『イニシュマン島のビリー』ゲネプロレビュー

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古川雄輝「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

古川雄輝「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

 

3月25日の開幕を前に、舞台『イニシュマン島のビリー』のゲネプロ(最終リハーサル)が世田谷パブリックシアターにて行われた。イギリス演劇界の鬼才マーティン・マクドナーが、自らのルーツであるアイルランドを舞台にして描いたブラック・コメディの傑作である。翻訳戯曲の演出で多くの秀作を生み出してきた森新太郎が、自身三度目となるマクドナー作品を手掛けることも注目された話題の舞台だ。

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

黒を基調としたステージ上に現れるのは、アイルランドの小島・イニシュマン島の田舎にある殺風景な店や、うら寂しい夜の海岸など。殺伐とした空気感が、波の音や照明効果から伝わってくる。そこで暮らす生まれつき左手・左足が不自由な少年ビリー(古川雄輝)、美少女だが言動があまりに暴力的なヘレン(鈴木杏)、キャンディに執着しているヘレンの弟バートリー(柄本時生)。彼ら若者たちは、島の外に飛び出すことを願っている。方や、店を営みながら孤児のビリーを育ててきた老姉妹(平田敦子、峯岸リエ)、ゴシップ集めを生きる糧としている老人(山西惇)と彼の90歳の母親(江波杏子)、男やもめ(小林正寛)、医師(藤木孝)ら大人たちは、島という小さな世界で思うままに感情をまき散らし、時にアイルランドに対するささやかな誇りに満たされて生きている。停滞していた彼らの日常は、「ハリウッドから撮影隊がやってきた」というゴシップ屋老人のトップニュースにより揺らぎ始める。

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

一人としてアクの弱い人間はいないマクドナーの登場人物たち、それぞれにピタリとハマった理想のキャスティングにまずは興奮させられる。荒びれた店にたたずむ平田、峯岸の老姉妹は、まったく似ていない風貌での滑稽なやりとりで失笑を誘いながら、ビリーに注ぐ愛情で強固なつながりを見せる。傑出していたのが山西の怪演だ。諍いを掘り起こし、人々を困惑させるのが大好物の“困った老人”を喜々と表出する様が、憎らしくも愛おしく、笑いを抑えられない。鈴木の思い切りのいい表現もいい。哀しみと鬱憤を詰め込んだ暴力、暴言の数々がなぜか見るものの頬を緩ませ、彼女のいらだちに共鳴させる。柄本は独自の個性を存分に発揮した役どころだが、とぼけ顔のバートリーの胸の内に起こった静かな反乱を丁寧に見せていた。ビリー役の古川はハンディキャップを表現しながら、序盤は傍若無人な周囲の人々を穏やかにみつめ、つましくたたずむ。その謎めいた存在が周りの騒音にあおられて徐々に血や肉をつけ、感情を吐露していく様が面白い。ビリーの野心、歓喜、葛藤、失望を繊細につむぎ出す好演を見せた。

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

人々の心に巣くう寂寥感、そこから沸き起こる暴力をユーモアで描き切るマクドナーの世界観。その衝撃に魅せられた森が、生にもがく人間たちを深く温かい眼差しでみつめ、鮮やかに息づかせている。ラストに渡された余韻の意味をじっくりと考えたい、そんな舞台がまた一つ誕生した。

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

「イニシュマン島のビリー」 (撮影 宮川舞子)

文 上野紀子

公演情報
「イニシュマン島のビリー」

■日時・会場:
2016年3月25日(金)~4月10日(日)世田谷パブリックシアター
2016年4月23日(土)~4月24日(日)シアター・ドラマシティ
■作:マーティン・マクドナー
■演出:森新太郎
■出演:古川雄輝、鈴木杏、柄本時生、山西惇、峯村リエ、平田敦子、小林正寛、藤木孝、江波杏子
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/inishman2016 


 
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