マリナーとアカデミー室内管弦楽団、最後の来日ツアー
Sir Neville Marinner (photo by:Mark Allan)
1970年初頭に登場したマリナー&アカデミー室内管弦楽団によるヴィヴァルディ「四季」のレコードは、斬新な解釈とスマートな演奏で、同曲のイメージを一新した。その後当コンビは、モーツァルトをはじめとする膨大な録音で名を広め、1984年の映画「アマデウス」の演奏も担当。特に冒頭の交響曲第25番で絶大なインパクトを与えた。同時に1972年以降たびたび来日。編成も拡大し、ロマン派の交響曲も聴かせた。一方でマリナーは、フル・オーケストラの指揮者として活躍。アカデミー室内管は近年、首席客演指揮者ペライアと来日し、依然ノーブルな持ち味を示している。
Sir Neville Marinner (photo by:Mark Allan)
これらすべての総決算が、コンビとしては久々となる今回の来日公演である。マリナーは今年92歳。1958年に自ら創設し、現在に至るまで関わりをもつ楽団との最後の日本ツアーが、歴史的な公演であるのは言うまでもない。
当コンビの特徴は、明快で洗練された流麗かつ爽快な音楽。その豊潤で心地よい演奏は、ピリオド・アプローチが室内オケの主流を成す今、むしろ新鮮に響くであろう。そして、近年たびたびN響に客演し、温かみや味わいを増した至芸を披露している現役屈指の長老マリナーが、60年近く手塩にかけた楽団といかなる音楽を聴かせてくれるのか? 興味は尽きない。
Sir Neville Marinner (photo by:Mark Allan)
プログラムも周到だ。プロコフィエフの「古典交響曲」は、ハイドンを20世紀に蘇らせた室内オケの定番曲。軽妙で歯切れ良い音楽は、当コンビにまさしく相応しい。ヴォーン=ウィリアムズの「タリスの主題による幻想曲」は、弦楽四重奏と2群の弦楽オーケストラによる神秘的な佳品。ここでは本場イギリスの音楽家のみ表出可能な美感が耳を慰める。そしておなじみベートーヴェンの交響曲第7番は、CDや来日公演で快演を残してきた作品。彼らの精緻さと爽快さがフルに生きるこの名曲で、最後の炎が燃やされる。
もう聴くことはないのだ。稀代の名コンビの音と音楽をしかと耳に焼き付けたい。