『シネマ・ミュージカル・コンサート』にブロードウェイ気鋭の振付家マーク・スチュアートが参戦

2016.7.19
インタビュー
舞台

マーク・スチュアート


2014年の『フレンチ・ミュージカル・コンサート』に始まり、今年1月の『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート』も好評を博した、東急シアターオーブの「World Musical Concert Series」。その第3弾として9月に開催されるのが、『シネマ・ミュージカル・コンサート』。映画になったミュージカルや、ミュージカルになった映画など、映画とミュージカルを結ぶ珠玉の音楽をフィーチャーしたスペシャル・コンサートだ。このショウでステージングを担当するのが、現在ブロードウェイで活躍する気鋭の演出・振付家、マーク・スチュアート。『キンキーブーツ』の演出・振付家や『ハミルトン』の振付家からの信頼も厚い彼に、これまでの活動と今回の公演の構想について聞いた。


トニー賞演出家たちが頼る、リフトの専門家

――まずは今回、『シネマ・ミュージカル・コンサート』のステージングを引き受けられた理由をお聞かせください。

2002年にブロードウェイ・ミュージカル『スウィング!』のキャストとして初めて来日して以来、僕は東京が大好きなんですよ。2008年には同じ作品で再び来ていますし、2014~15年に大阪で上演された『ヒントン・バトルのアメリカン・バラエティ・バン!』に出演した時も、休演日を利用して東京を訪れていました。観客もスタッフも皆さんが素晴らしい東京で仕事ができる機会は、僕にとって決して逃したくないもの。それに、昨年初めて訪れて「空中に劇場があるなんて!」と驚いた、この東急シアターオーブでお仕事ができることもとても嬉しかったから……理由はたくさん、ということですね(笑)。

――日本には出演する側として来られることが多かったですが、近年では振付のお仕事をたくさんされているそうですね。

最初はダンサーとして出演した『スウィング!』で、やがてダンスキャプテンになり、振付助手、振付家を経て、5年後には演出・振付家になりました。そのおかげでいろいろな劇場から振付のオファーが舞い込み始め、アメリカ各地でミュージカルの振付を手掛けるようになったんです。そのなかで感じたのは、ミュージカル俳優はひとりでは踊れても、誰かと組んで踊ること、特にリフトを伴う“パートナリング”には慣れていないということ。そこで、リフトのテクニックを教えながら、パートナリングを取り入れたさまざまなダンスを上演できる拠点として、自分のカンパニーを立ち上げました。

この「マーク・スチュアート・ダンスシアター」のおかげで、僕自身パートナリングが得意な振付家として認知されるようになり、ブロードウェイや映像業界からも声がかかるようになりました。ジェリー・ミッチェル(『キンキーブーツ』『ラ・カージュ・オ・フォール』)、クリストファー・ガテリ(『王様と私』『ニュージーズ』)、アンディ・ブランケンビューラー(『ハミルトン』『イン・ザ・ハイツ』)……。案件によって要求されることは異なりますが、彼らが僕に声をかけてくるそもそもの理由はいつも、リフトを中心としたパートナリングが必要になったからというものですね。

マーク・スチュアート

――ビッグネームが次々と…!なかでもジェリーさんは、今年は『キンキーブーツ』の日本語版と来日版が続けて上演されるということで、いま日本で特に関心の高い演出家です。

そうなんですね!彼は本当に素晴らしい人ですよ。僕は、残念ながらブロードウェイでの上演には至らなかった『Queen of the Stardust Ballroom』というミュージカルでジェリーの手助けをしていたんですが、その姿から大きな影響を受けました。リハーサル室での彼は、まるでエネルギーとハピネスの塊で、それはその場にいる全員に伝染していきます。彼が目の前の仕事を心から愛し、楽しんでいるから、全員が同じ気持ちで創作に取り組めるんです。そんな姿を見て僕は、ジェリーと同じぐらいの愛情を傾けられないのであれば、その仕事は受けるべきでないことを学びました。今でも大切にしている教訓です。

――ではもうおひと方、来日公演開催中の『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』の演出・振付家であり、『ハミルトン』でトニー賞振付賞を受賞したアンディ・ブランケンビューラーさんとの関わりについてもぜひ。

ここ8年ほど、僕はアンディが何か新しいプロジェクトを始める時、最初に召集するメンバーのひとりです。アンディは踊りに関することは何でもできる人で、彼自身まるで21歳の青年のように踊ることだってできちゃうんだけど(笑)、ことパートナリングとなると具体的な振付が思い浮かぶわけではないんですね。だから、「ここで僕はこういうストーリーを伝えたくて、そのためにこういうリフトがほしいんだ。じゃあマーク、あとはお願い」となるわけです(笑)。でもそこで僕が振付けると、どんなに複雑なリフトが含まれていても、完璧に踊りこなしてしまうのもまたアンディのすごいところですね。

『ハミルトン』にも、そうした形で参加しています。パートナリングというと、男女のペアダンスのようなものを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、僕の言うパートナリングはもっと広義。もちろんペアダンスの振付もしますが、大ナンバーのなかの一瞬のリフトだけを担当することもあれば、小道具がパートナーという場合もあります。『ハミルトン』にも、全編にわたって少しずつ僕の振付がちりばめられているんですよ。

マーク・スチュアート

ミュージカルと映画を結ぶ珠玉の名曲を新たな方法で

――『シネマ・ミュージカル・コンサート』のステージングについて、現時点での構想をお聞かせください。

今回はシンガーたちと作るコンサートですから、僕が普段振付けているような激しいリフトなどはありません。じつはその点もまた、僕がこの仕事をやってみたいと思った理由のひとつなんですよ。観客を楽しませるには、スペクタクルなものを見せて「Wow!」と驚かせるのと、繊細な動きで「Oh~」と感動させるという、ふたつの方法があると思います。僕が主にやっているのは前者ですから、時おり後者に挑戦することは大きな刺激になるんです。どちらにしても、大切なのは1曲1曲が持つストーリーをきちんと伝えて、観客をその世界に引き込むこと。素晴らしいボーカリストたちがストーリーを伝えるために、ステージングの立場から手助けをしていきたいと思っています。

――具体的な曲目などは、すでにある程度決まっているのでしょうか。

今はみんなでアイデアを出し合っている段階ですね。というのも、今回はタイトルの通り「ミュージカルと映画」がテーマだから、選択肢が無限にあるんですよ(笑)。ただ、「ミュージカルと映画」と聞いて多くの人が思い浮かべるような、古典的な作品だけで構成するつもりがないことは言っておきます。80年の歴史がある分野ですが、近年また素晴らしい映画がいくつも生まれていますから、出来る限りそうした作品の曲を取り上げる予定です。

マーク・スチュアート

――では、ミュージカルと映画を結ぶ作品として、マークさんが個人的にお好きな作品は……?

それは……難しい質問だな(笑)。ひとつにはとても絞れないからトップ3を挙げると、まずは僕のオールタイムファイバリットのひとつ、『レント』。それから『ムーラン・ルージュ』は、ミュージカル映画新時代の幕開けを象徴する、記念碑的な作品のひとつだと思っています。3つ目は…まだ製作段階なんですが、『メンフィス』の映画化が本当に実現したら、きっと大好きになるでしょうね。僕の好み、伝わったかな(笑)。もちろん、僕が好きだからといってコンサートで取り上げるということではないですけどね。

――最後に改めて、公演への意気込みとSPICE読者へのメッセージをお願いします!

ただ歌を聴くのではなく、楽曲のストーリーを新しく、エキサイティングな方法で体験できるコンサートにしたいと思っています。「World Musical Concert Series」ほど幅広いキャストが世界中から集まるコンサートを、僕はほかに知りません。素晴らしい才能を持ったキャストとミュージシャンが、ミュージカル映画の名曲という素晴らしいコンテンツと出会った時、そこには数えきれないほどの可能性が広がっているはず。単なる感動を越えた、マジカルな体験へと皆さんをお連れしますので、ぜひ観に来てください!

マーク・スチュアート

公演情報
シネマ・ミュージカル・コンサート
 
■日時:9月9日(金)~9月11日(日)
■会場:東急シアターオーブ (東京都)
■出演:ローラ・ミシェル・ケリー、ウィレマイン・フェルカイック、マット・ローラン、ロベール・マリアン、ジョシュ・ヤング 
ゲスト:マテ・カマラス 
■構成:寺崎秀臣
■音楽監督:八幡茂
■美術:土屋茂昭
■ステージング:マーク・スチュアート
■プログラム(予定):「シカゴ」「レ・ミゼラブル」「レント」「マンマ・ミーア!」「ジャージー・ボーイズ」ほか
■公式サイト:http://theatre-orb.com/lineup/16_cmc/