バレンボイムらが会見〜東芝グランドコンサート35周年特別企画シュターツカペレ・ベルリン「ブルックナーツィクルス」ほか
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シュターツカペレ・ベルリン来日記者発表会
今年で35周年を迎えた、東芝グランドコンサート。1月31日の仙台公演を皮切りに2月25日まで全国で公演が行われる今回のツアーについて2月2日、都内で記者会見が行われた。指揮でピアノ・ソリストも務めるダニエル・バレンボイム、3公演を指揮するダーヴィト・アフカム、シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)から楽団代表としてソロ・ヴィオラ奏者(次席)のフォルカー・シュプレンガーと第1ヴァイオリン奏者(次席)のズザンネ・シェルガウトが登壇した。
(2016.2.2 都内 Photo:M.Terashi/TokyoMDE )
冒頭バレンボイムが挨拶、日本のクラシック音楽ファンに対しての想いを次のように述べた。
「初来日から50年。何度も日本で演奏できることを大変に嬉しく思う。最初は、日本の聴衆のみなさんがとても静かに演奏会で耳を傾けてくださること、その集中力に感銘を受けておりました。常に謙虚な姿勢で音楽に向き合ってくださっているのだと知り、それは、日本の社会、価値観の表れ、全てにおいて精神的な営みに対しての、日本のみなさんがもっておられる敬意の表れだと感じています」
ダニエル・バレンボイム
今回のツアーの核となるブルックナーツィクルスについては「ブルックナーを聴くという行為に対しては、聴衆のみなさんの意識がより一層重要になる」としながらも「日本の聴衆のみなさんが変わらず真摯に聴いてくださるのは素晴らしい。ブルックナーの交響曲全曲が一時期にまとめてツィクルスとして、しかも順番に演奏されることで、作曲家に向き合い、その発展を学ぶことがとても重要だと思います」と語った。
ブルックナーツィクルスに続けて行われる日本ツアーで2月23日からの3公演を指揮するアフカムは、1983年ドイツのフライブルク生まれ。近年急速に名声を確立、2015‐16シーズンよりスペイン国立管弦楽団の首席指揮者を務めている。これまでコンセルトヘボウ管、ミュンヘン・フィル、シュターツカペレ・ドレスデン、ベルリン・ドイツ響などを指揮している。
アフカムはバレンボイムについて「リハーサルを拝見していると、指揮者として、音楽家として、人間としてのマスタークラスを受けているような、そんな時間を積み重ねることができます。それは私のような若い指揮者にとって、たとえようもないほど価値のあるもの」と賛辞を贈った。また、自身指揮する公演については「ブラームスは大好きで、とてもなじみのある作曲家。モーツァルトの協奏交響曲も4人のソリストを堪能できるので、みなさんに聴いていただけることを今からとても楽しみにしております」と語った。
ダーヴィト・アフカム
楽団を代表して登壇したシュプレンガーはブルックナーツィクルスについて次のように意気込みを語った。
「ツィクルスはオーケストラにとって芸術的、身体的チャレンジ。とても特別なことです。われわれは、最大限の水準で演奏することにこだわっています。一人の作曲家に集中して取り組むことで、その音楽言語を深めることができますし、本当に重要なメッセージが何だったのかにたどり着くことができるのです」
フォルカー・シュプレンガー
ブルックナーの交響曲には常に「版(稿)」の問題がつきまとう。今回のブルックナーツィクルスでバレンボイムは、交響曲第8番でハース版を、第3番では第2稿(エーザー版)を選ぶなど独特な視点で臨むが、そのことについてバレンボイムは次のように述べた。
「第8番はノヴァーク版で演奏されることが多いですね。一番の大きな違いは、ノヴァークによってカットされている部分です。カットしたことで音楽が突如としてまったく異なる方向に向いてしまう。おそらくオリジナルのままでは聴衆の集中力が続かないだろう、作品の構造を見失ってしまうだろうと思っての改訂でしょうが、私は決してそんなことはないと思うんですね。何かを探し見つけるためには、あえて探し行かなければならないと考えるからです。
第3番はまた事情が異なります。最初の版は後のものよりもずっと長いのですけれども、その長さは問題ではありません。もちろんどれを選ぶかは私の主観的な判断ですので、これがルールではないということはお伝えしておきたいのですけれども、3番に関しては、作曲当初、ブルックナーは自分を見失っていたのだと思うのです。しかしながら、第2稿では、ブルックナー自身が自信を持って、確信を持って手を加えたと私は考えています。それに続く第3稿はブルックナーの友人たちが良かれと思って助言し、その提案を取り入れた形だと思うのですが、そこで加えられた部分は不必要だと思います。ただ、繰り返しになりますが、どの版を使って演奏するかは個人的な見解に基づきそれぞれの指揮者がそれぞれ決定すべきだと思います」
また、ブルックナーを聴くことについては、バレンボイム、シェルガウト、シュプレンガーがそれぞれの思いを語った。
バレンボイム
「本当に音楽をちゃんと聴くためには、耳を傾けなければいけない。listenとhearの違いなのですが、やはりきちんと耳を傾けるということが必要です。とりわけクラシック音楽、ブルックナーであれ、モーツァルトであれ、ブーレーズであれ、ワーグナーであれ変わらないのですけれども、耳を傾けることで初めて、音楽を認識できる、自分の中に取り込むことができる。
たしかにブルックナーの交響曲は、複雑さをもっている曲です。ですから、通常よりも集中力を求められるという作品ではありますが、音楽ファンのみなさんにはぜひコンサートにいらしていただいて、単に耳を傾け受け身で待つのではなく、能動的に聴きにきてほしい。そして曲に向き合って、耳を傾けてほしいと思っています。そうすればブルックナーの世界に入り込むことができると信じています。シーズンを分けて数曲ずつ聞くのとは違い、時系列を追って全曲を聴くことによって、各曲の違いに気づくことができます。私はそのほうがより一層、興味深い体験ができるのではないかと思うのです」
シュプレンガー
「マエストロもおっしゃっていましたが、注意深さを持って耳を傾けることで、色々なことをそこから学ぶことができるし、喜びもまたそこから生まれてくるのだということを、われわれも一緒に演奏することで体験できます。現代では、色々なところで音楽が溢れており、音楽を当たり前に享受している。耳を傾けるということは容易なことではありません。もちろん音楽の中には直接的に訴えてきて、耳を傾け、学びを受けることを必要としない音楽もあります。それはそれでいいと思います。しかし、きちんと耳を傾け、真摯に向き合う、そして何が起きているのか追いかける姿勢があれば、驚くような発見があります。ブルックナーは演奏しているときよりもむしろ、聴いているときに受ける感覚があって、そこでは時間という概念がなくなる。それがブルックナーの特別なところだと思います。特に第8番のアダージョはブルックナーのなかでも最も長い楽章ですが、時間を感じさせないのがブルックナーの妙だと思います」
シェルガウト
「ブルックナーを聴くために、内面の静寂さというものを持った状態で演奏会に足を運んでいただきたいと思います。そうすることで、ブルックナーの素晴らしさに気づいていただけると、私は思っています」
ズザンネ・シェルガウト
なお、会見の席上、2月13日に『ダニエル・バレンボイム、ワーグナーを大いに語る』と題した、公開インタビューが急遽決定、開催されることも発表された。
●ブルックナー・ツィクルス公演:サントリーホール
指揮・ピアノ:ダニエル・バレンボイム 管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン
(ピアノ演奏:2/9,10,11,13,15,20)
2/9(火)19:00 ツィクルスⅠ
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
ブルックナー:交響曲第1番 ハ短調 WAB101 *ノヴァーク版第1稿(リンツ稿)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
ブルックナー:交響曲第2番 ハ短調 WAB102 *ノヴァーク版第2稿(1877、キャラガン校訂版)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 『ワーグナー』 WAB103 *エーザー版(1877)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 『戴冠式』 K.537
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 『ロマンティック』 WAB104* *ノヴァーク版第2稿(1878/80)
ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB105 *ノヴァーク版
モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調 K.482
ブルックナー:交響曲第6番 イ長調 WAB106 *ノヴァーク版
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB107 *ノヴァーク版
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 WAB108 *ハース版
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
ブルックナー:交響曲第9番 ニ短調 WAB109 *ノヴァーク版
S席¥29000 A席¥25000 B席¥21000 C席¥17000 D席¥14000(C、D席完売)
S席¥25000 A席¥21000 B席¥18000 C席¥14000 D席¥11000(C、D席完売)
2/3(水)19:00 フェスティバルホール(リバティ・コンサーツ06-7732-8771)
指揮・ピアノ:ダニエル・バレンボイム 管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 『ワーグナー』 WAB103 *エーザー版(1877)
指揮・ピアノ:ダニエル・バレンボイム 管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン
モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595
ブルックナー:交響曲第1番 ハ短調 WAB101 *ノヴァーク版第1稿(リンツ稿)
指揮:ダニエル・バレンボイム 管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 WAB108 *ハース版
2/24(水)19:00 上野学園ホール(TSSテレビ新広島 事業部082-253-1010)
2/25(木)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール(テレビ西日本 事業部092-852-5507)
ウェーバー: 歌劇「魔弾の射手」序曲
モーツァルト:オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲 変ホ長調 K.297b
ソリスト:グレゴール・ウィット(オーボエ)、マティアス・グランダー(クラリネット)、イグナシオ・ガルシア(ホルン)、マティアス・バイアー(ファゴット)/ シュターツカペレ・ベルリン メンバー
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 Op.73
2/13(土)16:30 ドイツ文化会館OAGホール
主催:日本ワーグナー協会
共催:ドイツ文化センター(ゲーテ・インスティテュート東京)
きき手:舩木篤也(音楽評論家、日本ワーグナー協会理事)
(一般の方は有料(要事前連絡)。問:日本ワーグナー協会事務局 tel. 03-3454-5662)