學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─、最終章にていよいよ建國!

2016.3.25
レポート
舞台
アニメ/ゲーム

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

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古屋兎丸原作の人気コミック『帝一の國』を“學蘭歌劇”というニュージャンルのエンターテインメントとして舞台化し人気を博している本シリーズも、3作目にしていよいよ最終章を迎えた。マンガの連載とシリーズ上演が同時に進行していたばかりではなく、なんとそのエンドマークを原作よりも先に舞台で描いてしまうという前代未聞の展開でも注目を集めている『帝一の國』。舞台と原作の幸福な蜜月、その到達点にあった“國”のありかたとは──


「勝利の旗を掲げろ」と、凛々しい表情と独特のキビキビとしたフォーメーションで歌い踊るキャストたち。『帝一の國』のオープニングはいつもスリリングなカッコ良さがある。もちろん、“物語の全風景を担う”オールラウンダーたちの活躍も含め、今回も幕開け直後から観客の目はすべての登場人物に釘付け。學蘭歌劇の作法にのっけからのめり込んでいった。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

第一章・第二章共に、物語の柱は主人公の赤場帝一を中心とした学園政権闘争。将来の政界入りも約束されている海帝高校の生徒会長をめぐる争いは常に熾烈だった。策略、裏切り、根回し、暴走、情報戦…と、これまであらゆる手を使って戦って来た学生たち。しかし、学園祭など学校行事を舞台にさまざまな作戦が決行されてきたこれまでは、“子どものケンカ”レベル。この最終章は学園内に不穏な活動で派閥を拡大していく“宗教団体”が出現。その裏にはいよいよ脈々と続く“海帝=政界裏ルート”も見え隠れし…。黒さも卑劣さもレベルアップした敵を相手に、これまでの闘争を通して少しずつ人間力を身に付け成長して来た帝一は、仲間と共にどう立ち向かっていくのか。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

白い肌とつぶらな瞳と愚かしいまでの一生懸命さという、まさに兎丸作品の主人公として汗をかきまくっている帝一役の木村 了。パロディーやおふざけ、細かなギャグが散りばめられたこのステージがただのドタバタ劇になっていないのは、クリエイター陣の原作へのリスペクトはもちろん、彼の演劇人として芯の通った芝居が全体を支えているからこそ。笑いと緊張が交互に押し寄せ、手に汗握る場面もたびたび。これまで以上にぎゅっと濃密にストーリーが詰め込まれた最終章を観ると、それくらいこの帝一というキャラクターはあらゆるパワーを必要とする役どころなんだと改めて思わされる。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

帝一の親友であり今回“洗脳”という恐ろしい体験から生還して来る榊原光明役の三津谷亮、どこまでも正統派好青年な帝一の好敵手・大鷹弾役の入江甚儀も第一章から積み重ねて来た役への愛情と帝一への友情で、さらに力強く進化。帝一と弾のフィアンセとなるヒロイン美美子(井上小百合・樋口日奈のWキャスト)、彼女を狙う映画スターの野々宮裕次郎(市川知宏)、ちょっと面倒くさい初恋風味の夢島 玲(佐藤永典)&久我信士(佐藤流司)、頭脳派の羽入慎之助(原嶋元久)、危険思想を抱く高天原蒜山(瀬戸祐介)ら1年生たちもさらにそのキャラクターの内面へと迫る描写が増え、物語に厚みを加えていた。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

80’Sを中心とした、ポップミュージック愛にあふれる劇中歌も百花繚乱。東郷菊馬(吉川純広)率いるシルク・ド・キクマの“世界の終わり”を煽る洗脳ソング、ファッショナブルなブリティッシュテイストがお似合いの成田瑠流可(細貝 圭)と光家吾朗(冨森ジャスティン)のナンバーほか、キャラクターの心情と遊び心が同居する楽曲とバラエティー豊かなダンスもまた、學蘭歌劇には欠かせない要素(蛇足だが、ソラミミを頼りにそれぞれの楽曲のルーツに迫ってみるのも面白い)。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

帝一の父・譲介(大堀こういち)が敗北を味わった帝一に人生の先輩としてかける言葉は素直に心に響き、完璧に見える森園億人(大河元気・味のある映像で出演!)が一瞬見せる苦悩もビター。基本コミカルな語り口の本シリーズにあって、すべてのキャラクターがお祭り気分の裏にある感情の襞を露呈しながら前へ進んでいく瞬間を見せるのが、この最終章。原作者が学園闘争描写の裏に仕込んだ思い、帝一たちが全身全霊で追い求めなし得ようとしていたコトの重大さへと物語がぐぐっと収束していく中で得られるカタルシスは大きい。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)

本当の意味での“帝一の國”とはどんな國なのか。もちろん答えはここにあり、その精神は今後の生徒会へ新たな伝統として引き継がれていくことだろう。帝一たちの闘争の記憶は、決して風化することはないのだ。

學蘭歌劇『帝一の國』─血戦のラストダンス─ (c)古谷兎丸/集英社(撮影=原地達浩)


 
撮影=原地達浩 文=横澤由香
公演情報
學蘭歌劇 『帝一の國』​ ─血戦のラストダンス─

日時:2016年3月17日(木)~2016年3月27日(日)
会場:AiiA 2.5 Theater Tokyo (東京)

原作:古屋兎丸 「帝一の國」(集英社 「ジャンプSQ.」連載)
脚本:喜安浩平
演出:小林顕作 
出演者
 木村 了、入江甚儀、三津谷 亮、吉川純広、谷戸亮太 
 細貝 圭、冨森ジャスティン、市川知宏、佐藤永典、佐藤流司、原嶋元久、瀬戸祐介、大河元気(映像出演) 
 井上小百合(乃木坂46)、樋口日奈(乃木坂46) ※Wキャスト 
 今奈良孝行、竹内 寿、中谷 竜、ぎたろー 
 平沼紀久、大堀こういち 
 ※森園億人役の大河元気は【映像出演】となります。予めご了承ください。

公式HP:http://www.nelke.co.jp/stage/teiichinokuni_final/