紫 今 ジャンルを飛び越え同世代の共感を集める新しい才能――ワンマンツアー2026『PURPLE SHELTER -ep.1-』で見せた表現の振り幅
紫 今
紫 今 ワンマンツアー2026 『PURPLE SHELTER -ep.1-』
2023.10.3 Shibuya CLUB QUATTRO
紫 今がワンマンツアー『PURPLE SHELTER -ep.1-』のファイナル公演をShibuya CLUB QUATTROで開催した。もう既知の事実だが、彼女のボーカリストとしての表現の幅はおよそ1人のアーティストとは思えない幅の広さで、複数のジャンルやスキルを横断している。にも関わらず、そのアウトプットが全て紫 今という存在に回収されるのはひとえに彼女の音楽愛と音楽への貪欲さの表れなのだろう。特定のジャンルではなく、アーティストのパーソナリティやマインドに共感して曲が聴かれる時代の必然でもある。2026年はTOOBOEとの対バンやロックフェスなどへの出演も経て、新たなファンを獲得してきた先に今回のツアー『PURPLE SHELTER -ep.1-』は位置している。Soldoutした会場はもう今の彼女にとって手狭な印象すら与えたが、それだけ期待値の高いツアーファイナルだからこそ、今見せるべきステージに挑む気迫が全編に漲っていた。
海底の様な、もしくは大気圏を突破していく宇宙船内部の振動音めいたSEが静かに震える中、暗転するとブラックスーツ&タイのメンバーが登場、少し後に同じ衣装の紫 今が現れるとソウルフルなフェイクでその場を掌握していく。唸りのようなグロウルからハイトーンまで駆使し、一瞬にして今民(紫 今のファンネーム)とステージが運命共同体のようにまとまり、ヘヴィなサウンドに託した狼煙のような「革命讃歌」でスタート。お立ち台に仁王立ちになっての「始めよう、東京!」の叫びは単にライブの始まりに終始しない、まさに彼女の革命の凱歌だ。そこからコケティッシュな声色がジャジーな4ビートに乗る「ゴールデンタイム」にスムーズに切り替わり、「遠慮しないでもっと前においで。一緒にぐちゃぐちゃになろうぜ!」という呼びかけから始まった「フラットライン」は彼女のハスキーな地声の魅力とクルクル変わるリズムチェンジにいい意味で振り回され、“フラットライン”のシンガロングは驚くほど大きい。
暗転の中、素早くジャケットを脱いで衣装を替えると、和ホラーというべきイントロに大歓声が上がり、代表曲「魔性の女A」へ。セクションごとにキャラクターを鮮やかに変えるのも狭義のジャンルに縛られない紫 今のライブの必然ということだろう。髪にかかるチュールや髪を撫でながら歌いアクションする妖艶さと、和とヒップホップが融合する楽曲のユニークさの両方に耳目が奪われる。また、ダークポップを生のバンドアレンジで届ける「Not Queen」もライブでは内省よりも挑発的な側面が表に出る印象だし、彼女の体には大きく映るSGを構えての「ウワサの女の子」への繋がりもいい。ただ、ここでも沈み込むボーカルから、キュートなアニメキャラ的なボーカルへのまるで別人格な声の変化には驚かされるばかりだ。
別人格といえば、王道J-POPの切ないバラード「八月の花火」への鮮やかな変化にも驚かされた。しかもご存知の通り、紫 今は彼女自身がプロデュースする世界観なわけで、人を鼓舞するリーダーシップも、挑発的な女性像も内側に籠る人物像も誰かに作られたものじゃない。つい先程までのクルクル目の色が変わる蠱惑的な女性が、儚く終わってしまった夏の刹那を透明な声で歌っていても、それはジャンルのバラエティというより、1人の人間の多面性として、素直に飲み込めるのだ。「八月の花火」のアウトロが完全に聴こえなくなるまで、集中していた今民は彼女の「ありがとう」の一言を待って、拍手を送った。
中盤からは踊れるナンバーが続々繰り出される。大人っぽいファンクチューンの上で自在にフェイクを繰り出す「Sever Down」、「新曲をやりたいと思いまーす!」の一言で「ブルーチーズ」の披露を察して歓声が上がり、客演のAsakura(muque)がステージに現れると、ここまでで一番の大歓声。ハイパーポップとエレクトロスイングの美味しいところが全て盛り込まれ、ちょっと甘めなAsakuraのボーカルと強めな紫 今のボーカルが今の女の子のシスターフッドを弾けさせると、四つ打ちのビートも相まってフロアのジャンプも止まらない。苦手な味も魅力だと気づいた頃にはすっかり伝染している、そんな毒気とフェティッシュな魅力をキャラの立った2人が見せつけてくれた。ボカロも一つのルーツである彼女の持ち味は続く「メンタルレンタル」に接続され、高速メロディとラップで駆け抜けていった。
アッパーなセクションのアウトロから、踏切の警告音などのSEを経て、ムードが一変した後、「初めて人を愛した、その時書いた曲です」と静かに告げて披露されたのは抑えたピアノの伴奏だけで独白のように綴られる「最愛」だった。後ろからのスポットライト一つに照らされて浮かび上がるシルエットが曲の主人公の孤独を際立たせる。人と人の関係で残ってしまった傷は、しかし後悔だけを意味するわけじゃないだろう。複雑な心象を描くこの曲だけでなく、紫 今の歌にはすべからく物事の表裏が存在している。
濃密に振り幅の広い楽曲をパフォームしてきた後、彼女はライブがない時期を寂しく思うと同時に、ライブで今民とともにする時間と空間が今回のツアータイトル“PURPLE SHELTER”の着想だと話す。そこからの「NEW WALK」が曲調こそ軽快なシティポップでありつつ、《遺言も産声も/大抵上手く伝わらないなら/聞いて欲しい人がいる/それだけで十分だと思える》という、いつか終わりがある生についての視点が染み込んでくる。なんて軽やかに真理を歌うのだ、この人は。深いロートーンも卓越したフェイクもハイトーンを盛り込んだこの曲は、彼女流のゴスペルなのかもしれない。すかさずファストな2ビートに突入すると、この日2人目のゲスト、CLAN QUEENのyowaを迎えての「天獄と地極」の巧みな歌いわけを見事に披露してくれた。曲の終盤、自然に強く握り合った手にグッときたのは私だけじゃないだろう。
ロック的なテンションに入ったところで、フーディを纏った紫 今が大歓声のSEを背景に「私はここにいる! みんなをドームに連れていく!」と宣言。怒濤のラウドロック「青春の晩餐」は確かに大きな会場で体験したくなるナンバー。またしても「これが1人のアーティストのライブなのか?」と、唖然としてしまうほどの表現のレンジの幅が広い。ソロ回しも挟みながら手練れのメンバーを紹介し、終盤のセクションはギアが何度も上がっていく。リズムはサンバだが、コラージュ的に変化し続けるメロディはジャンルレス。続く「合法パンチ」では布をデコレーションしたメガホンを手にトランス風な四つ打ちビートでフロアを煽りまくる。今民も掛け声とクラップで、曲を乗りこなし暴発するエネルギーに満ち溢れていく。ここまで多彩なジャンルに食い下がることができるのはリスナーの世代感ももちろんあるだろうが、紫 今が表現する1曲1曲の強度が、このうねりを生み出しているのだろう。バレエ音楽のようなストリングスのイントロが空気を変えると、ステレオタイプな天才と凡人の定義を覆す「凡人様」をドロップ。器楽的なメロディラインを歌いこなし、何度も“凡人様”をシンガロングさせる。構図としては崇められているのに、実はここにいる大勢で自己肯定しているような不思議な構図が生まれる。歌い終えた彼女はやり切った笑顔を浮かべていた。
ラストを前に彼女はこれまで話してこなかったことを話すと告げ、幼い頃、周囲に馴染みにくい中、本当の自分を知って欲しいという動機が音楽を始めることにつながったと話してくれた。音楽一家で育ち、人一倍音楽に触れて成長してきた彼女のもう一つの側面だったのだ。ラストは「ギンモクセイ」をオフマイクでオリジナルよりゆっくり歌い始める。SEのストリングスが生で展開されるのが見えるような、スケールの大きな歌だ。サビではフロアにマイクを向け、大きなシンガロングに「素晴らしい!」と笑顔を見せた彼女は、上り詰めるようなロングトーンでステージを締め括った。
すでにアナウンスされているように2027年の5月、6月には東名阪でのワンマンツアーが決定している。一つの目標だったという東京・Zepp Shinjukuでファイナルを迎える来年6月、紫 今はさらに時代を象徴する存在になっているはずだ。
取材・文=石角友香 撮影=〇〇〇〇〇
リリース情報
ライブ情報
時間:開場17:00 / 開演18:00
日程:2027年5月30日(日)
時間:開場17:00 / 開演18:00
時間:開場17:00 / 開演18:00