独自の視点で“毒メルヘン”を描く、星の女子さんの最新作

2016.5.10
インタビュー
舞台

星の女子さん『トゥルムホッホ』チラシ  原画:鈴木亜由子

「国ってなんだろう?」をテーマに展開する、架空の国トゥルムホッホの物語

【メルヘンな毒と嘘で現代のおとぎ話を作る】をコンセプトに掲げる名古屋の劇団、星の女子さんが、今週末に名古屋のナビロフトで新作公演を行う。

主宰の渡山博崇が劇作・演出した演劇作品の上演、を目的とする星の女子さんは2008年に結成。印象的な劇団名の由来は、「以前所属していた劇団でよく一緒に芝居を作っていた仲間の女優2人と立ち上げたんですが、僕の存在感が薄くて、女子が星のように遠いという不遇の境遇を表して(笑)。あとは、当時気に入っていた『星の王子様』と『かもめのジョナサン』を掛け合わせた言葉です」と渡山。

その後メンバーの入れ替わりなど紆余曲折を経て、2012年の第3回公演以降、コンスタントに作品を発表している。そして、ラブホテルのフロントとロビーを舞台に、いわくありげな人々の人間模様をミステリー仕立てで魅力的に描いた前作『門番』から約半年。第10回公演というひとつの節目となる今作『トゥルムホッホ』は一転、ファンタジー要素の強い世界観で構築しているという。謎のタイトル『トゥルムホッホ』とはいったい何なのか、どんな芝居になるのかを探るべく稽古場に伺い、渡山博崇に話を聞いた。


── 【メルヘンな毒と嘘で現代のおとぎ話を作る】というコンセプトは、劇団創立当初からなんでしょうか。

僕の処女作が『小人ノ狂詩曲』といいまして、架空の職業として小人祓いという男二人がいて、洋館に住む女の子の小人を祓うという話なんですが、最初からその路線だったのかなと後で気づきまして。それを自覚した後は「おとぎ話」をずっと書こうと思っていて、おとぎ話がこの世で最も自由な物語形式だと思ってるんですね。神が出ようと仏が出ようと自由自在で何でもアリなので。それこそ『グリム童話』だと、ソーセージと豆が橋から落ちて川に流れていったとか、何の教訓もなさそうな話があったり(笑)。「なんでこの話をしようと思ったんだろう? 手掛かりはなんだろう?」 って考えちゃう話がすごい好きで、『グリム童話』の初版は何回も読んでいます。

── ご自身でも教訓のない物語を作りたいと?

そうですね。あまり説教くさくない方が自由でいいなと思います。

稽古風景より

── 前作の『門番』はミステリー仕立てでしたが、あの作品もおとぎ話がベースに?

僕は長いことラブホテルで働いていたもんですから、実体験を織り交ぜつつ書きました。ホテルの守り神みたいな〈猫〉という不思議な存在が出てきますけど、何かしらファンタジー要素が入ってる芝居じゃないと僕がしっくりこないっていうのがありまして。ただ、振り幅も欲しくて、メルヘンだからと言って砂糖菓子みたいな甘いものを書くのは嫌なんですね。おとぎ話のバリエーションはいっぱいあるので、サスペンスもミステリーもやってみたいなと。

── ネタはまだまだ尽きないという感じですか?

こんなこと言うのはナンですけど、古今東西、名作の引用元はいくらでもあるので(笑)。インプットし続けていれば、こういうのをやりたいとか、もっと違う方向性を見てみたい、というのはどうしても生まれてきますね。

── インプットという点で、積極的に取り入れてらっしゃるものは何でしょう。

僕は映画とゲームが特に好きなんですが、『ダークソウル』というアクションゲームのシリーズがありまして、その中で篝火が出てくるんですね。その印象があまりにも強いのでそれを芝居に出したり。話をパクるというよりは、何か想像力を想起するアイテムとしてモチーフをお借りするみたいなところはありますね。

── いろいろなものを取り入れつつコラージュして、渡山さんカラーの作品に変換するという。

そうですね、それに近いと思います。これとこれを組み合わせる、という視点は自分のものだと思っているので。

稽古風景より

── 今作の『トゥルムホッホ』は、どんな作品なんでしょうか?

前作の『門番』をリアルな話にしたもんですから、すごいファンタジーを書きたくなっちゃったんですね。で、真っ先に狙ったのが『ムーミン』でして。ああいう素敵な世界を書きたいなと思ったんですが、最近の社会情勢を見ると、外国で戦争が起きているとか、日本でもそういう気配がするとか囁かれているのがすごく嫌で、ムーミン谷にそんなものが持ち込まれたらどうなるんだ!って心配になっちゃったんですね。そこが出発点になって、さすがにムーミンを出すわけにいかないので〈ネズミ人間〉という架空の生き物を登場させて、彼らの集落・集団が戦禍によって追いたてられ、僕らの住んでいる、本来交わるところのなさそうな世界にフッとやって来てしまう…というところからスタートします。

── 〈ネズミ人間〉と私たちの世界は別次元ということですか?

同じ次元で当たり前に存在してるんですけど、彼らは差別されてるんですね、我々から。「遠い国にいるらしいよ」みたいな、ぼんやりとした異邦人であるという。で、彼らが追われて、とある劇団のアトリエに迷い込んでいくんですね。

── いきなり狭い世界に(笑)。

それが会場の「ナビロフト」の立地をそのまま利用しているんですけど。彼らがそこにやって来たのは目的があって、以前、逆に彼らの国に迷い込んだ人がいて、そのお婆さんをもてなしたことによって「私のところにも来てくださいね」っていう手紙が来てたんですね。彼らはそれを唯一の頼りにして、手紙の住所はここじゃないかと見当をつけてやって来たんです。で、そこは実際お婆さんの持ち物ではあるけれど借りているのはとある劇団で、そこの人たちと問答があったりして。そこへ市役所の人が現れて、よくよく手紙を見てみると、どうもこの土地の権利書が入っていると。それでこの土地は主人公である(ネズミ人間の)ムウのものになっている、という展開から更に話が飛躍して、ここに国を作ろうということになって、その国の名前が「トゥルムホッホ」なんです。

稽古風景より

── すごい展開ですね(笑)。以前お話を伺った時、「トゥルムホッホ」は実在する名称だと仰っていましたよね。

近所のスーパーへ行った時、隣に立ってた工場が「トゥルムホッホ」っていうすごい印象的な名前で。「トゥルムホッホは今日もあるなぁ、何をしている会社なんだろうなぁ…」と全く想像できなかったんですけど、ある日急に更地になっていて、「トゥルムホッホが無くなってしまった!」っていう衝撃がすごくて(笑)。こんなインパクトのあるものでも無くなってしまうんだ、っていうので、いつか無くなってしまうものの象徴として付けたんです。実際の会社の「トゥルムホッホ」さんは別の場所に移転しただけだったので、無くなってはいなかったんですけど。その会社のHPによると、「高い塔」という意味のドイツ語らしいんですね。それも今回の芝居のモチーフのひとつとしてチラシにも使わせてもらっています。

── 演出的な仕掛けとして何か考えていらっしゃることなどはありますか?

自分で書いてはいるんですけど、全然今までにないような感覚がありまして。まだこれをどういう風な全体の演出があるのかというのは、模索中だったりするんですね。書いたものとしてのイメージはあるし、役者と作っていく現場で生まれるものっていうのも確かにあるんですけど。まだ僕自身が見通せてないというか、ホンの中に居すぎる感じがして。これは大変おこがましいこと言うんですが、感触としては、以前北村想さんの『アッシュ・チルドレン』という作品を演出させていただいたんですが、それを意識していて。

── ホンの空気感が似ているということですか?

そもそも『アッシュ・チルドレン』でひとつのテーマとしてあったのが、「国ってなんだろう?」っていう問いかけだったんですね。今回の作品は、それに対する僕なりの回答というか、応答のようなものを書いたんだろうなという気がして。それを考えだした動機はなんとなくわかってるんです。ロシアがシリアに介入したとか撤退したとか、そういうニュースを見て、怖くなったからです。戦争が怖いんです。馬鹿みたいに単純ですけど、でも、差し迫った恐怖があるんです。

稽古風景より

── おとぎ話がベースになっているけれど、実際の社会で起こっている問題が入っていたりするんですね。

今まではそういうのが嫌で、社会派みたいなのが自分の性に合わなかったんですけど、最近はそれどころじゃないぐらい影響されちゃってて。でもそういうことに対して、賢いことはなにひとつ言えないんですけどね。「戦争は嫌だな」ぐらいの素朴なことだけなんですが。

── そうすると、今作は渡山さんにとって転機的な作品になるんでしょうか。

そうなるな、と思ってます。

── 今回は客演の方がたくさん出られますが、キャストについてはどのように?

劇団で初めて出演者オーディションをやりまして、それで北川遥夏さんと平手さやかさん、町野あかりさん、伊藤文乃さんの4名を選ばせていただきました。あとは僕が信頼する俳優さんたち一人ひとりに声を掛けて、老若男女。ベテランの世代と若手をできるだけ混ぜたいんですね。俳優の技術の継承を少しでもして欲しくて、なるべくその機会を作りたいと思っています。純粋に、中島由紀子さんやいちじくじゅんさんみたいなベテランの方とご一緒するのは、僕自身にとってもすごく刺激になりますし。あとはそれぞれの魅力を精一杯引き出せればなぁと。


取材時にはまだ演出プランは固まっていないとのことだったが、劇団のアトリエという小さな空間から生まれる壮大な国造りの物語は、どのように結実するのだろうか? ファンタジーとリアルが絶妙に面白おかしく融合するストーリーはもちろん、細やかに描かれた個々のキャラクターや、渡山自ら手がける舞台美術(天井に注目!)など、その完成形は劇場でぜひお確かめを!

前列左から・鈴木亜由子、岡本理沙、渡山博崇、山本存智 中列・北川遥夏 後列左から・伊藤文乃、中島由紀子、いちじくじゅん、二宮信也、元山未奈美、町野あかり

 
 
イベント情報
星の女子さん 第10回公演『トゥルムホッホ』

■作・演出:渡山博崇
■出演:岡本理沙、鈴木亜由子、渡山博崇(以上、星の女子さん)、二宮信也(スクイジーズ)、中島由紀子(avecビーズ)、元山未奈美(演劇組織KIMYO)、伊藤文乃(オレンヂスタ)、北川遥夏(愛知淑徳大学演劇研究会「月とカニ」/劇団99.974)、平手さやか(劇団秘密基地)、町野あかり、いちじくじゅん(てんぷくプロ)、山本存智(エンターテイメント集団演無)

■日時:2016年5月12日(木)19:30、13日(金)19:30、14日(土)14:00・19:00、15日(日)11:00・15:00  ※14日(土)14:00・19:00の回終演後は『スージィさんちのみじかいおはなし会』(作・鈴木亜由子、演出・渡山博崇)、15日(日)11:00の回終演後は10回公演記念『餅投げ』、15日(日)15時の回終演後は次回作『予告編』のアフターイベントも開催予定。
■会場:ナビロフト(名古屋市天白区井口2-9012)
■料金:前売/一般2,200円、学生1,500円 当日/一般2,500円、学生1,800円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「原」駅下車、2番出口から北西へ徒歩8分
■問い合わせ:星の女子さん 090-9926-0091(トヤマ)
■公式サイト:http://hoshinojoshisan.wix.com/hoshinojoshisan