日本デビュー5周年を迎えた金子三勇士が登場、日曜日の午後を包み込むピアノの調べ
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金子 三勇士(ピアノ) 撮影=原地達浩
日本デビュー5周年を迎えた金子三勇士が“今”の音を届ける第26回“サンデー・ブランチ・クラシック”5.15ライブレポート
日曜日の午後は、渋谷のカフェにて『サンデー・ブランチ・クラシック』が行われる。この日も、カフェにはたくさんの人が訪れ、思い思いにくつろぎの時間を過ごしている。食器の音すらリズムに聞こえて心地いい……。そんな空間に、この日はダイナミックさと繊細さを兼ね備えた若きピアニスト金子三勇士が登場し、“今”奏でられる音を大切に聴かせる、“5月15日”の音色を届けてくれた。
定刻になると、スマートなスーツ姿と優し気な雰囲気をまとった金子がステージへ。ゆっくりと呼吸を置き、ピアノの前に座る。そして奏でられた一音目のあまりの鮮烈さに、くらくらした。この日の1曲目に演奏されたのは、ショパン作曲エチュード「革命」だ。
「皆さん、こんにちは。今日はどうぞよろしくお願いいたします。今日は普段のクラシックと違って、カジュアルで身近な空間での演奏です」と、深いお辞儀とともに折り目正しく挨拶をした金子。
金子 三勇士(ピアノ) 撮影=原地達浩
「普段、クラシック音楽といいましたら、かしこまったコンサートホールで固い雰囲気の中、多くのお客様の前で演奏するというイメージですが、ピアノをソロで弾くピアノリサイタルは、もともとはヨーロッパの貴族の宮殿のサロンで行われたのが始まりなのです。」と説明しつつ、「今はちょっと珍しくなっているかもしれませんが、ピアノリサイタルの原点に戻った感じで、この空間と音楽を楽しんでいただければと思います。」と微笑みかけた。
もうひとつ、金子が普段のコンサートホールとの違いと挙げていたのが、小さい子どもの来場者について。『サンデー・ブランチ・クラシック』では、普段コンサートホールでは制限されている未就学児連れでの来店も歓迎している。この日も、客席に子どもの姿が1部にも2部にもあり、金子も喜んでいた。プログラムも幅広い年代のお客様に楽しんでほしいと選んだそうだが、「いきなりショパンの「革命」で始めたのは驚かせてしまったかもしれないんですけど(笑)。次は、もう少し優しい感じの曲をご用意いたしました。」と、演奏された2曲目は、ドビュッシー作曲「月の光」だった。ドビュッシーが生きていた時代は、美術の世界で“印象派”と呼ばれる画家たちが多く活躍していた時代だ。音楽と美術が密接な関係にあったこともあり、ドビュッシーの音楽にもその片鱗が見えるという。2曲目も、その一音目にまず驚かされる。どこまでも柔らかく、どこまでも繊細に響く。一曲一曲、一音一音に込められた瞬間に、生で演奏を聴く楽しみが詰まっている。聞き入る客席では、小さな女の子がメロディに合わせて小さく指揮を振っていたのが印象的だった。
金子 三勇士(ピアノ) 撮影=原地達浩
次の曲に入る前に、金子が「皆さんサンデー・ブランチの言葉の意味ってご存知ですか?」と問いかける。このライブのタイトルにもなっている“サンデー・ブランチ”とは、もともとはヨーロッパにある日曜日ぐらいゆっくり過ごそう、という習慣だ。金子は、そのイメージがまさにこのカフェの感じに近いと言い、「せっかくこうして、皆さんと身近で楽しい時間を過ごせるので、いろいろなタイプの音楽を楽しんで頂きたいなと思います。」と、3曲目にリスト作曲「愛の夢」を選んだ。
リストは、ハンガリー共和国(当時のハンガリー帝国)出身の音楽家である。ご存知の方も多いが、金子は日本人の父とハンガリー人の母を持つハーフで、音楽家のリストも出身はハンガリーだが半分はドイツ系の血が流れているハーフ。さらに、金子は2001年に11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学に飛び級で入学し学んできたこともあり、「大変尊敬し、ご縁を感じる音楽家です。」と紹介した。思い入れたっぷりな演奏を披露したあとは、「いつも弾くときに、この『愛の夢』は絶妙だなと思うんですよね。男の熱い愛や情熱も感じられつつ、とても優しい……といっても、弱冠26歳の自分は愛について語れるほどのことはないんですけど(笑)。」と照れ笑いを浮かべていた。
演奏後にお客様との触れ合いも 撮影=原地達浩
今年の3月、金子は新譜『ラ・カンパネラ~革命のピア二ズム』をリリースした。2016年は、金子にとって日本での正式デビュー5周年でもある。そんな彼が「これが最後の曲になります」と名残惜しそうに挨拶をした。
「大先輩方に比べればまだまだ短い時間ではあるのですが、日本には“節目の年”という素敵な言葉があるので、これまでの5年間を振り返りつつ(これからも)やっていきたいと思いました。」と話す金子。『ラ・カンパネラ~革命のピア二ズム』は、より多くの方に手に取っていただきやすい曲目になっているという。「CDとはまた違う、5月15日現在の金子三勇士が作曲家と改めて向き合い、僕なりの解釈でお届けします。」と、CDの中にも収められているリストの「ハンガリー狂詩曲第2番」と「ラ・カンパネラ」の2曲で、最後を締めくくった。
インタビューの様子 撮影=原地達浩
演奏を終えた金子は、「モダンなんですけど、温かみのある空間で、とても演奏しやすかったです。こういう機会は今まであまりなかったのですが、新しい可能性を感じますね。」と充実の表情で語ってくれた。
また、お子さん連れで訪れていた方がいらっしゃったのが嬉しかったといい、「曲が始まるとその時々で違った反応をしてくれていて、そういうのを観るのもすごく新鮮でした。僕も、祖母がたまたま旅のお土産としてくれたピアノ曲集を収めたCDがきっかけで、ピアノを始めたんです。こういう場や機会をこれから増やしていかないと、大事にしないといけないと思いました。」と視野が広がった様子だった。
MCの中にもあったが、金子は今年で日本デビュー5周年を迎えた。9月18日(日)には、東京オペラシティ コンサートホールにて記念リサイタルが行われる。リサイタルでは、3部構成でスカルラッティからバルトークまで205年の歴史の中で生まれた5大ソナタを演奏するという。
「この5年、様々なところで演奏の機会をいただき、すごく沢山の経験をさせていただきました。時に反省もありますが、そこから何か発展するアイデアをいただいたり、そういったことを重ねていくことで、精神的にも肉体的にも鍛えられたと思います。そしてこの5年間があったからこそ、これから世界に出ていく時のパワーにもなりますし感謝を感じています。」
9月のリサイタルについて、「本格的な企画だと思われる方も多いかもしれないですが、だからこそ構えずにいらしてほしい。」と話す。「時代ごとの雰囲気を体験しつつ、時には何かを学びながら、それぞれに楽しんでいただければ。今日もそうですが、ぜひいろんな場所で、ジャンルを問わず生の音楽に触れて頂きたいと思っております。そういった機会があればあるほど、楽しみは広がっていくと思いますので。9月のリサイタルも、音楽に生で触れる機会として、気軽に足をお運びいただけたら嬉しいです。」と語っていた。
金子 三勇士(ピアノ) 撮影=原地達浩
生の音楽、現場の雰囲気、密度の濃い時間。日曜日の午後に偶然と必然が生まれる空間を味わってほしい。『サンデー・ブランチ・クラシック』、次回もお楽しみに。
1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳よりハンガリーのピアノ教育第一人者チェ・ナジュ・タマーシュネーに師事、単身ハンガリーに留学し祖父母の家よりバルトーク音楽小学校に通う。11歳のときに飛び級でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学し、エックハルト・ガーボル、ケヴェハージ・ジュンジ、ワグナー・リタの各氏に師事。 全課程取得とともに日本に帰国。
2014年には、ゾルタン・コチシュ指揮/ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団とツアーを行い、好評を博した。2015年1月には準・メルクル指揮/読売日本交響楽団定期演奏会に出演。
これまでに小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団(現日本センチュリー交響楽団)、下野竜也指揮/京都市交響楽団などと共演、また広上淳一指揮/東京音楽大学シンフォニーオーケストラのヨーロッパ公演のソリストに選ばれ、ミュンヘン、ウィーンにてリストのピアノ協奏曲第2番を演奏し好評を博した。
東京音楽大学ピアノ演奏家コースを首席で卒業し、同大学院器楽専攻鍵盤楽器研究領域を修了。日本デビュー5周年となる今年2016年3月にユニバーサルミュージックより新譜のCD『ラ・カンパネラ~革命のピアニズム』をリリース。
日時:9月18日(日)
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:金子三勇士
<曲目・演目>
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送」
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
日時:2016年7月17日(日)
会場:よこすか芸術劇場
指揮:ジョナサン・ノット
ピアノ:金子三勇士
<曲目・演目>
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466
ブルックナー:交響曲 第8番 ハ短調 WAB.108
※曲目は変更になる場合があります。
コハーン・イシュトヴァーン&金子三勇士 デュオリサイタル
日時:2016年9月23日
会場:豊洲文化センター シビックセンターホール (東京都)
日時:2017年3月3日(金)~3月4日(土)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
指揮:小林研一郎[桂冠名誉指揮者]
ピアノ:金子三勇士
<曲目・演目>
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23
チャイコフスキー:交響曲《マンフレッド》 op.58
日時:2017年4月29日(土・祝)
会場:東京芸術劇場 コンサートホール
指揮:秋山和慶
ソリスト:金子三勇士(ピアノ)
<曲目・演目>
P.スパーク/オリエント急行
長生淳/ピアノ協奏曲(TKWO委嘱作品)
C.ドビュッシー(編曲:木村政巳)/交響詩「海」
M.ラヴェル(編曲:仲田守)/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲
1966カルテット(女性カルテット)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円
7月10日(日)
山田姉妹(山田華、山田麗)(ヴォーカル)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円
7月17日(日)
上野耕平(サクソフォン)&反田恭平(ピアノ)
第1部 13:00~13:30 / 第2部 15:00~15:30
会場:LIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplus
MUSIC CHARGE:500円
公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html