牧 阿佐美(牧阿佐美バレヱ団主宰、振付家) バレエ人生の集大成となる、母の代表作"改訂・新制作”
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牧 阿佐美(牧阿佐美バレヱ団主宰、振付家)
牧阿佐美バレヱ団が創立60周年を迎えている。日本のバレエの黎明期、パイオニアとして活躍した舞踊家、母、橘秋子とともに牧阿佐美バレヱ団を設立したのが1956年。日本各地で日本のバレエを支える多くの舞踊家、門下生を抱え、日本を代表するバレエ団として成長してきた。創作に古典作品の上演に常にバレエの最前線で仕事を続けてきた牧阿佐美は、教育者としての評判も高く、その薫陶の下から優れたダンサーを多数輩出している。99年から2010年までは新国立劇場の舞踊芸術監督を務め、監督として、振付家として見事な指導力を発揮した。
バレエ界をリードする牧阿佐美の業績は多岐にわたるが、とりわけ「日本のバレエ」の創造には意欲的に取り組み、黛敏郎の曲を用いた『ブガク』や『曼荼羅交響曲』をはじめ、芥川也寸志や團伊玖磨ら日本を代表する作曲家と創り上げた作品は日本のバレエ全体にとっても画期的な成果となった。
昨年来続けている創立60周年記念公演シリーズの第7弾として、牧は大切にしている作品を満を持して上演する。それは、敬愛する母、橘秋子の代表作、1957年に初演し、再演を重ねてきた『飛鳥物語』(振付・台本:橘秋子)の新制作・改訂版である。橘が「雅楽の神秘的な旋律」に心ひかれて日本的な精神性を追究した作品で、牧阿佐美のほか大原永子、森下洋子、川口ゆり子ら牧阿佐美バレヱ団の歴代のプリマが主役を務めてきた。
今回の新制作では、母の手になるオリジナル台本を尊重し作品の精神性を受け継ぎながらも、タイトルを『飛鳥』と変更、21世紀という時代の息吹を伝える斬新な現代版の誕生を目指す。
「作品は時代とともに生きています。現代の観客に語りかけ、国際的にも説得力のあるバレエ作品としたい。いろいろと調べてみますと、作品が設定されている時代の奈良は、稀に見る国際都市。多彩な異国文化が流入し、互いに混じり合っていた。そんな理解の上に立って、今回は、思いきって主人公の“舞女”を踊るのは外国人ダンサーにしました」と牧は楽しげに微笑む。
物語の舞台は、古の奈良の都。龍神を祀る社には舞殿があり、奉納舞を踊る舞女は栄誉を与えられる一方、二度と俗界には戻れない。舞女に選ばれたすがるをとめは龍神の愛を受けるが、幼馴染の岩足との思い出がこぶしの花とともに蘇り、その慕情をとがめる龍神の怒りで火の海と化した山中、岩足の腕の中で息絶える。橘秋子が神話や伝説で語られてきた龍神に想を得て、創作台本に仕上げた。
「舞女を愛する一方、掟に厳格な龍神とは、芸術そのものなのです。芸術の道を歩む者にとって、自己の欲望に負ければ、その道は閉ざされます。母は舞女の姿に私を重ね合わせていたようです」と牧。
そこには、バレエ芸術にストイックに身を捧げた舞踊家、橘の熱く、純粋な思いが秘められており、親子二代、芸術そのもののメタファーである龍の存在をそれぞれ異なる表現で挑戦するのも興味深い。
「旋律やテンポをはじめ、雅楽でバレエを踊ることは非常に難しい」当初、橘の心を捉えた雅楽からは音楽的に離れながらも、62年に『飛鳥物語』の作曲を手掛けた片岡良和が今回も音楽を担当する。普遍的な主題を持つスケールの大きなバレエ・ファンタジー。「雲と空の間にたゆたう悠然とした龍」の姿をはじめ、映像を多用した絹谷幸二の美術が大胆に壮大に物語の世界を描きだす。
今年、創立60周年を飾るもう一つの注目の舞台が、牧阿佐美が振付家として敬愛するローラン・プティの名作、『ノートルダム・ド・パリ』の再演である。バレエ団では、96年の『アルルの女』を皮切りに『若者と死』、委嘱作『デューク・エリントン・バレエ』などこれまで8本のプティ作品を上演してきたが、なかでも「傑作」として評価しているのが『ノートルダム・ド・パリ』で節目ごとに再演をしてきた。
「プティさんの振付は、難しいことはしないけれど、音楽を大切に踊り手の魅力を引き出す。ポジションを巧みに踊りに採り入れ、身体でドラマを語らせる。とても知的な振付家です」
自らの「バレエ人生の集大成」と位置づける今回の記念公演、熱い舞台が期待される。
取材・文:立木燁子 写真:武藤 章
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)
『ノートルダム・ド・パリ』
6/11(土)17:00、6/12(日)14:00 文京シビックホール
振付/ローラン・プティ
出演/ニコレッタ・マンニ マルコ・アゴスティーノ 菊地 研 他
問合せ:シビック
8/27(土)18:00、8/28(日)14:00 新国立劇場 オペラパレス
改訂演出・振付/牧 阿佐美
出演/スヴェトラーナ・ルンキナ ルスラン・スクヴォルツォフ 菊地 研 他
6/7(火)発売
問合せ:牧阿佐美バレヱ団03-3360-8251
http://www.ambt.jp