渡辺睦樹(エレクトーン)

2016.2.2
インタビュー
クラシック

渡辺睦樹(エレクトーン)

シンプルなオルガンらしい面にこだわってみました

 エレクトーン奏者の渡辺睦樹の8年ぶりのリサイタル。添えられたタイトル「Organism」には、エレクトーンの中にあるオルガンとしてのアイデンティティを見直してみようという意味が込められている(言うまでもなく、「エレクトーン」は電子オルガンの商品名のひとつだ)。
「技術の発達によって、エレクトーンで表現可能な音楽の幅は従来のオルガンの領域には留まっていません。しかし、形状も奏法の基本も、明らかにオルガンを踏襲しています。今回はその、よりシンプルなオルガンらしい面にこだわってみました。また、オルガンのために書かれた楽譜をそのまま演奏したいという意図もあります。エレクトーンの演奏には、ほぼ必ず編曲という過程が必要です。原曲に細かく手を加えることも多く、これで作曲家は納得してくれるだろうかという疑問と不安が尽きません。オルガン作品には作曲家の書いた三段譜が存在します。クラシック音楽を奏する者として、作曲者自身の書いた楽譜をそのまま演奏してみたいと、ずっと思っていました」

オルガンとエレクトーンの特性

 プログラムは、オルガンの持つ特性が同時にエレクトーンの特性でもあることを示す選曲によっている。
「オルガンの大きな特性として、多数の音色による色彩的な効果が挙げられます。たとえば、ブクステフーデ『シャコンヌ』やアラン『連祷』、そしてラヴェル『ボレロ』は、それをエレクトーンの多彩な音色で再構成します。もうひとつの特性は“オルガンの音”という確固なイメージです。オルガンでもほぼ固定された音色で演奏されるレーガー『アヴェ・マリア』やアラン『ドリア旋法のコラール』を、同様に固定された音色で演奏することで、多彩な音色に頼らないエレクトーンの高い表現力も示したいと思います。ただしオルガンの音色ではなく、曲線的なエレクトーンならではの表現で」

クラシック音楽の楽器として認知してほしい

 エレクトーン界におけるクラシック音楽演奏の第一人者として「エレクトーン=ポピュラー音楽」だった頃から、その可能性を開拓してきた。それでも今はまだ、エレクトーンをクラシック音楽の楽器として認知してもらう段階だという。
「他の楽器と音楽面で共存できることを、広く認識してもらう時期だと感じています。そろそろクラシック音楽の楽器の仲間に入れてもらっても良いのではないかとは思うのですけれども…」

 ソフトウェア音源やシーケンサーなど、いわゆるシンセサイザーの発達によって、電子楽器としてのエレクトーンの独自性も変化している。
「エレクトーンはむしろ、限られた発音数や限定された音色エディットのパラメータなど、不器用な面のほうが目立ちます。ではこの楽器の独自性は何か。それは生身の人間が音楽を紡ぎ出しているという臨場性です。これだけの数の音色を、一人の人間が、その場限りの呼吸とタイミングだけで操りながら演奏する方法は、他にありません。この視点が、今後のエレクトーンの可能性に繋がっていくと考えています」

 このリサイタルを漢字一文字で表すなら“箱”だという。楽器の形状、“音のおもちゃ箱”的な特性、そしてさまざまな様式の作品が詰め合わせになったプログラム。
「ぜひ会場で“箱”を開けて中のものを手に取ってみてください」

取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)


YMF ELECTONE LIVE Vol.16 渡辺睦樹 リサイタル 〜Organism〜
2/7(日)17:00 ヤマハなんばセンター 3Fサロン「アルモニー」(大阪)
2/24(水)19:00 ヤマハホール(東京)
2/28(日)17:00 広小路ヤマハホール(名古屋)(完売)
問合せ:ヤマハ音楽振興会エレクーン事業推進室03-5773-0814
http://www.yamaha-mf.or.jp