エンタメ業界の今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第一回・門池三則氏<後編>
ザ・プロデューサーズ/第一回(後編) 門池三則氏
「The Producers(ザ・プロデューサーズ)」
編集長秤谷が、今話を聞きたい人にとにかく聞きたいことを聴きまくるインタビュー。そして現在のシーンを、裏側を聞き出す企画。第一回目となる現、音制連(一般社団法人 日本音楽制作者連盟)の理事長であり、株式会社バッドミュージックの代表でもある門池氏編の後編のインタビューをご覧いただきたい。
――これまで何組のアーティストを手がけていらっしゃるんですか?
ジュンスカ、ピロウズ、ミスチル……ミッシェル、怒髪天…7組か8組です。あとは古参の面倒くさいバンドは(笑)勝手にやらせています。ライブはしっかり観るけどレコーディングは任せたよって。昔はスタジオに入ってディレクションしてナンボみたいな感じもありましたが、今はライブに関して色々言うようになってます。音を売るのはレコード会社で、事務所はライブでお客さんを増やすという考え方です。だからレコード会社には、ライブの動員が増えてるんだからもっとパッケージ売ってよ!と言いますけどね(笑)。
――数々の一斉を風靡したバンド、伝説のバンドを育てていらっしゃいますが、売れるバンドはやはり最初から“売れる匂い”がするのでしょうか?
制作サイドはみんな絶対に売れると思ってやっています。でもバンドサイドだけの考え方では、ライブでどう表現したらお客さんがどう反応するのかとかは足りてない部分もありますし、なかなかアイディアが出て来なかったり煮詰まったりすることがあって我々はそこを考えます。お客さんが増えれば、勿論即売のCDも売れます。まずお客さんを増やすことしか考えない。そこで増えたら売る方法は後から考える。チャートも気にはしますが、お客さんの動員の方を気にします。ライブが良くなかったらファンは減るんですよ。お客さんは正直なんです。
ザ・プロデューサーズ/第一回(後編) 門池三則氏
――本当にライブ1本1本が勝負ですよね。
そうですね。
――一ライブ活動を軸に、一時代を作って、のちのアーティストにも大きな影響を与えたミッシェル・ガン・エレファントは、門池さんが手がけられたアーティストの中でも、傑作だと思います。ミッシェルのライブは凄まじい熱量でした。
音楽の構成的にはブルースの変形バンドですよね。彼らがそれまでのバンドと違っていたところは、ボーカルのチバ(ユウスケ)が役者的な顔で、ミスチルの桜井もそうですけど、色気がある役者的な顔がすごく好きなんです。何を考えているのかわからない、言葉が少ない役者、顔で表現する役者というか。そんなボーカリストがいいですね。ミッシェル・ガン・エレファントに関しては本当に色々ありました。レコード会社とメンバー、スタッフとの意見がことごとく合わなくて、私も呼ばれて話を聞いたら、あるメーカーさんは、もうやれない…的な事を言ってきたこともあるし、でもバッドミュージックはやるよと言いました。どうしても売りたいからって。今メジャー契約やめてもいいよって言ったこともあるし。例えばシングル曲ひとつとってもそうで、レコード会社の意向と合わないことだらけで、メンバーも制約の多いことを嫌うようになっちゃうし、テレビ出たくないって言うし。テレビに1回出たものの、未経験で収録が上手くやれなかったんですよね。
――当時思い出すと、ミッシェルの周りって、いつも結構ヒリヒリとした空気が流れてましたよね。
こちら側は全然そんなことなかったんですけどね。テレビに出て、嫌になって、もうテレビには出ませんってなって、じゃあキャンペーン増やすよという話になり。これだけの本数があるけどテレビ出たら少し減らせるよって言っても、彼らは本数多くていいですって言うんですよ。でもそのうちキャンペーンの本数が多いって言い始めて(笑)。じゃ1回テレビ出る?という話をして、給料5000円上げるからって言って(笑)。それからミッシェルには「給料5000円上げる事件」というのが度々あって(笑)。メンバーとスタッフサイドが合わなくなってくると、誰かがどこかで救いの手を求めているんですよ。引くに引けないという状況がお互いにありますから。でも社長が給料5000円上げるって言ってるから、仕方ないからやるか~という理由になると収まるんです。といってもそれが5~6回あるんですけどね(笑)。能野君から「もう給料結構上げたから、そろそろ5000円ゲームはやめてくれない?」って言われて。ツアーの売り切ったら5000円アップとか、なんか楽しみながらできていたんですよね。そこで笑いが生まれて、やる気が出るようにすることも必要なんです。「社長が言うから、ま、いっか」って。落としどころ、救いの手、みたいな感じで。これはプロデューサー業かどうかはわかりませんが、“家族的プロデュース”と言えるのかもしれませんね。
――なくてはならない存在です。
雰囲気作りですよね。レコード会社のスタッフもメンバーのために良かれと思ってやっているし、メンバーも引くに引けないところがあって。で、結局、意見をぶつけたいってなった時にどちらも良い関係であるためにはメンバーが意見を1個言ったらスタッフも意見を1個言えるようにしています。。お互いさまですよね。その辺の調整はよくやっていました。
――一番大変な仕事です。
そうですね。落としどころをどこにしようかっていつも思っていました。
――メンバーもどこかで落とさなきゃいけないというのを察して…。
そう、タイミングですよね。
――門池さんがいらっしゃらないと、アーティストとメーカー、スタッフ間で話がこじれて、空中分解しちゃうような危機が多々あったということですよね。
そうですね。勿論マネージャーは頑張ってますよ。昔で言えば焼肉屋に連れて行って、いい肉を食べさせて高いワイン飲ませて、キャバクラに行って話をするということをよくやっていました。それで話がまとまる時代でした。人間同士のギスギスした関係の中には、本当は彼はそんな人間じゃないよということをどこかで知るきっかけが食べたり飲んだりしながら話をしてくうちに見えてくるものなんです。そういうところから物事が解決していくこともあるし、問題が起こりにくくなるというか、信頼関係ですよね。1年や2年の付き合いではわからないことだらけだし、ツアーを2回は廻らないと色々見えてこないですよね。
――ミッシェルに関しては、全国ツアーにもできるだけ帯同するようにしていたのですか?
いえ、全部は行ってないです。他のバンドのライブもありますので。東名阪は勿論行きましたし、話がしたい時は行っていました。もう時効でしょうが、デビュー時のシングルの候補曲をメンバーは後のアルバムのリード曲「トカゲ」にしたいと言ってきた話があって、それを我々スタッフはいい曲だけど今頃勘弁してよ!て止めさせました。その後のデビューツアーの鹿児島に私は出向いてその時の真意をチバと話しをして、メンバーが選んだ曲「トカゲ」をツアーで何度か聴いていたら「あれはやっぱりいい曲だね。俺らが選んだのは間違いだったのかな?」と言ったら、彼は「俺らはよかったよ「世界の終わり」で」って。「自分達の曲だからなんでもいいんだけどね。周りが選んでくれた曲で良かったんだけどね」って彼は言ってくれて。私はずっとしょい込んでた重たい気分から何か肩の荷が降りたような救われた様な気持ちになりました。その後はツアーのファイナルのアンコールの最後にしか「世界の終わり」が聞けなくて、結局ツアーのファイナルは大体東京になるので、残念ながらそこでしか聴くことができなくなりましたが、それくらい名曲に育ったんですね、結果的に。
――今となっては、手がかかったアーティストの方が、門池さんの中では可愛い感じですか?
そうかもしれませんね。The pillowsなんかは若い頃は長い間いい結果が出ませんでしたが、年と共に徐々に良い方向に向かっていきましたね。いつかは武道館を…て目指していましたけど、実現したのは2009年、結成20年目ですからね。でも超満員でメッチャ嬉しかったですね。
――ピロウズにしても怒髪天にしても、息が長い活動ができるバンドを育てる秘訣はあるんですか。
ないです、大変ですよ(笑)。でもそういうバンドはメンバーそれぞれがしっかりできている部分があって、マネージャーありきですけどセルフプロデュースができるのでこちらがいちいち言う必要はないですよね。ソロツアーやりたいって言ったらいいよって言いますし、他のメンバーが違うバンドのサポートやるって言ったら、いいよって言いますし、ずっとやっていれば休憩も必要ですよ。大体はイエスの感じで答えますね。今のタイミングじゃないなと思う時もありますけど、可能な限り前向きに受けとめます。それから、マネージャーにほぼ全権を渡しています。キャリアが長いバンドほど、マネージャーにほぼ任せています。
――それも一つのプロデュースの秘訣ですか。
そうですね。それが私の方法ですよね。自分がジュンスカとかアリーナクラスまでできたのだから、部下のマネージャーには私よりも出来るはずだから頑張れと言っています。ただ、俺の真似はするなよ。今時でやりなさいよ!と言ってます。メンバーとマネージャーの信頼関係ですけどね、最後は。
ザ・プロデューサーズ/第一回(後編) 門池三則氏
――今ミュージシャンを目指す若い人たちがたくさんいて、YouTubeにあげたり、路上でやったり、表現の場は以前より増えているとは思いますが、どうやったら夢が叶うというか、アドバイスがあれば教えていただけますか?
どんな音楽活動がしたいのか、メジャーデビューしたいのか、仕事しながら音楽活動を続けたいのか、将来像を描くこと。それだけだと思うんですよね。僕の場合、表現する場がライブハウスであれば観に行けますけど、YouTubeだとなかなか出会わないというか。ライブ観たあとにYouTubeを観ることはありますけどね。だからライブを観ないと僕にはなかなか入ってこないですね。ライブでは人柄も見えるし、気になるバンドは買って行ってますよ。最近は忙しくてなかなか観に行けていませんが、情報を聞いてこっそり観に行っています。たまにバッドミュージックの門池さんですよね?って声をかけられることもありますけど、違いますって言ったりして(笑)。即売のCDやグッズも買いますよ。
――ストリートライブは観に行かれたりする機会はありますか?
最近は行ってないですねー。社員がデモテープを聴いて「これ門池さん好きじゃないですか、どうですか」って言ってきたら、様子観に行ってきて良かったら教えて、という感じです。今の時代のライブの表現方法が以前と違う気がしていて、もう若いスタッフにバトンタッチしています。私はやりたいバンドはあるけど、現場に付くマネージャー陣がオッケーと言わなければやりにくいですよね。私に話は来ますが、全部はできないですし、やりたいけど誰かやってくれないかなってことになります。
――マネージャーさんの判断を優先していると。
そうですね。怒髪天は勝手にやっていましたけど(笑)。
――門池さんにとって、アーティストをプロデュースするということをシンプルな言葉で表すとすると…。
お客さんが望んでいることと、アーティストのしたいことを繋ぐ仕事だと思っています。アルバムのレコーディングであれば、お客さんの顔を思い浮かべながら曲順を考えていますし、ライブであればお客さんの言葉を、アーティストに繋ぐ役だと思っています。
――バッドミュージックの社長として、所属アーティストでこれから売りたいアーティストとか、プロモーションがあったらお願いします。
なかなか難しい問題です(笑)。うちも結構ベテランが増えているので若いバンドをやりたいですし、もしくはベテランと若い人達のコラボ的なものをもっとやっていく時代じゃないかなと思っています。ある意味指針になるような先輩バンドがいて、若い連中がそれに影響されて出てくる、そういう時代だと思っているので、若い人達にチャンスができるような事務所でありたいですよね。バッドミュージックのこういうバンドがいるからそこに所属したいというのもあると思いますが、それだけではなく、音楽の影響があって、先輩バンドがその後輩の面倒を見るという関係性をもっと打ち出したいです。なんか一緒にやろうというところに歴史を作ってきたベテラン勢は来ていると思うので。自分達も新しいものを創造しなければいけないですし、若い人にもそういうことを今から教えたりとか、そこから刺激を受けたりとか、そういう時代だと思います。うちは各バンドにはレーベルをやりなさいと言っています。さっきも言いましたが、先輩が後輩のバンドを見るという話もそうなんですが、私が何か言うより、ミュージシャンが言う方が説得力がありますから。
――キャリアのあるミュージシャンもいるし、時代を作ってきた門池さんもいるし、若い人にとってはすごくやりがいがある事務所といいますか、やろうと思ったらなんでもチャレンジさせてくれるマネージメントですね。
そうですね。例えば、アーティストはシングル候補曲を書いてって言われるほど辛いものはないと僕は思っているんです。その人の可能性を狭めている感じが嫌なので、いいじゃん色々な角度から色々ことや曲を書けばっていつも言っています。その中で絶対核になるよう何かが見えてくるからです。目先のアルバムのことだけ考えると辛いですよね。先が見えないから。制作に時間がかかる人と、早い人とでも違うので。遅い人にどうやって合わせられるかが大切だと思っています。
――門池さんにとっていいライブとは?
ライブが終わった後、その打上げの時間にいたいと思えるライブ。それはメンバーの汗とお客さんの汗とが同じ汗の感じの時ってあるんですよ。これは、照明があたらない暗いところでもなんとなく感じます。内容はその場その場で違うので表現するのが難しいのですが、失敗があっても許される感じの熱い汗です。同じ汗のレベル、それが一番いいです。帰りにお客さんに今日はありがとうって言いたいですもん。お客さんにもビールおごってあげるよって思います(笑)。フェスに行ったら私は手にお酒を持って下手上手や客席に行ってますが、バンドマンにもお客さんにも、いいライブをありがとうって思いながら飲んでます。恰も自分がライブをやりにきたような感じになってます。(笑)
――本当に純粋です。
大好きなんですよ、バンドマン、ミュージシャンが。
ザ・プロデューサーズ/第一回(後編) 門池三則氏
――では次に、音制連理事長としてお話を伺います。まず理事長の仕事というものを具体的に教えていただけますでしょうか。
加盟している230社の会員の声を聞いて、何をやるべきかということを、みんなに提案するということが僕の役目だと思っています。もちろん自分の意見はありますが、それよりも皆さんの意見を大事にしたいと考えています。それぞれの分野の委員会の理事に任せてはいますが、色々な人が色々な考え方を持ち寄って答えを導き出す、その最終判断をするのが役目です。
――さっきのアーティストとメーカーの間、アーティストとマネージャーの間に入ってバランス取って関係性をうまく築くっていうのは、音制連でも変わらない役目ってことですよね。
そういう部分もあります。ちゃんと自分の意見を持ちつつみんなの意見を聞いて、今はこうしませんかと意見します。なんとなく会議でリーダーシップを取っている人が喋っていると、その人の意見が全てになってしまう傾向があるので、一旦話合いをストップして、クールダウンしてみんなが冷静になるようにしていく役目もあります。
――今、音制連の最重要課題として、社会的にも問題になっているの転売問題が存在しています。
そうですね。転売サイトがあらゆる面で悪い影響を及ぼしているかもしれないと思っています。転売された高額を買われたお客さんが、物販も買って下さるとかなりの出費になりますし、もっというとそのお金があれば他のアーティストのライブにも行けたりもするのに、負担を増やしているだけではなく、音楽業界の裾野を広げる妨げにもなっているのでは?という疑問があります。他の新人バンドとかライブハウスに行ってもっと面白いバンドに出会えるのかもしれないのに、なかなかそっちの方にお金が回ってこないということが起こっているのではないでしょうか。
――の転売問題は業者とこちら側、攻撃側と防御側のイタチごっこみたいな感じになっていて、どこかで着地するのか、なかなか見えてこない現実があります。
音制連の会員230社の皆さんの中にも色々な意見があります。その中の、どこまでが共通した意見なんだろうということを探っているのと同時に、一時流通の正規の販売会社さんと協力しながら、リセールの取り扱いについて話合いをしていて、色々な可能性を探っています。2次流通、いわゆる転売サイトともその部分の話し合いをすべきか、すべきではないのかというところを模索している状況です。
――純粋にを買った人、買いたい人と、最初から転売目的で買う人の区別ってつかないですよね。
そうなんです。僕らアーティストサイドが、果たして本当にユーザーに寄り添っているのかという疑問もありつつ、本当に困っている人の話も聞かなければいけません。今ACPC(コンサートプロモーターズ協会)さんと協力して動いていますが、我々プロダクションサイドがミュージシャンと何度も話し合っての金額を決めても、それがあっという間に転売されて、驚くような金額をファンに負担させてしまっているという、どこか腑に落ちないところがあります。
――もそうですけど、著作権の部分もきちんとした対価を徴収しないと、アーティストの創作活動の方にお金が回らないという状況になります。
影響しますよね。将来のアーティストを発掘・育成していく一方で、僕らがきちんと徴収する方法とか分配するシステムを含めて考えないといけません。そうしなければいい作品は出来なくなりますし、ミュージシャンに夢を与えられるようなものを我々が提案して作っていかないと、マネージメントも含めて育っていかないと思います。
――ミュージシャンを目指している若い人たちが、夢を持てるような業界にしたいですよね。
そうですね。現実の厳しさばっかり見せても良いものは生まれないと思うので、夢とそれを創造する機会を与えられる業界にしたいですよね。
――ライブビジネスは右肩上がりで、一方CDの売上げがどんどんシュリンクしてきていて、音楽配信も一概に成功しているとはいえない現状があります。そんな音楽業界はこれから、どういう風になっていくと思われますか。
制作側と、ユーザーが求めるものがちょっとズレてきているような気がします。今後どういうものがソフト、ハード共に出てくるかわかりませんが、逆にライブから入って、音源や映像を買ってもらうという方法を我々は考えなければいけないのではと個人的には思っています。そこには新たな提案を我々がしていかなければいけません。
企画・編集=秤谷建一郎 文=田中久勝 撮影=風間大洋
【The Producers(ザ・プロデューサーズ)】第2回に続く
次回は株式会社アミューズ相馬氏のインタビューを掲載予定となっております。お楽しみに。