ハイバイ・岩井秀人にヨーロッパ企画が直撃!

2016.4.30
インタビュー
舞台

(左から)土佐和成(ヨーロッパ企画)、岩井秀人(ハイバイ)、永野宗典(ヨーロッパ企画) [撮影:吉永美和子]

『おとこたち』をより楽しめる? 正真正銘無茶ぶりで実現した対談。
 
大好評だった東京公演を経て、現在は全国公演真っ最中のハイバイ『おとこたち』。劇団主宰で作・演出の岩井秀人の取材が京都で実現するとのことで来てみたが「普通の取材ではつまらんなあ…」と思っていたところ、ちょうど「ヨーロッパ企画」メンバーの土佐和成&永野宗典が、この後岩井がゲスト出演するWEBラジオ番組「週間! ヨーロッパ2」を収録するために現場に来ていた。お互いよく知ってる間柄とのことなので、急遽対談を依頼。「無茶ぶりすぎるでしょ!」「雑っすねー」と言いながらも、さすが即興に強いヨーロッパ企画。一見ゆるゆるながらも、岩井の劇作の感覚や、『おとこたち』にまつわる薄ら怖い話など、しっかりツボを押さえた話をバンバン引き出してくれました。
 

『おとこたち』東京公演より。(左から)用松亮、菅原永二、松井周、平原テツ [撮影:引地信彦]

■観てて「あー!」って言いたくなるし、言いたくなる芝居を作ってる
 
岩井 ここ(京都)に来る時に思ったんだけど、京都ってマス目状の意味合いの地名が多いから、すごくマス目状の上に生きてるって思いそうな気がしたのね、勝手に。
永野 あ、人が?
岩井 人が。それで言うと(京都人の)上田(誠/ヨーロッパ企画作・演出家)君って、マス目状で芝居作ってない? と思って(一同笑)。チェス盤の上でやってるというか。
永野 ああ、確かにあの人は、僕たちをコマとして扱ってますね、すごく。劇作する時も、僕らの顔写真を貼ったマグネットを使って…。
土佐 作ってますからね。それを舞台の模型に乗せて、こう動かして。
永野 「そろそろこっちから流れほしいなあ」って、(模型の)上に置いて。
岩井 モロじゃん!(笑)
永野 その京都の町並みが、上田の劇作家性とつながったっていう。
岩井 でもね、(青年団の平田)オリザさんも一緒だと思う。「そろそろこっちから誰かが入ってきた方がいい」っていう感覚で、芝居を作っていくという。俺にはその感覚はまったくないから、訳わかんなくて。多分そういう空間の何とか力学みたいなことで、感覚的に決めてるんだろうね。
土佐 もう序盤はそれしかやってないですね。「物語がこの方向に流れてるから、次はこっちの方向から来て…」とか。
岩井 そういうフェチなんだよねえ、きっと。「ちょっと右からの風が足りない」みたいなことでしょ?
土佐 そんなことでしょうね。
岩井 先日アニメの人と話してたんだけど、実はアニメっていろんな大きな世界観があったとしても、最終的にはすごくシンプルなフェチで成り立ってるみたいなことを言ってて。何だかんだSF的な世界設定があったとしても、「エロいことになりそうでならない」の繰り返しとか、実は観る人はそれを一番求めてるだけだったりっていう。その本質だけを取り上げると不毛に見えるかもしれないけど、でもさっきの上田君の「力学だけ気にする」っていうフェチも、やっている側は別に不毛でも何でもないでしょ?
永野 うん。結局それを頼りに演じたりはしてますね。
岩井 それがさあ、面白いよね。だって観てる側は、多分そういう風に観てないんだよ。そう言われて初めて、(ヨーロッパ企画『ロベルトの操縦』で)「だからみんなずっと、こっち向きの乗り物に乗ってたんだ」と思うけど。
土佐 あの乗り物も、右と左のどっち向きにするかでずっと悩んでた、やっぱり(一同笑)。
 

岩井秀人(ハイバイ)[撮影:吉永美和子]

永野 でも感覚の話で言うと、岩井さんも…僕この前(岩井の両親の話をベースにした)『夫婦』観たんですけど、時系列結構グチャグチャでしたよね?
岩井 うん、グチャグチャ。
永野 それが難しかったんだけど、これって感覚的にやってるのかなあと。それとも考えてやってます?
岩井 考えてるというよりも、現実の時系列じゃなくて、俺がその時感じた時系列に沿ってる、みたいなこと。実体験に近い話だからと言って、体験した順ということにはならない。何か一つを体験したらこれを思い出して、それを語るためにさらに過去のことを思い出して…みたいな順序だったから。
永野 あれって効果的に配置してるわけ、では…?
岩井 俺にとっては、もう効果しかない(笑)。
永野 だから「あれ、今はいつだろう?」という引っ掛かりの中で観ていたけど、僕らは岩井さんの記憶めぐりを、岩井さんにとって心地いい感覚でたどってるのかなあ…という気はしましたね。
土佐 『おとこたち』もそういう感じですか?
岩井 あれは完全に時系列でピューッと、ほぼ一方通行。(ヨーロッパ企画の)石田(剛太)君が確か(初演)来てたよね?
土佐 石田、諏訪(雅)は観てる。
岩井 石田君、すげえ顔してたなあ(一同笑)。
土佐 「辛かった~」って言ってました。
永野 一人で観劇していたら「わー!」って言いたかったって。
岩井 あーでも、それはすごくわかる。俺もそうだもん。観てて「あー!」って言いたくなる。言いたくなる芝居を作ってるもん(笑)。
土佐 年々耐えれんくなってきてますもんね、そういう辛い気持ちに。
永野 でも執筆しながらだと、やっぱ一番ダイレクトに、その…。
土佐 食らうんじゃないですか? 辛さ。
岩井 多分でもね、前は食らった時に笑うタイプだったんだよ。それがね、笑うじゃなくなってきた。やっぱ年取ったのか(笑)。
土佐 苦しくなってきました?
岩井 うん。だから今も本番を観てて…初演の2年前は(菅原)永二君観てゲラゲラ笑っていたのが、全然笑えない(一同笑)。普通に泣いてるわ、俺。「何これ?」みたいな。
永野 素直になってるのか、何ですかね?
土佐 ようやく人間らしくなってきたんやろうなあ、とか。
岩井 …そう! 本当にそうだと思う。
土佐 ホッとしました。まだ変わらずサイボーグのまんまかと(笑)。
岩井 サイボーグのまんま、って何?
土佐 僕と出会った頃はサイボーグでした。でもちょっとこれ、後(のラジオ収録)でしゃべります。
永野 続きはWEBで!(一同笑)。
岩井 コンテンツについて考える人たちって、こうやって出し惜しみトークするんだよねえ(笑)。
 

土佐和成(ヨーロッパ企画)[撮影:吉永美和子]

■認知症の主観の構造は、演劇の構造とすごく一緒。
 
土佐 40歳ぐらいになったら、割と老後見えますよね?
岩井 見えるよ。だから俺は「いつ電車でいきなり席を譲られるんだろう?」ということを考えてる(一同笑)。だってさあ、25歳ぐらいから今に至るまでだって、精神状態って変わってない感じしない?
土佐永野 うんうんうん。
岩井 確かに身体は少しずつ衰えるけど、でもどっかのタイミングでパン! と老人になるわけじゃないから。だから自分では変わってないつもりなのに、ある日急に「あ、どうぞ」って…すごくない? それって。俺の芝居に出てる猪股(俊明)さんもいきなり譲られて、ちょっとショックだったけど、譲ってくれた人に悪いから「(年寄りっぽい声で)ああ、ありがとう」って(一同笑)。
永野 老人の体で。
岩井 そうそう。それ聞いて「俺はそんなことできない」と思ったなあ。でも電車の中で見るおじいちゃんって、最初からおじいちゃんという認識があるけど、俺たちもいつの間にかああいう風になるということは、やっぱり絶対考えておいた方がいいよ、本当に。
永野 認知症のこととか、ねえ。
岩井 俺「認知症になったらどこにでも預けてくれ」って思ってたけど、老人ホームを取材した時に「岩井さん、まず認知症っていうのは、その認識が自分にないから認知症なんですよ」って言われて、ハッ! と思って。たとえばある朝起きて、普通にご飯食べようと思って食卓に付いても全然ご飯出てこなくて、奥さんに「今日ご飯ないの?」って聞いたら「食べたよね」と言われて。それでしばらく話してたら、どうも本当に食べたっぽいという。確実にさっき起きて、お腹すいてて、食卓に今付いたという記憶しかないのに「食べた」って言われて、それを信じなきゃいけないという。
土佐 うわあ…。
岩井 「ボケたって認識して信じればいい」という、単純な話じゃないのよ。だって体感だもん。「お腹すく」だよ? お腹すいてるのに「食べた」って言われるって、すごいよね?
永野 確かにねえ、何を信じたらいいのか。
岩井 本当にそうなの。手がかりがないの。だから思ったより、エグい所揺らされるよ? もうそれを聞いた時にあまりにも怖くて、まさにその朝食のシーンを台本で書いて、ワークショップでやってみた…それがまた、怖くて怖くて(一同笑)。
土佐 面白くなりそうやけどなあ。
岩井 いや、面白いよ。演劇の構造としてはすごく面白い。最初は「お腹すいてる」という側が正しく見えるけど…って。自分の主観では「(若々しく)俺はこういうビジュアルで、こういう口調だ」と思ってるけど、奥さんの側から見たら、実は全然自分が思っている通りの自分じゃないというのが、構造としてすごく認知症の主観と一緒だという。
永野 …悲しいなあ。絶対認知症になりそうなんだよなあ。
土佐 ねえ? この前もちょっと、認知症が。
 

永野宗典(ヨーロッパ企画)[撮影:吉永美和子]

永野 うん。この前みんなで、コントの収録してたんですよ。最初は普通に撮影してたけど、だんだん僕がセリフを間違えるようになって、何度もNGになって。それで「ちょっと台本確認します」って見たら「さっき読んだ台本と違う!」って(一同笑)。さっきの認知症の話じゃないですけど。
岩井 でも確かに体感だよね、それは。
永野 「さっきちゃんと読んでましたよー」「読んでないんだけど」って。
土佐 僕らも最初は笑ってたけど、途中からもう全然話せんくなって、真顔になって。
永野 だから急に不安になってきて、記憶に対して。それで一日休んで、次の日はセリフを覚えてちゃんとやれたからよかったけど、そのままドツボになってたら…。
岩井 早いよ、早すぎる(笑)。
土佐 誰も笑ってなかったですよねえ、もう中盤は。
永野 上田は写真撮ってたけどね(一同笑)。
岩井 俺もでも、この前…いつもデニーズで仕事してるんだけど、そこでコラムを書き終わって、ノートパソコンを置いて帰ったの。でもデニーズで仕事をした記憶が一切ないから、誰かに盗まれたみたいになって、俺の中で。
永野 あれ? まあまあ激しい奴ですね、それ。
岩井 それでDropboxで、家のパソコンとファイルを共有しているから、これでヒントが見つかるかもしれないって。そしたら「あれ? 誰かが俺のコラムを書いてくれている」みたいなことに(一同笑)。その辺でうっすら「まさか…誰かじゃない!」って。
土佐 「俺だ!」と。
岩井 ただどこで書いたかが全然わからなくて。デニーズには絶対行ってないと思ったけど、ダメ元で行ってみたのね。そうしたら普通に「あ、置いていかれてましたよ」って、俺のパソコンが(笑)。
土佐 でもその記憶、未だに戻ってないんですか? ある?
岩井 ないないない。でもコラムを書いた記憶がないってヤバイでしょ? 読み返したら「あ、書いたかも」ってなったけど。
永野 じゃあ今自分でも、予想の話をしてるっていうことですか?
岩井 そうそう。デニーズの人が言った話(笑)。
土佐 それをまるで、自分の体感のように今話したと(笑)。

 
(ここでそろそろ終了の声)
 
岩井 『おとこたち』はマジ観てほしいですねえ。今は何してんの?
土佐 ゴールデンウィークにイベント(ヨーロッパ企画presents『ハイタウン2016』/詳細はコチラ)があって。
永野 それが終わったタイミングだから観に行けます。
土佐 でもちょっと、伝説的な作品になってるからね。
岩井 そう。これ結構ヒットだった。
永野 観たいわー。石田君の感想を聞いたらやっぱ…。
土佐 石田君、よう観にいかんのじゃないですか? トラウマの顔してましたよ(一同笑)。
永野 じゃあ、トラウマを覚悟して行くって感じですね。
岩井 土佐君は笑いながら観るよ、多分。
土佐 いや、僕ももう40歳になろうとしてますから、すぐ泣いちゃいますね。でも泣くの嫌やー。
 

(左から)土佐和成(ヨーロッパ企画)、岩井秀人(ハイバイ)、永野宗典(ヨーロッパ企画) [撮影:吉永美和子]

 
公演情報
ハイバイ『おとこたち』​
 
【香川公演】※さぬき映画祭 舞台公演
■日時:5月3日(火・祝)・4日(水・祝) 3日=18:00~、4日=14:00~
※4日公演終演後、本広克行(映画監督)と岩井秀人のトークあり。
■場所:サンポート高松 第1小ホール
 
【福岡公演】
■日時:5月7日(土)・8日(日) 7日=18:00~、8日=14:00~
※7日公演終演後、岩井秀人のトークあり。
■場所:西鉄ホール
 
【京都公演】※ロームシアター京都オープニング事業
■日時:5月14日(土)・15日(日) 14日=14:00~/18:00~、15日=14:00~
※14日夜公演終演後、岩井秀人のトークあり。
■場所:ロームシアター京都 ノースホール
 
■料金(3都市共通):一般=前売3,300円 当日3,800円 学生=2,500円(前売・当日共)
■作・演出:岩井秀人
■出演:安藤聖、菅原永二、永井若葉、平原テツ、用松亮、松井周
■公式サイト:http://hi-bye.net/plays/otokotachi
 
公演情報
ヨーロッパ企画presents「ハイタウン2016」

■日時:5月5日(木・祝)~8日(日) 11:00~18:00
■場所:元・立誠小学校
■料金:入場無料
※各イベントの開演時間・料金はイベントによって異なる。詳細は下記公式サイトを参照のこと。
■公式サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/hi-town2016/