女優・黒柳徹子が舞台『レティスとラベッジ』を語る~「舞台とは贅沢なもの、そして居心地がいいもの」
黒柳徹子
黒柳徹子といえば、『徹子の部屋』(テレビ朝日系列)や、クイズ番組『日立 世界・ふしぎ発見!』(TBS系列)など、TV番組での活躍は非常に知られているが、そんな黒柳が年1回、舞台に出演していることはご存知だろうか? しかも主演で!!
ロンドンの観光ガイド、レティス(黒柳)は、あまりに退屈なガイド内容に飽き飽き。ある日とうとう我慢できなくなって、観光客の前で、面白おかしく尾ひれを付けた説明をはじめてしまう。シェイクスピア俳優だった母親の血を引くレティスのおしゃべりガイドは、日に日にエスカレート。その熱演の噂を聞きつけた歴史保存委員会の堅物職員ロッテ(麻実れい)が視察にやってきて、レティスにクビを宣告する。ところが後日ロッテがレティスのアパートを訪れて…
――ライフワークともいえる海外コメディ・シリーズ。その第1回上演作品『レティスとラベッジ』は、ご自身にとっても印象深い作品なのでは?
最初の上演では山岡久乃さんとご一緒にやりました。山岡さんが「病気が治ったらまたやりましょう」って話していたのに、残念ながら亡くなってしまったので。それで今回は麻実れいさんどご一緒にやることになりました。ロッテを演じる麻実さんは私とぜんぜん違う性格で、そこが山岡さんとも似ているところなので、丁度いいコンビ。初めてこの芝居をやった時は作者のピーター・シェーファーが私を見てこの作品を書いたのではないか? って皆さんが言うくらい私にちょうどいい役だったので、とっても嬉しかったです。
――そんな作品を16年ぶりに再演することになりましたが、今、改めてやろうと思ったきっかけを教えてください。
これはね、昔は銀座セゾン劇場(ル・テアトル銀座。2013年閉館)でやっていましてね。この間あの辺りを歩いていたら、建物がなくなってしまってて空が見えていましたけど。EXシアター六本木でやるのが今年で3年目。EXシアター六本木の壁が、笑いを吸い込むのにまだ慣れていないと思うので、2年続けておもしろい作品(『想い出のカルテット』『ルーマーズ』)をやりました。また今回もお客さんに笑っていただいて、笑いを壁に吸い込ませたいと思っているので、これをやろうと思ったんです。
――先に台本を拝見しましたが、セリフ量が本当に多くて驚きました!一度のセリフがまた1ページで収まらないくらいの長さですし!
私だってビックリしました(笑)。いちばん最初は30年前くらいですか。まぁ50歳そこそこの頃。そこからするとずいぶん時間が経っているからどうなのかなとは思いますけど。前にやったからできるというものではないので、麻実さんに失礼のないようにやりたいです。
この作品で私がセリフをどんどん言うと、観ているみんなが、口から出まかせを言っていると思っていてね。出まかせなんて一言も言っていないんですよ。アドリブなんて1回もやったことないです。これだけ上手くできている芝居でアドリブなんて失礼ですから。私は書いてあるセリフしか言っていないんです。芝居というものは、ちゃんと言わないと相手の方が困ってしまうから。それでも「いいわね、好きなこと言って」と言われますが、それはそれでもういいやって思ってます(笑)。
――ロッテ役の麻実れいさんと、これまで一緒にお仕事したことはありますか?
初めてなの。私はいつも麻実さんの芝居を観て、麻実さんも私の芝居を観てくださって。上手な方だってわかっているんです。麻実さんと山岡さんとが似ているとは思わないけど、私とはぜんぜん違うタイプでしょ。だからその方が面白いと思うんですよね。レティスの事をロッテはクビにするんですが、実はロッテも歴史が好きだってわかって。そういうやりとりをするなら麻実さんだとすごくいいなって。それで出演をお願いしたら麻実さんもやりたいっておっしゃってくださったんです。
黒柳徹子
――長年海外のコメディ作品をやっていらっしゃる黒柳さんですが、あえて海外作品にこだわり続ける理由とは? 日本の作品をなさらないのが不思議だなと思いまして。
日本の作品をオリジナルでどなた様が書いてくださるとします。そうなるとギリギリまでできないじゃない。勉強する時間がないじゃないですか。それがまず怖い。外国のものだったらずっと前から手に入るから、翻訳していただければずっと前から読むことができるし、準備もできる。勉強もできるでしょ。
もう一つの理由はね。演出の飯沢匡先生が、「できればみんなにオリジナルの作品、日本の作品ものをやってほしいと思うけど、黒柳くんは、ちょっと普通の日本の家にいないような感じなので、君だけは海外ものをやっていいです」って言われたんです(笑)。先生が『二階の女』という作品をお書きになって演出なさった昭和15年、その時いろんな人が出演したんですけど、どうしても私が「昭和15年に日本の家屋に出入りする人」の中にどう考えてもいないって。結局最後には名古屋弁のすごいおばさんになってね、そうやって出たんですよ。みんな私だって分からなかったみたいですけど。そういう風にすれば何とか出られるんだけど、そうじゃないと出られない感じだったんです。「キミはね、洋ものをやった方がいい」って。私もその方がいいのでそうしました。
舞台の冒頭は「ああ、黒柳徹子が出ているな」と思われるんだけど、観ているうちにその役柄の人に見えてくると言ってくださるので、それは嬉しいことだなと思ってね。永六輔さんは「黒柳徹子の芝居を観ないで死んだら損だとみんなに宣伝している」とおっしゃってくださいましたから。私が芝居をしている事を知らない方も結構多いんです。皆さんが思っているイメージと全然違うし、いい作品をやるから観にきてください、といつも言っているんですよ。
――コメディシリーズの演出が飯沢さんから高橋昌也さんに代わりました。高橋さんは残念ながら2014年にお亡くなりになりましたが、今も演出のところに高橋さんのお名前があるんですね。
全部(高橋)昌也さんに言われた通りにやるつもりですから。昌也さんは何回も何回も演技指導をしてくださったから。台本にも全部「昌也さんがこう言った、ああ言った」って事が書いてあるんです。
――再演、再々演だから、といっても前回と違うことは基本的にはされないんですか?
完璧なものを直す必要はないと思います。上手にもっとやれることはあるかもしれないけど、変えるという必要はないと思いますね。
何人も有名人の役をやりましたけど、彼女らに共通していえるのは「強い女性」であること。なにせ物語になるくらいですからね。片足を切ったサラ・ベルナールもそうだし、マリア・カラス、キュリー夫人はノーベル賞2つもとってるし。そういういろいろな人を演じると「すごい人だな」と思うんです。みんな「強い」、そして「泣かない」。絶対泣かないんです。見えないところでは泣いたかもしれないけど。今回やるレティスも強い女性ですね。仕事がなくなると猫とただ遊んでいるような、だらしないところもあるんですが。
黒柳徹子
――毎年舞台の時期って体力的にもハードだと思いますけど、どのようなケアをされているんですか?
きちっと、ケガとかしないように気をつけています。舞台は今年10月からですが、8月から練習を始めます。体力作りは寝る前にスクワット50回、今でもやっています。ジャイアント馬場さん仕込みのスクワットね。「100歳まで芝居をしたい」と言ったら「だったらこれ(スクワット)をやってください」っておっしゃったのでそれからやっています。そのあとすぐに馬場さんが亡くなってしまったので、このことは馬場さんの遺言のようにずっとやっているんです。あとはできるだけ30分歩いたりとか、1週間に1・2度、自転車漕ぎをやったりとか。年間通じてやっています。
――レティスが黒柳さんに似ているということですが、黒柳さんにとってのロッテにあたるような、自分とは全然違うタイプだけど友情を深めたご友人っていらっしゃいますか?
野際陽子さん。野際さんはロッテっぽいところがあるわね。「一緒に芝居をやりましょう」って言うんだけど、「1か月も芝居するの?」って言われてしまって(笑)。でも普段は仲がよいんです。野際さんとはいまどきFAX友達なんです。メールもするんですけどね。野際さんて、すっごく綺麗な字なの。私は最初、綺麗に書くんだけど、だんだんスペースがなくなって、小さい字になっていくの。
――野際さんがそんな風におっしゃるのも分かる気がします。舞台はものすごく体力も気力も必要ですし。
なにより芝居が好きでないとね。私が最初に舞台出たのは60年くらい前、NHKの劇団に出た時。そのとき、「なんて居心地がいいんだろう」って思ったんです。セリフがなかったので、ただ立っているだけなんですけど、舞台って好きだわ、と思って。
――テレビのお仕事とは違う刺激でしたか?
芝居って、その場所にいらっしゃるお客様と、私たちだけの世界でしょ。その日が終われば消えてしまうんですもの。テレビはビデオに録画したり、なんとでもなるけど、舞台はそれでおしまい。こんな贅沢なものはないと思いますね。
すべての質問に対して、澱みなく答えを返す黒柳。それが何十年前のことであっても実に細かく記憶しており、的確に答える姿は超人的でとても驚かされる。
個人的な話だが、かなり昔にあるトーク番組の観覧をしたことがある。その時のゲストが偶然黒柳だったので、今回ふとその話をしたところ、「あの時、なんでスタッフはあんなものをスタジオに持ってきたのかしら」と収録時のことを克明に覚えており、それが何よりも衝撃だった。15年も前の事なのに!
超人女優・黒柳徹子が出演する、衝撃&笑撃の舞台。ぜひこの秋はEXシアター六本木の壁にとびきりの笑いを吸い込ませてほしい。
(取材・文:こむらさき)
■訳:黒田絵美子
■演出:高橋昌也
■演出補:前川錬一
■出演:黒柳徹子 麻実れい 上杉陽一 蔵下穂波 団時朗 他
■公演サイト: http://www.parco-play.com/web/program/lettice/
■公演日程:2016年10月1日 (土) ~2016年10月16日 (日)
■会場:EXシアター六本木
■料金:一階席:¥9,800、二階席:¥8,500
■一般発売:2016年8月7日(日) 10:00AM~
※7/14(木)12:00~16/7/19(火)18:00 プレオーダー受付
■主催:テレビ朝日
■企画製作:(株)パルコ
■お問合せ:パルコ 03-3477-5858
■公演日程:2016年10月20日(木)~23日(日)
■会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
■料金:¥9,500(全席指定・税込)
■一般発売:2016年8月21日(日) 10:00AM~
■主催:朝日放送/梅田芸術劇場/サンライズプロモーション大阪
■企画製作:(株)パルコ
■お問合せ:シアター・ドラマシティ 06-6377-3888