梶浦由記 曲作りのルーツ、ライブに対する考え方を語る
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梶浦由記
稀代のトラックメイカー 梶浦由記は、Kalafinaのプロデュースを筆頭に数々のアニメ・映像のサウンドトラックを精密に大胆に作り上げてきた。そんな彼女が、2016年3月21日東京国際フォーラムAを皮切りに個人名義のライブ『Yuki Kajiura LIVE vol.#13 ~featuring SWORD ART ONLINE』を行う。梶浦にとってのライブとは?見るものの感情を揺さぶるその楽曲作りの原点はどこなのか?赤裸々に語ってもらった。
―― 3/21にフォーラムAで行われるコンサートですが、人気アニメ『SWORD ART ONLINE』(以下、SAO)の楽曲縛りということですが。
本当にライブは趣味でやってきまして、やりたい曲ごちゃまぜでやってたんです。私はBGMを書いていて、決して多いほうじゃないと思うんですけど、それでも制作した楽曲がもう2~3000曲はあるんです。そこから何やるかわからないと予習ができないんですよね。CDを全部持ってる人もいませんし、もう販売していないものもあるし、映像の特典としてCDがついてるものも結構ありますし。
―― そうですね。
ライブにいらして下さる人には予習しないで来て、流れる音楽をそのまま楽しんでくださいっていう、ラフなライブを続けてきたんです。でも作品一本に縛ってやったことがなかったんですね。そういうのも見たいっていうアンケートを頂いたりして、私もそれは面白いかもねって話してる時に『SAO』のサントラが発売するっていうことになりまして、アルバムを出すのに合わせてライブをやるっていう綺麗な流れだ!ってスタッフと盛り上がって、それで決まりました。
―― 梶浦さんの中で『SAO』というのはどういう作品でした?
凄くいい意味で解りやすい作品だと思うんです。光と闇が融け合っている!とかではなく、主人公のキリトはカッコいいし、原作を読んでいてもそのカタルシスを求めてるところがあったんですよね。アニメもその原作のつくりをちゃんと周到してるし、期待を裏切らないというか、なので曲はすごく作りやすかったですね。
―― 確かに主人公のキリトはカッコいいし、ヒロインのアスナは可愛いですもんね。
裏がないというか、ここはバトルシーンだとしたらバトルシーンだし、キラキラしたシーンはきちんとキラキラしてるんです。その後ろに影があって…という作品ではないので、そこに合わせる曲も解りやすい曲が必要だと思ったし、求められましたね。ストレートな曲を作るのはとても楽しかったです。
―― ものすごい数の楽曲を作り、プロデュースをやられてますが、印象深かったものはありますか?
どの作品と組む時も必死で、子供が10人いたら10人とも可愛いんですよね。どの作品も印象深いし、語れって言われたらそれぞれ3日位語れますよ(笑)
―― 梶浦さんの曲はKalafinaなどの楽曲を筆頭に、印象的なものが多いですが、音楽の源流というのはどの辺になるのでしょうか?
そうですね、音楽が好きになったキッカケは、親がクラシック好きだったんです。しかも歌ものが好きなのでオペラばっかりだったんです。私の両親は大学の合唱サークルで出会って、一緒に歌を歌っていたという当時すごくベタに知り合っていて(笑)父は歌うのが好きだったんですよ。だから私は幼稚園からピアノを習わされて、その私のピアノ伴奏で歌いたかったみたいですね。小学校低学年の時はオペラしか聞いていなくてうんちくとか語っちゃったりして、今思うとイヤな小学生だったなと思いますよ(笑)
―― 確かに一般的ではないですね(笑)
そのうち兄がビートルズを聞き出したんです。私は音楽にハマるとドハマリするタイプだったんで、ビートルズばっかり聞き出して。小学校4~5年生の時は英語は習ってなかったんですけど、歌詞を全部覚えたくて全部書き写して、いつもその手描き歌詞カードを持ち歩いてましたね(笑)
―― やっぱり普通じゃない(笑)
マセてますよね、そう考えると私のルーツはオペラとビートルズなのかな。
―― そう言われたらなんとなく今の梶浦さんに繋がる気がしてきますね。クラシックな手法を使いつつも、凄くポップなメロディがあるというか。
当時ってインターネットもないし、情報収集源がないんですよ。買ったカセットテープかレコードか、若しくは家族に与えられるもの、あとはラジオくらいしか無い。録音も自由にできるほど機材が発達してなかったし、与えられた音楽一曲一曲の重要性が凄く重くて。何回も聞くんですよ、ビートルズとか何千回聞いたかわからないくらい。そういう意味での刷り込みは凄い大きいのかも。
―― そうですね、昔は一曲をひたすら聴きこんでましたね。
それしか無いですからね。でも私はいろんな音楽を気軽に聞ける、今の環境が悪いと言ってるんじゃなくて。ただ時代の特筆として、私たちは同じものを延々と聞くという音楽の練習法だったんですよ。一つのジャンルに固執する力は昔の人が強いんじゃないかな。でも今の人たちは情報量も多いし、自由だし、その分広い視野でものを作れると思います。音楽の作り方が今と昔で変わってくるのも当たり前なんだろうな、と思ったりしますね。
―― 僕の梶浦さんの印象は、物凄い広がりがあるのにテーマが解りやすいというか、主題が見えやすい印象があるんです。
それは凄い嬉しいですね、サウンドトラックというのは解りやすいのが第一命題だと思って作ってるので。まあこういうこと言うと商業音楽って言われちゃうのかな…決してそうじゃないと思ってるんですけど、サウンドトラックは”使いやすい”っていう前提条件が絶対だと思うんです。サウンドトラックは物語の空気感を作るものなので、悲しい曲は三秒で悲しいって思わせないといけないし。謎なら謎を三秒で、悲しみと不安を両方くれと言われたら三秒で悲しみと不安を感じさせることが必要なんです。サウンドトラックは自分のために作る曲ではないので、必要なのはいい曲じゃなくて使える曲。その上で作り手は劇中で使われる場面の感情をどう高めたらいいのかっていうのを、はっきり出すのが大事なんじゃないかと。
―― なるほど。
悲しみだとしても、”そこはかとない悲しみ”のシーンに物凄い悲しさを表現したらそれは違うじゃないですか。その場面のどういう役に立つか、この場面は見てる人のどういう気持ちを刺激したいのか?そういう部分をシナリオをきっちり読んで客観的に判斷して、そこに沿うものを作るっていうのが大事なんです。やっぱりサウンドトラックの曲というのはわかりやすさ、”いい曲かどうか”は三番目くらいかな?
―― それは例えばアニメの主題歌などの歌ものを作る時とは感覚が違うんでしょうか?
そうですね、やっぱり歌ものはいい曲だな、と思わせる度合いはサウンドトラックと比べたら全然高いですね。作品を強調する”顔”の部分なので。
―― そんな梶浦さんの”サウンドトラック”から構成される次のライブですが、やはり『SAO』の世界観に沿うような構成になるのでしょうか?
うーん、『SAO』のために作った曲なので勝手に作品の世界観は出てくると思うんですね。曲順なんかは聞いて面白い順番とか、音楽軸で作り変えていくと思いますよ。私のライブは面白い演出とか何もないんですよ、とにかく音楽しかやらない。驚かすこととか何もないし着替えもないし(笑)でもいい演奏でしっかり楽しんでもらいたいから、音楽を楽しんでもらうためにやる。
―― 『SAO』の楽曲を楽しんでもらう。
そう、ただ『SAO』の音楽を楽しんで貰いたいっていうネタの少ない企画なんですよ(笑)
―― 最近のライブは演出やサプライズも多い中で、物凄くピュアですね。
昔は女性四人出てくるので、着替えとかもやってたんですよ。でもそうするとアンコールで着替えの時間お客さんを4~5分待たせることになるじゃないですか。それが嫌で、それならもう一曲やろうよ、って話にね(笑)
―― そこまで純粋に音楽だけを提供するのは珍しい気もします。
私が聞きたいライブがそういうライブなんですよ。私着替えとかで待たされるのイラついちゃうんで(笑)人のライブは色々なやり方があるけど、私のライブくらいは私のやり方でいいかな、って。だからグッズも私がほしい物しか作らない、欲しいもの作ったから気に入った人買ってね、みたいな(笑)
―― 梶浦さんがいいと思うものだけやる、と。
音楽もライブも自分がいいと思うものをやって、ダメって言われたら諦めるしか無いじゃないですか。根本的に私は好きなものしか作れないって割り切っていて、でも自分が好きなものしか作れないのは幅が狭まっちゃう。だから愛を持つしかないんですよね、とにかく関わる作品を好きになる。いい所をたくさん見つけてその作品を愛するんです。それが私の作品との取り組み方なんです。
―― それは素敵な考え方だと思います、それだけ作品を愛してくれるというのはファンとしても嬉しいです。
ライブっていうのは私にとってご褒美なんですよ。そんなにアルバム枚数出しているわけでもないし、ライブやることがプロモーションになるわけじゃないんです。ある意味本当に趣味。だから辞めようと思ったら辞められるし、事務所も赤字にならないならやらせてやろうという気持ちなんじゃないかな(笑)
―― マネージャーさんが苦笑いしておりますが(笑)
でも出来る限りお客さんと一緒に音楽を楽しみたいし、それに付き合ってくれるならやり続けたいですね。
―― ある意味一番梶浦由記を感じられる場所なんでしょうか。
うーん、そう言われるのもちょっと嫌なんです。
―― えっ?なんででしょう?
一生懸命音楽を作ってCDを作ってるんですけど、ライブの方がCDより良かったです!って、言われるとそれはそれでちょっと「なにくそっ!」な気持ちになるんです。ただのわがままなんですけどね(笑)
―― あぁ、作曲家さんらしい意見ですねそれは!
勿論来てくれる人の価値観だからどう受け止めてもらってもいいんですけどね。でも私が一番精密に作って、これが私の作品ですっていうものがCDなどの音源で。それを作るのが仕事、作曲家と名乗るからにはそれを一番きちっとやりたい。ライブはあれかな、この一年こんな曲作ったよ、どうぞ聞いてよ!って皆とお祭りをするようなものかな、そこでいい曲だね!って褒められたいんですよ!またこれもわがままだけど!(一同爆笑)
―― そうですね、楽曲があって、ライブはお祭りっていうのは凄く腑に落ちるというか、納得できます。
本当にお客さんに感謝してるんですよ、だってお金払ってきてくれてるんですよ!それで私が好きなことやって、良かった!楽しかったって言われて、そんないい場所って無いなって、思いません?
―― 思います(笑)でも赤字になっちゃうと無くなっちゃう。
そう!だから頑張らないと!(笑)本当に好き勝手には出来ない、来てくれる人に「何聞きたい?オッケーそれやろうか?」くらいの近い距離でやれたらな、って。お互い楽しめるのが最高じゃないですか!
―― いつまでも有ると思うなYuki Kajiura LIVE、ですね。
私、死後に私のライブとかするなって言ってるんです。
―― 追憶ライブとかですか?
それあまり好きじゃなくて!褒めてくれるなら生きてるうちに褒めてって思うんです。メッセージとか頂くのも生きているうちしか読めないんだから、今のうちに送って欲しいんですよ(笑)だからうちのライブは私の生きてる間しか無いから、来てね、って事で(一同爆笑)
―― 今のうちにメッセージを送って、ライブを見に行って、曲を聞いて、褒めてね、と。
そうそう!それで!(笑)
インタビュー・文=加東岳史