SHE'S、ハウル、テレン――「歌」で繋がり競い合った3組が迎えたツアーファイナル
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One-Two-Three,For!! TOUR 2016 Photo by 山川哲矢
One-Two-Three, For!! TOUR 2016 2016.4.17 代官山UNIT
志す方向性も奏でる音もわりと異なる3バンドである。見た目の共通点は、年齢が近くて、4人組で、SHE’SとHOWLには鍵盤がいる……そのくらいだ。だが、実はこの3バンドを決定的につないでいるのは、そのサウンドの中心に”歌”がある、という点。それこそがこのツアーの原点であり、彼らがそれぞれ音楽シーンにおいて躍進している要因でもあるだろう。二度目の開催となった『One-Two-Three, For!! TOUR 2016』、代官山UNITで行われたそのファイナル公演でも彼らは三者三様に自らの歌を輝かせてくれた。
SHE'S Photo by 山川哲矢
全6公演のこのツアー。会場ごとに出演順が入れ替わるスタイルをとっていたのだが、この日のトップバッターはSHE’Sだった。井上竜馬(Vo/Key)による軽やかなピアノのフレーズが、木村雅人(Dr)と広瀬臣吾(Ba)のリズム隊が奏でる迫力の重低音の上を揺蕩い、そこに伸びやかなハイトーンボーカルが加わると、じわじわと内側から込み上げるような力強さで会場を満たしていく。6月にメジャーデビューも決定している彼らの今を象徴するかのようなブライトなナンバーである。続く「Change」では疾走感と浮遊感とが絶妙にブレンドされ、井上の「来い!」という一言でフロアが一斉に手をかざす。
SHE'S Photo by 山川哲矢
SHE'S Photo by 山川哲矢
コールドプレイなどが引き合いに出されることが多いように、全体的にスケール感と音の響き、繊細な美メロが際立っているSHE’Sのサウンドだが、そこにアクセントとしてロック成分を加えることに大きく寄与しているのが服部栞汰(G)だ。「ワンシーン」などではアグレッシヴに前に出て推進力を生み、ランドスケープを描くような「Voice」や「Evergreen」ではサウンド全体を押し上げる役目をを追っていた。この押し引きのバランス感覚が気持ち良い。
SHE'S Photo by 山川哲矢
SHE'S Photo by 山川哲矢
MCでは後に続く2バンドにプレッシャーをかけるかのごとく「優勝やった」「圧勝やったな」と勝ち誇ってみせたり、「ワンツースリーフォーイェイ」「イェイ」というコミカルなコールアンドレスポンスで盛り上げたりと、サウンドとのギャップというもう一つの魅力もしっかり提示。最後は「言葉を超える向こう側へと連れていけると信じて、鳴らしている3バンド」(井上)と、この日の3組のマインドを誇ったあと、回るミラーボールの光の中で「遠くまで」のシンガロングでライヴを締めくくった。
HOWL BE QUIET Photo by 山川哲矢
2番手のHOWL BE QUIETは「From Birdcage」でライヴをスタートさせた。すっかりお馴染みとなった白ずくめの衣装で、竹縄航太(Vo/G/Pf)がハンドマイクを手にお立ち台で歌い、一気に自分たちの空間を作っていく。鍵盤の入ったピアノバンドというスタイルこそSHE’Sと共通しているが、HOWLのそれはよりダンサブルで煌びやかな方向にポップを体現している。「東京、一緒に歌おう」と浸透力抜群のコーラスで始まった「ライブオアライブ」では、場内が心地よくステップを踏んだ。
HOWL BE QUIET Photo by 山川哲矢
HOWL BE QUIET Photo by 山川哲矢
「本家、見せてやってよ」というフリに応えて岩野亨(Dr)がさきほどSHE’Sがやっていたコールアンドレスポンスを、考案者ならではのクオリティ(?)で完遂したあとは、「Daily Darling」「レジスタンス」とハネたリズムの楽曲を並べ、より熱の上がる場内。橋下佳紀(Ba)はベースとシンセでグルーヴとエレクトリカルな要素を楽曲に注入し、黒木健志(G)のエフェクトギターが必殺のリフを繰り出す。さらにトドメとばかりに「MONSTER WORLD」へと繋ぎ、カラフルな音世界を存分に打ち出してみせた。バンドスタイルでここまでキャッチーに振り切ることができるのは正直すごい。
HOWL BE QUIET Photo by 山川哲矢
HOWL BE QUIET Photo by 山川哲矢
一転、ラストはピアノ弾き語りスタイルで竹縄の歌心に触れた「A.I.」で締め。憂いを帯びた中低音と透き通るファルセットが胸に迫り、後半インするバンドサウンドがそれを増幅させていった。ドラマティックにもポップにも振り切ることのできるフレキシブルさと、それを実現できる個々のプレイアビリティという、彼らの魅力を存分に堪能できるステージであった。
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
この日のトリはLAMP IN TERREN。ツアー全体を締めくくるという立場でもあるわけだが、それに相応しい熱量と想いを歌に込めてみせた。まず松本大(Vo/G)が静かにギターをつま弾きながら歌い出したのは「portrait」。ダイナミックなバンドサウンドで畳み掛けながら、「UNIT!」「いけますか!」と松本が気合いを入れつつエモーショナルに歌い上げれば、大屋真太郎(G)と中原健仁(B)も両サイドで視覚にも映える演奏を見せ、最前列まで出て喝采を浴びる。
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
松本は「みんな良いライヴしてて、自分でやる前から楽しかったです」と前にパフォーマンスした2組を讃えていたが、お互いのライヴで素直に感銘を受け、それを塗り替えてやろうと言わんばかりに自らのライヴの質を上げる、という至極健全な好循環が出来上がっているのもこの3マンツアーの醍醐味だ。中盤で披露されたテレンの最新形とも言える新曲「innocence」では、川口大喜(Dr)が会場がビリビリと震えるほどの重低音を叩き出し、そこに絡み合う気迫のこもったボーカルと演奏がスリリングな疾走を生む。マイナー調でダークな色合いの強い楽曲ではあるものの、決して重たくはなっていない事実こそ、彼らが新たな扉を開いた表れでもあるだろう。
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
九州出身の彼らは、先の地震被害を受け、やはりこの日のステージに思うところは多かったようだ。だが「どんなことがあっても僕が今このステージで皆さんと音楽を鳴らすっていうことが大切(中略)この音楽っていう自分の背中を押してきた魔法を」(松本)「今日しか届けられないものを届けようと思った」(中原)と前を向いた彼らは本編最後に、ツアーという一つの旅の終わり、そして新たな旅の始まりを象徴するもう一つの新曲「キャラバン」を披露した。かつてないほど前向きなエネルギーに満ちたこの曲。松本は客席に身を乗り出すようにして歌い、サビでは4声でメロディを歌った。初めて聴く人も少なくなかったはずだが、この日のオーディエンスが自然と曲に入り、しっかりと盛り上がっている様子は、新たなライヴ定番曲の誕生を予感させた。
アンコールはこのツアーの楽しみの一つで、各会場ごとにトリを務めるバンドがほかのバンドの楽曲をカバーする、という企画をやっているのだが、そもそもはこの日のトリを務めるテレン・松本の発案だそう。緊張を口にしながら披露したのはSHE’Sの「Un-science」! 盛大なクラップに導かれ、重厚なギターロックへと変身を遂げた「Un-science」は、音源があったら欲しいくらいのハマりっぷりで、後半で歌詞を間違えた松本がペロッと舌を出すというお茶目な一面を垣間見れたことも含め、眼福なカバーであった。「multiverse」ではメンバーがお互い笑顔をかわしながらピースフルな空気が会場全体を包み、コールアンドレスポンスでは舞台袖で見守っていたSHE’Sの井上が、次いでHOWLの竹縄が登場して盛り上げ、終いには全員登場するという事態に。
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
手元のセットリストによると、ここで一度ステージから降りてのダブルアンコールが予定されていたのだが、せっかく全員出てきたのだから……ということで、そのままステージに残って舞台転換の間はフリートークに。ファンには嬉しいひとときだ。そしてラストは桑田佳祐の名曲「波乗りジョニー」を全員でカバー。松本はハンドマイクでボーカルに専念し、竹縄と井上は入れ替わるようにピアノを弾いたり歌ったり。そのほかのメンバーもタンバリンなどを手に盛り上げ、ツアーは有終の美を飾った。
第3回があるかどうかはまだ分からないが、今後さらに認知と人気を獲得していくであろう3バンドだけに、いつの日かそれぞれの”歌”を研ぎ澄ませた彼らが三たび集い、仲間意識とライバル心を存分に交わし合うステージが観たいものである。
撮影=山川哲矢 レポート・文=風間大洋
LAMP IN TERREN Photo by 山川哲矢
2016年6月11日(土)下北沢club251 開場17:30/開演18:00 問:DISK GARAGE 050-5533-0888
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