「演劇の醍醐味を感じる作品」佐々木蔵之介、北村有起哉らが語る舞台『BENT』取材会
森新太郎、佐々木蔵之介、北村有起哉
7月9日(土)から世田谷パブリックシアターにて上演される舞台「BENT」トークイベント風取材会が6月14日(火)都内稽古場にて行われ、主演の佐々木蔵之介、北村有起哉、演出の森新太郎が登壇し、取材会のMCを務める女装家のミッツ・マングローブとトークを繰り広げた。
本作は、1930年代中頃のドイツを舞台に、ナチスに迫害された多くのユダヤ人がいる一方、史実に隠されていたセクシャルマイノリティ…性的少数派たちが受けた受難と極限状態の中で貫いた愛の物語。
演出の森は「この戯曲を読んだのは約10年前。当時、読んでとにかく泣けてしまった。涙腺が崩壊するくらい。そのときは、こんなに泣けてしまうものは自分で演出できないと思った。今回演出のお話をいただき、『BENTをやりたい』と提案する前にもう一度戯曲を読んでまた泣けてしまった。演出プランを考えるために読んだ時も泣けた。僕の演劇人生の中ではない作品」と思い入れの深さを語る。キャスティングについて、「(佐々木)蔵之介さんが同性愛者の話に興味を持っている、と聞いたので、『BENT』をやるなら今しかない、と思って提案してみた。はたして蔵之介さんがお受けしてくれるだろうかと思ったら、やるとおっしゃってくれて。そしてこの作品は蔵之介さんに対抗できる「芝居バカ」がいないと成立しないと思い、(隣の北村を見ながら)この芝居バカに声をかけたら、こちらも受けてくださった。演出家としては二人の力をお借りして大作に立ち向かっていきたい」と意気込んだ。
森新太郎
この数年、「ショーシャンクの空に」「マクベス」と重厚な作品が続いた佐々木は「本当はライトコメディがやりたかった」と本音を漏らす。「森さんが『BENT』はどう?とおっしゃったので戯曲を読んだが…机に置きました。ダメ、できない、僕にできるのか?無理だな、と思って。でももう一度読んでみたら、ナチスの収容所ということで重く暗いというイメージがあるが、これこそ「どストレート」な愛の話だ、と。ならばこの作品に立ち向かっていけるかもしれない」と感じたそうだ。
舞台中に、佐々木と北村との間でお互い顔を見合わせることもなく、触れることもなく二人で愛を確かめ合う“エアー・セックス”シーンがあるとのことだが、「これぞ演劇の醍醐味かなと。できるかどうかわからないが、やってみようと決めました」と演劇人ならではの出演理由を語った。
佐々木蔵之介
「BENT」という作品の大きさについては北村も実感しており、「この作品への出演話が来たときに、深く長い溜め息をつきました。ついに来たか、まさか俺に!そういう直観がありました。やるからには相当な覚悟が必要だと感じましたね」そのオファーを受けたあとも森と同様、「戯曲を読むたびに泣いちゃって、最初の読み合わせ稽古でも泣いちゃって。僕の役はト書きに“泣く”とは書いてないので、演じているときは絶対泣いちゃだめなんですが。ぐっとこらえてないと作品の力が大きいので、客観的にちょっとでも気を離してしまうと涙がぶわああっと出てしまう。だから役にしっかり入り込まないと」と語っていた。
北村有起哉
今回、佐々木と北村はマックスとホルストという同性愛者を演じる。演じるにあたり相手に感じることとして佐々木は「本読みの段階で、北村さんが素足に雪駄をはいてて、その足を触っているんですがそれすらいとおしく見えてきた。愛せるような気になってきた。有起哉のデビュー作も見ているんですが、自由に芝居をするし、失敗を恐れずに果敢に挑戦する姿は演劇人としてカッコイイと思っている。一方でよく酒飲むなあとか、稽古着をそのまま散らかしているなあと、そのだらしない感じが今回はいいかな、って思えてきた」というと隣で照れる北村。
「恋人を演じるとなるとそういう目で意識する?女性と恋人役でも意識します?」とミッツがツッコムと「女優さんとはないですね。ちょっと引いて見ているんで。有起哉ちゃんに関してはちょっと近い感じで」と佐々木。
佐々木蔵之介、北村有起哉
ミッツ・マングローブ
北村は佐々木との懐かしい記憶を思い出す。「チャンバラのシーンで袂をひっかけて本番中に蔵之介さんのカツラをスパーンと飛ばしたことがある。その時はもうどうしようと思ってて。ただでさえ(佐々木の)目は大きいのに、そのときはもう瞳孔が開きまくってて「どうすんだ×3」「すんません×3」ってアイコンタクトしながら新橋演舞場でつばぜり合いをしていた。舞台人生の中でベストワンになるくらいのハプニング。それを乗り越えたので絆が一気に深まりましたね。もしや今回の『BENT』のためにあの事件があったのかと…」と笑いを取っていた。
森新太郎、佐々木蔵之介、北村有起哉
「マックスとホルストという役ですが、二人の性格は演じる二人と見事に逆。ホルストは愚直なまでに正しい事を求め、マックスは正しい事の前に生き延びるためには、を考える人。そんな二人が出会って影響しあっていくところがこの作品の大事なところ。質が違う二人が演じることが大事」と語る森。
「ちょっと視界の端に映る、その一瞬だけのために俺は今生きている」ホルストのセリフに見えるような極限状態の愛が描かれる本作。「同性同士で愛を育む人は、アイコンタクトの取り方が違うなあと思って、それを演技プランに入れようとしたんだが、この前読み合わせをしてハタと気が付いた。このマックスとホルストは目を合わせることがなかった(笑)お互いを見つめることすら禁止されている中で延々石を運び続けるんです。そんな中で恋愛を成立させるというのは想像もつかないことになると思う」と口にする森は、「僕等三人ともストレートではありますが、そんな三人ともこの作品を読んで切なさを感じ泣けてしまう。これはゲイの人の話だけにとどまらないスケールを持っている。ナチスの抑圧が前面に出てますが、差別と偏見はどの時代においてもなくなることはない」と今この時代に本作を上演する意義を述べていた。
ミッツ・マングローブ、佐々木蔵之介、北村有起哉、森新太郎
「僕らがただひたすら石を運んでいるだけのシーンで、どんなふうに想像してもらえるんだろう、そして僕らもどれだけイメージを提示できるんだろう」観客がいることで完成する作品であることを改めて強調し、上演を楽しみにしてほしいと語る佐々木だった。
■日程
【東京】2016年7月9日(土)~24日(日) 世田谷パブリックシアター
【仙台】2016年7月30日(土) 仙台国際センター
【京都】2016年8月6日(土)、7日(日) 京都劇場
【広島】2016年8月14日(日) 広島アステールプラザ・大ホール
【福岡】2016年8月16日(火) 福岡市民会館
【大阪】2016年8月19日(金)~21日(日) 森ノ宮ピロティホール
■作:マーティン・シャーマン
■翻訳:徐賀世子
■演出:森新太郎
■出演者
佐々木蔵之介/北村有起哉/新納慎也/中島歩/小柳友/石井英明/三輪学/駒井健介/藤木孝
■特設サイト:http://www.parco-play.com/web/play/bent2016/