昆夏美×シルビア・グラブ×木村信司が語る「コインロッカー・ベイビーズ」~熱い思いで赤坂ACTシアターを埋め尽くしたい

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(左から)昆夏美、木村信司、シルビア・グラブ

(左から)昆夏美、木村信司、シルビア・グラブ


村上龍の世界的ベストセラーが音楽劇に生まれ変わる!赤ん坊の時にコインロッカーに捨てられ、かろうじて生き残ったハシ(橋本良亮/A.B.C-Z)とキク(河合郁人/A.B.C-Z)。生きるための「音」を手に入れるために破壊を繰り返す二人の魂の叫びを描く舞台「コインロッカー・ベイビーズ」が6月4日(土)から赤坂ACTシアターにて上演される。

製作発表会見の直後、本作に出演する昆夏美シルビア・グラブ、そして脚本・演出の木村信司にさらに詳しく話を伺った。キクを愛するアネモネ役の昆、ハシの子どもを宿すことになるニヴァ役のシルビア、そしてこの作品に対して並々ならぬ熱量を注ぐ木村。どのような話が飛び出すのだろうか。

 


―― 原作の世界は、古い昭和の香りがする部分と、一方でちょっと未来っぽいところもあり。木村さんから見た作品の魅力とは?

木村信司(以下、木村): ノスタルジックであり、新しい。他にない作品。他の文学の影響を感じない。夏目漱石からスタートする、近代日本文学の流れがありますよね、漱石、森鴎外と来て村上春樹まで続いていく。でも「コインロッカー・ベイビーズ」はその文脈の中では絶対に語れない小説。20世紀西洋文学で何がいちばん大傑作ですかと問われると、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」がいちばんだと思うのです。あれを読むとため息が出て、やっぱり呆然とする。20世紀西洋文学のほとんどはもしかしたら「失われた時を求めて」のこだまかもしれないって思うくらいすごく影響力のある作品だと思うのですが、その流れからですら「コインロッカー・ベイビーズ」の独特な文体は語れない。だからこの作品だけ、突然ゴーンって落っこちてきた隕石みたいな感じがすごくします。他の影響というものがほとんど感じられなくて、ドンとそこに存在していたし、未だに存在している。そこがいちばんの魅力かなと思います。

シルビア・グラブ(以下、シルビア): そんな作品を舞台化することを15年前から考えられていたというのは、どういう思いがあったんですか? 

木村: 私は宝塚歌劇団で「清く正しく美しく」という教えの元にずっと頑張ってやってきました(※木村は宝塚歌劇団所属の演出家。時に脚本も書く)。宝塚歌劇団をとっても愛しているんですけど、ただ2001年の時点で宝塚歌劇団では絶対にできない本が書きたいって思ったんです。一つのチャレンジとしていちばん遠い作品として、これを書いてみたい、と。でも、できるだろうか、と。これは自分への挑戦でもあったし、頼まれたものでもなかった。そして書いてみたらぜんぜん違うものが書けたっていう経緯でしたね。

シルビア: 書くのにどれくらいかかったんですか?

木村: 宝塚歌劇団に勤めているとかなり忙しいので、しかも演出助手をやったうえで演出家になったりするので、まとまったひと月くらいの休みに……というか仕事が空いてしまった時に、うわーって書いてみた作品ですね。

木村信司

木村信司

―― 熱の塊みたいなものですね、熱量。

木村: 熱しかないです。誰に頼まれたわけでもないですから。

―― 2001年の時に書かれたものを今、舞台化するということについてはどうお考えですか? もちろん、村上龍さんが企画書と脚本に目を通してくださったというタイミングもあるとは思いますが。

木村: ある種の感慨があります。今回の脚本を巡り、いろんなプロデュースの話もなかったわけではないのですが、ほとんど成立しかけては、ぐしゃって潰れてしまってきたので、今日、製作発表ができた時点で夢のようだ、ありがたい話だって思っています。日本の原作で、日本のスタッフで、日本人キャストで、日本のオリジナルの舞台ができる機会はすごく貴重だと思う。しかもこの規模でできるのもすごく貴重だと思うので、誠心誠意、命がけでやらないと罰があたるって思っています。

―― これから役作りをしていくと思いますが、今思い描いているイメージで、アネモネとニヴァはどういう女性にしていきたいと思っていますか? 二人はキクそしてハシのそれぞれを愛していくことになりますが。

シルビア: 基本的には稽古中に役を作っていくものだと思っているし、真っ白で来てほしいとも言われている。内容が内容だから優しさだけではダメだし、ちょっと狂気の部分もないといけない。いろんな意味での深みがないと成立しないと思うけど、そのストーリーの中で私の役割としては「温かさ」だったり「母親」なのかなとイメージはしているんです。

シルヴィア・グラブ

シルヴィア・グラブ

木村: 二ヴァについていちばん重要なセリフ、これを言うためにたぶんニヴァはいるんだろうなって。ハシの子どもを宿しているときに「あなたの子どもは死なないわ」って言う。その一言を言うために長い物語を生きてきた。命に対する彼女の考えかただと思うんです。ハシにあんなことをされるその瞬間に「あなたの子どもは死なないわ」って言える。ここは話し合いながら作っていくことになるんだろうって。

――  いちばん重いテーマである「一言」を言う、大事な役割があるんですね。アネモネは?

昆夏美(以下、昆): ​ アネモネは、キクに対して積極的ですが、普通の愛じゃない気がして。もちろん純粋にキクのことは好きなんでしょうけど。原作を読んだ感じでは「執着」ではないですが、深く愛しているという純粋な気持ちが入りつつも、そこにプラスアルファでいろいろな思いがある気がします。あと、ワニを飼っているとか、役柄としてミステリアスな部分も感じるので、アイドルでエンターテイメントの仕事をやっている子ではありつつも、キラキラしただけではなくて重い闇を抱えているんだろうなって。そういった影の部分と明るい部分を作っていけたらなと思います。

木村: アネモネにとってキクは新しい世界の扉だった。そこを開けると次の世界が見えてくるってことじゃないか、と思うんです。あと、基本的に嘘が嫌いな子なんだろうなって。何でもかんでも言うじゃないですか、原作の中でも。「あんたは何にも考えないからいいのよ」って、愛するキクにすら、あけすけに言う。こんなに正直な女性が今そこで東京を歩いていたら、ある意味一つの凶器だとも思うんですよ。その年頃の女の子がそういう正直さ、裸の正直さのまま町を歩いていたらどんな顔になっていくんだろうって。嘘は大っ嫌いと思っていても、そんなシンプルなことでさえ、成立するのは難しい世界ですから。

―― ハシとキクを演じる橋本さんと河合さんについてはどんな印象をお持ちですか?

木村: 楽しみですね。河合くんのガッツのあるところ。しかも今日あんな流れでキスまでしてもらって、演出家として責任がありますから申し訳ないなっていう気持ちもあって、「ありがとう」って2人には言いたいです。でもそこから伝わるものは何かと言えば、それこそ本物の「命がけ」ではないですか? 「何でもやります」っていう強い思いがないとあんなことも笑ってできないと思うんです。それはすごくありがたいなと受け取りました。そして橋本くん。見るからにロマンチックな男ですよね。私は劇場にも橋本くんを観に行ったんですが、これは女の子がポーッてなるのは当たり前だって。こんなロマンチックな男なら! って思ったんです。そのロマンティックな男のなかに、ハシが入ってくるのが楽しみです。

―― 今日の会見ではいらっしゃらなかったD役のROLLYさんの存在もすごく楽しみなんです。 

木村: この作品をやるにあたって一つだけ、プロデュースの側に探していただけませんかと頼んでいたのが、「関西弁を喋れるD」。僕が関西の異邦人として宝塚歌劇にいるんですが、ちゃんとした関西弁って10歳くらいまで関西に住んでいないとしゃべれないんですよ。簡単そうに思えるけど、実は無理なんです。地元に住む人たちが必ず嘘を見抜くんです。彼らの耳がイントネーションで京都と兵庫と大阪を聞き分けてしまうんですよ。そのくらい関西弁はシビアで特殊な言語なんです。ですから他の地域の人が話しても絶対に真似がきかない。私はもう30年近く関西にいますが、関西で関西弁を話すよりも、ニューヨークで英語を話す方がずっと簡単です。ニューヨークだったらいろんな英語があるでしょ。ですから一所懸命話せば聞いてもらえますけど、関西弁は「(無理に関西弁を使うのは)やめとけ」って言われますから。それを操れる人でないとね。ROLLYさんは大阪高槻出身の方ですからピッタリ! またいいキャストがきた、って気持ちで。

―― Dが持つグラマラスで怪しげな雰囲気にピッタリですよね?

木村: でしょ? 嬉しさで顔がニヤニヤします。

―― そんなDとハシがあんなに激しく絡むとなれば、本当に大変なことになるなと思って。

木村:  あのハシですよ? あのロマンチックなハシですよ(笑) 。もちろん、本人たちと話し合いながらどうするかって、一緒に考えて進んでいこうと思っているんですけどね。

―― 木村さんの熱い思いが今日一日だけでもたっぷり伝わっていると思いますが、シルビアさんと昆さん、今どんなお気持ちでいらっしゃいますか?

シルビア:  一緒にエキサイトしていって、早くこの作品に携わってやりたいなって思いが膨らんでいますね。

昆:  木村さんとお話ししているだけで、「コインロッカー・ベイビーズ」に対する思いとか熱とか伝わってきて、自分も誠心誠意取り組まないといけないと思ったんですけど、何より人柄がホントに明るい方で。初めてお会いしたのに「昆ちゃんさぁ!」って話しかけてくださる時とか本当に嬉しくて!

昆夏美

昆夏美

木村: 打ち合わせで昆ちゃんを知っている人がスタッフにいたので。その人と「昆ちゃんの歌がさー」って話しているうちに私の中ではすっかり「昆ちゃん」になってしまった。

昆: 最初からものすごく歩み寄ってくださるので、分からないことも全部お聞きしようと。私も楽しくなれるので、一緒にやっていく演出家さんとしてとっても楽しみですし、信頼できる方なんだろうなって感じがします。

――今回、場面転換の音も含め、「音」に凄くこだわって作っていくんだろうな、と感じるんですが、そのあたりはどう準備されていますか?

木村: 音楽に関しては最先端をいきたいという気持ちがありますね。原作そのものはすごく音楽的な作品。ロックがガーンと鳴るハシの場面。SE(効果音)から音楽に変わっていくところもあったりして。長谷川雅大さんが音楽を作曲します。その音楽は、独特の浮遊感がある。音だけを聞いていると、エキセントリックなんですが、作品が始まるとその中にスッと溶け込む音楽です。日本人が作る最先端の音。他の国の人が作ったらこんな音にはならない。そういう音楽でありたいなと思っています。

――最後になりますが、この記事を読んでくれる方々に一言ずつメッセージをお願いします。

昆: 原作ファンの方もいらっしゃいますし、ハシとキクのファンの方、舞台ファンの方、あらゆるファンの方が注目していただけるような作品にしたいです。様々な場所からいらっしゃるファンの皆様に少しでも楽しんでいただけて、そして木村さんをはじめとする私たちの熱い思いが赤坂ACTシアターを埋め尽くせたらなと思います。

シルビア: 皆さんの熱い思いを裏切らないよう取り組みたいと思いますし、これだけの木村さんの熱を実現するからには絶対おもしろいものになると決まっています。日本初、世界初……そういう作品に携われることが楽しみですし、お客様も是非、期待して劇場に足を運んでいただきたいです。

木村: 原作がこれまでになかった作品なだけに、ぜひともこれまでなかった舞台にたどり着きたいです。演出をしながらいつも思うんですけど、評価はお客様のものだと思うんですよ。良い、悪い、それはお客さんが好きにおっしゃっていただくことであってそこには関われないと思いつつ、やはり製作発表で言ったとおり、この作品自体が事件であってほしい。そういう思いで作ろうと思っています。

(左から)昆夏美、木村信司、シルビア・グラブ

(左から)昆夏美、木村信司、シルビア・グラブ

公演情報
「コインロッカー・ベイビーズ」

■日時・会場:
2016年6月4日(土)~19日(日)赤坂ACTシアター
2016年6月24日(金)~25日(土)福岡市民会館
2016年6月29日(水)広島文化学園HBGホール
   
2016年7月2日(土)~3日(日)オリックス劇場

■原作:村上龍
■脚本・演出:木村信司
■音楽:長谷川雅大
出演:橋本良亮(A.B.C-Z)、河合郁人(A.B.C-Z)、昆夏美、シルビア・グラブ、真田佑馬、芋洗坂係長、ROLLY ほか
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/program/clb2016/

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