極上文學『春琴抄』で鶯役を演じる! 鈴木裕斗インタビュー
2016.6.11
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日本文學の上質な世界観を立体的に表現し、〈読み師〉と〈具現師〉からなる構成で、ビジュアルと音楽、動いて魅せるスタイルが人気の極上文學シリーズ。その最新作が6月16日から新宿の全労済ホール/スペース・ゼロで幕を開ける。(その後、6月25日、26日に大阪ビジネスパークホールでも上演)
第10弾となった今回は、マゾヒズムを超越した本質的な耽美主義で描かれた谷崎潤一郎の名作、『春琴抄』。ヒロイン春琴は和田琢磨と伊崎龍次郎のダブルキャスト、春琴に仕える佐助は藤原祐規と和田琢磨と松本祐一のトリプルキャスト、そのほか、役柄すべてが複数キャストで演じられ、さらにマルチキャスティング制により、組み合せを日替わりで上演するという、変化に富んだ公演となる。
その作品で、春琴が飼っている「鶯」の役を演じるのが、声優として人気の鈴木裕斗。「鶯」の扮装のまま艶やかに、この作品に挑む思いを語ってくれた。
前回の『走れメロス』で役者として目覚める
──鈴木さんは今回で極上文學シリーズには2度目の出演ですね。
そうなんです。前回が太宰治の『走れメロス』で、今回は和の世界を描く谷崎潤一郎の『春琴抄』です。作風も内容もまったく違う作品で、また極上文學の舞台に出られることは、とても楽しみです。
そうなんです。前回が太宰治の『走れメロス』で、今回は和の世界を描く谷崎潤一郎の『春琴抄』です。作風も内容もまったく違う作品で、また極上文學の舞台に出られることは、とても楽しみです。
──極上文學は独自のスタイルの朗読劇ですが、出演してどんな感想を抱きましたか?
最初は朗読劇ということで本を読むだけの形なのかなと思っていたのですが、時には本を持つ手を降ろしたり、持たないで動いたりと、まるで演劇そのものというところもあって、なるほど「朗読演劇」と言われるだけのことはあるなと思いました。それに演出も凝っていて、舞台装置を具現師の方々が動かして場面転換をしたり、これはもう「朗読劇」と呼べない世界が出来上がっているなと。ふだんは声だけで仕事をしている僕には、とても新鮮な体験でした。
──そのあたりから演劇で鈴木さんの名前を聞くようになりましたが、『走れメロス』がきっかけになったのでしょうか?
プロとして演劇と正面から関わるようになったのは、『走れメロス』からだと思います。初めて衣裳を着けてメイクもして、太宰治という人になりきって自分の体で表現する。そのための1つ1つのアプローチは、やはり声だけの仕事とは全く違うもので、千穐楽を迎えたときは、やはり心に残るものがありました。それにその経験を声の仕事にも生かすことができました。
──声の仕事にも変化が?
ありました。やはり芝居をするということは気持ちを揺り動かすことが大事で、声だけで芝居をしていると、どうしてもテクニカルなほうに行きがちになるんです。でも『走れメロス』公演で、やはり心も身体も動かすことが大事だと再認識しました。太宰役としても、メロスという熱い人物と心を通わせて、同じ気持ちで同じ方向を向いて、メロスに突き動かされながら、熱い気持ちをたぎらせて執筆している姿を演じました。そのせいか、ふだんの暮らしの中でも、メロスの熱い部分が自分の中に残っていて、心を動かして生きていこうという思いになりました。
春琴と佐助の愛を俯瞰で見ていている「鶯」
──そのあと今年4月の『烈!バカフキ』では、役者として出演、新たな一面を見せてくれましたね。
あの作品ならではの作風でもあるのですが、突き抜けて明るく熱くという舞台で、カイという僕の役は、最初は可愛らしい後輩という感じで出てきくるのですが、途中で一変して主人公を裏切るという悪役で(笑)。殺陣も激しかったので、体も心も120%動かし切るという日々でした。
あの作品ならではの作風でもあるのですが、突き抜けて明るく熱くという舞台で、カイという僕の役は、最初は可愛らしい後輩という感じで出てきくるのですが、途中で一変して主人公を裏切るという悪役で(笑)。殺陣も激しかったので、体も心も120%動かし切るという日々でした。
──役者・鈴木裕斗の力を感じさせたと評判になりました。
カイはキャラクターの振り幅の大きな役でしたが、声の仕事ではさまざまな人間を声だけで表現しなくてはいけないし、時には人間ではない役もあります。そういう大きな振り幅を声で演じてきたことが、「バカフキ」では役に生かせた気がします。共演者の方からも「切り替わりがすごいね」と言っていただいたり、自分でも手応えを感じました。
──この『春琴抄』では「鶯」という役ですが、どんなふうに演じようと?
この作品は『走れメロス』とはまた違う、繊細で細やかな表現が生きてくる作品だと思うんです。そして声の表現だけでなく、目線1つ手先の動き1つが大事で、「鶯」は、それに加えて綺麗な声で鳴く、雅な感じを出せればと思っています。
──『春琴抄』という作品そのものには、どこに魅力を感じますか?
春琴と佐助の関係は、傍から見ていると引いてしまう部分もあると思うのですが、物語を演じる側になってみると、やはり愛であり、人間の根底にあるものだと思えます。とくに「鶯」は春琴と佐助の愛を俯瞰で見ていて、さらに人間ではない立ち位置なので、佐助の愛も理解できるのではないかと。
──こういう愛もあると?
そうですね。春琴の手足となって死ぬまで支えていく、そういう愛もあるだろうなと。『春琴抄』は、最初は自分とは遠い世界を描いた文学作品で、文体自体も古風だし難しいかなと思っていたのですが、何度も読み返しているうちに、決して難しいことはなくて、1つの愛の話なのだと思いました。
──その愛の話の表現として、やや古風な美しい言葉が似合うのでしょうね。
そう思います。古風ななかに艶っぽさがあっていいなと。僕自身、そういう艶のある表現に惹かれますし、歌っている声を「艶のある」と言っていただいたりすることがあって。ですから作品全体に美しさとか儚さとか、艶っぽさとか切なさのある『春琴抄』に携われるのが、とても楽しみですし、その艶っぽさをどう表現できるか考えているところです。
声の仕事も俳優の仕事も両方大事にして
声の仕事も俳優の仕事も両方大事にして
──「鶯」にはどんなイメージを持っていますか?
春琴という気位の高い女性に飼われている鳥なので、「鶯」もどこか気位の高いところがあるだろうなと。そしていつも春琴と佐助のそばにいるので、「ああ、またいつもの」みたいにどこか冷めた目で見ている部分もあると思うんです。そういうちょっと突き放したというか、客観的な見方を「鶯」がすることで、お客様にも物語を色々な角度から見ていただくことが出来るのではないかと思っています。
春琴という気位の高い女性に飼われている鳥なので、「鶯」もどこか気位の高いところがあるだろうなと。そしていつも春琴と佐助のそばにいるので、「ああ、またいつもの」みたいにどこか冷めた目で見ている部分もあると思うんです。そういうちょっと突き放したというか、客観的な見方を「鶯」がすることで、お客様にも物語を色々な角度から見ていただくことが出来るのではないかと思っています。
──「鶯」は物語を一番よく見ている存在かもしれませんね。
人ではないからこその自由さがあると思います。それに今回の脚本では、「鶯」は原作よりも描き込まれていますので、演じ甲斐があります。またトリプルキャストなので、3人の「鶯」がいますから、それぞれのアプローチの違いも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
──鈴木さんは声の仕事のファンが沢山いますが、俳優としても活躍している姿を喜んでいるでしょうね。
声だけでファンになってくださった方が、僕という存在から舞台の面白さを知って、世界が広がったと言ってくれたりするんです。そういう話を聞くと、やってよかったと思いますし、自分の中で大きな財産になっているのを感じます。今回の作品でもまた役者として成長したいし、27歳になった僕にとって、大人の俳優としての深みを出すためにも、こういう出会いを大切にしていきたいと思っています。
──ここまで築いたキャリアがあればこその出会いですね。
僕にとっては声の仕事も俳優の仕事も同じように大事ですし、これからも両方がんばっていきたいです。
──では最後に皆さんへ作品のアピールを。
今回、極上文學で『春琴抄』という名作に携われることをとても嬉しく思っています。このような古風な文体で和の作品は、声の世界ではなかなか出会えないので、それを体験できることは幸せです。「鶯」という役は、僕がいつも表現している声を生かせる役なので、お客様に「この鶯、とても良い声で表現しているな」と思っていただけるように。そして身体表現と声の表現を使って、さらに新しい鈴木裕斗を観ていただくために、この舞台を一生懸命にがんばりたいと思っています。皆様、極上文學『春琴抄』を、ぜひ観にいらしてください。
すずきゆうと○1989年生まれ、山形県出身。声優・俳優。テレビアニメ、ゲーム、映画の吹き替えなどで人気が高い。またラジオのパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。舞台出演は極上文學『走れメロス』(2014年)、『烈!バカフキ』(2016年)など。
〈公演情報〉
キービジュアル:中村明日美子
本格文學朗読演劇 極上文學 第10弾
『春琴抄』
原作◇谷崎潤一郎
脚本◇神楽澤小虎
演出◇キムラ真
出演◇
〈読み師〉
和田琢磨、伊崎龍次郎、藤原祐規、松本祐一、富田 翔、足立英昭、鈴木裕斗、桝井賢斗、 大高洋夫、川下大洋
〈具現師〉赤眞秀輝(ナイスコンプレックス)、福島悠介、神田友博(ナイスコンプレックス)、濵仲太(ナイスコンプレックス)、太田守信(エムキチビート)
〈奏で師〉橋本啓一
●6/16~19◎東京・全労済ホール/スペース・ゼロ
●6/25、26◎大阪ビジネスパーク円形ホール
〈料金〉極上シート¥8,500 指定席¥5,900(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉CLIE 03-6455-4771(平日11:00~18:00)
〈公式HP〉http://www.gekijooo.net/
【取材・文/榊原和子 撮影/大倉英揮】