「楽しいから描き続ける」キース・ヘリングの思いが伝わるミュージカル『ラディアント・ベイビー』
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ギャラリーの展示より、トイレの落書き
キース・ヘリング。アンディー・ウォーホルやバスキアらとともに、1980年代のアメリカを代表されるアーティスト。ニューヨークの地下鉄で、黒い広告板を使ったグラフィティ・アートで一躍有名になった。グラフィティ・アートとは、1970年代に起こった、スプレーやマーカーで壁などに描かれた“落書き”アート。ラップ、DJ、ブレイクダンスとともにヒップホップ文化の代名詞となった。キース・ヘリングの名は知らなくても、『ラディアント・ベイビー』と名付けられた、光り輝くハイハイする赤ちゃんの絵に覚えがある人は多いはず。Tシャツやら文房具やら缶バッチやら。
その『ラディアント・ベイビー』というタイトルで、キース・ヘリングの31年の短い人生を描いたミュージカルがまもなく開幕する。
実は、日本版の舞台美術を手がける石原敬、キース・ヘリングと同じ「アートは技術を超えたもの、技術を学ぶだけではアーティストにはなれない」という理念を掲げたスクール・オブ・ビジュアル・アーツ(SVA)に通っていた。SPICEでもさまざま『ラディアント・ベイビー』について既報されているけれど、違った切り口で突撃してみた。
石原 「進学する時にパーソンズという学校とSVA、どちらにしようか迷ったんですけど、新しいメディア、コマーシャルアートに関してはいちばん強かったのでSVAに決めたんです。その時は舞台美術をやろうとは全く考えていなくて。それこそキースと同じギャラリーなどで絵を発表するようなコースにいたのですが、3年時に、コマーシャルアートに転科したんです。卒業後は広告、CDのジャケット、音楽系雑誌の記事に沿った絵を描いたり、ミュージックビデオの仕事をしていました。僕のスタイルは、3Dイラストレーションといって3次元で作った作品をカメラで撮影して2次元の媒体に載せるというものでしたね」
おそらくそのまま活動を続けることはできたし、続けていれば、アートディレクターになっていっただろうと想像する石原。けれど、たまたま戻ってきていた日本で、日本を代表する舞台美術家である故・朝倉攝氏の講演会に出かけたことから、小さいころの夢がよみがえった。
石原 「実は小学生のころに妹尾河童さんに憧れて、舞台美術をやりたかったのを思い出したんです。ずっと忘れていたんですけど朝倉さんの講義を聞いてビビーンと思いがよみがえってきて、そのまま朝倉先生のお宅を訪ねました。それでゲネプロとかいろいろ見せていただいたりしながら、だんだん芝居の世界に入っていった感じです。舞台美術にたどり着いたのは30歳を過ぎてからですけど、今はやっぱり僕がやりたかったのはこれだったと思えるんですよ。3Dの作品を作っていたのもどこかでつながっていたのかもしれません。それにもともと大きなものを作ったり描いたりするのがすごく好きなんです。舞台は自分のアイデアが役者はもちろん、演出家や照明・音響などいろんな能力とぶつかりあって、揉まれ、全く想像しなかったものに変化していく作業が刺激的で、その魅力からはもう抜けられないですね」
キース・ヘリングやグラフィック・アートのエネルギーがそのままミュージカルになった
めぐりめぐってキース・ヘリングの人生を描いたミュージカル『ラディアント・ベイビー』の舞台装置を担当することに、縁を感じるという石原。彼にとってキース・ヘリングはもちろんグラフィティ・アートのアイコン的存在ではあったが、ギャラリーではなく、学校の水道の蛇口だったりトイレだったり、ごく日常のなかで眺めていたものだったそう。その時の体験こそがこの舞台には必要だったのかもしれない。
石原 「キース自身が若くして亡くなっている。その時点で止まっているから、今でもエネルギーはすごいですね。キースの絵は音楽的だしダンス的だし、ミュージカルにはぴったりだと思います。そしてエンターテインメントの基本があるような作品です。もちろん根底には人間関係だったり病気だったりキースが抱えていた暗さもあるんですけど、本当に子供の落書きのように描きたいものを描いて、歌いたいものを歌って、できあがったのがこの作品という感じです。だから稽古場で見ていて単純に楽しいし、やっている演出家も役者さんも楽しそうにやっていますよ」
提供/東宝
提供/東宝
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石原が舞台美術を考える時、ミュージカルならその楽曲、ゴリゴリのストレートプレイでも作品に合った音楽を聴くところから発想していくのだという。今回は--。
石原 「この作品のナンバーは少し懐かしいような要素が味になっています。70、80年代のころのニューヨークな雰囲気。セットは、まさにリーフレットになっている絵そのもの。演出の岸谷五朗さんも同じ考えだったんですけど、この舞台はサークルの中を描きたいと。白い空間で何もないくらいでいい。でもギャラリーみたいな箱にはしたくなかったので、黒いラインは入れられないんですけど、全体にキースならではの形や雰囲気を使わせてもらっています」
改めて、石原の言葉で、『ラディアント・ベイビー』がどんな作品か、魅力は何かを語ってもらった。僕らはグラフィティ・アートは描けないけれど、心に留めているもやもやを登場人物に重ねて爆発させることができるかもしれないミュージカルだと思う。
石原 「キースの人生もそうだったんですけど、この舞台もとにかく止まらない。スタートしたらひたすら動き続ける、曲もどんどん休みなく続くので、動きやリズムがすべてという作品だと思いますね。けれど混沌とした中にも、キースの世界観と同じで一瞬でわかる強さがある。
そもそもグラフィティ・アートって時間が勝負なんです。一瞬で書いて、一瞬で人の目に留まって印象を残すような力がいる。つまり街中でバッと描いて、バッと逃げないといけないから(苦笑)。公共のもの、空間に描くということは絶対にダメなことなんですけど、一方ですごい刺激的なんだと思うんです。楽しいらしいですよ。若者の社会に対する反抗精神から必然的に生まれた文化だけれど、今のニューヨークにはそういう危険なエネルギーはないですから。まだ僕が入学したころはその空気がぎりぎり残っていた。このミュージカルは、そのころの楽しさ、そしてひたすら楽しいから描いていたキースのエネルギーがすごく伝わってくる作品です」
2016年6月06日(月)~22日(水) 日比谷シアタークリエ
2016年6月25日(土)~26日(日) 森ノ宮ピロティホール
■脚本・歌詞:スチュアート・ロス
■音楽・歌詞:デボラ・バーシャ
■歌詞:アイラ・ガスマン
■演出:岸谷五朗
■出演:柿澤勇人、平間壮一、知念里奈、松下洸平 ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/radiantbaby/
6月8日(水)18:30の回:「ラディアント・ベイビー」×「RENT」スペシャルカーテンコール「Love Heals」
6月9日(木)13:30の回:Stage Photoプレゼント(来場者全員プレゼント)
6月9日(木)18:30の回:Photo with YOU!カーテンコール(キャストが客席を背にして撮影)
6月10日(金)18:30の回:ストラボ東京 ライブ@クリエ(トークイベント)