微笑みを生む “日本のルソー”『横井弘三の世界展』をレポート
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横井弘三の世界展
のびやかな筆致と明るい色彩で“日本のルソー”と呼ばれた横井弘三の絵画は、観る者をしあわせな気持ちにさせる素朴な味わいに満ちている。練馬区立美術館『横井弘三の世界展』(2016年4月17日 (日)~6月5日 (日))では、没後50年の節目にあたり、いまだ知られざる横井の画業の全貌に迫る。4月16日(土)に行われた内覧会にて、その魅力を探ってきた。
《月夜の踊り》1956年(昭和31年) 信州大学教育学部附属長野小学校蔵
不遇な時代を乗り越えた「極々上機嫌な画家」
長野県飯田市に生まれた横井弘三(1889~1965)は、独学で絵画を学びながらも、二科展で第一回樗牛賞を受賞するなど、早くからその才能を認められた。描く対象に注がれるあたたかな眼差しがあふれた素朴な作風から“日本のルソー”と呼ばれる。
しかし、関東大震災の後は思想の相違から中央画壇を離れることに。その間、次第に世間からは横井の名が忘れられていく。不遇な時代にあっても「理想展」と呼ぶ自由出品のアンデパンダン展を組織したり、自身の美術観を本にまとめたりと活発に活動を続ける。自らを「素人画家」と称し、絵を売って生業とすることをよしとせず、古本屋や露天商を営むなどして生計を立てていった。
《復興児童に送る絵》などの子供へ向け寄贈した作品
その後、戦時中に長野市へ移住してから晩年の20年間は、地元の支援者に恵まれた豊かな制作の日々を送った。洋画家有島生馬からは「極々上機嫌な画家」と称され、晩年その表現はより自由になっていった。
《木曽駒ケ岳》1957年(昭和32年) 須坂市蔵
地元に愛され続ける貴重な作品が一堂に
長野県を中心として、地元の寺や学校への寄贈を積極的に行ってきた横井の作品は、個人蔵のものがほとんど。そのことからも、横井のあたたかな人となりや、実直な画家人生がうかがえる。しかしそれだけに、これまで横井作品が一堂に会する展覧会はほぼ無く、世間から存在を広く知られる画家ではなかった。
《楽しく遊ぶ子供達》1951年(昭和26年) 竹原市忠海町 浄居寺蔵
《天女像》1951年(昭和26年) 広島県三原市 宗教法人曹洞宗松寿寺什物
没後50年を機に長野県の信濃美術館が大規模な回顧展を行い、練馬区立美術館での本展の開催に至る。最注目を集める横井のいまだ知られざる画業を間近にできる、非常に貴重な機会なのだ。
多才な「表現者」としての魅力
横井の制作活動は絵画にとどまらない。画家としてはめずらしく10冊もの著書を残しているほか、本の挿絵、焼き絵、おもちゃの制作や保存をする「オモチャン会」での活動、フリーペーパーの制作など、多才さを発揮した。
向日葵を描いた木製の大型柄杓 制作年不詳 横井弘三とオモチャン会
《猿・柿・画家・河童》制作年不詳 個人蔵
没後は劇作家やイラストレーター、絵本作家などからの再評価を受け注目を集めた。「美術」よりも根源的な「表現」を語るとき、横井弘三の作品やその生き方は、今なお新鮮に私たちの胸を打つ。
没後、雑誌「イラストレイション」「anan」にも取り上げられ注目を集める
輝く夕暮れの農村や、笑顔あふれる人々の作品を前に、横井の傍で一緒にその情景を眺めている気分になった。ぜひ、心あたたまる作品に会いに行ってみてはいかがだろうか。
《天工礼讃》1946年(昭和21年) 長野県信濃美術館蔵
会期:2016年4月17日(日曜)~2016年6月5日(日曜)
休館日:月曜日
開館時間:午前10時~午後6時 ※入館は午後5時30分まで
観覧料:一般800円、高校・大学生および65~74歳600円、中学生以下および75歳以上無料、その他割引制度あり
※一般以外の方は、年齢等の確認できるものをお持ちください。
主催:練馬区立美術館(公益財団法人練馬区文化振興協会)、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛:ライオン、大日本印刷、損保ジャパン日本興亜、日本テレビ放送網
協力:横井弘三とオモチャン会
展覧会サイト:http://www.neribun.or.jp/web/01_event/d_museum.cgi?id=10287