SHISHAMOのポップネスとオリジナリティが明確化、深化した快作『SHISHAMO 3』を宮崎朝子が紐解く
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SHISHAMO
日増しに注目度を増す3ピースバンド・SHISHAMOが3rdフルアルバム『SHISHAMO 3』をリリースする。シングル「熱帯夜」「君とゲレンデ」のほか、すでにライブでも披露されている「ごめんね、恋心」「中庭の少女たち」などを収録した本作は、彼女たちのポピュラリティの高さが前面に押し出された作品に仕上がっている。今回、SPICEでは宮崎朝子(Gt/Vo)に単独インタビューを実施。昨年行われた2度の全国ツアー、「ミュージックステーション」出演、初の武道館公演などを経て制作された『SHISHAMO 3』についてじっくりと訊いた。
――まずはシングル「君とゲレンデ」リリース以降の活動を振り返ってみたいと思います。まず2015年11月に音楽番組「ミュージックステーション」に出演しました。
そうですね。私たちも緊張してたんですけど、「たぶん、テレビを観てくれてる人がいちばん緊張してるだろうね」なんて話してたんです。ファンもそうだし、親とか友達とか。私たちって、あまり(テレビに出演する)イメージがなかったと思うし……。でも、Mステは前から「いつか出てみたいね」って言ってたし、タイミングも良かったんじゃないかなって。
――「君とゲレンデ」のリリースタイミングでよかった、ということ?
そうですね。「熱帯夜」もとっても良い曲だと思うんですけど、SHISHAMOの自己紹介になるような曲とはちょっと違うので。「君とゲレンデ」を作ったのも、「君と夏フェス」で知ってくれた人が多いっていうのもあって、「ああいう感じの曲をまた作りたい」と思ったのがきっかけだったから。SHISHAMOの入り口になるような曲っていうコンセプトもあったし(テレビで演奏するには)、ちょうど良かったと思います。しかも、ふだんのSHISHAMOのままで出られた感じもあって。
――反響はどうでした?
その日の夜中にラジオに出て、次の日が福岡でワンマンライヴだったんですけど、ライヴの後でラーメンを食べてたら「あ、昨日テレビに出てた歌の上手い子だ」って言われたり。ぜんぜんバンドとかに興味がなさそうなおばちゃんからも「SHISHAMOの子だ」って気付いてもらえたりして(笑)。「Mステに出るってこういうことなんだな」って思ったし、SHISHAMOってバンド名で良かったなって。覚えやすいじゃないですか。
――一度聴いたら忘れないですからね。そして2016年1月4日は初の武道館ライブも。あのときのライヴも普段通りでしたよね。
ホントにその通りで、いつも以上にいつも通りのライブだったと思います。この上ないほど自然体でライヴをやっちゃったんですけど、それが良かったのかどうか……。
――でも「普段通りのライヴをやろう」って思ってたんでしょ?
そうなんですよね。MCで話すことも事前に決めてなくて、「武道館の景色を見たら、言いたいことがたくさん出てくるだろうな」と思ってたら、何にも出てこなくて(笑)。たぶん、武道館を目指してきたわけではないからだと思うんですけどね。最初の2~3曲はすごく緊張してたけど、すぐに落ち着けたし。ライヴ自体もいつもと同じで「あの曲は良かった」「あの曲は反省点だね」っていう感じでしたね。
SHISHAMO・宮崎朝子
――ひとつだけ演出があったじゃないですか。“SHISHAMOの武道館のライブに来た”という設定の男の子と女の子をリアルタイムで中継するっていう。恋愛ドラマを生で見てるような臨場感があって、お客さんも喜んでましたよね。
あれはみんなで話し合って決めました。SHISHAMOの曲ってストーリー性があって、「少女マンガみたい」って言ってもらえることも多いんですよ。そういうふうに聴いてくれてる人も多いから、「ライヴの1日をドラマにする」っていうのはピッタリだなって。最後のところで、ちょっとモヤッとするシーンがあるじゃないですか。
――ライブが終わって、男の子が告白しそうになるっていう。
そうそう。あのときに客席から「えーっ?」って声が聞こえてきたから、ブーイングされてるのかと思って(笑)。でも、良かったと思います。SHISHAMOだからこそ、武道館だからこそ出来た演出だなって。
――ではニューアルバム『SHISHAMO 3』について。武道館ライヴのあともレコーディングは続いてたんですよね?
そうですね。アルバムを作るときはバランスを重視しているから、「この曲を入れるなら、こういう感じの曲も欲しくない?」とか「こういう曲があったら、こっちの曲がもっと際立つよね」ということを考えるんです。最初にアルバムの全体図を決めてから作っていくというか。そうやって考えれば考えるほど、「曲が足りない。作らなきゃ」ってことになって。
――だからスケジュールがギリギリになる、と。
はい(笑)。歌詞の内容も偏らないようにしたいし、「キラッとしたのが欲しいよね」とか「シットリした感じの曲が足りない」とかフワッとしたところから曲を作ることもあるし。そうやってコンセプトを決めて作るほうが得意なんですよ、もともと。
――アルバム全体のイメージもハッキリしていたんですか?
『SHISHAMO 2』と同じことをしちゃダメだなっていうのはありました。“2”を出したときに「大人っぽくなった」って言われるようになったし、自分たちとしても「いまのSHISHAMOで出来る最高のアルバムがコレだ」という気分だったんですけど、そこから2本ツアーを回って、さらにやれることが増えていって。あとMステに出たり、武道館でライヴをやったことも大きかったんですよね。そういう規模のバンドになってきたんだから、余計に前と同じことをやってちゃダメだなって。
――いままでよりも幅広い層のリスナーに知られるようになったわけですからね。
そうそう。だから幅広い人に聴かれても恥ずかしくないようなアルバムを作らないとなって。いま“2”を聴くと、武道館でライヴをやっているバンドのアルバムじゃないなって思うので(笑)。1作ごとに気合いもハードルも上がってますね。
――良い意味で聴きやすくなってるというか、ポップスとしての精度も上がっている印象がありました。
「自分達が楽しければいい」「自分たちがやりたい曲だけやれればいい」という考え方もあると思うけど、私はそうじゃなくて。聴いてもらえないと意味ないと思うんですよ、曲は。いろんな人の中に入り込んで「いいね」って言ってもらえないと、曲がかわいそうっていう気持ちもあるし、基本的には、なるべくたくさんの人に好きになってもらいたいと思って作ってますね。そのなかでときどき自己満足的に好きな曲を入れて。それだけで楽しいんですよ、私は。
SHISHAMO・吉川美冴貴
――「たくさんの人が好きになってくれる曲を作れるはず」という自信も出て来た?
そこまで自信があるわけではないですけどね。「まだまだだな」という部分もたくさんあるし、自分がいいと思った曲って、あまり人気がなかったりするんですよ。だから、自分を信用しないようにしてます(笑)。
――でもライブで披露している「中庭の少女たち」はオーディエンスの間でも人気なんですよね?
初めて(リスナーと)気が合った曲かもしれないですね(笑)。それはホントにビックリしたし、すごく嬉しいんですよ。「中庭の少女たち」がワンコーラス出来たときに「どうしよう、すごい好きな曲が出来ちゃった」って思ったんです。私がこんなに気に入ってるってことは、誰も好きになってくれないかも……って。
――(笑)。そこまで手ごたえを感じた曲って、他にもあるんですか?
「深夜のラジオ」以来かな? あと「さよならの季節」もわりと好きです。そんなに多くないですね。
――「中庭の少女たち」は歌詞もいいですよね。少女たちの昼休みの光景が描かれてますが、こういう経験って実際にはないですよね?
ひどい言われようですね(一同笑)。でも、ホントにそうなんです。この曲は歌詞がすごく難しくて、ワンコーラス書いた後「友達とお昼ごはんを食べるって、どんな感じだっけ?」ってわからなくなっちゃって。完成させるまでにすごく時間がかかりました。
――宮崎さんは“女の子”っていう存在が好きなんでしょうね。
好きですね。それが伝わってほしいんですよ、この曲で。聴いてる人のなかには「私(宮崎)がこういう経験をしてるんだろうな」って思う人もいるかもしれないけど、そうじゃなくて、どっちかと言うとそれを外から見ていたいんです。「中庭の少女たち」は女学院のイメージなんですよ。清純で、まだオシャレも知らないような。そういう女の子同士の世界ってすごく神秘的だし、入れない感じがあるというか。
――「手のひらの宇宙」はスマートフォンをモチーフにした曲。これはまさに“誰もがわかる”曲ですよね。
私、ツムツムをやってるんですけど、Twitterのリプライで「ツムツムの曲を作ってください」っていうのがあって、それもいいかなって思ったんですよね。このテーマならみんな分かるしなって思ったんですけど、書いてみたらけっこう楽しくて。ただ、レコーディングで歌うときに「この主人公は結局、何が言いたいんだろう?」ってわからなくなっちゃって。「もう君を好きじゃないから」って言ってるのに、最後のほうでは「もしかして、好きじゃないってこともなさそうだな」って思える歌詞もあって。私が歌詞を書いたんですけど、そこが分からなくて歌えなくなったんです。
――曲の主人公に感情移入できないと歌えない?
歌えないですね。で、改めて「この子には何があったんだろう? ホントはどう思ってるんだろう?」って考えて。「実際はまだ好きな気持ちがあるんだけど“もう好きじゃない”って言ってる」というのが伝わるように歌おうと思ったんですよね。
――すごく繊細な作業じゃないですか、それ。
そうなんですよ。まあ、聴いてくれる人はそこまで気にしてないというか、普通に歌っても気に入ってくれるとは思うんですけど。以前よりはこだわりが緩くなってる部分もあるんだけど、歌にはどうしてもこだわっちゃいますね。
SHISHAMO・松岡彩
――アルバムの最後に収録されている「みんなのうた」も印象的でした。
いつもアルバムの最後の曲は大事にしているんですけど、今回は「いろんな人に聴いてほしい」と思って作ったアルバムだし、特に最後の曲は(リスナーを)限定したくなくて。他の曲には特定の主人公がいるんですけど、この曲は「いろんな人を支える応援ソングになったらいいな」と思っていて、だからタイトルも「みんなのうた」なんです。
――ホーン・セクションを取り入れたアレンジも新鮮ですよね。バンド以外の音を入れたいという気持ちもあったんですか?
「イントロでバンドじゃない音が鳴ってる」というイメージがあったから入れたっていう感じですね。「バンド以外の楽器も取り入れたい」みたいな意思表示はぜんぜんないんですよ。何よりも曲がいちばん大事だし、曲を良くするために必要だったからホーンを入れただけというか。
――すべてが明確ですよね、ホントに。たぶん宮崎さんにはプロデューサー的な視点があるんだと思います。
プロデューサーほうが向いてるような気がします(笑)。たとえば(マスコミ向けの)紙資料の紙の色とかにもこだわっちゃうんですよ。「ちょっと暗くない?」とか、もっと違う紙を使いたいとか。
――確かにこの紙資料、カラフルで可愛いですよね。
それだけでワクワクするじゃないですか。ひとつも手を抜けないタイプだし、一緒にやっているスタッフのみなさんも、小さいことまでちゃんと確認してくれるんですよ。そこは信頼し合ってやれているし、いいチームだなって思いますね。関わってくれる人が多くなってきて、それぞれの人のなかに“SHISHAMOはこういうバンド”っていうのがあると思うんですね。でも、たぶん私のなかのSHISHAMOが正しいはずなんです。
――そうですね。宮崎さんが曲を書いて、そこからすべてが始まっているわけだし。
だから、私にしか分からないことも多いんですよね、SHISHAMOに関しては。ただ、分からないこともたくさんあるから、そこをサポートしてもらったり、教えてもらいながらやってる感じですね。
――なるほど。時期によって「いまはこれをやるべき」というのも明確なんですか?
はい。バンドが本格的に始まったときから、予定をぜんぶ決めてやってるので。いまのところ、大体予定通りなんですよ(笑)。先のことも決めてるから「それを実現するために、いまはこれをやろう」っていうのもハッキリしていて。そういうところで迷ったことはないですね。
――それはメンバーにも話してる?
うん、話します。ふだん、あまりマジメな話をしないですけど、そこは3人で共有しないといけないので。……まあ、ちょっと疲れますけどね。何も考えないでバンドをやりたいなって思うこともあるし(笑)。
――4月9日(土)からは全国ツアー「SHISHAMO ワンマンツアー 2016春『少女たちが恋心に気付いたのは、宇宙からの旅がえり』」がスタートします。初のホールツアーということもあり、これまでとはまた違った雰囲気のライヴになりそうですね。
私たちもそうだし、見てくれる人たちの印象もかなり違うと思います。アルバムの曲をじっくり聴いてほしいので、「どうすれば届くか」ということを考えながらやりたいですね。他にもいろいろ考えていることもあるし……まだナイショですけど(笑)。今回のツアー、柄にもなく楽しみなんですよ。
――柄にもなくって(笑)。ツアーが楽しみなのは、良いことじゃないですか?
いや、なんかワクワクしてるのが恥ずかしいなって。この前も家でボソッと「楽しみだな~」って呟いたら、お母さんに「え、何が? ツアー?」って言われちゃって(笑)。さっき“疲れるから何も考えないでバンドやりたい”って言いましたけど、いろいろ考えるのがやっぱり好きなんですよ。SHISHAMOらしいライヴが出来ると思うので、がんばります!!!
撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=森朋之
SHISHAMO
SHISHAMO
『SHISHAMO 3』
「少女たちが恋心に気付いたのは、宇宙からの旅がえり」
前売:全席指定 ¥4,400-(税込)
ファミリーマート先行:2016年3月1日(火) 12:00~3月7日(月)23:59
4月9日(土) 埼玉 川口総合文化センター リリア(メインホール)(17:00開場 17:30開演)
4月16日(土) 神戸 神戸国際会館こくさいホール (17:00開場 17:30開演)
4月17日(日) 広島 JMSアステールプラザ 大ホール (17:00開場 17:30開演)
4月23日(土) 茨城 結城市民文化センター アクロス (17:00開場 17:30開演)
4月24日(日) 千葉 市原市市民会館 (17:00開場 17:30開演)
5月1日(日) 高松 サンポートホール高松 (17:00開場 17:30開演)
5月4日(水祝) 金沢 本多の森ホール (17:00開場 17:30開演)
5月5日(木祝) 名古屋 名古屋国際会議場 センチュリーホール (17:00開場 17:30開演)
5月7日(土) 神奈川 神奈川県民ホール 大ホール (17:00開場 17:30開演)
5月8日(日) 仙台 イズミティ21(大ホール) (17:00開場 17:30開演)
5月15日(日) 福岡 福岡サンパレス (17:00開場 17:30開演)
オフィシャルサイトはこちら>>http://shishamo.biz/