咲妃みゆ「お客様にお届けするのが楽しみ」~COCOON PRODUCTION 2026『クワイエットルームにようこそ The Musical』が開幕
『クワイエットルームにようこそ The Musical』囲み取材より
「大人計画」の主宰であり、作家・演出家・俳優とマルチに活躍する松尾スズキの小説『クワイエットルームにようこそ』。2005年に単行本として刊行されると、第134回芥川賞にノミネートされるなど高い評価を受け、2007年には松尾が自ら脚本・監督を手掛け映画化した。ミュージカルとなる今回は、音楽を宮川彬良、振付をCHAiroiPLIN 主宰のスズキ拓朗が担当し、かねてより松尾作品への出演を熱望していた咲妃みゆが主演を務める。さらに、松下優也、昆 夏美、桜井玲香、笠松はる、りょう、秋山菜津子という実力派と、「大人計画」から皆川猿時、池津祥子、宍戸美和公、近藤公園ら、松尾が信頼を寄せるキャストが集結している。
2026年1月12日の初日を前に、咲妃みゆ、松下優也、昆 夏美、皆川猿時、桜井玲香、りょう、秋山菜津子、作・演出の松尾スズキによる囲み取材とゲネプロが行われた。
囲み取材レポート
ーー初日を前にした今の気持ちはいかがですか?
咲妃:いよいよお客様にお届けできる喜びと同時に、ここまできてしまったのかという気持ちが募っています。お稽古から今日に至るまで、演劇の楽しさをひしひしと感じる日々を過ごした。キャスト・スタッフ全力でお客様を楽しませるために力を注いでいます。毎日松尾スズキさんへの尊敬が増す一方です!
松下:見てもらったらわかる通り個性的な人たちに囲まれて稽古してきました。僕はここ数年ミュージカルに多く出演しているので、タイトルの「ミュージカル」を担う……とまでいくと烏滸がましいので、「ミュ」の部分を担って「鉄雄のミュ」ということで頑張りたいと思います。
昆:あっという間のお稽古期間で、松尾さんの台本の文字から、ディレクションを経て立体的になって行くのがとても楽しかったです。自分の役を追求するとともにみなさんの素敵なお芝居に爆笑していたら初日になってしまいました。精神科病棟での物語ですが、病気という個性を抱えて一生懸命生きている人たちばかりの作品です。お客様にも素敵な時間を過ごしていただけたらいいなと思います。
皆川:今年ほどお正月を純粋に楽しめなかったのは初めて(笑)。お休みは3日だけでしたが、これをやるためにはそれくらいでちょうど良かったですね。がんばります!
桜井:稽古から今日まであっという間でした。稽古にはリラックスして臨むことができて、笑えるところもたくさんありますし、音楽も素晴らしいし、その中にヒリヒリする部分や考えさせられることも多い作品です。この感覚を早くみなさんにもお届けしたいですし、いろんな気持ちになっていただけたら嬉しいです。
りょう:私も松尾さんを尊敬する毎日です。私の役はすごく事務的な人なので、みなさん個性豊かで面白い中、あまり笑っちゃいけない。耐えるのに必死で大変です。初日を前に緊張していますが、稽古で学んだことをしっかりできるようにしたいです。
秋山:松尾さんの初ミュージカルからご一緒させていただいていて、その後も音楽が入っている作品で何度もご一緒してきましたが、本当に松尾さんはミュージカルが好きなんだなと改めて思いました。楽しく、ちょっと切なく面白い作品だと思います。
松尾:ミュージカル界のど真ん中にいる方々とご一緒すること自体が初めてで、そこに昔からの仲間が混ざっているのがとても新鮮で、みんなプロだなあと日々感心しています。私も自分のことを尊敬しております(笑)。
一同:(笑)。
松尾:言葉に詰まったらそういう流れにしておこうと(笑)。本当に面白いので見に来てください。
『クワイエットルームにようこそ The Musical』囲み取材より
ーーミュージカル界の皆さんから、松尾さんとのお仕事について教えてください。
咲妃:数々の松尾さんの作品を一観客として拝見していて、物語に引き込まれましたし、このセリフを私も発してみたいと思っていました。松尾さんのセリフを発するだけで気持ちが日々変動していて、観客として観ていても俳優として携わっていても、「自分は今、生きることを楽しんでいる」と心から思わせてくれます。心がたぎる感覚をお客様にも楽しんでいただけたらと思います。稽古では、今まで一緒に松尾さんの作品を作ってきた方々が「松尾さん今回すごく楽しそう、電池が切れそうになっても頑張っている」と言っているのを耳にして、すごく励みになりました(笑)。もう一回お稽古をゼロからやり直したいくらい愛おしい日々を過ごせました。
松下:松尾さんの作品を見たとき、自然と笑いっぱなしになったんですが、お稽古場でも同じでした。今回は音楽劇ではなくミュージカルなのでどうなるのかなと。ミュージカルはシリアスな題材が多い中で、これだけ笑いが多い作品に出演できるのは珍しくて楽しかったです。松尾さんと同じく、僕も自分を尊敬している身なので……笑うところですよ、皆さん(笑)。この作品にどれだけ自分の力を注げるかの勝負だったと思います。稽古場で、最初はゼロから自由演技みたいな感じで始まって。体当たり感がすごく楽しかったです。そこに演出がついていくスタイルで、みんなを見ていても自分でやっていてもすごく楽しかったです。
昆:松尾さんの作品は3時間以上のものが多い印象ですが、全く集中力が途切れないと感じていました。お稽古に参加して、松尾さんがキャストに自由にやらせるところと手綱を引っ張るところがどんどん緻密になっていく。それが時間ではなく内容の濃さになるのかなと思いました。あと、常連の皆さんが松尾さんのディレクションど真ん中に当てて笑いを生む様子を間近で見られて嬉しかったです。
桜井:お芝居をする姿もトークをしている様子も見ていたので、純粋に松尾さんに会ってみたいなという気持ちがありました。今回ミュージカルではありますが、お芝居をしっかり勉強させていただく機会だと思って飛び込んだので、常連の皆さんや松尾さんが見せてくれる動きや言い回しの面白さから刺激を受けました。素敵な場をいただけて嬉しいです。
ーーりょうさんは映画版でも同じ役を演じています。
りょう:20年ぐらい前に映画で演じて、また同じ役をいただく機会は初めて。しかもミュージカルなので、何もわからずに稽古を始めました。ナース江口が持っている軸はそのままに、映画よりも人間的な温かさやユーモアが入ったキャラクターになると思います。一応、踊ったり歌ったりはしますが、“ミュージカル”とついてしまうと……(笑)。スターさんたちと一緒なので毎日稽古場でうっとりしています。
ーー今回のお稽古場はどんな雰囲気ですか?
秋山:いつも通り楽しくて笑いが絶えない稽古場です。
皆川:松尾さんって基本4時間くらいしか持たない人なんですけど、今回は頑張っていました。1度、「あと3分しか持たない」とノートを初めて1分余ったのが印象的です(笑)。
ーーミュージカルにしてよかったシーン、ご自身のイメージとの一致具合などはいかがですか?
松尾:原作は女性の一人語りの小説なので、モノローグって意外と歌に合うなという発見がありました。あとは松下くんが出演してくれるので、原作にない鉄雄のエピソードができました。皆さんに当て書きしたので、「ここでこの人に歌わせたい」というときに入れられる余白があったのはミュージカル向きだったと思います。最初に宮川(彬良)さんから楽曲をいただいたんですが、セリフを歌に入れ込んで、一つのうねりのようなものになっている。イメージ通りの作品になったと思います。
ーー楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
咲妃:松尾さんが手がけた大切な小説が、ミュージカルとしてより多くの方に楽しんでいただける形になっていると思います。素晴らしい楽曲揃いですし、松尾さんがお書きになった歌詞もぜひ楽しみにしていただきたいです。どのキャラクターも今を懸命に生きています。そのさまがお客様に届いた時、どんな感想を抱いていただけるかとても楽しみです。
松尾:ミュージカルと冠するお芝居をいろいろやってきましたが、その度に「ミュージカルファンの皆さんに見に来ないでほしい」と言ってきました(笑)。斜めから入ることが多いんですが、今回はまっすぐ。ミュージカルファンの方、待っています。ぜひ観に来てくださるとありがたいです。
ゲネプロレポート
ステージには白い箱が組まれたようなセットとパネルがあり、それらが動くことで街や病室などの光景を描き出す。生演奏で作品を彩るバンドメンバーも1人ずつ箱の中に入っており、それぞれが隔離されたような見た目になっているのが面白い。
物語は売れっ子フリーライターとして過ごしている主人公・佐倉明日香(咲妃みゆ)が仕事に追われている日常から始まる。「オーバードーズをして閉鎖病棟に入院させられた主人公」と書くと暗い話に思えるが、冒頭から思わず笑ってしまうユーモラスなセリフやシーンが満載。ちょっと頼りないパートナーの焼畑鉄雄(松下優也)、厳格な看護師・江口(りょう)、穏やかな看護師の山岸(桜井玲香)といった個性豊かなキャラクターに加え、閉鎖病棟にはミキ(昆 夏美)、栗田(笠松はる)、久米(皆川猿時)、西野(秋山菜津子)など、強烈な個性を持つ人々が次々に登場する。
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
咲妃は、ある日突然閉鎖病棟で目を覚ました明日香の困惑と焦り、閉鎖病棟の人々と比べて「自分はまとも」だという安堵といった感情の揺れ、病棟に馴染んでいく様子を、緩急を付けて演じている。ふとした時に見える脆さ、危うさを丁寧に表現していた。
そんな明日香を支える鉄雄役の松下は、絶妙に情けなく愛嬌のある男性を好演。抜群の歌唱力でユーモラスな歌をしっかり聞かせ、明日香が病棟に来るまでの物語を印象的に見せてくれた。
昆が演じるのは、明日香を気にかけ、病棟での立ち居振る舞いなどを教えてくれる少女・ミキ。冷静で理知的に見えるがどこか異質な空気をまとう不思議な少女を、深みのある歌声と可憐な佇まいでミステリアスに演じている。
古株の患者で噂好きな西野を演じる秋山、彼女と行動を共にすることの多い久米を演じる皆川は、側から見れば悲惨な人生を明るく笑い飛ばすキャラクターを、コミカルかつパワフルに表現して客席の笑いを誘う。
看護師の江口役のりょう、山岸を演じる桜井は、真面目に仕事をこなすキャラクターでありながら、個性豊かな患者たちに負けない存在感を放っている。患者への向き合い方から、ふとした時に優しさが見える、味のある役だと感じた。
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
また、2007年には松尾自身の脚本・監督で映画化もされている本作。今回の一番の見どころは、やはり“ミュージカル”の部分だろう。キャッチーな音楽と歌詞、華やかなダンス……という王道の楽しさに、ブラックユーモアを散りばめ、「閉鎖病棟」という場所を明るく楽しく描いていると感じた。
誰もが心に隠しているだろう本音が軽やかでポップな曲調に乗せて歌われていたり、かと思うと非常に個人的で共感しづらいエピソードが壮大なバラードになっていたり。仕事の連絡がしたいと焦る明日香に対して江口が「No」を突きつけるナンバーなど、楽曲によってキャラクターの新たな一面が覗けているようで楽しくなる。
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
また、病院を舞台にしていながら、非常にカラフルな印象を受ける。明日香の物語にはそれほど関わらない患者たちにも、それぞれの物語があることが想像できるような、個性の光る衣装も見どころだ。明日香を中心に、閉鎖病棟の人々の生き様や周囲との関係などを描いている本作。魅力的な音楽に彩られ、生まれ変わった『クワイエットルームにようこそ』を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
『クワイエットルームにようこそ The Musical』舞台写真
本作は2026年1月12日(月・祝)~2月1日(日)まで東京THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)、2月7日(土)~11日(水・祝)までロームシアター京都 メインホール、2月22日(日)~23日(月・祝)に岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場で公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
池津祥子、宍戸美和公、近藤公園、笠松はる、
りょう、秋山菜津子
香月彩里、田川景一、エリザベス・マリー、中根百合香、
永石千尋、原梓、藍 実成、感音、古賀雄大、
羽衣*、芹犬*、等々力静香*、中野亜美*、吉田ヤギ*(*コクーン アクターズ スタジオ第1期生)
<ミュージシャン>吉田 能、熊谷太輔、中條日菜子、福岡丈明、藤野“デジ”俊雄、山下綾香