最強チーム「フォーカード」は、なぜ選ばれなかった?~鈴木聡の新作に出演、青年座・野々村のんに聞く
演じあって、人は生きている。
だから 不幸になる。
だから 幸せになる。
ラッパ屋・鈴木聡書き下ろしコメディー
劇団青年座に、野々村のんという女優さんがいる。ずっとずっとあどけなさを感じる、末っ子のような女優さんだと思っていたけれど、もう入団して20年だという。だから劇団ではまったく末っ子ではない。むしろ立派な中堅だが、見ていて、この末っ子感があり続けるところが好きだったりする、僕がだけど。さて、野々村が主演の一人を演じる劇団青年座の新作は、ラッパ屋の鈴木聡が脚本を書き下ろし、新国立劇場演劇芸術監督でもある宮田慶子が演出する『フォーカード』だ。鈴木聡が青年座に書き下ろすのは2005年の『妻と社長と九ちゃん』、2015年の『をんな善哉』に続く3本目。
ストーリーはこうだ。
劇団「新流」の俳優養成所を卒業した横山千鶴、谷義人、中込彰、神崎由佳里の同期4人。彼らはある理由から劇団員にはなれず、今はそれぞれが違う道を歩いている。ある日、千鶴の呼びかけにより彼らは20数年ぶりになじみの喫茶店で再会するが……。
野々村が演じるのは、神崎由佳里役(事務の仕事をしているっぽい)。これが初の鈴木作品だそう。一方、鈴木も直接は野々村のことを知らないが、彼女をイメージしながら書いた。野々村は20年劇団に所属していて、神崎は劇団に入れなくて20年が経った。なんだか劇団に入っていなかったら何をしていたと思うか、野々村に聞いてみたくなった、芝居とは全く関係ないけれど。
野々村 「もともと広告代理店に勤めていて。仕事が大好きだったから今もバリバリ働いているんじゃないかな。イベントを担当することが多くて、人を楽しませるのが好きだったから。代理店って例えば業者さんとデザイナーさんの間に入って調整する仕事じゃないですか。私、ずっと直接やりとりすればいいんじゃないかと思っていたんです。不当な利益を得ているようで申し訳ないなあと(苦笑)」
代理店なのだから、双方の仲介をして利益を得るのは当たり前のこと。こういうところが野々村の面白いところだ。
先輩3人に身を任せて演じています
劇中にはエチュードをやっているかのようなシーンが続出。4人がネタを持ち合い、せりふについて話し合いながら、互いに刺激を与え合ってそれらのシーンを作っている。それが集まって面白さがどんんどん膨らんでいく。
野々村 「劇団研究所から劇団員にならなかった4人は、演劇が好きだという思いは共通している。私がいちばん年下の設定で、ほかの3人は人生の大先輩。現実の関係もそれとまったく一緒なんですよ。憧れているし、尊敬している皆さんの中に入れてもらっているので、何も役は作ってないんですよ。作らなさすぎていけないのかもしれないんですけど、自分のまま、素直に飛び込んで接している感じですね。お芝居をするというお芝居だから、演じていないシーンはなるべくそのままで、演じているシーンではそのことがちゃんとわかるように上乗せして。劇中で芝居をするの、すごく楽しいんですよ。たぶん自分たちが楽しくないと面白くないと思うんです。この登場人物4人は普段の生活は全然だめだけど、芝居をするときは楽しいぞという感じなので。最後のほうに芝居と実際の境い目がなくなる瞬間があって、そこが面白いですね。自分が芝居をやっているのも、そういうことなのかなって」
では神崎由佳里はどんなキャラなのか?
野々村 「そうですねえ、今言われるまで全然考えていなかった。どうしよう(笑)。そのくらい自分に近いのかもしれない。……あ、でもいつもあんまり考えていないなあ。書かれているままに順々にしゃべっているだけなので、それをどう見せようとか考えないんです。考えれば、もっとうまくなるのになあ。……自分のことってわからないじゃないですか。人によって自分への見方が違う。由佳里も自分のことがわからなくてもいいと思うんです。久しぶり!というせりふも、その状況の中で、その音が出るだけかなと思って」
瞬間の充足感であっても明日の活力に
そうそう、物語の続きはこうだ。
千鶴が同期3人を集めたのは、ある人物から大金をだまし取るために、ペテンの片棒を担いでほしいという理由からだった。「ペテンは演技力。かつて養成所のフォーカードと呼ばれた私たちが集まれば必ず成功する!」と。最初は断っていた3人だったが、各々の事情もあってこの提案を受け入れた。さまざまな登場人物たちの人生ドラマと交錯しながらペテンの計画は進み、その稽古にも熱がこもる。そして、ペテン本番の日……。
野々村 「お芝居をしている人って、ちょっとダメだったり、すごく偏っていたりする人もいるけど、お芝居をする瞬間だけは充足感で満ちているところがあると思うんです。それを20年ぶりに体感して、この4人は、その瞬間にほんのすこしだけまた頑張ろうと前向きになれる。物語ではお芝居をしている人たちのことではあるけれど、みんなも同じ。毎日うまくいかないことが多いかもしれませんが、でも一瞬でも何か気持ちが満ちることがあるから、なんとか生きていけるということは素敵なことだと思うんです」
ところでタイトルの「フォーカード」って?
野々村 「最強のカードって言うでしょ? 芝居で最強ってなに? きっとイタい人たちじゃないかな(爆笑)。自分たちで言ってただけで、勘違いしたまま卒業したんじゃないですかね」
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