明治座3月公演『かあちゃん』 藤山直美インタビュー&囲みレポート
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山本周五郎原作の人情ばなしを石井ふく子が演出する、明治座3月公演『かあちゃん』が3月5日に開幕した。江戸の裏長屋に住むお勝を主人公に、真実の愛や人間の真心を問いかける珠玉の物語だ。その作品で親のない子を引き取り、女手一つで育てているお勝を演じるのが、天性の女優として多くの観客を惹きつけている藤山直美。昨年の明治座公演『かたき同志』に続いて、石井演出によるこの舞台に取り組む心情を語ってもらった演劇ぶっく4月号インタビューを、別バージョンの写真とともにご紹介。
子役をしていたから子役の気持ちがわかる
──石井ふく子さんとは、昨年の『かたき同志』でもご一緒でしたが、石井演出の魅力は?
先生の演出は神経が散らないんです。フォーカスで描かれますので、あれこれ色んな人物が出てきたり、あんな問題こんな問題が起きてとか、ややこしくならないんです。観ているお客さんの気が散らないし、わかりやすい。そこが喜ばれているのではないかと思います。
──今回の物語は親と子の人情ばなしで、選んだのは石井さんだそうですが、なぜこの作品なのかというのは?
今の時代への問いかけじゃないんでしょうか。親子の嫌な事件とかよく聞きますよね。そういう世間へ「皆さんなにか忘れてませんか?」みたいなことを、もう一度問いかけたかったのだと思います。
──藤山さんのお勝は、引き取った子供を2人育てていますね。昨年の『かたき同志』でも、藤山さんと小さな女の子とのシーンがとても心に沁みました。
私、子役あがりなんですよ。3つ半くらいからずっと子役やっていたので、子役さんの気持ちがちょっとぐらいはわかるんです。「この子、今、こういう気持ちだろうな」とか。なんかその頃の自分のことを思い出すんです。でも子役あがりの役者ってさめてますよ。
──どういうふうにさめているのですか?
調子に乗らない。お芝居のことはちゃんとしますけど、普段は静かに生きてて、舞台が終わってからみんなで飲みに行って演劇を語るとかいうのもないです。とくに私みたいに役者の家に生まれていると、役者をしていることが不思議でも何でもなくて、世間の職業のひとつなんです。
──その職業のなかで、喜びはどんなことですか?
いいお芝居だったなぁと思ってもらうのが一番なんです。誰が良かったなとかあの役者が良かったなんて、なくてもいいんです。「いいお芝居だった」。そう思っていただくために、舞台の上でもう一人、自分がいるんです。その自分と、この時はあまり動かないほうがいいとか、後ろ向いてるほうがいいとか相談しながら、お芝居全体を考えて引き算してるんです。
お客さまには楽屋なんて関係ないですから
──役者さんの中には役を私生活まで引きずる人もいると思いますが、それはないのですか?
ないです。仕事なので、着いたらタイムカード入れて、帰りはタイムカード戻してという感覚です。ずーっと役でいたら変になりますから。
──役者である前に普通の人間というスタンスを大事にされているわけですね。
小さい頃に、親に「挨拶をちゃんとしなさい」、「相手によって頭の下げ方を変えたりするな」と、それだけは厳しく教えられたんです。そういう普通のことと一緒です。誰が偉いとか誰が下とか、舞台の上では関係ないし、権威とか組織とかまったく興味ないんです。自分で部屋を決められる場合は、座長部屋とか入りませんから。年のいった役者さん、足の悪い人とかにラクなほうに入ってもらう。お客さまにしたら楽屋なんて関係ないですもん。
──そういう考え方は、ある意味とても合理的で、余計な権威とか格差に縛られなくて自由ですね。
そこそこ長く生きてきた中で、何が必要か何が大事かということでは、どんどん省かれていきますね。世間から見たらこのへんの段階にいてとか、このへんのクオリティにいてとか、舞台の上ではそんなことどうでもいいことなんです。
──だから今回の山本周五郎のような作品世界を演じるのにぴったりなのですね。お客さまも演じる人の中身を見破りますから。
私は長屋とかそういう系統の作品だけでいいんです。お武家さまとか大家の奥様というような役は、そのニンに合う役者さんがいらっしゃいますから。庶民とかそういうのがいいのと違いますか(笑)。
──お勝さんを楽しみにしています。最後に意気込みをぜひ。
石井先生のプロデュースで、先生が厳選された俳優の方たちと一緒の舞台なので、よそを向いてる人とか違うことを考えてる人はひとりもいません。気持ちいい舞台になると思います。先生が丁寧に丁寧に作られている舞台です。ぜひご覧になってください。
ふじやまなおみ〇京都府出身。喜劇王・藤山寛美の三女。ミュージカル『見上げてごらん夜の星を!』で子役としてデビュー。主な出演作品は、ドラマはNHK連続テレビ小説『おんなは度胸』『芋たこなんきん』(NHK)『居酒屋もへじ3─嵐の恋─』(TBS)、映画は『顔』『ゲロッパ!』、舞台は『夫婦善哉』『浅草パラダイス』『妻をめとらば~晶子と鉄幹~』『ええから加減』『おもろい女』『かたき同志』など。
太川陽介、中村雅俊、藤山直美、八千草薫
太川陽介、中村雅俊、藤山直美、八千草薫
【囲みレポート】
この作品の明治座公演の初日前日にあたる3月4日、報道関係者を集めて、囲み取材と公開舞台稽古が行われた。囲み取材には藤山直美、中村雅俊、太川陽介、八千草薫が出席し、取材陣の質問に答えた。
──今回は石井先生の演出、山本周五郎さんの原作で、これだけのメンバーが集まりましたが、改めていかがですか。
藤山 お客さんに喜んでいただけるように頑張ります。
──中村雅俊さんと一緒の舞台ですが、稽古場からの雰囲気はいかがですか。
藤山 普通ですよね…。
中村 特別なことは(笑)。雰囲気はすごく良く、本番もすごく(観客の)反応が良いよね。
──意外にも初出演なんですよね。
中村 時代劇は初めてですね、舞台は数少ないんですけどやってますので。
──藤山さんとはずいぶん前に夫婦役を。
中村 ええ、そうなんです。もう…
藤山・中村 35年くらい前です。
──その時の印象からは。
中村 いや、まんまなんですよ。
藤山 私も、まんま。
中村 全然変わってない感じの人で、すごくやりやすいです。
──藤山さんと八千草さんは?
八千草 初めてです。すごく楽しくやらせていただいてます。
──震災から今年で5年。今回喜劇ですから、笑いを届けるということでは?
中村 そうですね、被災地も笑顔が増えているといいですね。本当はぜひ、被災された方々にこの舞台を観てもらうとね、直美ちゃんのワールドが全開ですから。切なくて、また思い切り笑えて、感情的な起伏がすごくあって、観に来た人は大満足で帰るという。
八千草 そうですね。
──改めて、見どころを。
藤山 見どころは何ですか?
中村 あなたです。
太川 あははは(笑)。
藤山 そういうのじゃないですけども、みんな真面目に、真摯に取り組んで、一つのお芝居のバランスがいいと思うんですけど。
──だんだん“日本のお母さん”に近づいている気がしませんか。
藤山 それは、しゃあないですわね(笑)。まぁ、お母さんに見えたらいいなと思います。
太川陽介、中村雅俊、藤山直美、八千草薫
※公演レビューは舞台写真とともに後日、掲載予定です。
〈公演情報〉
明治座3月公演
『かあちゃん』
原作◇山本周五郎
脚本◇鎌田敏夫
潤色・演出◇石井ふく子
出演◇藤山直美 中村雅俊 太川陽介
八千草薫 ほか
3/5~27◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階前方)¥13,000 A席(2階後方)¥9,000 B席(3階)¥6,500(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座 03-3666-6666(10:00-17:00)
http://www.meijiza.co.jp/info/2016_03/
【インタビュー/宮田華子 撮影/岩村美佳 囲み取材・文・撮影/内河 文】