andropがキャリアを縦断することで示した現在地点に、揺るぎない自覚と決意をみた

2016.5.22
レポート
音楽

androp

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one-man live tour 2016 “Image World” 2016.5.15 Zepp Tokyo

開演を待つフロアをゆっくりと青い光が廻り、静かな鍵盤の音色がざわめきの合間に雫を落とすように響く。そこへ突然映像が投射され……といってもほぼ砂嵐のような中を断片的な文字や絵が浮かんでは消えていくといった混沌としたもので、ノイズにまみれたインダストリアルなSEと目まぐるしい映像が1分ほどは続いただろうか。その映像が完成形をみたと思われる中、登場した4人は、互いに向かい合って重厚なイントロダクションから「Strobo」へ。文字どおりカメラのストロボさながらの強烈な逆光が客席に向けて放たれ、メンバーのシルエットしか見えないステージから強烈な音塊が放たれる。

androp

息を呑むような緊張感のある滑り出しに思わず気圧され、一瞬、今日は作り込んだ音世界をある種一方的に提示していくタイプのライヴになるのかもしれないな、と感じた。そもそも今回のツアーがアルバムなどのリリースツアーではなかったこともあり、昨年の『androp』以降の彼らがどのようなモードでいるのか、どんなライヴを用意してきているのか、まったく予想がついていなかったのだ。だが結論から言うと、細部までとことん作り込んだ演出やサウンドで逐一圧倒しながらも、この日のZepp Tokyoには音楽を介した双方向のコミュニケーションがしっかりと存在し、誰一人置いていくことのないライヴが繰り広げられていった。

androp

アルバム『androp』以降のandrop、ということを述べる上で、大きな変化として今年の3月に自らの音楽を発信する拠点として新たに「image world」を立ち上げた、ということが挙げられる。バンドの始まりである「Image Word」という最初期の楽曲。4人で初めてスタジオに入って合わせた曲。彼らはそのタイトルに一文字加えて今回のツアータイトルにもした。ただの言葉が世界になった、と内澤崇仁(Vo/G)は表したが、これまでの活動の中で生み出してきた多岐にわたるandropの音楽、そしてそれらが描いてきた世界を、あるいはこれから描いていく世界を、現在の彼らがここで提示しておくという意図だろうか。披露される楽曲もキャリアを縦断する非常にバリエーション豊かなものとなった。

androp・内澤崇仁

前半の「Roots」から「Glider」という流れからして『anew』『note』というインディーズ時代の1st、2ndからだし、内澤のコーラスを促すような歌い回しを受けてすかさずシンガロングが巻き起こりメンバーもそれぞれ笑顔を見せた「One」は、バンド名のアルファベットから頭文字をとってネーミングされた6作品のうち6作目『period』からの楽曲だ。「久しぶりの曲を」と披露された「Merrow」は『note』で、立体感のある映像が映し出される中を一羽の鳥が飛んだ「Tonbi」は『anew』、轟音の中に美メロが浮かび上がる壮大な「Puppet」は『door』……と書き連ねればキリが無いくらい、本当に様々な時期の楽曲が入り混じっている。しかもそれらはギターロック色が強かったり、ポストロック風味が強まったり、ノイズやシューゲイザー的要素が入っていたりと、作品ごとのカラーが出ている楽曲群なのだが、こうして並べて聴くとどれもandropの音楽として鳴るから不思議だ。

androp・佐藤拓也

一曲一曲ごとに対する各パートのアプローチ――音質、音のバランスへのこだわりが随所に感じられたのも特筆すべき点。伊藤彬彦のドラムは余韻が後を引くようなスネアの音色を響かせたかと思えば、射抜くようなバスドラで攻め立て、シンバルを駆使しての複雑な刻みを随所にみせる、といったバリエーション豊かなプレイを見せていた。前田恭介のベースも同様、歪んで角の立った音色とまるみを帯びた柔らかな音色、楽曲に寄り添うようなフレーズから推進力の要を担いながら派手に主張するスラップ、といった具合である。佐藤拓也のギターはまるで「個を消す」かのように、クリーントーンでキラキラと紡がれるアルペジオなど、さりげなく楽曲の持つ繊細さを担っていることが多いのだが、時折ギターソロなどで獰猛なサウンドと大きなアクションをみせてくれて、視覚聴覚の両面でメリハリとギャップを生み出していた。そんな3人の生み出す音が合わさる中心から、内澤の柔らかくもしっかりとした存在感のボーカルと、リズムとメロディに奥行きを与えるギターの音色が、スッとこちらに向かってくる。ときに言葉の一つ一つをはっきりと届けるような歌い回しで、ときにサウンドの上を流れるようなファルセットボイスで。ボーカルも含めた各楽器が曲ごとにそれぞれの特性と役割を、徹底的に全うしているのだ。

androp・前田恭介

ライヴが進むにつれてメリハリやコントラストはより鮮やかとなり、最新曲「Astra Nova」はスケールの大きなメロディとドラマティックなアンサンブルを、「Human Factor」ではアコギやシンセ、シーケンス、レーザーによる視覚効果までも大胆に取り入れたエレクトロサウンドを、「Bell」では転がり疾走する瑞々しいロックサウンドを……まるで違った曲調ながらも、どれもandropが描き出す世界を具現化する多彩なサウンドスケープが眼前に広がっていく。一編ずつの短編映画を観ていたつもりが、実はそれらが一つの大きなストーリーの上で繋がっていました、というパターンに近い。

androp・伊藤彬彦

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後半には未発表の新曲も用意されており、そのシャープなサウンドが生み出すアッパーチューンに、初見でも手をかざして盛り上がる観客が多数見受けられた。クライマックスに向けて上昇し続けるボルテージと気温と呼応するようにバンドも畳み掛け、万雷のクラップで迎えられた「MirrorDance」ではバウンシーなリズムに飛び跳ねる場内に向かって「おいで、どうぞ」と手招きした内澤が「やっぱり俺らはお前らが好きだ!!」と大声で叫んで喝采を浴びた。耳慣れたイントロに沸き、ものすごいボリュームの大合唱となった「Voice」では客席に向けてテープを噴射。EDM的フォーマットに則ったギターロックという必殺のナンバーはやはりすごい浸透力と破壊力だ。ちなみに、各公演違ったメンバー直筆のメッセージが書き込まれているというこのテープ、この日は「また会いましょう」だったそうだ。

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本編の締めくくりは「Image Word」。内澤は結成時を振り返り、「当時にやりたかったこと、一つ一つ実現していってるんです。(中略) これからも期待しててほしいなと思うし、これからどんどん面白いことをやっていきたいと思う」と力強く語ってから、佐藤と向き合ってイントロのギターを奏で出した。きっと彼らの始まりの瞬間、下北沢のスタジオでもこんな風にこの曲を合わせたのだろうな、そんなことを思う。

androp・内澤崇仁

アンコールでは佐藤、前田、伊藤によるやたらと軽妙なツアーグッズ紹介(内澤は一歩下がって微笑ましく見守っていた)や秋からのツアーの告知を交えながら、未音源化ながら昔からある大切な曲だという「Hana」、コール&レスポンスで会場一丸となった「Run」、ライヴを念頭において制作されたという直近のアルバム『androp』を代表する「Yeah! Yeah! Yeah!」を投下。クラップ、シンガロングに包まれながら、2時間強の中にキャリアを凝縮した充実のステージを終えた。

androp

このツアーを前に、筆者はandropのインタビューに立ちあう機会があったのだが、そこで内澤は「ここまではandropっていう土台をずっと作っているような感覚でやってきたんです」「やっとその土台に意味がつけられたから、ここからはその土台の上に立派なものを建てたい」と話していた。彼らはこのツアーでその”土台”という言葉の意味を証明してみせたのではないだろうか。単に“区切りとしてこれまでの集大成を見せます”、というよりは、自分たちのやってきたこと、築き上げたものの答え合わせに近い。あらゆるジャンルを消化して形にし、一人一人が徹底的にその楽曲に向き合って最適解を導き出す作業を続けてきた結果、これだけ多様で発表時期もテイストも異なる楽曲たちを、どれも「これがandropですよ」と提示できるようになった事実と、どの曲も実際にandropとして鳴っているという現実の。

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じっくりと築かれた強靭な土台とそこから今後生み出される「世界」の音は、大きな期待を込めるに足るものだろう。それがどんな形をしていても、間違いなく彼らの作品としてすんなり受け入れられるものに違いない。『one-man live tour 2016 “Image World” 』とは、僕たちにそう感じさせてくれるだけの説得力を以ってまわった、揺るぎない自覚と決意表明のツアーであったのだ。


レポート・文=風間大洋

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ツアー情報
androp one-man live tour 2016
 
2016.10.01 (土)福岡 DRUM LOGOS
2016.10.07 (金)宮城 仙台Rensa
2016.10.10 (月祝)愛知 Zepp Nagoya
2016.10.12 (水)大阪 Namba Hatch
2016.10.16 (日)東京 Zepp DiverCity

<オフィシャルHP先行>
6/1(水)12:00~6/12(日)23:00
http://eplus.jp/androp201610-hp/

 

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