上質の不条理劇、オイスターズ『この声』レポート
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オイスターズ『この声』兵庫公演より
『藪の中』+伝言ゲームの失敗が、笑いとほのかな恐怖を生む。
ユーモラスかつ不条理な会話劇で、名古屋からジワジワと全国的な注目度を集めつつある劇団「オイスターズ」。全国4ヶ所を回る最新作『この声』が、1月の兵庫公演で幕を開けた。
舞台は高校の美術室らしき一室。コンクールに出展する作品の製作に勤しむ美術教師(田内康介)の元に、見知らぬ女子生徒(横内更紗)が相談に乗って欲しいと頼みに来る。その内容は「友達がゾンビになりそうなので、どうしたらいいか」という、一瞬どうとらえたらよいかわからないもの。彼女からゾンビの生態や特徴を聞きながら、何とかアドバイスを与えた教師。しかしそこに、先の女子生徒の行動を「いじめ」と思い込んだ別の女子生徒(川上珠来)、死(=ゾンビ化?)の恐怖に怯えるさらに別の女子生徒(大脇ぱんだ)までもが入れ替わり立ち代わり相談に訪れ、教師は一人ひとりに良かれと思う助言を与えていくのだが…。
オイスターズ『この声』公演チラシ
芥川龍之介の『藪の中』に、伝言ゲームの失敗の面白さをミックスしたような会話劇だ。決して同時に現れない女子生徒たちは、教師の言葉に勝手に納得しては、生徒たちの中にある彼のイメージをどんどん塗り替えていく。たとえば死を恐れる生徒に「天国の人はほぼ裸」という話をしたら、次に現れた生徒が「友達が先生にセクハラされたと言っている」と言い出したり。一方で教師の方も、教室の外で起こっていることについては、彼女たちの説明からしかうかがい知ることができないため、正確な状況が把握できない不安に陥っていく。ゾンビ化しようとする生徒は本当にいるのか? 自分は今どのような立場に立たされているのか? 彼の「声」と生徒たちの「声」のスレ違いとカン違いと考え違いが連鎖する会話は、ディスコミュニケーションから生じるおかしな空気を巧みに作り上げながらも、やがて静かな恐怖感がゆっくり頭をもたげてくる。そして最後には、物理的にも心理的にもがんじがらめになった教師に対して、生徒たちの意外なつながりが明かされるという、ミステリー的な楽しみまで盛り込まれていた。
「声」というコミュニケーションツールが、使い方次第で救済にも凶器にもなる。現実の世界でもよくある現象を、“ゾンビ”というワンアイディアで見事にデフォルメしてみせた上質の不条理劇だ。現実はほんの少しのきっかけで非現実に侵食され、笑いは油断をするといつの間にか恐怖となって我々を取り込んでいく。単なるホラーとは違う形で「怖くて面白い」という感触を、久々に味わわせてもらった好舞台だった。2月には名古屋と東京、3月には豊橋で上演。
《名古屋公演》
■日時:2月11日(木)~13日(土) 19:30~ ※13日=11:00~/16:00~
※13日夜公演終演後にアフタートークを開催。
■場所:東文化小劇場
■料金:一般3,000円 24歳以下1,500円 高校生以下1,000円
《東京公演》
■日時:2月19日(金)~23日(火) 14:00~/19:00~ ※19日=19:30~、23日=14:00~
■場所:こまばアゴラ劇場
■料金:一般3,000円 24歳以下1,500円 高校生以下1,000円
《豊橋公演》
■日時:3月12日(土)・13日(日) 14:30~
※両日とも終演後にアフタートークを開催。
■場所:穂の国とよはし芸術劇場
■料金:一般3,000円 24歳以下1,500円 高校生以下1,000円 一般ペア5,000円(要予約)
■作・演出:平塚直隆
■出演:田内康介、横山更紗、川上珠来、大脇ぱんだ(劇団B級遊撃隊)
■公式サイト:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/