力強さだと思いますね。声って、ギターやベースみたいにつまみでボリュームを上げられるものではないから、その人が生まれ持ったパワーが大事じゃないですか。でも、友里さんの声は、楽器隊がどれだけデカい音を出しても負けないので、我々も思い切った演奏ができるんです。

ーーニコニコしながら聞いていただいていますけれど、吉坂さんはご自身のボーカルをどのように分析しています?

吉坂:いやー、私としては好き勝手やらせてもらっている感覚が強くて。先ほど言っていただいたがなりや弾けも、自分の気持ちが入った時にバッと出てくる表現なんですよね。むしろ、そういう衝動的な表現を活かすためにみんなが合わせてくれている。私が自由に歌えるように押し上げてくれるから有難いなって。

楠本:やっぱり私たちは、友里さんの感情の機微を曲に落とし込みたいんですよね。「友里さんはこのパートでこういう感情を伝えたいんだろう」「このメッセージを正しく表現するには、他のアプローチが良いんじゃないか」みたいに、歌声やデモから汲み取れるやりたいことと実現できていないことに目を向けている。友里さんは他のメンバーの考え方も面白がってくれるので、私たちも提案しやすいんです。

ーー3人が吉坂さんの表現を汲み取り、拡張していく素敵な関係だと思いました。結成の経緯についてもお伺いさせていただきたいのですが、皆さんは2024年の10月に京都で結成されたんですよね。

吉坂:そうですね。大学のサークルで知り合ったメンバーに私が声をかけました。学年はバラバラなんですけれど、「この人は格好良い!」と思える人を誘ったというか。She Side Shipを結成する前に別のバンドで活動したこともあったんですが、活動に対する気持ちが揃わなくて、周囲から「付いていけへんわ」と言われることも多かったんですよね。でも、「自分のバンドをやりたい」という気持ちが捨てきれなかった。だから、スキルや音楽に対する姿勢を見て、自分と同じような熱量で音楽に向き合ってくれる人にお願いしたという。

She Side Ship「音の行方」【 Live 】

ーーそのバンドに対する情熱はどこから芽生えたものなんでしょう。

吉坂:覚えていないくらい当たり前にやりたいことなんですけれど、思い返してみると、銀杏BOYZの影響が大きいのかな。中学生の時にライブ映像を見て「バンドをやりたい!」と思い、軽音楽部が強い高校に進学したので。で、その軽音楽部で、知らなかったバンドを知っていくうちに、いわゆるインディーズバンドとして自分も活動してみたいと思うようになったんです。

ーーなるほど。となると、楠本さんも吉坂さんと同じようにバンドに対する熱意があったからこそ、結成の誘いを受けたんですか。

楠本:友里さんが2個上の先輩なこともあって、声をかけてもらった当初は「なんで私に?」とも思ったんですけれど、その場で「やります」と即答しましたね。友里さんと同じように、私も高校、大学と軽音楽部やサークルに所属していたので、内輪の世界から飛び出した時にどこまでやれるのかに興味があったんです。「あの演奏良かったじゃん」と言ってもらえるコミュニティーではなく、全く知らない人に向かって演奏した時、どんな反応が返ってくるのかを知りたかったし、「格好良いね」じゃないリアクションをもらった際に自分がどう思うのかも気になった。その答えを知りたかったこともあって、「やっちゃおう!」と。

そっと自分の中の明るい部分に目を向けてもらえる曲になった(楠本)

ーーよく分かりました。では、9月30日(水)にリリースされるシングル「ライク・ア・ラブ」のお話を。冒頭の拍感の大きなビートとサビのマーチングドラム、少しローな質感を纏ったAメロの歌唱からサビで一気に開けていくボーカルをはじめ、これまでの作品に比べても、一際雄大なスケールを描く1曲だと感じています。お2人は「ライク・ア・ラブ」をどのような楽曲だと考えていますか。

吉坂:嬉しい感想をありがとうございます。そうですね……先ほどお話した、人に分かってもらうための言葉や楽曲作りを意識した最初の作品というか。当初は遠くに行ってしまった友達に対する素直な気持ちを書いていたんですけれど、その個人的な感情を外へ広げていく方法を凄く模索したんです。歌詞も書いては消して、書いては消してを繰り返しましたし、デモから完成に至るまでに難航した1曲ですね。

ーー曲の土台が出来ている中でなかなかゴールに至らなかったのは、上手く押し広げていくやり方が見つからなかった?

吉坂:うーん……色んな人に分かってもらいたいけれど、抽象的なことを言い過ぎるとありきたりな言葉が多くなってしまうじゃないですか。それだと、心の底までは刺さらないと思ったんです。一方で、難しすぎる言葉を使っても、それはそれで上手く届かないし。その絶妙なバランスを取るのに苦戦しましたね。最終的には、AメロとBメロで具体的な描写をした後、サビで抽象的な内容を歌うようにして。AメロとBメロできちんと背景を説明した後なら、抽象的な言葉も説得力を持つんじゃないかなと。

ーー確かに、Aメロでは〈東京ってすごく遠い気がして まぁお金出せばさ、何時間かすれば来れるから〉とピンポイントなラインが、サビでは〈似たもの同士 どこにもない愛を僕ら探してる〉と包括的な詞が綴られていますね。先ほどのお話を踏まえると、当初はもっとパーソナルな内容だらけだったんですか。

吉坂:最初はずっと離れた距離の話だけをしていたんですよ。友達が遠くに行ってしまうのが悲しかったから「なかなかすぐに会えない」「離れちゃったね」みたいなことばかりをバーっと言い続けていたんです。でも、同じことをずっと歌い続けるより、色んな角度から距離が離れてしまう事実を書いた方が、私の気持ちを分かってもらうためのキッカケを増やせるなと。それで、物理的な距離の話だけじゃなくて、遠くに行ってしまったことで生じるほかの現象を歌詞にしていったんです。会えない時間に対する感情だったり、別々の場所で暮らすようになったことで同じ時間を過ごしていた人が全く違う成長を遂げてしまうことだったり。

ーーこれまでは1つのテーマに対して、多数の書き方や切り口を模索することはなかった?

吉坂:なかったですね。それこそ、衝動を大事にしているので、これまでは特定の物事に対して生まれたムカつきや悲しさをワーっと書き上げていたんですよ。なので、振り返ってみると、1曲を通じて同じようなことを言い続けている作品も多かった。でも、今作は1つのテーマを色んな角度から歌うことができたという。

ーーそれは大きな変化ですよね。楠本さんは「ライク・ア・ラブ」をどのように捉えていらっしゃいますか。

楠本:友里さんに言っていただいた通り、「ライク・ア・ラブ」は外向きのエネルギーを感じる作品で。いわゆるオルタナに分類される楽曲を作ってきた私たちが、どうやって内省的な暗さだけではない部分を取り込んで、パーンと響かせられるかに頭を悩ませましたね。それこそ、おっしゃっていただいたマーチングのドラムパターンも、聴いた人の明るさを引き出すためのアプローチですし。聴いた人にパンッと前を向いてもらったり、ドンと背中を押すというよりも、そっと自分の中の明るい部分に目を向けてもらえる曲になった気がしています。

ーーポジティブ全開の応援歌というよりは、ささやかなエールを贈るイメージ?

楠本:そんな感じだと思いますね。聴いた人が、それぞれの会いたい人や会いたかった人、「最近会えてないけど、どうしてるかな」と思う人へ目を向けられる歌にしたかったというか。そうやって思いを馳せている時って、決して暗い気持ちにはならないじゃないですか。どちらかと言えば、「いつなら会えるかな」「今は何をしてるのかな」とポジティブな未来を想像するはずだから。そういう心の動きに寄り添える歌にしたかったんです。

「寂しいよー!」から「寂しいよね」へ。She Side Shipが距離を歌う理由

「ライク・ア・ラブ」Music Video

ーー今作も含め、〈生まれた街を捨てて 貴方に逢いにいくわ〉と歌う「故郷」や〈どうか元気でやっておくれよ〉と記した「はじまりのしたく」など、She Side Shipの作品には距離の話が何度も登場するじゃないですか。吉坂さんがこうしたテーマを綴っているのはなぜなのでしょう。

吉坂:私は凄く1人が苦手なタイプで。……本当に1人が嫌いで、寂しくなってしまうんですね。で、そういう孤独を感じた時に音楽に助けられてきたというか、「この寂しさを感じているのは私だけじゃないんだ」と救われてきたんです。なので、自分たちもそういうバンドになりたい。だからこそ、「誰かがいないことって寂しいよね」という気持ちを誰かに向けて書くことが多いんだと思います。

ーー冒頭でお話いただいた衝動の中に、「寂しい、と叫びたい!」みたいな気持ちが含まれている、みたいな?

吉坂:まさにそう!そうです!私の衝動性は、寂しさや孤独感から来ているんだと思いますね。そういう意味では、これまでは「寂しいよー!」って1人で暴れているだけだったんですけど、みんなに対して「寂しいよね」と語りかけられるようになってきたのかもしれません。

ーー非常に納得できました。さて、今作「ライク・ア・ラブ」を機に、皆さんはTALTOの一員となるわけですが、ここからどのようなバンドになっていきたいのかを訊かせてください。

吉坂:私は「自分の感情を知ってほしい」という理由でバンドを始めているので、ライブに来てもらえたり、レーベルに声をかけてくださる方がいらっしゃることに救われているし、支えられているんですよ。だからこそ、今度は「一緒にやっていこうね」と言ってくれたTALTOを支えていきたいし、She Side Shipを助けてくれているお客さんの人生を支えたいです。

楠本:私たちは結成してから2年弱ということもあって、まだまだ変化していくと思いますし、これからTALTOの一員としても変わっていくはずで。どんな自分たちになるのかを楽しみにしつつ、枠にはまらない唯一無二性を見つけていけたらなと。

ーーその唯一無二性になり得るカギはどこにありそうですか。

吉坂:難しいな……でも、人に届けるためのやり方を模索していければ、自然とShe Side Shipの武器が見つかる気もしていて。今やっていることは決して間違ってないという自信があるから、私たち自身が格好良いと思うことを信じ続けるしかないと思っています。

取材・文=横堀つばさ

リリース情報

配信シングル「ライク・ア・ラブ」
9月30日(水)リリース
配信URL:https://big-up.style/93Hflfs3Uo

配信シングル「陽のあたる場所へ」
7月29日(水)リリース
 
配信シングル「はじまりのしたく」
6月24日(水)リリース
「はじまりのしたく」 MV https://youtu.be/Wi4s75bjcuU

【She Side Ship】
X(Twitter): https://x.com/she_side_ship

ライブ情報

『満ちた真夜中』
日程:2026年10月3日(土)
会場:京都・PUB VOXhall
時間:Open 17:30 / Start 18:00
出演:She Side Ship、砂場(ウエスト)、ダイバーキリン、sakimori
料金:前売 ¥2,400 / 当日¥2,900(+1D)
『FM802 MINAMI WHEEL 2026』
日程:2026年10月10日(土)・11日(日)・12日(月・祝)※10日(土)に出演
会場:心斎橋周辺 20カ所以上のライブハウス
料金:1DAY PASS:5,000円(税込)
https://minamiwheel.jp/
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