福山桜子×丹羽麻由美×藤田玲×日野真一郎インタビュー オリジナル・ロックミュージカル『M』を創り上げるプロジェクトがスタート
(左から)福山桜子、藤田玲、丹羽麻由美、日野真一郎
『ヘドウィッグ・アンド・アングリーインチ』の翻訳・演出など、数々の舞台、ミュージカル、映画などで監督、演出、脚本を手掛ける福山桜子がプロデュースする、ROCK MUSICAL PROJECT Phase One THE LIVE #01『M』〜マウント女、否定から入る男、私って嘘つけないんですよね女〜が、2026年10月13日(火)に、東京キネマ倶楽部で上演される。
本作は、年に数回のライブを行いながら、世代を超えて長期間に渡り再演を繰り返されるような、少人数によるオフ・ブロードウェイタイプの本格派オリジナル・ロックミュージカルを創り上げる企画。脚本・作詞・演出を福山が担い、音楽は『アルターボーイズ』などのロックミュージカルでも実績のある音楽家でドラマーの楠瀬拓哉が担当する。稽古が進む中、福山に本作の概要や企画への思いを聞くとともに、出演する丹羽麻由美、藤田玲、日野真一郎に意気込みを聞いた。
ーー今回のプロジェクトについて、どのような思いからの立ち上げだったのか、この企画に込められた思いを聞かせてください。
福山:ニューヨークに20年近く住んでいたのですが、そのときにさまざまな作品を観て、オフ・ブロードウェイの少人数のロックミュージカルが日本にはあまりないなと思っていました。なので、近年はそうした企画も出していたのですが、なかなか実現に至らない。アメリカやイギリス、最近では韓国の作品も多いですが、そうした各地で作られた作品を日本で上演するということはあっても、オリジナルで、日本人のお話で、なおかつ大人が楽しめるという作品がもっとあってもいいのではないかという思いをずっと持っていました。それに加えて、丹羽さんもそうですが、アンサンブルのベテラン勢の活躍の場をもっと広げたいという思いもありました。歌がうまくて、踊れて、芝居もできる人たちはたくさんいますが、日本のミュージカルシステムでは、なかなか出てこられなくて、もったいないとしか言いようがないんですよね。そういう人たちと一緒にやりたいという気持ちも強くありました。
丹羽さんも藤田さんも日野さんも仕事仲間であり飲み仲間でもあるんですよ。なので、「何か面白いことをやりたいね」という話は以前からしていて、音楽の楠瀬拓哉さんとも付き合いが長いので、「ロックミュージカルという形で、少人数でライブから始めて」という企画を話したら「それなら僕ですね」となって(笑)。私は、普段、ワークショップやアクティングコーチもやっているのですが、その中でも、ミュージカルをやっていて、少人数で日本の大人向けの作品をやりたいという仲間たちと今回、この企画をやることにしました。
福山桜子
ーー本公演に向けてライブを積み重ねていくというプロジェクトだということでしたが、お稽古を少し拝見させていただいたら、すでに「ミュージカル」のような気もします。
福山:ライブだと思って書き始めたら、セリフを書くのが楽しくなって、止まらなくなってしまって(笑)。そうしたら、楠瀬さんからも、「三分の一くらいは芝居が入ってもいいんじゃないかな」という提案があったので、そうしたものになっています。楽曲も15曲あるのですが、ミュージカルと言っていいのではないかなと(笑)。物語としての説明はかなり飛ばしているのですが、そもそも「ミュージカルの法則」みたいなもので言うと、曲が入ったタイミングで時間が経ったと観客の皆さんに思っていただけるのではないかと思うので、この作品はかなり「ミュージカル」です。
ーー出演者の皆さんは、今回の企画を聞いたとき、どのようなことを感じましたか?
丹羽:「自分たちでオリジナル作品を作りたいね」という話を桜子さんがしてくださったときに、今回の企画についても聞いたんですよ。
丹羽麻由美
福山:昨年、一緒に友人のライブに行ったんですよね。その友人たちは、4人だけで活動をしていて、ツアーにも出て、やりたいことをやり続けているから今があるんだなと思ったら、「企画書が通らない」と言っている場合じゃないと改めて感じて。それで、帰りの電車の中で「やろうと思っているんだけど、出る?」と聞いたら、「出る! やります!」と即答してくれた。
丹羽:そうなんです。なので、実際に台本ができあがって、音楽ができあがって…と、一つずつできあがっていく過程を見ていると、私が何かを作っているわけではないのに一緒に生み出しているような感覚に陥っています(笑)。本当にいいものにしたいなという気持ちと、ミュージカルの敷居を下げたいという気持ちです。今は、代が高騰していますし、そもそもミュージカルにあまり興味がないという人も多いですよね。なので、もっと気軽に、ミュージカルを観たことがないという方にも楽しんでいただけるものになればと思いながら、周りの人にも声をかけています(笑)。
日野:こうした新しいプロジェクトにお声がけいただいて、とても嬉しいです。海外で作られたミュージカルはたくさんありますが、日本では、それを輸入して上演することが多く、日本のオリジナル作品は数えるくらいしかないと思います。でも、日本人だからこそ、観ることができる、届けることができるミュージカルがあったらいいなと僕も思っていたので、桜子さんからお話をいただいたときに、「いいですね。僕も同じ考えです」と答えました。今、作りながらも、皆さんからいろいろと教えていただき、自分もブラッシュアップしている途中ですが、この新しいオリジナルミュージカルを多くの方に観ていただけたらと思っております。
日野真一郎
藤田:僕もこういうことをやりたいという話を聞いて、桜子さんのことも大好きなので、二つ返事で答えました。僕は、日本のオリジナルミュージカルに何作か出演したことがあるのですが、たとえ原作がとても有名な作品だったとしても、ミュージカルとしての知名度はそこまで上がらないんですよね。なので、「日本発のミュージカルというのは、難しいな」とか「国民性に合っていないのかな」と思いながらも、こうしてミュージカルが好きな人もたくさんいるので、そうした人を少しずつでも集めて始めていかないと広がっていかないだろうとも考えています。今は、役者になるハードルもどんどん低くなっていますが、できる人はきちんと仕事があるべきだし、活躍できる場を増やすためにも公演数は増やしていった方が良い。それに、アメリカなどでは、現代劇をミュージカルで表現していることも多くて、リアルな生活に関わるストーリーも多いですよね。日本では、日本人が主役で、日本の現代に生きている人がミュージカルになることはあまりない。何かしらの悲劇があったり、事件が起こらないとミュージカルにならないので(笑)。そういう意味でも、身近な物語を描いた、こんな作品があってもいいのではないか、面白いのではないかと思います。
ーー本作のストーリーを教えてください。
福山:サブタイトルに「マウント女、否定から入る男、私って嘘つけないんですよね女」とありますが、まさにそうした人物が登場します。外資系投資銀行の投資部門にいるミカという女性は、3ヶ月後にイギリス・ロンドンで投資会社をやっているイギリス人と結婚することが決まっています。彼女は、「パリでプロポーズされたよね」と言ってしまうような“マウント女”なのですが、そんな彼女が、ある日、突然実家に帰ってくる。実家にいるお兄さんは、6年前に離婚していて、一人で実家に住んでいる“否定から入る男”です。「おかえり」と言わず、「いや、帰ってくるなら普通連絡するだろ」とミカに言ってしまう、あまり仲がよくない兄妹なのですが、その近所に“私って嘘つけないんですよね女”のメイちゃんが住んでいます。そして、幼馴染のミドリちゃんという子もいて、実家周りでお話が進んでいきます。ミカを丹羽さん、お兄ちゃんを日野さん、そしてミカの昔の推し、ファンクラブの会員ナンバーが2桁だということが自慢のアーティストのMAKIYAを藤田さんが演じます。
藤田:きっと観に来た方は、誰かしらに共感したり、自分と重なる部分があると思います。
藤田玲
ーー皆さんも、自分と重なる部分を感じたり、共感をしながら今、稽古をされているのですか?
丹羽:そうですね。
日野:僕は、演じる上では、少し苦戦しております(笑)。もちろん、自分に重なる部分もあるし、嘘をつけないメイちゃんの気持ちも分かるし、悪気がなくても言ってしまうこともあるなと共感できるところも多いので、きっと一つは響く言葉が見つかると思います。そんなミュージカルだなと思っています。
丹羽:私は、マウント女を演じますが、私自身は、マウントを取る人は嫌いじゃないんですよ。自分も時と場合によっては、マウントを取っていることもあると思いますし(笑)、周りにいるマウントを取る人たちってどういう人なのかなと楽しんで研究しながら、役を作っています。
藤田:マウントを取る人って、自分がマウントを取っていると思っていないことが多いですよね。「マウントを取ろう」と思って取るなら、本当に嫌なやつだけど。
福山:そういう人もいるけれどね(笑)。
ーー藤田さんは、役に共感できるところはありますか?
藤田:僕は、もともと、バンドから(芸能活動を)始めているので、そういう意味では気持ちはすごく分かります。彼が話していることは、一度は考えたことがあることだったり、こういう気持ちでやっていたこともあったなと思うこともあるので、共感はしますね。今は、役者の仕事が多いですが。
稽古場より (左から) 井出恵理子、奥切めぐみ
稽古場より (左から) 奥切めぐみ、藤田玲、百成瑛
ーー今、鋭意お稽古中ではありますが、オリジナル作品ならではの作っていく面白さや難しさをどんなところに感じていますか? 稽古を通して手応えはありますか?
丹羽:これまでもワークショップなどを続けてきたので、メンバー間のコミュニケーションはすごく取りやすいです。新作のオリジナル作品は、コミュニケーションを取ることがとても大切だと思うので、そういう意味では、とてもやりやすい現場ですね。セリフの練習も、1人が始めるとみんなで一緒になって始めるので、すごく楽しいです。楽曲は、1つずつ上がってくるので、それもまたみんなで楽しみながら稽古を進めています。今回、楽曲によってジャンルが全然違うので、それもまた見せ場の一つかなと思います。
福山:楠瀬さんといろいろな曲をやりたいねという話をしていたんですよ。
丹羽:せっかくだから、アルバムなどの形で曲を残したいですよね。それくらい幅広い楽曲が揃っていますし、シーンによっても曲調が全然違うので、楽しくやっています。
日野:特に再演では、どうしてもこれまでの公演をなぞってしまったり、意識してしまうところがあるのですが、今回は、ゼロから作り上げているので、みんなで作り出していく楽しさも、苦労もあります。だからこそ、丹羽さんが話していたようにコミュニケーションはやっぱりすごく大事だと思います。1つの楽曲ができあがったら、なんだか親のような気持ちになって、その場で楽曲が生まれるときを楽しむことができるというのが、面白さだし、良さだなと思っています。
藤田:僕は今日(取材日)から参加なので、まだ手応えは分かりませんが、でも、お二人がおっしゃっていることは身にしみて感じています。今回、初めてご一緒する方が多かったのですが、桜子さんが好きなタイプの人間が集まっているなと思いました(笑)。
福山:君も含めてね(笑)。
藤田:あはは(笑)。すごくウェルカムな空気があるので、台本を読みながらアドリブを入れても、楽しんで受け入れてくれて、盛り上がってくれるんですよ。カンパニーとしてできあがっているのを感じますし、それもまた心強いです。飛び込めるなと思いました。
丹羽:みんなで待っていたからね(笑)。
稽古場より (上段左から) 服部悠(スウィング/演出・振付助手)、百成瑛、福山桜子、日野真一郎、藤田玲(下段左から)丹羽麻由美、井出恵理子、奥切めぐみ
ーー福山さんは、ここまでお稽古をされてきての手応えはいかがですか?
福山:実力があって、何か新しいことを作って楽しもうという意気込みがある方々ばかりなので、私はひたすら楽しいです。でも、それは当たり前だと思います。自分の大好きな人たちと大好きなことやっているので、楽しくないわけがないんですよね。
ーー皆さん、役のイメージ通りですか?
福山:丹羽さんのマウント女も、日野さんの否定から入る男も、そう思います。日野さんは、普段はすごく優しくて、音楽に造詣が深い方なので、ハモリの部分だったり、音楽的な面でもフォローをしてくださっているんですよ。日野さんご本人とは全く違う一面を、今回の役で見せてくれていますが、それを楽しそうに演じてくださっています。なので、「こんな日野さん見たことがない」と、楽しんでいただけたらと思います。丹羽さんは、ガールクラッシュ系や強い女性が好きなので、きっとこうした役柄もノリノリで演じてくれると思ったんですよ。藤田さんの演じるMAKIYAは、本当はもっと嫌な人物にしようと思ったのですが、そうすると当て書きになってしまうので(笑)。
藤田:おいおい(笑)。
福山:藤田さんは、この通り、かっこいいので、かっこいいところは思い切りかっこよく、歌では、心情が見えてくる歌を歌ってもらうことで、話しているときには出さない弱さも見えてきたらいいなと思っています。MAKIYAにもそういうところがあったんだとギャップが見えるのも役として面白いし、藤田さんを普段から見ている人も「うん、うん」と言いながら観てくださるのではないかなと。本当はもっと嫌なやつにしたかったので、それはまた今度やりましょう(笑)。
今回は、ミカさんが主役なんですよ。なので、ミカさんのいろいろな側面や過去がチラチラ見えるのですが、キャストのみんなから「MAKIYAの物語も観たい」という声があったので、今後、いろいろと展開していけたらと思っています。そもそも、『M』というタイトルはそのままで、サブタイトルはライブを重ねるごとに変えていって、いろいろな登場人物を出していこうと思っていたんですよ。同じキャラクターもいれば、新たに入ってくる人もいる。メインではなかった人が、次回はメインになっているというように、3年くらいかけて本公演を目指そうと思っているので、いろいろな側面から、それぞれのキャラクターを楽しんでいただけたらいいなと思っています。
ーーちなみに、この『M』というタイトルにはどういった意味があるのでしょうか?
福山:いくつか意味があるのですが、それは、劇中に登場します。今回、提示する「M」も、はっきりと出てきますので、きっとクリアになると思います。ぜひ、「M探しの旅」をしていただけたら嬉しいです。
ーー先ほどからもお話が出ていますが、ぜひ、音楽についてもお聞かせいただければと思います。
(左から)藤田玲、丹羽麻由美
丹羽:オープニングナンバーがメインテーマとなっていて、そのナンバーはラストにも歌うので、ぜひ、観客の皆さんと一緒に歌えたら嬉しいなと思っています。どの楽曲もすごくキャッチーで、オリジナリティがあって、大好きな楽曲ばかりなので、観に来てくださる方に好きになってもらいたいです。
藤田:王道ミュージカル感もあるのに、狙っているなという曲調もあるし、時代感も感じます。その時々の心情にすごくハマる音楽もあるので、誰もが楽しめるミュージカルになっていると思います。完全オリジナルなので、そうした意味でもすごく面白いです。
ーー藤田さんが歌われる楽曲の中には、客席も一緒に盛り上がれるナンバーもありましたね。
藤田:そうなんですよ。お客さんもどう観ていいか迷うと思いますが、ライブパートは一緒に盛り上がってほしいですね。コール&レスポンスしてもいいかなと思っているくらいです(笑)。
ーー日野さんはいかがですか?
日野:一つのミュージカルだと曲調が似てしまうことも多いのですが、本当にこの作品はいろいろなジャンルがあって、飽きないです。あっという間に終わってしまうと思うんですよね。昭和っぽいなとか、ジャズっぽいなとか、ポップスっぽいなとか、ルールはないので、ライブとして楽しんでいただけたらと思います。日本人の方は、人に合わせて観る方が多いですが、この作品に関しては、その人が感じたまま楽しんでいただけたらいいなと思っています。
日野真一郎
ーー改めて、公演に向けた意気込みとメッセージをお願いします。
日野:この『M』という作品は、これからも続きます。「私、初演に行ったんだよ」と言っていただけるように、歴史の第一ページ目を目撃するお客さんになっていただけたらと思います。誰もが心に響く作品で、「明日からはこうしていこうかな」と思えると思うので、ぜひ会場にお越しください。
藤田:最初にも話しましたが、ミュージカルというのは、とてもハードルが高く、選ばれし人たちが観に行くものというイメージを持っておられる方も多いと思います。でも、飲み屋に立ち寄ったり、カフェに行くというような感覚で来ていただければいいと思うんです。2時間空いたから、ちょっと観にいこうかなというような。今、3時間以上ある作品も多いですが、やっぱり時間が長ければそれだけハードルも上がります。そうしたハードルを全て無視して、誰でも楽しめて、ちょっと素敵な時間になると思うので、それだけでも来ていただく価値のあるものになるのではないかと思っております。なので、ぜひ遊びに来てください。
丹羽:今回、オリジナル作品の初演で、主演をさせていただきます。あまり主演だと意識しないようにはしていますが、私は私の力をきちんと発揮して皆さんに届けたいと思います。来てくださるお客さまには、この作品の一部になっていただきたいです。「初演を目撃する」というつもりで、この作品が生まれる瞬間を一緒に体験していただけたらと思います。私も友人から「舞台ってドレスコードがあるの?」と聞かれることがあるんですよ。普段からご覧になっていない方は、いろいろなルールや決まり事があるのかなと考える方もいらっしゃるようですが、そうしたことは全くないです! 身軽に、どんな格好で来ていただいてもいいので、ただ楽しみに来ていただけたらと思います。
福山桜子
福山:「ライブだ」と最初に言っていたミュージカルですが、「ライブ」の方が観に行きやすいのかなという思いもありました。本当にビールを飲みながら、気楽に観ていただければ。それがこの会場で上演する理由でもあるので。今、みんながミュージカルのハードルを下げたいと言っていましたが、ミュージカルって、かっこいいし、面白いし、楽しいんですよ。日本では、それが文化としてなかなか根付いていないので、自分の知っている人が出ていないと楽しめるだろうかとか、知らない曲ばかりで楽しめるのだろうかと、考えてしまうのだと思いますが、知らない曲でも知らない人たちでも楽しんでいただけます。もし、これが配信ドラマだったとしたら、有名な俳優が出ていなくてもドラマにのめり込んで楽しめたりしますよね。そうしたことはドラマや映画ではたくさん経験されていると思いますが、ミュージカルも同じです。誰でも共感できるポイントのある作品を全員で作っているので、作品を楽しみに来ていただけたらと思います。
取材・文=嶋田真己 撮影=阿部稔哉
公演情報
会場:東京キネマ倶楽部
1部 開場 13:00 / 開演 14:002部 開場 18:00 / 開演 19:00
音楽:楠瀬拓哉
通常
※購入枚数:2枚まで
※年齢制限:未就学児入場不可
制作:株式会社ONTASTE info@ontaste.co.jp