エンタメの今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第四回・丸野孝允氏

インタビュー
音楽
2016.7.15

――一番に考えるのは環境作りですか。

そうですね。本人達が楽しく、やりやすくできる環境を作れるかというのが一番に考えてることですね。人間だからそれぞれ性格、特徴も違うし、時間と共に考え方も変わっていきます。それに合わせて一緒にやっていく感じです。

――丸野さんはアーティストのどの部分を一番観ますか?やる、やらないの判断基準はどこにありますか?

まずは「人間性」と「ずば抜けた何か」、それと「大衆性」があるかどうかです。大衆に意識が向いているかと言うんですかね。
僕は若い時からジャンル問わず流行りものをずっと聴いてきたし、多分今でもそういうのが好きなんですよね。だから自分が好きかどうかっていうのは一つ基準としてあります。僕が好きだったら、好きな人も多いだろうと思っています。

――自分がユーザーの感覚に近いという意味ですか?

そうです。だからできるだけユーザーの感覚でいるように心がけています。なるべくそういう目で見て、聴きますし、それが自分の役割の一つだと思ってます。

――ハジ→とはどういう出会いだったのですか?

ハジ→はWEB上に本人がアップしていた曲がきっかけでした。今は地方で音楽活動している人たちって、YouTubeやニコ動などを使って、自分でアプローチ、アピールするじゃないですか。それを、スタッフに常に探してもらっていました。その中にハジ→がいたんです。スタッフと仙台までライブを観に行って、本人とも話をして、同い年なんですが面白いやつだなと思って。他からも声をかけられていたようですが、うちでやりたいと言ってくれました。

――ハジ→への口説き文句は何だったのですか?

自分の思ってる事、やりたい事ができると思ってくれたのだと思います。彼もしっかりとした考えを持っていて、意志も強いタイプなので、やりやすい環境を与えたいという話をしました。確かクラブだけで歌いたいのであれば、うちでやる必要はないし、大衆に向けてポップスとしてやりたいのであれば一緒にやろうと言ったと思います。

――九州男、C&K、そしてハジ→と、ヒットが続いています。

運がいいのだと思います。まだまだですけど。

――でもエンタメの世界ではそれがすごく大切です。

そうですよね。一歩間違えていたら僕はここにはいないですね(笑)。

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

――勝ち続けると、自然といいアーティスト、いい人(スタッフ)が集まってきませんか?そうすると勝ち続けることができる。

そうですね、色々な人が集まって来てくれるようになりましたし、もちろん人脈もたくさん増えていくし、設立当初よりは会社としてしっかり組織になってきました。自分でやらなければならない範囲が多すぎる時期もあったので、そういう意味では少し余裕ができてきました。自分が悪かったのかもしれませんが、人になかなか任すことができませんでした、責任もありますし。でも九州男、C&K、ハジ→と増えてきて、それぞれが大きくなってきた時、どうしても時間が足りませんでした。全アーティストと完璧にコミニュケーションをとって、全てを見るということが難しくなりましたが、いいスタッフが育ってきたり、入ってきてくれて、今はもうある程度任せられるようになりました。

――ハジ→も露出を抑える戦略でしたが、これも丸野さんの考えですか?

九州男やC&Kとはまた違った戦略ですね。時代もまた変わってきていたし。本人のポテンシャルとキャラクターをうまく生かせるようにと思っていました。

――miwaとのコラボ、すごくよかったです。

いいタイミングで話が進んでいったんですよね。ハジ→とmiwaちゃんのバンドのバンドマスターが共通の人で、miwaちゃんがハジ→の曲を聴いてくれていたことを教えてくれたんです。miwaちゃんが移動車の中でハジ→の歌を口ずさんでいた時、そのバンマスがmiwaちゃんに「なんでその曲知ってるの?」と聞いたことがきっかけで、繋がっていることが判明して(笑)、それも運がいいですよね。

――手がけているアーティストは、シンガー・ソングライターが多いですが、これからこういうアーティストをやりたい、作りたいという野望はありますか?

特にシンガー・ソングライターをやりたいというわけでもないんですけどね。一緒にやってて楽しくて、ワクワクできれば何でもやりたいです。あとは海外、特にアジアでやろうと思っています。

――基本にあるのは人に喜んでもらいたいという、旺盛なサービス精神でしょうか。

そうなんですかね。だからそれは別に音楽じゃなくてもいいんですよね。だから十年後は全然違うこともやっているかもしれません(笑)。

――CDが売れなくなったり、配信音楽の売上げが伸びてきたり、音楽業界が変革期を迎えていると思いますが、これから音楽業界はどう変わっていくと思いますか?

もう10年くらい前から、CDを売ることをビジネスの中心に置いていませんでした。九州男が出てきた時はもうmixiもYouTubeもありました。要はデジタルに変換できるようになっていって、音楽を手に入れようと思ったらタダで手に入れることができて、タダで映像を観るのも当たり前になっています。ユーザーにとって便利な方向に進んでいくのは、もう仕方のないことなんだと思います。僕もユーザーとしてはそっちの方が便利ですし。だから僕は音楽を、そのアーティストをたくさんの人に知ってもらうための、きっかけとしての役割をやってもらうという考え方でずっとやってきました。そんな事を言うと、当然音楽を作ってる人は嫌がりますよね。自分達はこんなに命をかけて作っているのにって。それも分かります。でもビジネスの視点でいうと、時代に合わせた方法をとっていかないと勝っていけないんです。デジタルになった音楽って流通させやすいんです。色々なところに届きやすい。YOUTUBEで何千万回も聞かれてる曲ってたくさんあるじゃないですか。タダで聞かれてるかもしれないけど、その分出会いもその数あったってことですからね。それをうまく生かす方法を考えたほうがいいじゃないかと、僕は思います。国内の音楽産業の規模は小さくなっていくと思いますが、それに合ったサイズで会社を運営できる体制を作っておけばいいと思っていたし、ビジネスモデルを時代に合わせて変えていければ対応できると思ってます。

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

――事務所のやるべきことは、アーティストにきちんとお金が渡る仕組みを整えるということですよね?

そうです。うちは少数精鋭でやってますし、その分アーティストに還元できるということです。アーティストにはスターになってもらって、アーティストを目指す若い人がたくさん出てきてくれたらいいかなと思ってます。

――やっぱり事務所としての基盤はやはりライブですか?

それもアーティストの特性によって違います。ライブ中心のアーティストもいれば、楽曲リリース中心のアーティストもいますし。なるべく本人たちがやりやすい環境というか、本人たちの意志に合わせてプランを組み立てていきます。綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれませんが、基本的にはアーティストもスタッフもみんな楽しくできたらいいなという感じでやってるんです。自分たちが楽しんで、周りの人を楽しませていければいいなと思ってます。もちろん生活のため、将来の事業への投資のためだったりに収益が必要なのは理解してますけど。アーティストもスタッフも僕も含めてみんな歳も近いですし、みんな友達のような感覚なんですよね。だからやっぱり楽しくみんなで幸せに生きているのが一番です。それが理想です。会社だから、しめるところはしめますけど(笑)もちろん稼ぐことも大切ですが、無理しても仕方ないですし。それが長くやるために必要なことかなと思います。

――理想的な集団です。

そこが会社の強みでもあるのかなと思います。そうじゃないと、勝てないですよ。大きな会社と同じところで競争しても多分勝てないですし、今はそういうスタンスでやっています。あの人と一緒に仕事をしたら楽しそうだな、面白そうだなと感じてもらえるようになりたいです。それはアーティストもそうだし、お客さんも多分そうなんですよ。お客さんも今は“裏側”が見えますからね。楽しそうなところに人って集まるじゃないですか。だからそういう部分が大切なのかなと思っています。

――今、マネージャー志望の若い人が少ないと言われていますが、でもマネージメント事務所には絶対必要な存在だと思いますが、マネージャーの仕事で一番大切なことは、やっぱりアーティストが気持よく働ける環境を作ってあげることですか?

そうですね。理想は一番の友達であり、応援者であり、理解者であるということですね。

――アーティストの人生を預かるという言い方もできる仕事だと思います。

僕はそういうつもりでやってきました。そんなたいそうな事はいえないですけど。関わったアーティストはみんな本当に好きだから、ある意味なんか自分のことと同じように思ってるかもしれないです。一緒になって喜ぶし、楽しむし、怒るしみたいな。

――そういう丸野さんのスタンスをアーティストもわかっているから、色々言えて、言うことにも説得力があるのだと思います。

そういうつもりでやってきたわけではないですけど、とにかく曲を聞くのもライブを見るのも普通に楽しいんですよね。デモがあがってくると、ずっと聴いてたりするし。もちろんアドバイスすることもありますが、それ以前にそのアーティストの音楽に触れているのが好きなんです。でも、マネジメントする人ってそんな感じじゃないですか?マネージャー志望の人が減ったというのは業界全体の問題だと思いますが、やっぱりカッコよく見えてないですよ、今の音楽業界は。魅力的じゃないから、優秀な人材は他の魅力的な業界、会社に行くわけですし、音楽業界のイメージを変えていかないとダメだと思います。僕が学生の時はまだカッコよく見えていました。だから入りたかったですし。今はそうじゃないんでしょうね。

――いいイメージがないし、景気が悪い情報しか流れていないですよね。

CDが売れないとか、売り上げが下がってるとか。まずそのイメージを変えていかなければいけないですよね。また学校の話になりますが、そうじゃないとクラスでおもしろい人だったり、優秀な人だったりがこの業界に入ってくるようにならないと、活性化されないと思います。

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

ザ・プロデューサーズ/第4回 丸野孝允氏

――最後に、アーティストのタイプやその時の世の中の状況など、色々あると思いますので一概には言えないと思いますが、これまでSNSを駆使してきたように、今、丸野さんが思う、最強のプロモーション方法、ツールって何だと思いますか?

なんでしょうね。SNSもあの時よりもっと細分化されている状況もあります。でも正直なんでもいいと思うんですよ。C&Kの話のところで、九州というキーワードがあったじゃないですか。mixiっていうのがあったり、色々なカテゴリーというかサービスがあると思いますが、そこで、圧倒的な一番を取ることじゃないでしょうか。なんでもいいので、何かでトップを取って、本当に目立つことができれば広げられる可能性はあると思っています。

――圧倒的に勝つことが一番のプロモーションになると。

今はそう思ってます。

 

―編集後記―
連載も4回目ですがそれぞれのプロデューサーによって、やり方もアーティストとのかかわり方も、考え方も実にそれぞれで様々だと思えます。だからこそ決められた形などなく、こうして多くの関わりや交わりの中でヒットや人を引き付けるコンテンツが生まれていくのだと。


企画・構成=秤谷建一郎 撮影=風間大洋 インタビュー・文=田中久勝

プロフィール
丸野孝允(マルノタカヨシ)
 
株式会社スターレイエンタテインメント
代表取締役社長
1980年、神奈川県横浜市生まれ。学生の頃からクラブ業界に携わるようになり、それを契機に音楽業界へ。
06年に九州男と出会い、マネジメントを開始。07年に 会社設立。同年、主催フェス「MUSIC LIFE」を手がけ、09年には夏フェスとして長崎で初開催。
C&K、ハジ→などもメジャーデビューし、13年にはユニバーサルミュージックと共に、ジョイント・ベンチャーとしてレーベル、NS waVe設立。
アーティストマネジメントを軸に、イベント事業やEC事業、デザイン事業まで幅広く展開する。
現在は、九州男、C&K、ハジ→、HOME MADE家族、あいみょんなどが所属。
http://starray-e.com
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