濱田めぐみ&市川洋二郎『Tell me on a Sunday』を語る【後編】
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左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
日本ミュージカル界のディーヴァ・濱田めぐみが、活動20周年を記念し、アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲のソロ・ミュージカル 『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』 に挑戦する。イギリスからアメリカへ渡った女性の恋と自立を描くこの作品は、待望の日本初演。さらに、濱田とは劇団四季時代からの「戦友」だった市川洋二郎が、本作で商業演劇の演出デビューを果たすことも話題だ。彼は翻訳・訳詞も務める。前編から続く濱田・市川へのインタビュー、後半戦でいよいよ佳境に入る。
―― 濱田さんは、役にどっぷりハマってしまうタイプ、とよくおっしゃっているので今回はどうなることかと思っています。夢と恋を追いかけている主人公エマ役ですが。
濱田: (フライヤーのエマを見ながら)この人でしょ? けっこうふんわり雰囲気よく映っていますが、めちゃめちゃエグイ人生でね。だから私もグサグサになると思います。
市川: この前、めぐさんに指摘されたんですが、「この歌、無駄に具体的じゃない?」って(笑) 。僕も、自分の経験を歌詞に投影している部分がある。歌稽古をやった時も、やりながら段々段々、後半ひどい話になっていく。それにつれて「辛いね、ひどい話だね」って言いながらやってました。タイトルナンバーあたりが特にひどい話なので。
濱田: 観ている人たちは共鳴する部分が絶対にあるから、「辛い」って思う人とそれを反面教師に「エマも頑張っているから私も頑張ろう」ってリアルに思う人がいると思う。だってすごい翻訳だもん。「これ、(市川くん実際に)あったよね、ロンドンで」とか「これ(市川くんの)経験談でしょ?」っていうのばかり(笑)
市川: 泣きながら脚本を書く、みたいな(笑)
濱田: ヒリヒリしてきちゃったよ(笑)
市川: でも、そういうものだと思うんです。演劇って演じる側も作る側も自分の心の傷をさらけ出さないといいもの作れないと僕は思うんです。自分をパーッと開け放っている役者さんじゃないと、観ていて胸に響かないんですよ。自分というものを妙に守りながらやっている人というのは好きではなくて。めぐさんは、「私、別に濱田めぐみという人間が血を流そうとも涙を流そうともどうでもよくて、役として居られればいいんじゃない?」みたいなところがある。昔からそれが好きだったんですよ。だから今回も、えぐってえぐって……(笑)
左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
濱田: えぐって入る、みたいな?(笑)
市川: 最後にこの作品のキャッチコピーにもあるように、「それでもボロボロになってでも一歩前へ、もう一歩前へ」というところでがんばっていくさま、そこに向かう勇気みたいなところをお客さんにも感動してもらえたらいいな、共感してもらえたらいいなって思うんですよね。確かに、歌詞的にはポジティブなんですよ。でも本当にそこまで上がりきれているかどうかって。人間ってやっぱり本当にボロボロの時って何もできないくらいにボロボロになりますけど、よし、頑張ろうってなった時にいきなり「脳みそお花畑」ってことにはならないじゃないですか。そうではなく、「私はもう一歩前に進まないといけないんだ」って。両足から血を流しながら、行くぞって踏み出す力…みたいなところをね。そこが「勇気づけられる」と見えるか、「痛々しい」と見えるかはなんとも言えないところですけどね。
濱田:
私の中では、エマは想像してできるものではないので、そこに行き着くためには彼女の人生を……1年間が凝縮された1時間半なりを、本気で歩んでいかないと、ピンってくるところまで行かない。エマには、「これではダメになるかもしれない」っていう生存本能みたいなものがあって、「ここで立ち止まったら私死んじゃうから、私の人生はもう1度ここから始まらなきゃ」っていうひらめきがある。生きようと思うから一歩前に出られるけれど、これでダメだったらこの人死んじゃう! くらいのボロボロのところまで行き着けるように、私も稽古していきたいです。
市川: いろいろな女性への賛歌みたいなフシがあるかなという気はしています。70年代から80年代にかけて書かれたということもありますけど、「女性」というものの捉え方を、我々がどういう風に描いていくかがとても大事かなと思っています。今回打ち出しているテーマに「自立」がありますが、性別を越えたところで、人間として生きていくとはどういうことなのか?というところまで、掘り下げられたらいいなと。
濱田: 人って「一人で生きてる」って断言していても、決して一人で生きている人なんていないし、知らない間にコミュニティの中で生かさせられているというか、じゃないと絶対生きていけないわけです。エマが段々そのことに気づいていくさまとか、自分発信で見ていたものがこういう風に周りに見られていると気づいたり、他人とのパワーゲームを感じたり、男女の間で年齢差を感じたり。好きになってはいけない相手を好きになってしまい、いけないけれどそこに惹かれていく自分がいる心の葛藤を感じたり……。一人の女性が夢を持ってイギリスからニューヨークに行って、っていうストーリーではありますが、体験としてはエグいものばかりだから、それをどこまで感じとれるか、表現できるかが勝負ですね。
濱田めぐみ
―― 最後にこの物語にちなんだ質問を。この作品でエマのように、今、追いかけたい夢はありますか?
濱田: 上手く言えないんですけど、芸術とかアート・舞台とかもそうですが、全てにおいてそれが全世界の垣根をなくして、そこからみんなが繋がっていければいいなと思っています。こういうのって言葉とか文化とか関係なく繋がれる唯一のツールだと思うんですよ。だから芸術というものを通して世界が一つになればいいなって。それって、すごい夢ですし、自分が死ぬまでに達成できないとも思いますが、この地球に住んでいるみんながそういうことから一つに繋がれればいいなと思っています。その流れでブロードウェイとかロンドンとか韓国、日本とか関係なく、役者として行き来できるようになりたいですね。
市川: 僕もそれに似ているかも。僕が思っているのは「日本人」という自分たちの価値に気づいてほしいと思っていること。海外にいると日本という国はどれだけ素晴らしいか、日本人の持っているものがどれだけ素晴らしいかと気づかされることが多くて。それが日本に帰ってくると、自分たちで台無しにしていることがたくさんあるんですよ。なんでそんなもったいないことするのって思うんですよ。戦後からの歴史を考えた時にDNAに埋め込まれてしまっている西洋至上主義みたいな思考で日本人が自分たちを自分たちで差別している。とても悲しいことなんですよね。めぐさんがおっしゃった「垣根を越えて繋いでいく」ということを考えた時に、それがとても邪魔をしているんですよ。日本人でもちゃんと立ち向かえるんだってことを自分は気づいてほしいと思っています。悲しいですよ、海外の人というだけで自分たちよりも優れているって常に思っているから。それはアートだけではなく、いろんな意味で。外から入ってくるものばかりに日本人が目をやっている現実がとても悲しいと思うんですね。自分たちの中から生まれてくるものがどれだけ素晴らしいものがあるか。大切にすることを大事にしてほしいと思っているので、少しずつでもなぜ我々がやらなくてはいけないのか、我々がやるべき意味は何なのか、我々のできることとは何なのかっていう問いかけが必要だと思うんです。ただ海外の真似事をするのではなくて、自分たちだからこそできること、自分たちというフィルターを通した時に何が生まれてくるかを常に日本人が考えるようになると、これから先、どんどん日本がよくなっていくと思っています。
左:市川洋二郎 右:濱田めぐみ
(取材・文:こむらさき/ヘアーメイク:住本由香/撮影:こむらさき&安藤光夫)
■日時:16/6/10(金)~16/6/26(日)
■会場:新国立劇場 小劇場 (東京都)
■音楽:アンドリュー・ロイド =ウェバー
■歌詞:ドン・ブラック
■演出・翻訳・訳詞:市川洋二郎
■出演:濱田めぐみ
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/sunday
【アフタートークショー】
濱田めぐみと演出・市川洋二郎が以下の回に異なるテーマでトーク。
◆14:00公演:6/14(火)、15(水)、16(木)、21(火)、22(水)、23(木)
◆19:00公演:6/24(金)