ユーリ・テミルカーノフ(指揮) サンクトペテルブルグ・フィル ロシアの名門オーケストラが“伝家の宝刀”を披露

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クラシック
2016.5.19


 貴族のような柔らかい物腰で、テミルカーノフが登場する。指揮棒をもたず、優雅に持ち上げた両手が宙空でなだらかな円を描くと、次の瞬間、強烈に硬派な音楽が聴き手を襲う。初めて実演に接した時から、このギャップにやられてしまった。独特なオーラをもった指揮者である。

 近年は読響などにも客演し接する機会が増えたが、テミルカーノフの精髄に触れるには、1988年より長らくシェフを務めているサンクトペテルブルグ・フィルとの公演を押さえるべし。ムラヴィンスキーが半世紀にわたって鍛えあげたこのオーケストラの個性とクオリティを、テミルカーノフは前任者とは違ったアプローチで維持し、高めてきた。

 さて、今回も伝統を踏まえた重量級ロシア・プログラムがそろった。サントリーホールの2公演はいずれもショスタコーヴィチをメインに据えている。5月30日は超人気曲、交響曲第5番。時のソヴィエト政府からの批判を受けて書かれた作品で、暗く抑圧的な曲調が結末に向けて勝利の凱歌へと変わる。6月2日は交響曲第7番「レニングラード」。こちらは第2次大戦中、ドイツ軍の包囲網が迫る中作曲された。同フィルにとっては“伝家の宝刀”というべき作品。筆者は10年ほど前の来日公演でその迫力に度肝を抜かれた。30日の公演では、諏訪内晶子がチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれるのも嬉しい。

 文京シビックホールの公演は、「シェエラザード」(リムスキー=コルサコフ)と「悲愴」(チャイコフスキー)とロシアの大名曲を並べた。サントリー公演とかぶらない独自選曲なので、こちらも要チェックだ。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)


ユーリ・テミルカーノフ(指揮) サンクトペテルブルグ・フィル
5/30(月)、6/2(木)各日19:00 サントリーホール
問合せ:ジャパン・アーツ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
6/5(日)15:00 文京シビックホール
問合せ:シビック03-5803-1111
http://www.b-academy.jp
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