#野水映画 “俺たちスーパーウォッチメン” 第七回レビュー『死霊館 エンフィールド事件』
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TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
梅雨明けせずとも真夏日があったりと、すでに夏らしくなってきたこの頃。皆さんはどうお過ごしだろうか? 夏でも涼しい北海道育ちの私は、東京のじめっとした暑さが苦手なので、この時期はとても憂鬱だ。しかし、夏にも1ついいことがある。それは、私の大好きなホラーが盛んになるということだ! 今回は、今夏公開のホラー映画の中から、『死霊館 エンフィールド事件』をご紹介しよう。
パトリック・ウィルソン(右)は『インシディアス』でも霊と戦いまくり (C) 2015 STUDIOCANAL S.A. ALL RIGHTS RESERVED.Copyright
1960年以降、アメリカに実在する超常現象研究家・ウォーレン夫妻は数々の心霊現象を解決してきた。『死霊館』(13)は夫妻が実際に関わった事件を映像化し、オリジナルホラー映画としては『エクソシスト』についで世界興収第2位になるほどの大ヒットを記録している。その続編であり、「心霊史上最恐」と評されるポルターガイスト事件を描いた作品が、この『死霊館 エンフィールド事件』なのだ。
1977年、ロンドン北部・エンフィールド。シングルマザーのペギー・ホジソンと4人の子どもたちは、ある夜から心霊現象に見舞われることになる。寝ている間にベッドやタンスが動き、さらには次女・ジャネットの様子までおかしくなっていく。噂を嗅ぎつけたテレビ局の取材中、ジャネットは老人のように低くしゃがれた声で「私の家から出て行け」と怒り出した。この出来事を皮切りに心霊現象はますますひどくなり、やがてペギーは超常現象研究家であるエドとロレインのウォーレン夫妻に助けを求めるのだった。
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『SAW』(04)や『インシディアス』(10)などを手掛けたホラー界の寵児・ジェームズ・ワン監督は、1度はホラー映画からの引退を宣言したものの、本作の脚本のエモーショナルな部分を気に入りカムバックしたという。“単に怖い映画”を作るために戻りたくはなかったそうだが……なるほど、その考えはとてもよくわかる。怖さの中に、切なさや感情が動かされるものがあってこそ、グッとくるホラー映画と言えるのではないだろうか。私はそんな勝手な持論を振りかざしつつも、『死霊館』も観ていたので、前作を上回る面白さを期待してしまった。……結論から言おう。とっっても満足だー!期待以上だったと言っても過言ではない!
日本ではあまり馴染みのないポルターガイストだが、海外ホラーにはよくある設定……と思うだろう。けれど本作では“実話”らしいリアリティを持って描かれているからゾッとするのである。例えば、ペギーの通報を受けて駆けつけた警察官の前で、椅子がひとりでに動くシーン。ここで警察官は「自分たちの手には負えないから」と、教会に連絡をすることをペギーに勧めるのだ。警察官には心霊現象など信じてくれないイメージを持っていたのに、「信じちゃうんだ! そんなに怖がっちゃうんだ!」と思わず驚いた(笑)。しかし、それもほんの序章にしか過ぎない。ジャネットに憑依した老人の霊がしゃべるエピソードもよくありそうな話だが、その姿には“不気味”という言葉がぴったりなリアリティがあるのである。目的が見えてこない不気味な霊とのやり取りにペギーたち家族が苦しみ、ウォーレン夫妻も疲弊していくのがよく伝わってくる。
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しかし、私が一番恐ろしさを感じたのは、ポルターガイストでも老人の霊でもない。物語の冒頭でロレインが対峙する、シスター姿で、現実にこんなの見たら気絶するわ!というほど凶悪な顔をした悪霊だ。絶対的な殺意を持って接触してくるこの悪霊に、様々な事件を解決してきたロレインでさえ、経験したことのない恐ろしさを感じることになるのだ。そして、クライマックスに待ち受けている事実を目の当たりにすれば、それまで抱いていた違和感が氷解し、背筋にヒヤッとしたものを感じることになるだろう。老人の霊の本当の目的、ロレインが感じていた恐ろしさ、それらすべてが明らかになるのだ。
この作品のスゴさは、登場人物に感情移入をすればするほど恐怖を感じるところではないかと思っている。ペギーもロレインも守りたい家族がいるからこそ、その存在を脅かす悪霊におののくのだ。あなたにも大切な人がいるのなら、その気持ちはよくわかるはず。『死霊館 エンフィールド事件』は、きちんと作られた正統派心霊ホラーでありながら、実録モノの生々しさを備えた作品なのだ。エンディングでは、実際の音声や写真も確認することが出来るので、恐ろしくとも最後まで席を立たずに観てもらいたい。
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ちなみに、前作『死霊館』を観ていなくても楽しめる作品なのでご心配なく。けれど、もし興味を持ってくれたのなら、有名な呪いの人形を題材にした、『アナベル 死霊館の人形』(14)というスピンオフ作品もあることを追記しておこう。
『死霊館 エンフィールド事件』は7月9日(土) 新宿ピカデリーほかにて全国公開。
『死霊館 エンフィールド事件』
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(2016/アメリカ/シネスコ/デジタル)
原題:The Conjuring 2
監督:ジェイムズ・ワン
原案:チャド&ケイリー・ヘイズ、ジェイムズ・ワン
脚本:チャド&ケイリー・ヘイズ、ジェイムズ・ワン、デイビッド・レスリー・ジョンソン
撮影:ドン・バージェス
音楽:ジョセフ・ビシャラ
出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、フランシス・オコナー、マディソン・ウルフ、フランカ・ポテンテほか
配給:ワーナー・ブラザース映画