SHE’Sが新たな旅立ちをうたった、涙と歓喜のQUATTROワンマン
SHE'S Photo by 西槇太一
She'll be fine -chapter.0- 2016.3.14 渋谷CLUB QUATTRO
井上竜馬(Key/Vo.)「メジャーデビューかぁとか、遠くに行っちゃうんやろうなぁとか、寂しくなるなぁとか、いろいろあると思うんですよ。でも俺は、みんなと行きたい。寂しいんじゃなくて、みんなで行きたい。みんなともっともっと遠くまで行きたい。わがままかな? 出来ると思ってるんやけど。一緒に行かへんか? 着いてきてくれへん? なぁ! もっと遠くへ! みんなで行こう!」
大阪発の4人組ピアノロックバンド・SHE'Sが、2月にリリースした3rdミニアルバム『She’ll be fine』を引っ提げて行なったワンマンツアー『She'll be fine -chapter.0-』。そのツアーファイナルとなった渋谷CLUB QUATTROにて、彼らは6月にメジャーデビューすることを発表した。ちなみに、ミニアルバムの作品題であり、この日のライヴタイトルでもある『She’ll be fine』は、彼らが以前から企画ライヴで掲げていた名前であり、この日はその「-chapter.0-」。MCでは今日を「ひとつの区切り」と話していたが、まさに彼らが活動してきた5年間の集大成であり、ここから先へと続く未来を堂々と高鳴らした一夜となった。
SHE'S Photo by 西槇太一
拍手と歓声で迎えられた4人は、木村雅人(Dr.)がスタンバイするドラムセットの前に一度集合。そして、井上、服部栞汰(Gt.)、広瀬臣吾(Ba.)が持ち場へつき、「She'll be fine -chapter.0-へようこそ。大阪SHE’Sです。渋谷クアトロ、どうぞよろしく!」と挨拶し、ミニアルバム『She'll be fine』の1曲目でもある「Un-science」からライヴをスタートさせたのだが、最初からとにかくもうすごかった。
何がすごかったのかと言うと、その圧倒的なまでにドラマティックな楽曲群。広瀬と木村が鳴らすどっしりとしたグルーヴの上を、井上が奏でるピアノが軽やかに踊り、更にストリングスが華やかに響き渡る「Un-science」は、とにかく凄まじいまでの清涼感がある。それでいて、服部のギターソロが高揚感をぐっと高めていくエモさもありつつ、極めつけは、井上の力強いハイトーンで紡がれていく瑞々しいメロディーが、本当に心地よい。遥か彼方まで響き渡っていきそうなほどに壮大で、心が弾まずにはいられないその音像は、音源の再現ではなく、しっかりと血が通ったものであり、とにかくダイナミックで、なおかつ美しかった。鍵盤を擁したバンドであることや、楽曲の雰囲気からして、Coldplayを引き合いに出されることの多いSHE'Sだが、メジャーデビューを控えている彼らの生み出した曲が、スタジアムクラスのバンドが鳴らすビッグアンセムのような響きや強度をすでに持っているのだから、可能性を感じないほうが難しい。巻き起こるオーディエンスのクラップに「いい感じ!」と笑顔で答える井上は、続く「Change」では持ち場を離れ、フロアに身を乗りだしてエモーショナルに歌い上げれば、「騒ぐ準備はできてるか!」と「Just Find What You'd Carry Out」へ。今度は直情的に凄まじい熱量を放ちながら骨太なサウンドで豪快に突き進んでいく。
SHE'S Photo by 西槇太一
また、広瀬の荒ぶりまくったベースからなだれ込んで行くワイルドな「L&F」では、井上がエレキギターを、オーディエンスとコール&レスポンスを繰り広げた「Evergreen」ではアコースティックギターを手に取る場面もあり、様々な表情を魅せながら、ライヴは瞬く間に進行していった。
そんな破格級の楽曲を鳴らしつつも、MCはかなりラフな雰囲気で繰り広げられるSHE'Sのライヴ。フロアを見渡した井上は「来たー! でっけえー!」と興奮気味に叫び、ソールドアウトで超満員のフロアに「“パツパツ”って別に関西弁ちゃうよな? 言うやろ?」と、フランクに話しかける。ワンマンということもあり、この日はメンバー同士で会話する場面も多く、「ツアーファイナルやし、東京やからもっとシュっとした感じでいこうや」と井上が話すと、「なんや、俺だけシュッとしとらんみたいやないか」と服部。今回のツアー中に痩せることを宣言していた彼だったが、あまり成果の見られない感じに対して、フロアから「パツパツ!」という声が飛び、それに対して「今のうまいな!」と井上が返す。ステージという少し高い位置にはいるものの、彼らの目線はフロアと同じ高さにあるようだ。そんなくだけた話をしている中で、井上がピアノを軽く弾き始め、「離ればなれになった2人の歌を」と前置きして、バラードナンバーの「2人」へ。笑いを交えたMCを繰り広げつつも、楽曲へすっと切り替えていくライヴ巧者なところも見事だった。
SHE'S Photo by 西槇太一
そんな会場を盛り上げるやり取りを繰り広げるだけでなく、「ほんまの心で、ほんまの話をしたい」という井上の発言通り、オーディエンスに対してまっすぐに言葉を投げかける場面もあった。
井上「続けていてよかったなって思うこともよくあるけど、諦めへんほうがよかったこともいっぱいあるなってよく思います。続けたことで見れた幸せを知ったときに、過去のことを思い出しちゃうんですよね。あのときこうしてればよかったなって。でも、そう思い出せるからこそ、次に活かせるというか。別に諦めることも悪いことではないから、それを選ぶのって難しいんだけど。だけど、自分の好きなものぐらい、諦めたくないやんかっていう想いがあります」
SHE'S Photo by 西槇太一
そこから「Night Owl」「信じた光」「ワンシーン」を続けて披露。誰もが胸に抱えている後悔や、それでも前に進みたい、進まなければいけないという意志を、優しく、それでいて力強く肯定するように駆け抜けて行くその姿はとにかく情熱的で、激しく胸を打つものだった。ちなみに、「信じた光」「ワンシーン」は最新作に収録されているものの、バンド結成当初、井上が19歳のときに作った曲とのこと。「感慨深いなぁ。ここまで来たんやなぁって思ったわ、今」と、バンドを始めた当初のことを振り返りながら、井上が言葉を続ける。
井上「SHE'Sという船は、ときには竜巻に見舞われながら、ゆっくりゆっくりとやってきました。5年経って、こうやってたくさんの人に見守られて、ほんまに幸せです。これからも今までと何も変わらんのやけど、ひとつの区切りとして、このツアーが終わると、また違う方向に向いていくんやろうなと思います。SHE'Sは、6月8日にユニバーサルミュージック/Virgin Recordsからメジャーデビューします」
こみ上げてくる感情をおさえきれずに、涙を流しながら井上が発表すると、客席から一際大きな拍手が起こった。そして「こんなはずじゃなかったのに! 俺、24年間生きてきて、今まで泣いたことなかったのに!」とおどけてみせると、「ええネタが出来たな(笑)」と服部。そんな温かい空気が会場に満たされている中で、「遠くまで」「Curtain Call」を、オーディエンスのシンガロングと共に奏で、今の喜びを分かちあっていた。そして、アンコールでは「初解禁の曲やっちゃっていいですか!?」と、井上が宣言。フロアが歓喜で沸く。
SHE'S Photo by 西槇太一
井上「誰にでも朝焼けがくるけど、きっと人によってその朝焼けは違うんやろうなと思いながら、それでも信じて、何かを続けること、歩みをとめないことで、きっと朝焼けはやってくるぞと──強く歌います」
そして、6月8日に発表するメジャーデビューシングル「Morning Glow」を初披露(ちなみに、SHE'Sの初ライヴは6月9日とのこと)。木村の叩き上げる豪快なドラムから始まるこの曲は、冒頭の「Un-science」をよりパワフルにしたような印象で、まさに彼らの新章の幕開けにふさわしいものだった。
彼らのホームページの「PROFLIE」に「聴けば、きっと囚われる。」と書かれているのだが、その言葉に偽りなし。「Morning Glow=朝焼け」から始まり、ここからSHE’Sという太陽はどこまでも高く昇って行くはずだ。今まさに始まろうとしている彼らの快進撃に、期待しかしていない。
撮影=西槇太一 レポート・文=山口哲生
SHE'S Photo by 西槇太一
1. Un-scienece
2. Change
3. Just Find What You'd Carry Out
4. 彼方
5. L&F
6. Save Me
7. 2人
8. All My Faults
9. Evergreen
10. Back To Kid
11. Night Owl
12. 信じた光
13. ワンシーン
14. 遠くまで
15. Curtain Call
[ENCORE]
16. Morning Glow(新曲).
17. Voice