スキマスイッチという“POPMAN”に訊く 「実験室」から生まれた作品たちが見せるもの
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スキマスイッチ 撮影=菊池貴裕
スキマスイッチがそのキャリアで生み出し続けてきたカップリング曲を集めたアルバム『POPMAN'S ANOTHER WORLD』をリリースする。自ら、カップリングを「実験室みたいな感覚」と位置づけているカップリング楽曲。アルバムを聴いていくと、その時期ごとに挑戦的なアプローチが試みられ、それらの中には以降の表題曲に生かされているものも多々存在することが分かる。そして収録された様々なタイプの楽曲を通して聴くことで、やはり彼らが生粋の“POPMAN”であることも浮き彫りとなってくる。まさにこのタイミングだった、と語る本作のリリース後には、「アルバムを引っ提げないツアー」が控えるスキマスイッチ。ルーティン的な動きを変えたいとも明かす彼らに、カップリング曲の話を軸としながら「今」を訊いた。
――シングルのカップリング曲を集めた『POPMAN'S ANOTHER WORLD』は、デビュー10周年の時(2013年)に発表したオールタイム・ベストアルバム『POPMAN'S WORLD』と対になるような作品ですね。
大橋卓弥(以下、大橋):今回のアルバムを僕らは“アナザーベスト”という捉え方をしていて。これまで僕らはシングルのカップリング曲を実験室みたいな感覚で作ってきたし、いろんなことを試しているカップリング曲を聴いてもらうことで、表題曲の聞こえ方も変わったりすると思います。
――スキマスイッチはシングルのカップリング曲をオリジナルアルバムに収録しないことが多かったですし。
大橋:ええ。カップリング曲はシングルを手に取った人の楽しみのひとつだし、アルバムに入れてしまうとシングルを買ってくれた方に申し訳ないなという気持ちもあって。なので、シングルを手に取ってくれた人たちからすると、今作は単なる便利グッズでもいいかな、なんて思いもありました(笑)。
――便利グッズ?
大橋:ディスクをいちいち入れ替えなくても、カップリング曲を一気に聞けるから便利かなって(笑)。
――カップリング曲を“実験室”と捉え始めたのは、デビュー当時から?
常田真太郎(以下、常田):自分たちの中で実験室みたいな感覚になってきたのは、ミニアルバム「君の話」を作ったあとの2枚目のシングル「奏」からかもしれないです。
大橋:「君の話」を作ったことで、アルバムは収録した十何曲でひとつのストーリーを作っていくけど、シングルは少ない曲数の中で1枚の盤を作るという意識を持ったことがきっかけになって、「奏」のカップリングでいろんなことを試してみようっていう方向に向いていって。
常田:で、「奏」のカップリングにインストの「蕾のテーマ」を入れたり、次のシングルでは全部打ち込みの曲を入れたり。カップリングでいろいろ試していくうちに、6枚目のシングルの頃には自分たちの中でカップリングは実験室なんだという意識を確実に持つようになったと思います。
――なぜ、今このタイミングでカップリング曲を集めた作品を出そうと思ったんですか?
大橋:シングル曲がたまってきた段階でカップリング曲集を出せるとは思っていて。ただ どのタイミングで発表するのがベストなんだろうということはずっと考えてましたね。
常田:僕らとしてはスキマスイッチの歴史の中で実験室のような感覚で作ってきた楽曲を、一度まとめておきたいという気持ちがあったので、あとはどのタイミングで出すのがいいのかっていう。で、ここ数年のスキマスイッチの活動が、ちょっとルーティン的な動きになってきていたので、ここからちょっと変えていきたいという思いもありましたね。
――というと?
常田:たとえば、1年間でシングルを2、3枚出して、次にそのシングル曲を収録したオリジナルアルバムがあって、それをリリースした後にはそのアルバムを携えたツアーがあって、ツアーが終わったら制作期間があって、またシングルを出して……という感じで、その間はずっと来年のことを考えている自分たちがいた。僕らが考えるってことはファンのみなさんも考えているんですよね。このシングル曲が次のアルバムに入るってことはこんなアルバムになるのかな、ここでアルバムが出るってことはツアーの時期はこのあたりかなって。いろいろ予想をするのも確かに楽しいけれど、なんかもっとクリエイティブな感覚を楽しんでもらいたい気持ちが出てきたんです。
大橋:去年のツアー中にスタッフも含めていろんなアイディアを出し合って、ディスカッションしながら、2016年以降の活動を話してきた中で、カップリング曲集を出すタイミングはまさにこのタイミングなんじゃないかってことも決まりました。
常田:今回のアルバムが出しやすいタイミングだったと思うのは、デビュー10周年を迎えられたことですね。それまでにいろんなことをやらせていただけて、たくさんの方に良かったねって言ってもらえた10周年があったことが、僕らもすごく嬉しくて。そこで得られた自信がなければ、きっとルーティンを続けていたかもしれない。
大橋:今回のアルバムのボーナストラックで 書き下ろしの新曲を入れようかというアイディアも出たけど、自分たちのアナザーサイドを見てもらいたいという意味合いを込めて作るアルバムなのであれば、その軸からははずれちゃいけないと思って、あえて書き下ろしの新曲は入れませんでした。
――ボーナストラックに収録された「フレ!フレ!」は最新の曲ではあるけれど、もともとミニストップのCMソングとして書いた曲ですからね。
大橋 ええ。「フレ!フレ!」は、まずタイアップのお話があって、クライアントさんから“自分にご褒美”というテーマと商品名を教えて頂いてから、自分の中で“CMソングを書く”ということを意識して書きました。アルバムに入っているのは80秒くらいですけど、CMで曲が流れる14秒を意識してCMソングを書くのは初めてだったから大変ではあったけれど、おもしろかったですね。
常田:CMで流れているバージョンは、アルバムに入っている「フレ!フレ!」よりテンポが速いし、ギュッと凝縮されてます。
――そのCMを見たとき、短い曲の中にちゃんとスキマスイッチがいる!と思いました。
大橋:実は、最初は思いっきりCMソングらしい曲を書いて、その次にスキマスイッチのカラーが見える曲を書いたんです。僕は曲を書き直す時に自分の中から一旦今までのやつを全部吐き出さないと次のものが出てきづらいことが多いので、今回も完全に前に書いたものを消去して、CMソングとしても成立して、そこにスキマスイッチらしさを入れ込んだ「フレ!フレ!」に辿りつきました。
――あのCMに出てくる練乳いちごパフェ、食べたくなっちゃいました(笑)。
大橋:あのパフェ、とても美味しいですよ。
常田:ぜひ!
スキマスイッチ・大橋卓弥 撮影=菊池貴裕
――ボーナストラックに収録したもう1曲「壊れかけのサイボーグ」は、大橋さんが10代の頃に書いた曲だそうですね。
大橋:18~19歳の頃に書いた曲なので、スキマスイッチになる前ですね。
――なぜ、この曲をピックアップしたんですか?
大橋:以前あるTV番組で、“今までの作品の中で、今考えると恥ずかしいと思うタイトルはありますか?”って質問に、僕がこのタイトルを答えたことがあったんです。その後、CD化もされてないしライヴで1回も演ったことがないのに、「壊れかけのサイボーグ」ってタイトルの曲があるらしい!と話題に上がることが度々あるっていう話を聞いていたし、一部の人でも、あの時TVで言ったタイトルだよねって思い出してくれることが嬉しかったですね。僕自身もこの曲が好きだったので、この曲を出すタイミングは今後ないだろうなと思って今作に入れることにしました。
――常田さんはこの曲の存在は知っていたんですか?
常田:知ってました。卓弥がこの曲を作った当時、僕らはまだ別のバンドでしたけど、聞かせてもらっていたんです。その時、卓弥がニヤニヤしながら僕に聞かせた顔を今も覚えてます(笑)。
大橋:きっとドヤ顔してたんでしょうねぇ(笑)。
常田:あと、渋谷のイベントで卓弥がひとりでこの曲を歌っているのを聴きながら、いい詞を書くなぁって思ったことも覚えてますね。デモの段階から完成していた曲だったので、当時からいつか2人で音源にできたらと思っていたし、デビューしてからもあの曲やらないのかなってずっと思っていたので、ようやくこの機会に世に出すことができて嬉しいです。
大橋:手元にあった音源は、僕が弾き語りしているカセットテープに残した資料用に録ったものしかなかったので、今回収録するにあたって、スキマスイッチが始まった頃に僕らがやっていたスタイルで作っていったのもおもしろかったです。
常田:卓弥が書いてきた曲を僕が一人でアレンジするというやり方を久しぶりにやったので新鮮でした。
――歌詞は当時のままですか?
常田:あまりにも長い曲だったので、同じことをリフレインしている部分は割愛して少しだけコンパクトにしましたけど、基本的にオリジナルの歌詞のままです。
大橋:――おいおい、おまえは世の中をいったいどこから見てんだよ!って感じの歌詞だし、当時の自分がすごく背伸びしている歌詞なので、すごく照れくさいです(笑)。
常田:言いたくてしょうがなかったんだろうね(笑)。
大橋:言いたがる年頃だった(苦笑)。でも、歌詞を変えちゃうとなんか違うなと思ったので、あえて書き換えませんでした。
――カップリング曲をこうして並べて聴いてみると、実験的なことをやっていてもスキマスイッチが持っているPOPな部分が浮上しているとも思いました。
大橋:どんな曲をやろうとも、そこは抜けないんでしょうね。表題曲は聴きやすさや伝わりやすさを考えて作ることが多いけれど、カップリングはそういうあまり意識せずに作っているだけで、もともと作っている人間は一緒だからPOPな部分がどうやったって出てくる。たとえば、ちょっとロックなサウンドをやってみようかってなっても、最終的な着地点はポップスになるんです。
常田:いつもより自分たちのエゴを強めにパッケージングしたとしても、根っこがPOPなのでそこは残っていくんだなと自分たちもあらためて思いました。
――前作のオールタイムベストのタイトル、そして今作のタイトルにもある“POPMAN”という言葉は、まさにスキマスイッチそのものです。
大橋:2人組なので本来なら“POPMEN”なんでしょうけど、スキマスイッチとして単体で見ると一人称になるんですよね。
常田:僕らがPOPMANを作る人になっているし、最近の曲作りがまさにそういう感じなんですよ。
大橋:昔は立ち位置みたいなものがそれぞれにあって、相手の作業には立ち入らないという空気があったけど、今は昔よりも分担作業が少なくなったので、どっちがどこをやっているのかわからなくなってきているし。
常田:これ、どっちのアイディアだったっけ?って、曲が出来上がっちゃうと思い出せないこともありますね(笑)。クレジットにある“作詞作曲編曲・スキマスイッチ”という言葉通りの制作になっているんです。
スキマスイッチ・常田真太郎 撮影=菊池貴裕
――こんなに数多くのカップリング曲があると、うっかり忘れている曲もあってりして?
大橋:自分たちのアルバムは車の中でちょくちょく聴くけど、シングルを単体で聴く機会はなかなかないので、久しぶりに聴いた曲はあったけど……さすがに忘れてはないです(笑)。
常田:でも、イントロどん!だけじゃわからない曲はあるよね?
大橋:うん。それだけではさすがに曲名を当てる難しいかも(笑)。
――カップリングの制作で印象に強く残っている曲は?
常田:スキマスイッチになったばかりの頃に作った「さみしくとも明日を待つ」を、僕が大好きなGRAPEVINEのみなさんにレコーディングに参加していただいたのは、とても思い出深いです。それまでエレキを一切使わずにアレンジをしてきたけれど、「全力少年」を作り終わったあとだったこともあって、どこかでエレキを使いたくなるというのは自分もわかっていて。どのタイミングでエレキを使うかをずっと考えていたんです。それまでのスキマスイッチからすると、エレキを入れたアレンジというのは大きな実験でしたけど、スキマスイッチの大橋卓弥の声に、僕らの曲に、エレキギターが合うのかどうかっていうところにチャレンジできました。
大橋:完全に一発録りでバンドとレコーディングするのは初めてだったし、バンドマンとがっつり曲を作っていくのは初めてだったので、スタジオの雰囲気もいつもとは違う緊張感がありましたけど、とても楽しかったです。
常田:憧れのGRAPEVINEのみなさんが目の前にいらした時は思わず、うわぁホンモノだ~って(笑)。大好きなGRAPEVINEがスキマスイッチのために演奏してくれて、アイディアも出してくれるなんて!って、感動しちゃいましたね。今でも鮮明に覚えているのは 「すごい好きで聴いてました」って言ったら、「マジで!? (スキマスイッチの音楽からは)ぜんぜん感じへんぞ!」って言われたことです(笑)。
大橋:企画として実験的で、おもしろかったのは、アルバムと連動させた「Aアングル」「Bアングル」ですね。まずコンセプトを立てて、サビのメロディを変えずに歌詞だけ変えた「Aアングル」と「Bアングル」があって、そこから最終的にアルバム『ナユタとフカシギ』に入れた「8mm」に繋げていった。今聴いてもこういうことやりたかった気持ちが自分でもわかるんですよね。作り方としておもしろかったのは「ためいき」ですね。クリックを使わずに、僕がスタジオでギターと歌で弾き語りしたものにドラムやベースをダビングしていったんです。完全なブレイクがあって、次の一拍目で全員の音が入るところも、クリックがないから入る目安は僕の呼吸感しかないわけです。その時プレイしたミュージシャンのみなさんも楽しんでやってくれて、未だに、あのレコーディングはおもしろかったねって言ってもらえます。
常田:あくまでも自分たちの実験なので、どんな試みをしていようが、どんな録り方をしていていようが、そこに気づかない人もいると思います。でも、そういう背景も音楽を楽しめる要素のひとつにあるんだよっていうことは、僕らが伝えたいメッセージのひとつでもあるので、これからもいろいろ試して実験していきたいですね。
――4月22日から全国ツアー『スキマスイッチTOUR2016“POPMAN'S CARNIVAL”』がスタートします。
常田:アルバムをリリースしてすぐのツアーなのに、アルバムを引っ提げないツアーなんです(笑)。
大橋:選曲もこれまで発表した全曲から選べるんですよね。こういうこと、やってみたかったんですよ。
――とはいえ、たくさん曲があるとそこから絞り込んでいくのが大変そうですね。
大橋:曲がまだ少なかった頃に、アンコールで同じ曲をもう1回歌っていいですか?って本編でやった「君の話」をもう1回やったこともあったことを思うと、こんなにたくさんの曲の中から選べるなんて凄いことなんだよなぁって思いましたね。
常田:アルバムを引っ提げないツアーのような試みが、のちのちまた何かに繋がっていくんじゃないかな。まだまだいろんな企画を考えているので、これからのスキマスイッチを楽しみにしていてください。
撮影=菊池貴裕 インタビュー・文=松浦靖恵
スキマスイッチ 撮影=菊池貴裕
2016年4月13日(水)発売
初回盤
初回盤