宮本亞門「ミュージカルが好きな方に観てほしい」~演出を手掛ける、東京二期会オペラ劇場『ラ・ボエーム』インタビュー
宮本亞門
2027年1月、東京二期会オペラ劇場がジャコモ・プッチーニの『ラ・ボエーム』を上演する。本作は、ミュージカル『RENT』のもととなった作品としても知られており、若者たちが自由に生きる姿を描いた青春オペラだ。
今回、演出を務めるのは、デビュー以来、ミュージカル、演劇、オペラなど幅広いジャンルの作品を手掛けてきた宮本亞門。どんな公演、そして演出になるのか、宮本亞門に聞いた。
ーー宮本さんはこれまで東京二期会で『フィガロの結婚』『魔笛』『金閣寺』『午後の曳航』『蝶々夫人』などを演出なさっています。常にドラマがしっかり描かれている一方、毎回違うアプローチに驚かされます。
僕なりに作品そのものを一番重視しています。作曲家も、内容も違いますから。オペラは何百年も前の作品もあるから、どういう現代の視点で入れ込むか、というので毎回違うアプローチに見えるのかもしれません。プッチーニは特に、その世界観というか、空気感の粒までも音にしてしまっているので、現代の人に響くようにするにはどうしたらいいんだろうと、悶々と考えるんです。楽しい時間でもあり、悩む時間でもあり。いつも作曲家がここにいたらなあと、勝手に話しかけています(笑)。
ーー作曲家と交信なさっている?
返信はないですけど(笑)。勝手に「きたー!」という時もありますよ。
宮本亞門
ーー『ラ・ボエーム』は初めて演出されますね。
そうです。『ラ・ボエーム』はやりたいと思っていましたから嬉しいです。そこに出てくるボヘミアン、自由に生きているクリエイターたちと、ミミやムゼッタも加わった仲間たちのあの感覚は、青春をすごく感じさせる。だからミュージカル『RENT』になるとか、ミュージカルの世界にも大きな影響を与えたのは分かるんですね。オペラへの入り口としても最高です。
それに加えて、クリエイターの世界の大変さも描いています。オペラの世界は正直にいうと、リスキーじゃないですか。お金が欲しいんだったら他の業界に行った方がいいんですよ。舞台を作るというのは、これほどコスパが悪い仕事はない。奇跡的に残っている世界なんです。それでも続けているのは、お金の問題だけではなくて、やはり伝えたいという思いがあるから。僕はこの『ラ・ボエーム』のボヘミアンたちにそれをすごく感じています。
ーーフライヤーには、パリ・オペラ座を思わせる劇場が描かれています。しかも部分的に壊されている様子。演出とはどう関係しているのですか?
『ラ・ボエーム』は、最初はお金がなくて、真っ暗で寒くて、それでも俺たちは負けないぞと笑ってそこにいる。その姿って何なんだろう? と思った時に、反逆精神も含めて、それでも僕たちはクリエイターとして絶対に何かを作るんだ、ということを現代に描く時に思い浮かんだのが、戦争なんですよね。ウクライナで劇場が爆撃された。劇場は聖なる守られた場所だと僕は思っているし、軍事施設でもないところを一発の爆弾で多くの人が死んでいくという現実。今は戦争だらけ。人が死んでいく映像さえ、もう衝撃を与えない。危険な状態だと思うんです。
だから設定を近未来のパリ・オペラ座という感じにして、襲撃を受けたけれど、人々はまだ壊れている劇場の中に生きているということにしました。第2幕では避難している人たちがいたり、それでも自分たちは作ることを続けていこうと思ったり。ロドルフォはオペラの台本作家。マルチェッロは舞台美術。コッリーネは哲学者でありながらドラマトゥルク(作品のドラマ構成や解釈を支える専門家)でしょうか。音楽家ショナールはコレペティートル(オペラの音楽コーチ)にしようと。そしてミミはそこで衣裳を作っている、デザイナーではなく作り手の方ですね。ムゼッタはもうオペラ歌手、という感じです。
宮本亞門
ーーそれは素敵な設定ですね!
オペラ愛に満ちた設定になっています。オペラ好きの皆さんにも、クリエイターたちに興味を持っていただければ。だいぶ自分たちと重なる設定にしていったという感じです。なぜか演出家は全然出てこないんですけれど。出したら怒られちゃう(笑)。具体的には、第1幕はガルニエの劇場の上の方にあるリハーサル・スタジオ、その屋根裏をイメージしています。第2幕は地下の避難所のように使われている場所。まだ最終的には決まっていませんが、地下鉄のホームにみんなが集まっているような感じです。
ーー『ラ・ボエーム』は昔からお好きでしたか?
分かりやすかったから入りやすかった、というのが正直なところですが、好きでしたね。リズムとテンポと勢いが特に。ドーンとはじまったところから「えー?」って驚くほどの熱気と活気がある青年たち。貧しくても辛くても明るくしていようとする姿が愛おしい。ただ調子に乗っている人たちとは思わないんです。最後にミミが亡くなっていくことに対しても、仲間に対しても、全員がその思いを寄せていこうとするところが愛おしい作品だなと思いましたね。
ーー宮本さんご自身は若い頃、どのようにオペラをご覧になっていたのですか?
演出家になる前にイギリスに1年間いたんです。その時バックパッカーで、ウィーンだ、ミラノだと、あちらこちらで出来る限りオペラを観ていました。もう本当に好きで。オペラとなると必ず天井桟敷で一番安いで。ロイヤル・オペラハウスは、朝6時くらいに立ち見席の
が出るんですよ。そこに5時くらいからよく並んでいました。お金がないし。そして下の方の良い席に座るのがもう将来の夢で。絶対にあそこに座る! って。ウィーン国立歌劇場の天井桟敷は熱気がすごくて、観客も激しかったです。「こんなにのめり込むんだ、すごいなオペラって」と思いながら通っちゃいましたね。
ーー海外のクリエイターたちと仕事をする時にも、『ラ・ボエーム』的な感覚がありますか?
僕は根が暗いから、あまりこういう明るいことはないですけれど(笑)。ただ、一緒に仕事をすることが多い舞台美術家のボリス・クドチルカとか、海外のクリエイターと仕事をしていると、この感覚にすごく近いですね。いろいろなアイディアを出し合って、これがいい、これじゃない、じゃあこれを、と楽しむ。人と人が自由に、一緒になって作り上げる。明るく物事を考えて、脳を解放させて、その中で自分が気がつかなかったことが出てくるような開放された時間というのが最高なんですよね。
宮本亞門
ーー稽古場でもそういう関係を大切にされている?
だってメンバーはみんな対等じゃないですか。学校の同級生たちみたいに。なので僕は最大限、稽古場を明るくするようにしているんです。「こうしてください」と言うよりも、「どうですか? どう思います?」みたいなことを。相手に強制しているのではなく、共に作っている。オペラの場合は特に、皆さんものすごく譜面も音楽も勉強なさっている方達だから、彼らからも教えてほしいし。指揮者の方が音楽のことを教えてくださると、「なるほど。だったらここは、この感情かな」とかなる。そういう時はすごく嬉しくて。幸せな時間です。
ーー宮本さんにとって、音楽は特別な存在なのですね。
僕なりにです。「音楽と演劇の神様がいたら、僕は音楽の神様につく」って僕は前から言っているんです。音楽は僕が引きこもっていた時に救ってくれたし、音楽が僕をここまで導いてくれている、と思っているので。
ーーミュージカル・ファンにもぜひ『ラ・ボエーム』を観ていただきたいですね。
ミュージカルを好きな方には、『ラ・ボエーム』はぜひ観てほしいですね。『ラ・ボエーム』は原点として多くのクリエイターたちを刺激して、『RENT』だけでなく様々な作品が生まれています。その素晴らしい音楽と生の演奏、そして世界観を体感していただきたい。オペラを体験しないなんて、人生もったいないです!
宮本亞門
取材・文=井内美香 撮影=長澤直子
公演情報
『ラ・ボエーム』
〈ワールド・プレミエ〉
全4幕/原語(イタリア語)上演/日本語・英語字幕付
日程・会場:
2027年1月9日(土) よこすか芸術劇場 大劇場
2027年1月14日(木)~17日(日) 新国立劇場 オペラパレス
1月9日(土)・14日(木)・16日(土)
ミミ イ・スンジェ
マルチェッロ 又吉秀樹
15日(金)・17日(日)
ミミ 守木詩織
マルチェッロ 黒田祐貴
他
主催:公益財団法人東京二期会