安田章大が「新しいバランスボールに乗っかったような感覚」で全編茨城弁の舞台に挑む 舞台『髪結いの亭主』プレスコール&取材会レポート

2026.9.28
レポート
舞台

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

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2026年9月28日(月)、新国立劇場 小劇場にて、安田章大主演による舞台『髪結いの亭主』が開幕する。

1990年に公開されたパトリス・ルコント監督の代表作『髪結いの亭主』を、脚本・演出に劇団普通主宰の石黒麻衣、主演に安田章大を迎え、日本で初めて舞台化した本作は、一人の男の純粋で偏愛的な恋心を描いたフランス映画の傑作を大胆にアレンジし、物語を1950年代の茨城県にある小さな理容室へと移して描かれる。

開幕に先立ち、プレスコールと取材会が開催された。

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

プレスコールでは、幼い頃から“髪結いの亭主”になることに憧れていた實(安田章大)と兄の正一(丸山智己)のシーンから始まった。保護者のように實を見つめる正一の瞳には、包容力と同時にどこか不安げな様子も感じられ、丸山の懐の深い演技が含みを持たせる。本作では、實と妻の典子(中村映里子)が軸になりながら、彼らを取り巻く人間関係も同時に描かれており、家族やきょうだいといった身近な人間関係を描くことに定評のある石黒が、實と正一の関係性をどのように描いたのかにもぜひ注目したい。

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

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正一が去った後、典子が登場して夫婦のやり取りが始まる。ごく普通の、穏やかな夫婦のやり取りだが、實の表情にはどこか翳りがうかがえる。プレスコールで公開された場面だけでは、その翳りの正体はつかめなかった。實は典子に対して、どのような感情を抱いているのか、翳りと感じたのはこちらの思い過ごしなのか、作品をすべて鑑賞してそのことを確かめたいという思いを強くしたのは、安田の表現する實の人物像に深みがあり、魅力的だからである。中村は、典子を柔らかく、かつ儚さをまとった美しい人物として作品の中に見事に融合させている。

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

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やがて、客が二名(用松亮、浅井浩介)やってくる。客の髪を切る典子と客たちの会話は、作品において特に意味を持たない内容に感じられ、こんな何でもない会話が舞台上で行われることへの驚きと、それがリアリティとして迫って来る新鮮さで、これまでに感じたことのない感覚に襲われる、一言で言い表せない不思議なシーンだ。劇団普通への出演も多い用松と浅井が、茨城弁による緩やかな中に緊張感のある会話を繰り広げ、“石黒ワールド”を鮮やかに立ち上げる。

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』舞台写真

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リアルと幻想が入り乱れながらストーリーが進み、どこまでが現実なのか、その境界線が揺らぐ感覚が作品に緊張感を持たせ、淡々と穏やかに進む中、どこかサスペンス的な空気も感じさせる。戦後間もない茨城県を舞台に、フランス映画で描かれた世界がどのような物語として舞台上に表現されるのか、その全貌は舞台でぜひ目撃してもらいたい。


続いて取材会が行われ、作・演出の石黒麻衣、出演の安田章大、中村映里子、丸山智己が登壇した。

PARCO PRODUCE 2026 『髪結いの亭主』取材会より (左から)丸山智己、中村映里子、安田章大、石黒麻衣

プレスコールが終わった感想を聞かれると、安田は「あれ(プレスコールで公開した場面)だけだと届かないかなと思った。石黒ワールドが見事に展開されているので、お客様にどんな響き方をしていくか楽しみ」、中村は「思ったより緊張しないでできたが、途中でコームを落としてしまって、本番で起きたらどうしよう、といろいろ考えるきっかけになった。すべて見ていただけるのが本当に楽しみ」、丸山は「プレスコールの情報で想像を膨らませていただいて、自分が想像していたものとどう印象が違うのか、本番で楽しんでいただければ」、石黒は「この作品の持っている性質として、噛めば噛むほど味が出るような感じがする。私の普段の作品をご覧になっている方は、この作品で私の世界が展開されているということに驚いていただけると思うし、初めての方はこの後どんな味がしていくのかな、というのを想像していただくきっかけになったらいいなと思っている」とそれぞれ述べた。

安田章大

初日を迎える心境や意気込みについては、安田は「来てください、の一言ですね。とにかく来ていただければ、現場で何が起きているかわかる。それが演劇の面白さで、石黒ワールドをぜひ見に来ていただけたら」、中村は「石黒さんのとても緻密で頑丈な演出から生まれる世界の中に浮かび上がってくるものや、にじみ出るものをお客様に楽しんでいただけるように、これまで稽古してきた中で築き上げたものを信じて、瞬間瞬間、丁寧に新鮮に心をたくさん使いながら芝居ができたら」、丸山は「『髪結いの亭主』の初の舞台化ということで、そこにまず参加させていただくことがこの上ない喜び。再構築して舞台にアレンジして作り上げた石黒さん、主演の安田さん、中村さんはじめキャストの皆さんと一緒に作り上げてきたものを信じて、皆さんの感性に届くものになっていると信じて、日々新鮮にやっていこうという思いでいる」と答えた。

石黒麻衣

本作を舞台化することの面白さ、設定を変えたことで見えてくる作品の魅力はどんなところかと聞かれた石黒は「この映画を見て、海外の作品でありながら、感情表現の慎ましやかさ、にじみ出るような感情の表出にとても共感するものがあった。それが日本の地方都市である茨城の、1950年代に生きる人々の感情の表出に通じるところがあるのではないか。私が普段作っている茨城弁の作品でも心がけている、にじみ出るような繊細な感情の表出というものが、映画と唯一通じる部分として、そこを起点に展開できたら、と思って作ったので、見どころだと思う」と語った。

以前から石黒の主催する劇団普通の作品を見ていたという安田は、石黒作品の魅力を問われると、「話を聞いていそうで聞いてない人のあいづちとか、聞いていなさそうで実は聞いていた人のあいづちとか、人って意外とほぼ無意識で生活してることが多い。それをエンターテインメントの中に落とし込みながら、見ていてクスッと笑えたり、こういう人って多いよな、と思えるところに共感して面白さを見出した」と語った。

中村映里子

稽古場での様子を聞かれると、中村は「稽古がすごく楽しかった。石黒さんの頭の中はとても面白くて刺激的で、毎日感動しながら稽古をしていた。安田さんは積極的に夫婦の関係性など作品についていろいろ話してくださったり、お芝居の中でいろんなことを提案してトライしてくださった。毎日皆さんに感謝しながら臨ませていただいている」、丸山は「茨城弁でお芝居をするのは初めてで、耳に馴染んでつい日常的にもぽろっと出てしまったりするくらいだった。音の持っている特有の柔らかさとか距離感の近さとか、そういうものがちょっと標準語でやっているお芝居とは違う感じがある。全編を通して茨城弁なので、芝居を観ながら何か皆さんに届くときに、茨城弁がふわっと包むことで届き方が違うんじゃないかな、と思う」と述べた。

丸山智己

稽古を通じて感じた三人の魅力について問われた石黒は「本当に素晴らしい皆さんに集まっていただけて、私は幸運だなと思った。元々の原作とはまた違った魅力を持つ主人公を作り出さないといけない、というのが課題で、その時に真っ先に思いついたのが安田さんだった。安田さんが初めて稽古場で脚本を読んだときに、書くときにこんなに安田さんのことをイメージして書いていたんだ、と改めて思うくらい、頭の中で思い描いていた人物が目の前に現れた、と思って感動した。中村さんは、私の書く女性というのは、どちらかというと控えめで思っていることをなかなか言えない、中に感情を滲ませなければならないというとても難しい役柄だが、それが本当に表情とか手先とか全身に表れている。私の中に持っている典子のイメージをさらに膨らませてくださって、中村さんにお願いできてよかったなと思っている。丸山さんが演じる正一という役は、男性でありながら女性的なところを持ち合わせている、母親のような部分も持ち合わせているという役柄なので、それを1950年代の男性像の中に重ね合わせながら演じるという、本当に難しいお願いをしているが、全て真面目に受け止めてちゃんと返してくださって、本当に素晴らしい俳優だなと思っている」とそれぞれへの印象を語った。

(左から)丸山智己、中村映里子、安田章大、石黒麻衣

全編茨城弁のセリフへの挑戦について尋ねられた安田は「不思議な言葉。関西弁のイントネーションが混ざっているところもあるし、標準語のイントネーションも入っているし、北の方のイントネーションも入っているし、少し鼻から抜けているような音も入っているし、会話の前後によって語尾が上がる、下がるというのも全部変わる。未確認物体みたいな、初めて出会ったような生き物。新しいバランスボールに乗っかったような感覚だった」と感想を述べた。

安田章大

最後にメッセージを求められた安田は「演劇とは何なんだろうか、ということを考えながら稽古したが、皆が皆まで分かるものじゃない、というのも一つの面白さ。フランス映画のような内側に渦巻く激流のようなものが舞台の上で表現できたら面白いな、というところを掲げて本作を作ってきたので、しっかりと今回の『髪結いの亭主』石黒バージョンを体に浸透してみてください。多分1回じゃ厳しい。多分2回……2回じゃ無理だな。いっぱい味わってみてください。今回は東京だけじゃなくて、大阪と、広島にも足を運ぶので、会場も大きくなる。それぞれの劇場の大きさごとに芝居を楽しんでもらえたら。みんなでお待ちしています」と、取材会を締めくくった。

(左から)丸山智己、中村映里子、安田章大、石黒麻衣

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

PARCO PRODUCE 2026『髪結いの亭主』
 
原作 映画『髪結いの亭主』(監督=パトリス・ルコント 脚本=パトリス・ルコント、クロード・クロッツ)
脚本・演出 石黒麻衣(劇団普通)
 
出演
安田章大 中村映里子 丸山智己 占部房子 村木仁
用松亮 浅井浩介 武谷公雄 中山求一郎 香月彩里
 
企画制作:株式会社セディックインターナショナル、有限会社エフ・エム・ジー
特別協賛:株式会社イープラス
企画・製作:株式会社パルコ
 
ハッシュタグ #髪結いの亭主
 
【東京公演】
日程 2026年9月28日(月)〜10月25日(日)
会場 新国立劇場 小劇場
料金 12,000円 (全席指定・税込)
※本公演のは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。
※公演が中止となる場合を除き、お客様のご事情によるの払い戻しはいたしません。
※未就学児の入場はご遠慮ください。
お問合せ パルコステージ 03-3477-5858 https://stage.parco.jp/
 
【広島公演】
日程 2026年11月5日(木)~6日(金)
会場 JMSアステールプラザ 大ホール
料金 12,000円(全席指定・税込) ※未就学児の入場はご遠慮ください。
お問合せ サンライズプロモーション 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
 
【大阪公演】
日程 2026年11月12日(木)~20日(金)
会場 森ノ宮ピロティホール
料金 12,000円(全席指定・税込) ※未就学児の入場はご遠慮ください。
お問合せ キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00 ※土日・祝除く)