金子ノブアキ エッジを効かせながらも心を浄化するような美しい音楽表現へたどり着いた理由
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金子ノブアキ
これが、RIZEやAA=でドラムを叩いてる金子ノブアキのソロなのか? ミニマム、アンビエント、シューゲイザーにチルウェイブ。立体的な音像、音響の絵画的美しさに細部までこだわったトラックメイク、懐かしい気持ちとコネクトする浮遊感あふれるサウンドと歌。ソロでは、エッジを効かせながらも心が浄化されるような幻想的で美しいサウンド&トラック&メロディをクリエイトする音楽家としての才能、ボーカリストとして魅力を大いに開花させた金子。作品のなかで彼は、音を何層にもレイヤー、ループさせ、その音がパーンと途切れ視界がホワイトアウトした瞬間、この世のものとは思えない世界へとトリップしていくトラックで、自身の死生観を具現化。彼は、ソロでなぜこのような音楽表現へとたどり着いたのか。先頃ドロップしたばかりの通算3作目となる最新作『Fauve』を軸に話を訊いた。
死生観みたいなものを音で表現したいというのはすごくある。死んじゃうヤツもいれば子供が生まれるヤツもいて。死生という気配がリアルになってくる。
――RIZEでデビューしたての頃に何度か取材させていただいたことがあって、それ以来なんですが……。
二十歳前後の頃ですよね? JESSEと二人で取材してた頃。
――ええ。当時は取材が始まっても雑誌のグラビアに載ってた女の子の話が止まらなくて。
ヒドイな(大苦笑)。
――その当時の自分に、いまの自分が一言声をかけるとしたら?
バカ野郎!! ちゃんとやれっ!!
一同:(笑)
――ありがとうございます(微笑)。そんな金子さんが自分名義でソロ作品を発表し始めたのが2009年。以来『オルカ』(2009年7月)、『Historia』(2014年2月)、最新作の『Fauve』(2016年5月)に至るまで、これまで知らなかった金子さんが溢れてて、驚かされっぱなしです。
でしょうね(微笑)。自分でも驚きでしたから。まず、僕のソロは“劇伴”を作ったところから始まったんです。それまではバンドカルチャーの人間で、一介の打楽器奏者でしたから、自分の名義で音楽を出すのは“いやいやとんでもない。俺なんかが作ってどうすんの”というのがあったんですよ。それと期を同じくして、ちょうど芸能界の仕事に復帰したら、運よく大きな映画やドラマのオファーが舞い込んできて。そこに飛び込んで精力的に俳優をやりだしたら、個人名が一人歩きし出したんですよね。
――俳優としての金子ノブアキという名前が。
ええ。そうやって以前とはスタンスが変わってきたときに、同じ事務所の役者さんが映画を作って“曲をのせてくれないか”といわれて。それで作ったのが1st(『オルカ』)の音源なんですよ。映画もロードムービー的な内容だったから、風景を音で描くというところと僕が持っていたものの相性がよかったのもあって、そこで何かがパーンと開いちゃった感じがあったんですよね。だから、ドンドンドンドン出てきて。“これはいっぱい作れるわ”と。だから、劇番を作ったのがすべての始まりだったんです。
――映像に音をつけるということにはもともと興味があったんですか?
そうですね。ジム・ジャームッシュの『デッドマン』のニールヤングじゃないですけど。そういうものに憧れはありました。僕は90年代が青春時代なんで、その頃のウエストコーストが活発だった時期のバンドカルチャーと、90年代に観たいろんな国のいろんな映画。デヴィッド・リンチ、デヴィッド・フィンチャー、ガイ・リッチー、リュック・ベッソンしかり、彼らの作った映画はエッジが効いててカッコイイものが多くて。サントラも聴いてたから、影響はあったかもしれないです。その他にも、ウチは両親が音楽家だからいろんな音楽を聴いてきた。そういうものが僕の中でクロスオーバーし、メディアミックスしていったものが、多分こういう形になったんだろうなと思います。
――ソロでアウトプットしてみたら。
シューゲイザー、アンビエントな音響、音像で絵画的、映像的といわれるものが出てきたんです。
――バンドやっているときとはアウトプットの仕方は違うんですか?
そうですね。RIZEやAA=をやってるときは、いわゆる10代の自分が始めたことに瞬間的にリコールして、それがバッと出てくる。その瞬間だけは変わらないよさみたいなのがあって、瞬間に10代になっちゃうみたいな感覚なんです。先輩を見ててもホントそうだし。それは感動的なものがあるから大事にしたいなと思う一方で、個人的な音楽家としてのリアルタイム感は絶対ソロの方が大きいですよね。いまの人生観とか、いまの感覚は。だから、僕がバンドでやってきているものともTVで見る役者のイメージとも違って、すごく不思議だというのはすげぇわかるんです。
――しかも、ソロ作品を聴いて感じるものが生死とか輪廻であったことも驚いたんです。間違っていたら申し訳ないんですけど、金子さんは自分が死を迎える瞬間の音楽を探しているのかなと思ったんですよね。
まさにそうで。“死生観”は大きなテーマとして掲げているところなんです。もちろん、この音を聴くことでいい作用が生まれて欲しい、人の役に立ちたいという気持ちはバンドと変わらないんです。けど、僕の今の感覚でいうと、そういう死生観みたいなものを音で表現したいというのはすんごくある。これは、全然ネガティブではないんですよ。すごくポジティブなことで。僕らもだんだん大人になってきて、フェスに行っても年長者と若い人たちの間の世代に来てる。だんだんね、死んじゃうヤツもいれば子供が生まれるヤツもいて。死生という気配がリアルになってくる。それもあって、こういうものが自然と自分の中に鳴っていて。最初っからあったみたいな感じで。そことコネクトする音楽なんですよ。こういったミニマルやアンビエントに聴こえるものを聴いて、思い出すものって絶対にあると思うんですね。
――分かります。だからどのアルバムも懐かしさを覚える感覚があって。そこでも不思議だなと思ったのが、その懐かしさを支配しているメロディ、ハーモニーの旋律に北欧というか、ケルティックなものを感じるところなんです。
ケルト音楽もすごい好きだし、集中したいときはグレゴリオ聖歌みたいなものを流したりしてます。そこは、僕が混血だからだと思うんですよ。ポーランドとか、結構色々入ってるんです。自分のルーツになるところの建築とかを見ると、懐かしい気持ちになるじゃないですか?
――なりますね。金子さんはどのあたりに懐かしさを覚えますか?
僕は完全にヨーロッパなんですよ。JESSEとか弟(KenKen)はアメリカみたいなんです、どうやら。だから、アメリカに行くと懐かしい感じがするみたい。RIZEでアメリカを車でツアーしたことがあるんですけど、僕は自分が“この街好きだな”と思うのはだいたい港町で。それをバンドのメンバーや現地の人にいうと、“やっぱお前はミックスブラッドでポーランドが入ってるんだな。ここの港の街並みはヨーロッパの建築様式でできてるから、きっとお前はアメリカよりもヨーロッパの方が合うんだよ”といわれて、そうなんだなと思ってたんだけど。やっぱりこうやって音像を作ったりすると、本能的に懐かしいところに返っていく感じなんですよね。だから、そこは僕の中に大きくある遺伝子的な懐かしさなんだと思います。でも、まだポーランドは1度も行ったことがなくて、人生のうちに1度は行かなきゃとは思ってるんですけどね。
――遺伝子からというのは説得力ありますね。
今回も参加してくれてるPABLO(Pay money To my Pain)、彼はスペイン系だけど、彼との共鳴も遺伝子が影響しているところもあって。最初に一緒にスタジオに入ってバーンとやったときに、間が合うというのかな。それは多分ヨーロッパの感じなんですよね。感情の乗せ方とか、音の鳴き方が似てるよねっていうのがあるから、いま一緒にやれてて楽しいんですよ。
金子ノブアキ
――なるほど。そんななかで、今作『Fauve』は“歌もの”の比率がぐんと増えましたね。
歌詞が今回増えたのは、去年ライヴをやったからです。インストのライヴだという伝わり方をすることが多かったので、“そっか、じゃあもうちょっと歌詞の分量を増やそう”って思ったんです。歌詞とか言葉を増やして“歌があるものが真ん中ですよ”というのを今回は分かりやすく作りました。
――アルバムのリード曲は「Take me home」だし、気だるいメロウなR&Bトラックに仕上げた「Garage affair」も分かりやすい歌ものでしたものね。ただ、漂う空気感は金子さんらしく霧がかかってましたけど(微笑)。
この曲はiPhoneのGarageBandで作ったんですよ。
――えー、それで「Garage affair」?(笑)
そうなんです。押井守監督の映画を撮影していたときに、雨が降って5時間ぐらい待ちになったんで、雨を眺めながら作りました。
――こういう歌ものばかりなのかと思えば、8分近くのアンビエント曲「blanca」がいきなり中盤に出てきたり。
その振り幅が今回の目標でしたね。
――サウンド、トラックメイクも今回は肉体的な音が増え、そこも振り幅が広がりましたよね?
今回はレコーディングの段階から外のスタジオでドラムは録ろうとか、1周回ってバンドのスタンダードなやり方に戻った感じだったんですよ。ミニマルなところはこれまで通りミニマルでやって、生楽器に関してはちゃんとエネルギーをパッケージして録ろうと。ライヴのことも考えて。だから、とにかく今回はライヴ感重視で、ドラムも一発録りで録りました。しかもこれ、全部1日で録り切っちゃったんで。超省エネでしょ?(笑)
――それは事務所も大喜びじゃないですか。
コスパ高いでしょ?(笑)でもね、1テイク目ってやっぱカッコイイんですよ、どうしても。何回やっても、1テイク目って魔法みたいなんだけど、空気が全然違う。ソロプロジェクトにおいては、そこもあけっぴろげに考えてるから、別に1テイクじゃなくてもって考えてたんだけど、スタジオに入ったらそうなっちゃいましたね。
――何度やっても、1テイク目のミラクルにかなうものなしと。
ええ。そういう肉体労働と、持ち帰ってからのミックス作業。そこを今回は真っ二つに分けたんです。僕は、共有してるハウススタジオもあるんだけど、最近自宅に作業場を設けて。ミックスもそれぞれエンジニアさんは在宅でやられる方が多いでしょ? 今回の小西さん(Koni-young)も草間(敬)さんも家が一番機材が揃ってるんで、僕も家に作業場を設けて。遠隔で音を聴きながらこうしましょう、ああしましょうって進めていくというのをやっていました。今作から僕もミックスにかなり関与してるんですよ。
――ミックスまで自分でやってるんですか?
配信シングルまでは全部僕がやりました。アルバムまでやると時間がなくなるので、プロの職人さんに甘えるところは思いっきり甘えて、失礼がないようにちゃんと音の説明をするというのが今作の個人的なテーマでした。だから、こうしたいああしたいというなら、マナーとしてこっちも分かっていないと失礼かなと思って自分で試してみたり。あとは時間がなくなってきたとき用のために、内緒でボーカルのラインは作ってオーディオファイルにしておいて。エンジニアさんが“間に合うかな…”ってなったときは“実はこういうのあります”といって送ったり。そこで“あー、いいね”で採用されたものもありましたけど、落選したものもありました(笑)。
――曲を作ったときにその曲の音響、音像まで金子さんの中にはすでにイメージがある訳ですか?
そうですね、だいたい。それを探すから、トライ&エラーする時間がリアルに必要で。やっぱり時間がかかるんですよ。探し始めたら、いちいち全部を試したくなっちゃうから。そんなときにソフトの新機能発見ってのが一番ヤバくて(笑)。“うわっ、こんなことできるんだ”“これで全部やり直して試したらもっとよくなるかも”って思うと、作業が終わらなくなる。
――肉体労働は効率いいのに、こっちはやりだしたらエンドレス(微笑)。
そう。だから、ちゃんとデッドを決めて人に渡さないと死ぬまでやっちゃう。それぐらい作るのが好きなんですよ、とても。僕らがデビューした当時はアナログの時代で、Pro Toolsもなかったんですね。それから15~16年経ったいまはデジタルはものすごい進化した。失ったものもあるけど、自由度という意味では僕はすごくいい時代だと思ってるんです。しかもウチらがラッキーなのは、世代としてアナログからデジタルを跨いでるんです。アナログカッティングの良さ、緊張感みたいなのも身をもって体感し、そこからデジタルに移行してきた世代なので、僕は満遍なく自分が吸収してきたものを出したいという思いがシンプルにある。だから、こういうラップトップミュージックにしても、エンジニアさんに“最近おもしろいもの出た?”って聞いたりして。日進月歩で進化していくテクノロジーは、新譜が出るのをチェックするとの同じ感覚で見逃せないんです。ホント好きなんですよね。作ってるのが本当に楽しいんです。それで、自分が癒される。
――じゃあドラマーじゃなくて、最初からこっちの道を選んでいればよかったのにと思ったりします?
いや、ドラマーでよかったってすごく思いますよ。ドラマーで苦労する人、多いので。上手い人は忙しいし、ライヴもやるのにどうしようって。今は打ち込みでも作れるけど、ステージ上での再現性がなくなっちゃうという問題もある。でも、僕はモグアイもすっごい好きだから、ああいうものも叩くのは得意。叩き終わった後は、ドラマーじゃない観点から見てるので、ドラムやれてよかったなと思うときはすごくありますよ。“便利だわ”って(笑)。
――自分、使えるわって。
そうそう(微笑)。カッコいいドラムを乗せると、明らかに品質が上がる瞬間があるんですよ。だから、ボーカル、ドラムが持ってるパワーは圧倒的ですよね。それだけ影響力が大きいから、逆にいうといらないところはドラムもバッサリ切っちゃいます。“ここうるせぇな”と思ったら“クビでーす”ってドラム全部無くしちゃうんで(笑)。演奏してるときは主観だけど、ミックスするときはめちゃくち他人行儀ですよ。
金子ノブアキ
――そうやって自分の肉体を最後は自らラップトップで支配していくというのは、アナログからデジタルへと渡ってきた金子さん世代だから、そこを面白がってできる気もしますね。
めちゃくちゃ面白いですよ。
――だから、アルバムの中でいうと「Take me home」や「Lobo」のような、プレイヤーのエモーショナルな高揚感とデジタルの抜け感を持ったサウンドの構築は、金子さんが最も得意としているところなんでしょうね。
そうですね。死生観にコネクトするとき、そこにものすごいアグレッシブな演奏があえて入ってくると整合性がとれるんですよね。この、燃えてる命ありきという生。それを、僕がいままでやってきたことで作るとなると、僕がいて、PABLOがいればゴリゴリの演奏ができるという自負がある。だからこそ、こういう死生観、あの世観を“上モノ”として乗せられるんです。
――なるほど!
この世のものじゃないような空気とコネクトする媒介として、動物的な演奏があるというのが、置き方として美しくまとまってるところなんです。
――そんな構造だったんですね。
パンクロックだって、そもそもはそうじゃないですか、哲学としては。破壊の美学として燃え尽きるまで燃えていくというあの感じと、共有していると思いますよ。マイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)とかのシューゲイザーも、轟音に轟音を重ねていくと透明度が増してきて。ちょっとピントがあったときに。
――バーンとホワイトアウトしちゃう。
“キターっ”て。あの感じとやってることは一緒ですよ。アンビエントもしかりで。似てるものを重ねていくと飛び出してくる感覚がある。3Dの力学と一緒ですよね。ピントがあった瞬間に浮き上がって進んでいく。それを表現していくだけなんです。
――では、これから全国5カ所で開催されるツアー『金子ノブアキTour 2016“Fauve”』に関しても教えてください。こちらはどんなものになりそうですか?
去年までライヴハウスだったんですけど、このツアーからシーティングになるんですね。ライヴハウスのぎゅうぎゅうの中で聴いてもらうのもいいけど、今回は照明とか映像もリンクさせて。
――最終日の6月16日、東京・EX THEATER ROPPONGで行なわれる公演では、あのernaとのコラボステージも観られるんですよね?
そう。今回は、とにかく演出も含めてすっごくカッコいいものを作ってるんで、椅子に座って観てもらおうと思います。初ライヴ前は、お客さんのリアクションが分からなかったからライヴハウスを選んだんですけど。でも、初ライヴをやったら、ものすごい静寂のなか、ピーンと張り詰めた空間でやれたんですね。“うわぁーやった、これはいいぞ”と思って。それなら次は絶対椅子ありきで全身で感じてもらうのが最高だろうなと。僕がお客さんだったらそっちの方で観たい。他の人の体温を感じない席で、一人になってこそ共有できることもあると思うから。だからね、座って聴いてもらったらこれ、相当気持ちいですよ。
――どうしましょう。あまりにも気持ちよすぎて死んじゃいそうになったら。
それでも全然いいですよ! 僕、実家が葬儀屋さんなんで(笑)。
――(笑)そうでしたね。
会場の折り込みに入れとく? アフターケアも万全ですって(笑)。
インタビュー・文=東條祥恵
金子ノブアキ『Fauve』
VPCC-81874 ¥2,500+税
01. awakening
02. Take me home
03. Tremors
04. Garage affair
05. Firebird
06. blanca
07. Lobo (Album ver.)
08. Icecold
09. Girl (Have we met??)
10. dawn
11. The Sun (Album ver.)
12. fauve
※ソロライブパートナーギタリストPABLO(Pay money To my Pain)、マニュピレーター・シンセサイザー草間敬も制作参加
6/2(木) 金沢市民芸術村 パフォーミングスクエア 18:30 / 19:00
問) FOB KANAZAWA 076-232-2424
問) KYODO NISHI-NIPPON 092-714-0159
問)GREENS 06-6882-1224
問) SUNDAY FOLK PROMOTION 052-320-9100
本公演限定で“enra”とのコラボレーション実施!!
問) SOGO TOKYO 03-3405-9999
一般発売:4/22(金) 20:00
GREENROOM FESTIVAL ‘16
5/21(土) 横浜・赤レンガ地区野外特設会場
※Gallery Stageで14:15より出演