鈴木京香&倉持裕『家族の基礎』を語る~「松重豊さんは怪物」(鈴木)、「京香さんも十分モンスター」(倉持)
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(左より)倉持裕・鈴木京香
東京のはずれに出現した劇場「大道寺シアター」。その中心にいる大道寺家の人々に次々とふりかかる事件。ついに一家離散へと追い込まれる家族を再生するために父親は一念発起、家族の「絆」を取り戻そうと奮闘するが……。倉持裕の新作コメディが9月、シアターコクーンに初登場となる。題名は『家族の基礎~大道寺家の人々~』。松重豊、鈴木京香、夏帆、林遣都、堀井新太ら賑やかなキャスト陣で繰り広げられる群像劇だ。
――鈴木さんは倉持さんをどこでお知りになったんですか? 倉持さんの舞台をご覧になったことは?
鈴木京香: 舞台は『ブロッケンの妖怪』と『虹とマーブル』『鎌塚氏』シリーズを観てます。そしてNHK『LIFE! ~人生に捧げるコント~」に出演させていただいたときに、倉持さんの脚本の回だったんです。それが初めての接点ですね。
倉持裕: あれはおもしろかったですね。売れない歌手と地方の市民ホールっぽいところの副支配人。「Wブッキングしちゃってすみません」って京香さんが平謝りするというやり取りが。
――そんな鈴木さんに出演のオファーをしたいきさつを教えてください。
倉持: 家族の喜劇をやりたいので、お母さんの役をやってほしいとお願いしました。以前、京香さんが出ていた『鼬』を観て、それがとても良かったんです。その直後にこの芝居の話が出たので、「ならば、ぜひ京香さんにお願いしたいのですがどうでしょうか?」という話をしまして。
――鈴木さんのどこに惹かれたんですか?
倉持: 悪女をすごく魅力的に演じていたんです。男で悪役をやるのは割と共感を得やすいんですが、悪女ってやはり難しいと思うんです。観客から反感を買うリスクは男より高いと思っていまして。でも京香さんはそこが大丈夫な方だと。「鼬」のときに長ゼリフがあったんですが、京香さんは“グルーヴ”を起こしていましたね。セリフを聴いている方が気持ちよくなってくるんです。テンションも上がってくる。共演者たちもそれに乗せられて手のひらで転がされちゃう。そりゃそうなるよなぁ、と思いながら観ていました。
鈴木: 嬉しい。
――逆に鈴木さんが倉持さんに魅力を感じたのはどのタイミングですか?
鈴木: 『LIFE!!』は、本当におもしろいコントだなと思ったんです。あと、これまで拝見した舞台ですが、お客様が本当に楽しそうに笑っているんです。私も笑ってました。話の内容もいろいろですが、お客様が集中して楽しんでいる。「人間ってかわいいな」とみんなが思いながら劇場を後にする……それが「いいなあ」と感じまして、ぜひ倉持さんの長編戯曲に出てみたいと思ったんです。
鈴木京香
――今はまさに脚本を書いている真っ最中とのことですが、どんな話になりそうですか?
倉持: 家族の中でみんなが少しずつ我慢していたのが我慢できなくなって家族崩壊、そこから父親が一人ずつ家族を訪ねて再生していく話です。
家族に限った話ではないですが、「100%賛成」なんてないですから。51%くらい賛成くらいで、じゃあそっちに決めようか、という事になる。でも毎回毎回そのくらいでやっていると徐々にしんどくなってくる。どこかで70~80%で賛成するくらいの機会がないと破たんしてしまう。それが「社会」というものではないだろうか、また「社会」の最小単位が「家族」だと思うので、家族を描きながらこの世界の「社会」をも描けたら、と思います。
――そんなとある家族の大黒柱が松重豊さん、その妻が鈴木さん。このキャスティングだけですでにおもしろくなりそうですが、シノプシスを読んでどんな印象を受けましたか?
鈴木: いろいろな時代も含まれていて、家族だし舞台は日本だけどちょっと違う世界の違う家族になっている感じもあって、不思議なんですよ。何と言ったらいいのか……。
倉持: サーガ(大河小説)ですね!(笑)
鈴木: (笑)それをどんな風にやるのか楽しみなんです。あと、「松重さんが夫の役」という事がものすごく嬉しくて。私は学生の頃、演劇をあまり観る機会がなく、ドラマでデビューして世に出るようになってから少しずつ舞台を観るようになりました。劇団で何かをやるとかそういう経験もなかったのですが、あるとき、大人になってから『トランス』(1993年)という三人芝居に出ていた松重さんを観て……本当にすごかったんです! 私にとっての松重さんは「舞台の巨人」なんです。
倉持: そのくらいの大きさもありますしね(笑)。
鈴木: 「ターミネーター」「モンスター」でもいい。映画『新 居酒屋ゆうれい』でお仕事をご一緒したのが初かな? その後もご一緒する度に松重さんのすばらしさをしみじみ感じていたんです。少しシャイな、素敵な方で。「舞台の巨人」で「怪物」である松重さんとどうやって夫婦役を成立させるか、それが今回大きなチャレンジですし楽しみなんですが、一方、足を引っ張りたくないという気持ちもあるんです。普段怒ったりしない方ですが、そんな松重さんに怒られたりあきれられたりするようなことがあったらどうしようかと。嫌われたくないんです、好きだから(笑)。
倉持: 僕からみたら『鼬』に出ていた京香さんも十分「モンスター」ですよ(笑)。 松重さんは芝居に対しては厳しい面をお持ちでしょう。一度、松重さんが出る舞台の演出をしたことがありましたが、そのとき芝居に対して自分のプランをいっぱいお持ちだなと感じました。そのプランが違うとなったときもあきらめないで、じゃどうしようかと、とことん話し合って決める、そういう対処の仕方をされる方なんだな、と。だから演技が思うようにできないからといってその人を排除するような人ではないですよ。
倉持裕
――最終的にこの物語はどのくらいの長さになりそうですか?
倉持: 2時間から2時間半くらい。幕間を入れずに一気にやるような舞台にしたいですね。なるべく短くしたい。そういえば、“シアターコクーンで芝居をする”となると、いろいろな座組みが重厚な作品を持ってくる、とシアターコクーンのプロデューサーに言われたことがあります。だったら僕はなるべく軽い作品にしたいんです。短くしたいのもそういう気持ちがあって……。
――「シアターコクーンあるある」ですね。実際作る側としてもそんな印象を受ける劇場ですか?
倉持: 別に特別大きな舞台ではないのに、大きな舞台に見えるんですよ。客席も立派なのでそんな錯覚に陥りますね。だから高級なものを見せないと……と思ってしまうんです。
鈴木: 私はそんなに舞台経験はないですが、5回のうち2回がシアターコクーンの作品なんです。だから逆に他の劇場の事をよく知らないんです。
倉持: それは幸せなことかもしれませんね。
鈴木: シアターコクーンは声の響きが少し違うので難しいと、皆さんおっしゃるんですが、私にはよくわからないです。比較ができないといったほうが適切かも。
倉持: 逆に下北沢のスズナリなどに立つことがあったら、京香さん的にはそっちのほうが難しいかも。お客さんがものすごく近くて。すぐそこにいますからね。舞台の照明が照り返して客席がすでに明るいし。
鈴木: 緊張するでしょうねー。
(左より)倉持裕・鈴木京香
――映像作品への出演が多い鈴木さんにとって、舞台とはどんな存在ですか?
鈴木: いまだに慣れてないです。新人のような気持ちになります。30歳直前にやっと舞台に出演できましたが、自分にとってはまだよく知らない存在です。前回出たときも白石加代子さんをはじめ、素晴らしい人と共演できたので、新参者で新人のままで出演できました。
でも今回は林遣都くんも舞台が初めてだというし、夏帆ちゃんは何度も出ているけど、まだまだ緊張する、と言っていたし。だから私がいつまでもそんな気持ちでいたらダメだなって。二人の「母親」ですしね。これまではみんなの胸を借りてやってきたけど、今回からは子どもたちの成長を受け止めなければならない母親役。「緊張しますードキドキするわねー」なんて言っている場合じゃないなって。たとえ頼りにならなくても「受けとめる」ことはしていきたいんです。……ただ、松重さんには頼りたいですね(笑) 。
倉持: 役としても「母親」の「初心者」だから演じる上ではそれでいいんじゃないですか? 母親としてドン!と受け止めなければならないと思ってそう立ち振る舞っているけれど、子どもたちが寝たあと、夫と二人になったときに『どうしよう…』と言ってたり。そういうところも書きたいですね。
鈴木: ああ、そうか。須真自身がまだ幼いので親になりきれてない、ということはシノプシスを読んでいて感じたんですが、よく考えると「親」というものはみんなそういうものなのかもしれませんね。
(左より)倉持裕・鈴木京香
――鈴木さんと倉持さんが思う「家族の基礎」って何ですか?
倉持: 「家族」を作る上で基礎になるのは、やっぱり「自分が育った家族の体験」になると思うんです。自分が一番よく知っている「家族」。僕の中の基礎はそこですね。
鈴木: 自分の家の基礎って何だったんだろう……。何かあるんでしょうけどね。よそのうちとは違う何かがあると思うんですが。
倉持: 他人に言われてわかることだからね。他から観たら変だけど自分は変だと思っていないことだから。
鈴木: トマトに塩でなく砂糖をかけるのが当たり前だと思っていたら、社会に出たらだれもかけていなかった、とか!?(笑)
倉持: 生まれ育った「土地」も絡んできますしね。あるとき妻の実家に行ってカニを食べることになったんですが、やおら床に新聞紙を敷きつめ、車座になってカニを食べる姿が衝撃だったんです。そういう食べ方をしたことがなかったから。
鈴木: それも「基礎」ですよね。よその家族との違いを知るだけだとつまらないけど、そこから語り合うのが大事なことなのかも。
倉持: 食べ物に対する姿勢も変わってきますしね。食べ方ひとつでも変わると思いますよ。そういった一つ一つが「基礎」になっていくんでしょうね。
倉持: 松重さんの演じる大道寺尚親が「家族」を考えるとき、その基礎になるのは尚親が子どものときの家族体験。京香さんの演じる須真は地主の娘なんですが、自分の土地からのあがりで家族兄弟がたかって暮らしている。そんな家が嫌で自立を目指す……それが須真の「家族の基礎」。家族を渇望する尚親と家族を突き放したいと思う須真……真逆の基礎を持つ二人が一つの家族を作っていく……。その中で僕は「幸福を探す人」を書きたいと思っています。「こうなると不幸になるよ」ではなく、「こうやったら幸福になれるよ」というキャラクターを。
鈴木: そういえば、『ブロッケンの怪物』に出ていた竹中直人さんは、倉持さんの作品が大好きなんですって。だから「今度、倉持さんと舞台をやるのでぜひ観にきてください」ってお声がけしたら「焼きもちを焼くから行かない」って(笑)
――竹中さん流の「照れかくし」のような気がしますね!
倉持: 本当に。でも、絶対観にきてくれると思いますよ。
鈴木京香
倉持裕
(取材・文=こむらさき、撮影=大野要介)
■日程・会場:
2016年9月6日(火)~9月28日(水) Bunkamuraシアターコクーン
2016年10月1日(土)~2日(日) 刈谷市総合文化センター
2016年10月8日(土)~10日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2016年10月16日(日) 浜松市浜北文化センター
■作・演出:倉持裕
■出演:松重豊 鈴木京香 夏帆 林遣都 堀井新太 黒川芽以 山本圭祐 坪倉由幸 眞島秀和 六角精児 ほか
■公式サイト:http://mo-plays.com/kazokunokiso/