江戸情緒と人情と愛があふれる名作世界『御宿かわせみ』レビュー
2016.5.12
レポート
舞台
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高島礼子・中村橋之助
平岩弓枝の人気小説『御宿かわせみ』が、5月3日から明治座で上演中だ。(27日まで)
幕末の江戸、大川端にある旅籠「かわせみ」を舞台にした人情捕物帖で、主人公の武家の次男坊・神林東吾に中村橋之助、旅籠の女主人るいに高島礼子というドラマの名コンビがそのまま登場。東吾の兄夫婦、通之進と香苗に西村雅彦と紺野美沙子、かわせみの宿泊客・天野宗太郎に柳下大、東吾に思いを寄せる香苗の妹・七重に朝海ひかる、八丁堀の同心・畝源三郎に高橋和也と豪華な顔ぶれが揃った。
【あらすじ】
神林東吾(中村橋之助)は代々、南町奉行所の与力を務める由緒ある武家の次男坊。市井で起きる事件の解決に力を貸している。大川端にある旅籠「かわせみ」の女主人、庄司るい(高島礼子)とは幼なじみで相思相愛の仲である。東吾の兄の通之進(西村雅彦)と香苗(紺野美沙子)は仲むつまじい夫婦だが、子がないため東吾に家を継いでほしいと願っている。 また香苗の妹の麻生七重(朝海ひかる)も子供のころから東吾に思いを寄せていた。
ある雨の晩、「かわせみ」にわけありらしき兄妹が宿を求めてやって来た。あいにく部屋は埋まっていたが、るいは困っているらしい二人を泊めることに。翌日、るいは八丁堀の定廻り同心・畝源三郎(高橋和也)らと兄妹の気の毒な身の上話を聞く。兄妹が悪質なたくらみに巻き込まれていると感づいた東吾たちは、かわせみに投宿していた医者の天野宗太郎(柳下大)に協力を頼み、解決に乗り出す。
今回の舞台は演出のG2が脚本も手がけ、300以上もあるという膨大な原作のエピソードの中から、特に人気の高い「江戸の子守唄」「美男の医者」「お吉の茶碗」などを中心に、オリジナルなストーリーにまとめあげた。捕物事件を解決していく面白さとともに、東吾とるいの恋の行方、親子のさまざまな絆、庶民の暮らしぶりなどを描いて、江戸情緒あふれる中にもテンポとリズムのある舞台を作り上げている。
東吾の兄夫婦の西村雅彦と紺野美沙子もまた見事な一対で、西村が独特のユーモアセンスで堅物だが情もある通之進を演じれば、紺野は少し天然に見えながら実は賢くて優しい女性像を作りあげている。
柳下大が演じる天野宗太郎は、かわせみの宿泊客で名のある武家の子息なのだが、若い頃にやんちゃをして家を出、長崎で医学の修業をしてきた青年で、医師らしい知性と闊達さがあり、東吾たちの大芝居に一役買う場面などで活躍する。朝海ひかるは武家娘の凜とした姿が美しく気品があり、るいの存在を知りながら東吾を諦めきれない想いが切ない。
そのほかの登場人物たちも活躍の場がそれぞれあって、「かわせみ」の老番頭の嘉助・三原邦夫、女中頭お吉・広岡由里子という芸達者たちを筆頭に、呉服屋の倒産事件に巻き込まれた兄妹の中村宗生と木島杏奈、店を潰し姿を隠した呉服屋母娘の松永玲子と片山陽加、るいが面倒をみる文吾と花姫という子役たちにいたるまで、全員がそれぞれの見せ場をきっちりつとめて、『御宿かわせみ』の世界を色鮮やかに目の前に繰り広げてくれる。
江戸の人々のささやかだが豊かな暮らしときめ細かな人間模様、その中に笑いも涙も無理なく織り込んで、観るものの心の奥底に届く、人情と愛にあふれた名作世界である。
この作品の初日終演後にはメインキャストの7人(中村橋之助・高島礼子・西村雅彦・紺野美沙子・高橋和也・柳下大・朝海ひかる)が1階のエントランスで熊本地震の震災募金活動が行われた。次々に並んで募金に協力する列は劇場の外にまで延々と繋がり、1時間近くキャストと観客の間で握手と笑顔のが交わされた。この義援金箱は公演期間中、明治座ロビーに設置される。
【取材・文・撮影(募金風景)/榊原和子 舞台写真提供/明治座】
〈公演情報〉
明治座五月公演
『御宿かわせみ』
原作◇平岩弓枝(「文春文庫」刊)
脚本・演出◇G2
出演◇中村橋之助、紺野美沙子、西村雅彦、高橋和也、柳下大、朝海ひかる、高島礼子 ほか
● 5/3~27◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階前方席)¥12,000 A席(2階後方席)¥8,500 B席(3階席)¥6,000(全席指定・税込)学割:各種 2割引
● 5/3~27◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階前方席)¥12,000 A席(2階後方席)¥8,500 B席(3階席)¥6,000(全席指定・税込)学割:各種 2割引
〈お問い合わせ〉明治座 03-3666-6666(10:00ー17:00)